シルバーウィング   作:破壊神クルル

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30話

一組の代表を決める最後の試合‥‥

これまでの試合の参加者の勝敗は、セシリアが一勝一敗、イヴが一勝、百秋が一敗となっており、この試合でイヴが百秋に負けると、全員が一勝一敗となる。

アリーナの使用時間だって限りがあるのに、プレーオフなんてやる余裕があるのか?

それとも後日またこんな試合をやるのか?

めんどくさい。

でも、こんな奴に負けるつもりはない。

イヴがアリーナに出ると百秋が先に待っていた。

 

「よぉ、出来損ない」

 

「‥‥」

 

最初からいきなりイヴに罵倒を投げる。

 

「お前、さっきは随分と卑怯な真似をしたじゃねぇか」

 

「‥‥」

 

卑怯と言われても思い当たる節が見当たらない。

 

「そんな事も分からないのか?やっぱりお前は出来損ないだな。お前、セシリアに対してどんな酷い事をしたのか忘れたのかよ!」

 

どんな事って言っても普通に試合をしただけだ。

 

「俺が勝ったらセシリアに謝ってもらうからな!」

 

そう言って百秋は雪片を構えた。

 

(試合が始まったら一気に距離を詰める。ビットを展開する前に奴の懐に飛び込んで雪片の零落白夜で一気に片を付ける)

 

百秋はドラグーンを出されては厄介なので、短期勝負に出るつもりだった。

一方、イヴはバルニフィカスをグレートソード(ザンバーフォーム)で展開する。

 

「ん?さっきのライフルはどうした?」

 

「‥‥お前の相手はこれで十分」

 

イヴはそう言ってバルニフィカスを構える。

 

「舐めるなよ、この一週間の間、箒にしごかれまくったんだ。お前程度に負ける筈がない!!」

 

『では、試合を始めて下さい』

 

試合開始の放送が流れ、

 

「行くぞぉぉ!!」

 

雪片を片手に百秋が斬り込んできた。

しかし、彼もセシリアの試合後の千冬から雪片の説明を受けており、バリアー無効化の効果はちゃんと使い時を考えていた。

ガキンと剣と剣がぶつかり合い、攻めと守りの攻防と言う名の剣舞が始まる。

最初の一撃を防がれた事で百秋は零落白夜での短期戦は難しいと判断した。

百秋とイヴが互いに何合か打ちあっている中、

 

「アイツ、あのビット兵器を使いませんね」

 

「‥‥」

 

百秋のピットに居た箒と千冬がモニター越しに二人の戦いを見て、箒はイヴがドラグーンを使用しない事に疑問を感じていた。

 

「もしかして、あの兵器の特性上、使用できるのは一試合だけなのかもしれないな」

 

千冬が何故、イヴがドラグーンを使用しないのか推測を立てる。

ビット兵器は使用するには空間認識能力と物凄い集中力が必要となる。

ましてイヴのリンドヴルムはセシリアのビット数よりも遥かに多い。

幾らイヴが、偏向射撃が出来てもかなりの集中力が必要な筈だ。

それを二試合連続で使用するには集中力が持たないのかもしれない。

千冬はそう推測したのだ。

 

「じゃあ、アイツはこの試合、ビット兵器は‥‥」

 

「ああ、使ってこない‥いや、使えない」

 

「それじゃあ、百秋にも勝機は十分あると言う訳ですね」

 

「‥‥」

 

箒と千冬はジッと試合が中継されているモニターをジッと見た。

千冬はイヴがドラグーンを使えないと言ったが、それは間違いで、使えないのではなく、使わないが正解だった。

セシリアがガンナータイプの操縦者だから、先程イヴはセシリアと同じ、ガンナータイプの装備で相手をしたのだ。

そして、今の相手、百秋は近接戦闘型のISなので、こうして近接攻撃型の装備のみで戦っているのだ。

『飛び道具を使用されたので勝てませんでした』なんて言い訳を後でされても迷惑なので、こうして百秋と同じ近接戦闘の武器のみで戦っていた。

獣がイヴにサービス精神旺盛と言ったのはドラグーンをはじめとする射撃武器をロックして使用不可にした事だった。

 

 

「くそっ、出来損ない分際で生意気な!!セシリアにもあんな酷い事をして恥ずかしくないのかよ!?」

 

(お前が今まで私にして来た事は酷くないとでもいうのか!?)

