シルバーウィング   作:破壊神クルル

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35話

クラス対抗戦の第一試合。

一組代表のイヴは二組代表の鈴と戦っていた。

鈴の青龍刀とイヴのバルニフィカスがぶつかり合い、試合はモンド・グロッソさながらの展開を見せる。

そんな中、鈴は愛機である甲龍の切り札を見せる。

 

「へぇ~、初見で防ぐなんてやるじゃない。 この『龍咆』は、砲身も砲弾も目に見えないのが特徴なのに」

 

「なるほど、衝撃砲か‥‥」

 

自身のISにも同じ武器が搭載されているので、鈴の切り札は直ぐに分かった。

一方、観客席のクラスメイト達は、

 

「何だ!? 今の攻撃は!?」

 

目に見えない攻撃に、百秋が叫ぶ。

 

「『衝撃砲』ですわね」

 

見えない攻撃を放った武器の名称を答えたのはセシリアだった。

 

「衝撃砲?」

 

箒がセシリアに尋ねる。

 

「空間自体に圧力をかけて砲身を生成、余剰で生じる衝撃それ自体を砲弾化して打ち出す、私のブルーティアーズと同じ、第三世代型兵器ですわ」

 

「衝撃波と言う事は‥‥」

 

「ええ、空気の塊のようなものですから弾道も見えませんわ。それにそれを打ち出す砲は砲身がないので、射角を読むのも難しいでしょうね」

 

(って事は、鈴にも勝機があるって事か‥いいぞ、鈴、その疫病神をそのままやってしまえ)

 

百秋は一組の所属ながら、二組の鈴を応援した。

別に彼女がセカンド幼馴染と言うだけで鈴を応援している訳では無い。

鈴が勝てば、堂々とイヴを糾弾できると考えていた。

 

『コイツが弱いから一組は負けた』

 

集団を一致団結させられる手段。

それは共通の敵を作る事だ。

彼はその共通の敵をイヴにしようと思っていた。

クラス代表選抜戦の時、イヴにボコボコにされ、一部の生徒からは、

 

「織斑君って本当に強いの?」

 

「姉の七光りなんじゃないの?」

 

「織斑先生も可哀想、あんな弱い弟を持って」

 

等と彼の強さに対して疑問を持つ者が現れ始めたのだ。

そう言った不穏分子らの噂を消す為にも今回のこのクラス代表戦でイヴには共通の敵と言う生贄になってもらわなければならなかった。

その為にも鈴には是が非でも勝ってもらいたかった。

 

試合会場であるアリーナでは衝撃砲を連射する鈴の姿があった。

飛んでくる衝撃砲を持ち前の本能で避けるイヴに対して鈴は決定打を与えられない。

 

「ッ! よく躱すわね。何でこの死角も無くて砲身も見えない龍咆をそこまで避けられるのよ!」

 

焦りから思わず叫ぶ鈴。

 

「いくら砲身と砲弾が見えないって言っても、あくまで攻撃が飛んでくる方向は鈴からだからね。ビット兵器の様に砲身自体が移動するわけじゃないし、鈴の挙動を見ていれば、ある程度の攻撃のタイミングは分かるよ」

 

「く、口では簡単に言っているけど!そんな事達人クラスの見切り方じゃない!そう言えば、アンタ、専用機を持っているみたいだけど、何処かの代表候補生なの!?」

 

「いや、フリーだよ。それに‥‥」

 

イヴは鈴に向けて手の掌を向ける。

そして、

 

「同じ武器を私も持っているから‥‥」

 

「えっ?」

 

その直後鈴のISが凄まじい衝撃に襲われた。

 

「くっ‥‥今の‥まさか、龍咆と同じ衝撃砲!?」

 

「そのとおり」

 

イヴはリンドヴルムの手の掌についている衝撃砲の砲門を鈴に見せる。

 

「手の掌に衝撃砲!?そんな、衝撃砲の砲門をあんなに小さく!?アンタの機体何処製なのよ!?」

 

「ヒミツ」

 

「くっ」

 

「行くよ、鈴!!」

 

「いいわ、望むところよ!!」

 