 

百秋が激しく攻め立て、イヴがバルニフィカスでソレを防ぐ。

 

「私は今回の騒動に巻き込まれたけど、何一つ卑怯な事はしていない‥ルールに沿って戦った‥」

 

「うるせぇ!!それでも、俺はお前のしたことは許せねぇんだよ!」

 

「ガキか?」

 

「何だと!?」

 

百秋の雪片、イヴのバルニフィカスが鍔迫り合いをし、イヴが百秋を押し退け、上方へと距離を取る。

 

「逃がすかよぉ!!」

 

百秋は上方へと距離をとったイヴを追いかける。

 

「一気に決めてやる!!」

 

此処で百秋は白式の切り札でもある零落白夜を発動させる。

それを見たイヴは、

 

「‥‥バルニフィカス‥‥能力発動‥‥『アブソルート』」

 

(‥‥リンドヴルム、あなたにご飯をあげるわ)

 

イヴがバルニフィカスにオーダーを下すと、これまで青白い光を灯していたバルニフィカスが次第に色の濃さが増していき、最終的には禍々しい黒紫色へと変わった。

零落白夜を発動させた百秋の雪片と黒紫色へと変わったイヴのバルニフィカスがぶつかり合う。

 

「な、なに!?」

 

ぶつかり合った互いの獲物を見て、百秋は思わず声を上げる。

本来、零落白夜は相手のバリアーを無効化にして相手を攻撃する事が可能である。

その際、ビームなどの光学兵器も無効化する事も出来る能力を有している。

しかし、今、百秋の目の前では、イヴの光学系の光剣、バルニフィカスは無効化されることなく、零落白夜を発動させている雪片と平然とぶつかり合っている。

 

「な、なんで‥どうして‥‥」

 

百秋はどうして光剣のバルニフィカスが無効化されないのが不思議でならなかった。

その時、白式のエネルギー消費を知らせるモニターが警告音を奏でる。

百秋が目を移すと、そこには尋常じゃないスピードで白式のエネルギーが減って行く。

このままでは、零落白夜どころか、白式が活動を停止してしまう。

 

「くっ」

 

百秋はイヴとの鍔迫り合いを止め、一旦距離をとり、零落白夜を停止させる。

すると、エネルギー消費が止まった。

 

(くそ、やっぱりエネルギー消費が多すぎる。千冬姉はよくこんな欠陥武器を使って優勝できたな)

 

百秋は先程の異常なまでのエネルギー消費は零落白夜のせいだと決めつけていたが、実際は零落白夜だけではなかった。

イヴがバルニフィカスに下したオーダー、アブソルートは零落白夜と似たような能力でこれは相手の装備を介して相手のISのエネルギーを吸収して自分のIS、リンドヴルムのエネルギーへと変換する能力だった。

零落白夜はただでさえ、エネルギー消費が激しいにも関わらず、バルニフィカスのアブソルートでエネルギーを吸われた白式であった。

 

『当初は、ブリュンヒルデ様と対峙した時の様にビビり腰になるかと思っていたが、取り越し苦労だったようだな、それほど奴の『守る』発言が、一夏にとってはNGワードだったようだな』

 

今まで狂気だけかと思った獣が、今度は冷静にイヴの事を観察していた。

イヴと百秋は、互いに距離を取り対峙する。

百秋は残り少ないエネルギーの中、どうやってイヴを倒すか考えている。

その時、

 

「‥貴方は‥‥‥」

 

「ん?」

 

イヴが徐に百秋に声をかけ始めた。

 

「貴方はISに乗って‥‥その強大な力を使って何を成す?」

 

彼女は確認するかのように百秋にISと言う力を持って何をしたいのかを尋ねる。

 

「あん?そんなの決まっているだろう、俺は世界でただ1人の男性操縦者なんだぞ!!そして、織斑千冬の弟なんだ、いつまでも姉に守られてばかりじゃない、俺はこの力で千冬姉を‥大切なモノを守ってみせる!!」

 

百秋がキメ顔でイヴに自分の決意を語ると、

 

「‥‥」

 

イヴは音もなく、百秋の至近距離に迫っていた。

 

「っ!?何時の間に!?」

 

「な、なんだ!?あの動きは!?」

 

(イグニッション・ブースト?いや、そんな生易しいモノじゃない‥アイツの動き、なんなんだ?あれは!?)

 

ピットにてイヴの動きを見た箒と千冬は目を見開いて驚いた。

一方、観客席でも、

 

「い、今の見えた?」

 

「う、ううん、全然」

 

「気づいたら、アインスさんが織斑君の傍にいた」

 

「わ、私もそう見えた」

 

クラスメイト達も唖然としていた。

 

「くっ‥ひ、卑怯だぞ‥油断させておいて不意打ち何て!!」

 

その頃、試合をしていた百秋は間一髪、イヴの一撃に気づくことが出来、再びイヴのバルニフィカスと鍔迫り合いをしていた。

すると、白式のエネルギーが再び異常消費をおこした。

 

「ど、どうした!?零落白夜は使っていないのに‥‥」

 

「知りたいか?」

 

イヴは前髪の影で顔は見れなかったが、底冷えする様な冷たい声で百秋に語りかける。

 

「ん?」

 

「お前のISのエネルギーがなんでそんなに減っていくのか知りたいか?」

 

「もしかして、これはお前の仕業なのか!?」

 

イヴの口ぶりからこのエネルギーの異常消費は彼女の仕業だと気づく百秋。

 

「教えてやる‥お前の雪片がバリアー無効化能力を有しているように、このバルニフィカスも似た能力を持っているんだよ‥‥アブソルート‥相手のISや装備に触れる事によって、相手のエネルギーを奪う能力だ」

 

「なっ!?」

 

イヴからこの異常までのエネルギー消費の事実を知り、驚愕する百秋。

 

「さあ、どうする?このまま鍔迫り合いをしていると、お前のISのエネルギーは尽きてしまうぞ」

 

イヴは百秋に引くか押すかを問う。

 

「くっ‥‥」

 

確かにイヴの言う通り、このままではバルニフィカスにエネルギーを吸われて自分は負けてしまう。

一勝もできずに負けるなんて百秋のプライドが許さない。

 

「でりゃあ!!」

 

百秋はバルニフィカスを弾き、

 

「くらえ!!」

 

突き技を繰り出す。

其処をイヴは躱して、

 

「うぐっ」

 

百秋の頭を掴む。

そして、そのままアリーナの床めがけて急降下をする。

 

ドゴーン!!

 

百秋を千冬の時の様にアリーナの床に叩き付けた。

その衝撃で百秋は雪片を手放してしまう。

百秋をアリーナの床に叩き付けたイヴは再び上昇すると、

 

「ぐふっ!!」

 

アリーナの床に倒れている百秋を急降下で勢いをつけて踏みつけた。

そして、思いっきり蹴り飛ばしてアリーナの床に出来た穴から百秋を蹴り出す。

百秋はぼろ雑巾の様にアリーナの床に転がる。

アリーナの床に転がる百秋をイヴは、

 

「がはっ!!」

 

思いっ切り踏みつける。

 

「‥‥」

 

「‥‥」

 

イヴの所業にピットの箒も観客席のクラスメイト達もドン引きしていた。

 

「これで分かっただろう?お前は守る側の人間じゃない、守られる側の人間だ‥‥お前の姉、世界最強のブリュンヒルデ様のスカートの中に隠れているだけの案山子に過ぎないんだよ」

 

そう言って百秋をサッカーボールの様に蹴り飛ばしたところで、

 

『試合終了。 勝者―――イヴ・ノイシュヴァンシュタイン・アインス』

 

試合終了の放送が流れた。

 

「‥‥」

 

試合が終了したからには、これ以上の追撃は出来ないので、イヴはピットへと戻った。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ‥‥」

 

ピットに戻ったイヴは急いでリンドヴルムを強制解除した。

リンドヴルムを強制解除したイヴは左手で胸を押さえながら、右手でISスーツのポケットの中の薬を取り出そうとする。

今は自分の意識と獣の意識が半分半分となっている状態であり、早く獣を鎮めなければ、自分の意識が獣に奪われてしまう。

 

「あっ‥‥」

 

震える手でピルケースを掴んだせいか、ケースがピットの床を滑って行く。

 

「くっ‥‥」

 

イヴはピルケースを取りに行こうとするが、獣はそれを妨害する。

 

「ぐっ‥あぁァァァ‥‥」

 

『おいおい、酷いじゃないか一夏、折角協力してやったのに、また私を深層心理の闇の中に閉じ込める気か?だいたい、なんでアイツに止めを刺さなかった?ISのエネルギーが尽きて絶好のシチュエーションだったのに‥‥』

 

(う、うるさい‥私は‥規則に従っただけだ‥‥お前の様に血に飢えているわけじゃない‥それに、私が受けた傷を返すのに、楽に死ねるなんて‥許さない‥‥)

 

『ハハハハハ‥‥確かに、お前の言う通りだ。それじゃあ、奴等には生き地獄を味合わせるって方針って事で、お前の体を私にくれよ』

 

(い、嫌だ‥この体は私の体だ‥‥お前の様な獣に‥やってたまるか‥‥)

 

『でも、その体はアイツやテロリスト共に散々汚されまくっているじゃねぇか‥そんな汚い身体、誰も愛してはくれねぇんじゃないか?』

 

(っ!?)

 

獣の声に狼狽えるイヴであったが、

 

(そんな事はないわ!!)