イヴも鈴も近接戦闘の後、今度は互いに衝撃砲を打ち合う砲撃戦を展開した。

 

「ッ! 食らいなさい!」

 

「そこっ!」

 

しかし、相変わらずイヴは鈴の衝撃砲を回避する。

 

「なっ!?」

 

鈴は驚くが、次々に衝撃砲を放つ。

 

「はっ、ふっ、よっと」

 

だが、イヴはその全てを回避する。

 

「そんなっ!?」

 

まるで、不可視の衝撃砲が見えているように‥‥。

空間圧縮による砲身の生成。

その砲身の向き。

そして、撃ち出されるタイミング。

その全てを、イヴは本能で、リンドヴルムはセンサーではっきりと衝撃砲を捉えていた。

イヴは回避する合間に鈴へ衝撃砲を打つ。

イヴからの衝撃砲を受け、鈴のISはエネルギーが着実に減り始めている。

 

(くっ、このままじゃ‥‥)

 

鈴が焦り始めた時、

 

ズドォォォォォォォン!

 

物凄い衝撃が、アリーナ全体を襲った。

 

「な、なに?」

 

「何があったの!?」

 

しかも、ステージ中央には、黒い煙が上がっている。

それは、アリーナのバリアーシールドを突き破って、何者かが侵入してきたことを意味していた。

その光景に試合をしていた鈴もイヴもその手を止め、観客席もざわついている。

 

(あの強力なアリーナのバリアーを突き破るなんて、一体何がっ!?)

 

イヴも鈴も固唾を飲んで試合に乱入してきたイレギュラーにギョッとする。

教師たちが警報を発令し、観客席が防護シャッタに覆われていく。

 

「イヴ、試合は中止よ!すぐピットに戻って!」

 

我に返った鈴がイヴにプライベートチャンネルを使ってそう言う。

その時、リンドヴルムが所属不明の乱入者にロックされていることを伝えてくる。

イヴがその場からズレるとその直後にレーザーがリンドヴルムを掠める。

 

「イヴ、早く!!」

 

鈴は急いでイヴに逃げる様に言う。

 

「鈴はどうする気!?」

 

「あたしが時間を稼ぐから、その間に逃げなさいよ!」

 

「見くびらないで。友達を置いて逃げるなんてこと、出来ないよ」

 

(友達‥‥)

 

「ば、馬鹿!そんなこと言っている場合じゃ‥‥」

 

鈴がそこまで言いかけたところで、正体不明の乱入者は今度、鈴に向けてレーザーを撃つ。

 

「鈴!!」

 

イヴはイグニッション・ブーストで乱入者と鈴の直線状に滑り込んだ。

 

「くっ」

 

鈴に向かって来るレーザーに向けて衝撃砲を放つ。

乱入者のレーザーとイヴの衝撃砲がぶつかり合い爆発する。

 

「大丈夫?鈴?」

 

「あ、ありがと‥‥」

 

鈴はイヴに礼を言いつつ、突然の乱入者へ向き直った。

煙が晴れてそこに居たのは、今まで見た事のない黒いISだった。

 

「な、なにあのISっ!?」

 

鈴はその異形なISに息を呑む。

腕が以上に長く、普通に立っていても足より長い。

その腕には左右合計で四つの砲口が付いている。

本来ISは特殊なシールドエネルギーによって防御が行われている。

その為、防御特化型でもない限り、装甲はあまり意味をなさない。

逆に装甲はかえってISの動きを鈍くするため、殆どのISは大なり小なり搭乗者の姿が露出している。

そのため、目の前の『全身装甲』のISなんて見たことが無かった。

だが、

 

(あのIS、たばちゃんの所にあったIS!?)

 

イヴは目の前の全身装甲のISには見覚えがあった。

 

(な、なんで、どうしてたばちゃんのISが此処に!?)

 

イヴには束がどうしてあのISを学園に寄こすのか理解できなかった。

 

「ちょっと、アンタなんなのよ!?何が目的なの!?」

 

鈴が全身装甲のISに目的を尋ねるが相手からの返事は当然ながら無い。

 

「り、鈴‥あのISは‥‥」

 

イヴが鈴にあのISは無人だと伝えようとした時、

 

『アインスさん!凰さん!今すぐアリーナから脱出してください!すぐに先生たちがISで制圧に行きます!』

 

山田先生が通信で呼びかけてきた。

しかし、

 

「いえ、あのISはアリーナのシールドを突破してきました。ここで私達が逃げてしまったら、観客席の人達に被害が及ぶ可能性があります。 だから、ここは私が食い止めます!」

 

イヴは自らが殿になってアリーナの生徒が逃げる時間を稼ぐと言う。

 

「ちょっと、イヴ。アンタ、何言っているのよ!?アンタ一人でコイツを食い止めるつもり!?」

 

「えっ?そのつもりだけど?」

 

周りが突然の乱入者で混乱している中、イヴは冷静に返す。

 

『アインスさん!? だ、ダメです!生徒さんにもしものことがあったら‥‥』

 

残念ながら、山田先生の言葉をそれ以上聞いてはいられなかった。

敵のISが前傾姿勢になり、突進してくる。

イヴと鈴はそれを避けた。

 

「ふん、向こうはやる気満々みたいね。いいわ、アタシも付き合うわよ、イヴ。此処でおめおめ逃げるようなら代表候補生なんて名乗れないわ!!」

 

鈴は青龍刀を構え、イヴはバルニフィカスを大剣モード、アブソルート発動版を構える。

 

「じゃあ鈴、私が前衛を務める‥援護をよろしく」

 

「えっ?ちょっ!?イヴ!?」

 

鈴が何か言う前に、イヴは敵ISに突進していった。

 

(ドラグーンでアイツを追い込んで、鈴の衝撃砲で足止めをして、バルニフィカスで一気にカタをつける!!)

 

鈴と自分とで戦略を練りながら敵のISに向かって行く。

 

『アインスさん、聞いていますか!?凰さんも!ちょっと聞いていますか!?もしもし!?』

 

山田先生がイヴと鈴に指示を送るがイヴと鈴は退避する素振りを見せない。

 

「山田先生、本人たちがやると言っているのだから、やらせてみてもいいだろう」

 

「お、お、織斑先生! 何呑気なことを言っているんですか!?」

 

山田先生は千冬の言っている事が理解できない。

生徒に避難ではなく、正体不明のISを対処させるのだから‥‥

 

「山田先生もアインスの実力は知っている筈だ。奴の実力ならば、学園の教師よりも上だろう」

 

「そ、それは‥そうかもしれませんが‥‥」

 

千冬の言葉を聞いて、黙り込む山田先生。

 

その時、

 

「千冬姉! 俺にもISの使用許可を!」

 

百秋がそう叫んだ。

 

(此処で俺があのISを倒せたら侵入者撃退の手柄は俺のモノだ!!)

 

百秋はそんな事を考えていたのだが、彼の思惑はあっさりと覆される。

 

「そうしたいところだが、これを見ろ‥‥」

 

千冬がそう言いながら、コンソールを叩く。

すると、モニターにアリーナのステータスチェックが表示された。

 

「遮断シールドがレベル4に設定されている? しかも、扉が全てロックされて‥‥」

 

「これもあのISの仕業なのかっ!?」

 

「そのようだ。 これでは避難することも救援に向かうことも出来ないな」

 

「で、でしたら!緊急事態として外部に救助を!!」

 

「それならとっくにやっている。現在も三年の精鋭がシステムクラックを実行中だ。遮断シールドを解除できれば、すぐに援軍の部隊をアリーナに突入させる」

 

「だったら、俺もその突入部隊に入れてくれ!!」

 

「お前は突入隊には入れられない」

 

「なんでだよ、千冬姉!?」

 

「織斑先生だ。織斑、初心者のお前が行ったところで、足を引っ張るだけだ」

 

「くっ‥‥」

 

百秋は悔しそうに俯く。

 

「それに、おそらく突入隊が突入するころには、すでに終わっている。もちろん、正体不明ISの撃破でな‥‥」

 