 

『ん?誰だ!?お、お前は!?』

 

その声を最後に獣の声が遠のいていった‥‥。

 

『ちっ、あと少しだったのに、まさかあんな邪魔が入るとは‥‥』

 

獣は再び閉じ込められた深層心理の闇で残念そうに呟いた。

 

 

~side更識楯無~

 

 

放課後、今日は一年一組のクラス代表選抜戦の日。

試合にはイギリスの代表候補生、セシリア・オルコット、織斑先生の弟、織斑百秋とイヴちゃんが出る。

セシリア・オルコットに関しては大丈夫だろうけど、やはり織斑先生の弟の存在が気になる。

入学試験の実技試験の様な惨事にはならないといいけど‥‥

虚ちゃんにイギリスの代表候補生と世界で初めての男性操縦者の実力が気になると言って生徒会室から抜け出て試合会場のアリーナへとこっそりやって来た。

第一試合はイギリスの代表候補生と織斑先生の弟君からだった。

試合の流れはやはり、セシリア・オルコットが優勢に進めた。

代表候補生と一月前までISと何のかかわりを持たない者では、知識、経験、ISの搭乗時間、何もかもが雲泥の差である。

彼の飛行の動きはまさしくISに乗りたての初心者の動きそのものだった。

しかし、一次移行した時は、少し驚いた。

初期設定で代表候補生と一次移行するまで持ちこたえた所は褒めるべきところなのだろうか?

それとも相手を初心者だと思いなめていた代表候補生の慢心に救われた彼が、ただ単に運が良かっただけなのだろうか?

結局試合はセシリア・オルコットの勝利で終わった。

だが、後ほんの少し、彼のISのエネルギーが残っていたら勝っていたのはもしかして彼だったのかもしれない。

 

次の試合、アリーナに出てきたイヴちゃんを見て、私は寒気が走った。

無表情で目には光が宿っていない。

まさか、今のイヴちゃんはあの殺戮の銀翼なのかもしれない。

試合を止めるべきだろうか?

しかし、これは一年一組のクラス代表選抜戦。

生徒会長権限では止められない。

頼りないがいざという時はあのブリュンヒルデ様が少しは時間稼ぎをしてくれると信じるしか出来なかった。

試合は代表候補生を圧倒する流れで終わった。

容赦はなかったが、相手を殺そうとまではいかなかった。

相手が織斑先生の弟じゃないからかしら?

それともあれはイヴちゃんで殺戮の銀翼では無かったからか?

そして最後の試合、織斑先生の弟とイヴちゃんの試合となった。

試合の流れはイヴちゃんが相手に合わすような感じだった。

先程の代表候補生はガンナータイプの装備で戦い、今、イヴちゃんは織斑先生の弟と同じ近接装備で戦っている。

今のところは問題ない感じで進んでいる。

だが、イヴちゃんの剣が黒紫色に変わった所から試合の流れは変わった。

イヴちゃんが織斑先生の弟の頭をガシッと掴み、アリーナに床に叩き付け、次に彼を踏み潰したと思ったら蹴り上げた。

やはり、アレ殺戮の銀翼なのだろうか?

生徒会長権限なんて関係ない。

今すぐ飛び出してイヴちゃんを止めなければと思ったが、私のミステリアス・レイディでもこのアリーナの強力なバリアーは破れない。

やがて、試合を終わらせる放送が流れるとイヴちゃんはピットへと戻って行った。

よかった、どうやらアレは殺戮の銀翼ではない様だ。

私はイヴちゃんに労いの言葉をかけてやろうかとピットへと向かった。

もう試合は終わったのだから、上級生である私がピットに言っても何ら問題はない。

すると、其処では胸を押さえて苦しんでいるイヴちゃんの姿があった。

そして、床には一つのピルケースが落ちていた。

あのケースはイヴちゃんの!?

もしかしたら、薬で抑えていた殺戮の銀翼が織斑先生の弟を見て戻ろうとしているのではないか?

私は慌ててピルケースを拾い、イヴちゃんの下へと駆け寄る。

だが、イヴちゃんは苦しみ耐えかねて右往左往している。

薬を飲めるような感じではない、

ならば‥‥

私はピルケースの中から錠剤を一つ取り出し、口に含むとイヴちゃんの体を押さえつけて彼女の唇と自分の唇を重ね、錠剤を強制的にイヴちゃんに呑ませた。

やがて、薬が効いてきたのか、イヴちゃんはそのまま眠ってしまった。

呼吸も安定し、もう大丈夫だろう。

私は眠っているイヴちゃんを抱き上げ、寮へと戻った。

 

あっ、そう言えば、私、コレがファーストキスだった‥‥。

雰囲気もムードもあったものではなかったが、イヴちゃんの為に役立ててちょっとは嬉しかった。

でも、イヴちゃんは覚えていないだろうな‥‥‥

ちょっと残念。


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