そう言う千冬。

彼女の言葉に百秋は悔しさのあまり拳を握りしめる。

 

「お前がギャーギャー喚いたところで、アリーナのシールドが突破できなければ、如何しようもあるまい。アリーナのシールドはISに使われているものと同じものだが、その強度は、ISの倍以上ある。普通のISの装備では突破は出来ん」

 

そう冷たく突き放したように聞こえた。

 

(これで百秋は何とか無事だろう)

 

千冬は弟の安全を優先した。

しかし、百秋本人は千冬の心配を余所に、

 

(アリーナのシールドは、ISのものと同じもの‥‥普通のISの装備では突破は出来ない‥逆にそれは普通じゃないなら突破できるってことだよな‥‥白式なら‥‥零落白夜なら突破できるんじゃないか!?)

 

百秋はニヤリと笑みを浮かべた。

 

その頃、アリーナでは‥‥

リンドヴルムのドラグーンが正体不明のISを追い詰めて行く。

 

「ちょっ、イヴ、アンタやり過ぎじゃない?」

 

敵のISに容赦なく攻撃するイヴに鈴はちょっとドン引きする。

 

「大丈夫、アイツは無人だから」

 

「無人!?」

 

イヴの言葉に驚く鈴。

 

「無人機なんてありえないでしょう!?ISは人が乗らないと絶対に動かない。 そう言うものだもの」

 

「此奴の動きをよく見て!!同じ行動パターンしかしていないよ。これで人が乗っているのなら、このパイロットは相当なバカだよ」

 

「それで?仮に無人機だとしたら?」

 

「無人機だったら遠慮なくやっても問題ないしね、だから鈴、思いっきりやっちゃっていいよ!!コイツのせいで私達の試合は滅茶苦茶されたんだからね!!」

 

「分かったわ!!」

 

「そっちに行くよ!!鈴!!」

 

「OK!!任せて!!」

 

ドラグーンとレールガンを使い、正体不明のISを鈴の衝撃砲の射線軸へと誘っていく。

次は鈴が衝撃砲で敵のISを足止めして、バルニフィカスで敵のISのエネルギーをすべて奪ってしまえば、敵は活動を停止する筈だ。

 

「くらえ!!」

 

鈴がありったけの衝撃砲を敵のISに叩き込む。

 

「ギッ‥グッ‥‥」

 

鈴の衝撃砲で敵ISの動きが鈍る。

後は、イヴが止めにアブソルートを発動しているバルニフィカスで切り付けて機能を停止すれば終わりかと思われていたその時、

 

「うぉおおおおおおっ!!」

 

突然アリーナのシールドを切り裂き、白式を纏った百秋が突っ込んできた。

 

「百秋っ!?」

 

「くっ」

 

アリーナに現れた百秋に驚く鈴。

白式の切り札、零落白夜は、バリアー無効化の強力な攻撃。

故に、アリーナのシールドが幾ら協力でも零落白夜の前では紙装甲同然であり、バリアーを破ることも可能だった。

百秋の乱入に巻き込まれない様にと敵のISから距離を取るイヴと鈴。

敵ISは突然の奇襲に反応が遅れ、右腕を百秋の手によって切り裂かれる。

だが、その後、お返しと言わんばかりに左腕で百秋を殴り飛ばした。

 

「ぐっ!」

 

百秋が敵ISを見ると、左腕の砲口を百秋に向けていた。

しかし、百秋は不敵な笑みを浮かべて、

 

「狙いは?」

 

「完璧ですわ!」

 

百秋の言葉に続き、セシリアの声が聞こえた。

その瞬間、敵ISにビームがまるで雨のように降り注ぐ。

これはブルーティアーズからの一斉射撃だった。

成すすべなく上からビームの雨を浴びる敵のISは体勢を崩す。

その間、百秋は敵と距離を取る。

 

「決めろ!セシリア!」

 

「了解ですわ!」

 

アリーナの観客席上部から、スターライトMkⅢを構えたセシリアの姿あり、そして、狙いを定め、引き金を引いた。

スターライトMkⅢから放たれたビームは一直線に敵ISに向かい、その腹部を撃ち抜いた。

やがて、地面にひれ伏し機能を停止する敵のIS。

 

「ふう、ナイスだ、セシリア」

 

止めを刺したセシリアに労いの言葉をかける百秋。

 

「無茶をしますわね。間に合わなかったらどうするつもりだったんですの?」

 

セシリアが百秋の近くに降り立ち、そう言った。

 

「セシリアを信じていたからな」

 

百秋の何気ない言葉に、セシリアは顔を赤くする。

 

「そ、そうですの?ま、まぁ当然ですわね!何せ私はセシリア・オルコット。 イギリスの代表候補生なのですから!」

 

照れ隠しに叫ぶセシリア。

やがて、ロックが解除されISを纏った教師らがアリーナへと入り、敵のISは回収された。

敵のISを撃破した百秋とセシリアはハイタッチをして喜んでいるが、その姿を鈴はなんか釈然としない様子で見て、箒は自分に専用機が無い為、百秋と一緒に戦えない自分、専用機を持ち、百秋と一緒に戦えるセシリアに悔しさと嫉妬心を抱いていた。

 

突然の乱入者の影響でクラス代表戦は中止となり、教師陣はこの乱入者したISの調査を早速行った。

すると、このISにはやはり搭乗者はおらず、完全機械制御の無人機であることが判明した。

現在確認されているISで無人で動かせるISなんて聞いた事もなく、教師達は困惑したが、千冬だけはこのISが誰の手によって作られたモノなのか直ぐに分かった。

ただし、今回の騒動は試合中に乱入しただけでは終わらず、

 

「織斑先生大変です!!」

 

「どうした?」

 

「学園の訓練機が‥‥」

 

「訓練機がどうした?」

 

「‥‥数が足りません」

 

「なに?」

 

「監視カメラの映像を見て下さい」

 

映像では、アリーナの騒動に乗じて学園が保有する訓練機を奪っていく者達の姿が記録されていた。

 

「くっ、やられた‥‥」

 

千冬は苦虫を噛み潰したような顔でモニターを見つめた。

IS学園でまさか、訓練機が強奪されていたとは知る由もなく、食堂では‥‥

 

「織斑君、凄いね!!」

 

「うん、乱入したISを斬る時の織斑君、すっごくカッコよかった」

 

「えっ?そう?いや、まいったなぁ~ハハハハハ‥‥」

 

(ちょっと予定は違うが、踏み台共のおかげで俺はヒーローだ)

 

大した労働もせずに大きな戦果をもぎ取った百秋はご満悦の様子。

 

「セシリアさんも凄かったよ」

 

「一斉射撃も凄かったけど、最後に敵を撃つ姿なんてゴ○ゴみたいだった」

 

「そ、そうですか?」

 

食堂では二人の英雄がクラスメイトを始め、大勢の人にちやほやされていた。

また、その一方で、食堂の隅のテーブルでは、

 

「なんなのアレ?人様の手柄を横からかっさらっておいて、まるで英雄気取りね」

 

鈴がふてくされる様に言う。

 

「まぁまぁ、結果的に誰も傷ついていないからいいんじゃない?」

 

鈴同様、当事者である筈のイヴはまるで他人事のように言う。

 

「アンタは悔しくないの?手柄を横取りされて」

 

「英雄なんて酒場に行けばいくらでもいるよ、その反対に歯医者の治療台には一人もいない。今回の騒動で死傷者が出なかった事が一番の勝利だと私はそう思っているよ」

 

「ったく、アンタって人は‥‥」

 

イヴの態度に完全に毒気が抜かれた鈴。

 

「それよりもいいの?鈴はあそこに行かなくて」

 

あの戦いの当事者なのだから、今なら百秋に自分を売り込むチャンスではないかと言うイヴ。

 

「あぁ~なんか、どうでもよくなっちゃったわ」

 

「えっ?」

 

鈴の言葉にドキッとするイヴ。

 

「えっ?いいって‥‥」

 

「今日のアイツの行動を見ているとね、なんか考えさせられるモノがあってね‥‥」

 

鈴の中で百秋に対する見方が変わりつつあった‥‥。


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