シルバーウィング   作:破壊神クルル

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2話

第二回モンド・グロッソが開かれてから約半年後‥‥

 

某国にある女性権利団体の理事の屋敷はまさに地獄の様な有様となっていた。

女性権利団体‥‥

ISが生まれ、そのISが女性にしか動かせないと知れ渡った当初、

 

「権利での差別をしないために、この恩恵は全ての女性が受けいれるようにしよう」

 

「私達はこれからもIS操縦者のためにより良い法整備のために尽力します!」

 

と、文字通り女性の権利を主張しIS操縦者の育成とISに関する法整備を進めてきた団体であったが、ここ最近になってこの団体の活動は当初の目的を逸脱し始め、最終目的は地球上から男性の絶滅を画策させるような過激な思想を持ち始めた。

各国の国会議員や国際連合の大使、IS委員会にはこの団体の息のかかったモノがおり、列強各国では女性を優遇する法律を施行させようと動きを見せていた。

そんな女性権利団体の理事の一人は今まさに命の瀬戸際に立たされていた。

切っ掛けはある日、この理事に送られてきた一通の手紙だった。

 

『近日中、貴女に死をお運び致します。 

                       殺戮の銀翼 より』

 

と、一言自分の殺害予告とそれを実行する暗殺者の名前が記された内容の手紙が送られて来た。

理事は当初馬鹿馬鹿しい、自分の成功を妬む者からのイタズラかと思い相手にしなかった。

しかし、別の国にて女性権利団体に所属する女性議員が『殺戮の銀翼』と名乗る暗殺者の手にかかり殺害された事を知ると、自分に送られてきたあの手紙はもしかしたら、本物の暗殺状なのかもしれないと思い始めた。

そこで、理事は自分のコネと言うコネを使い、最強のボディーガードを編成した。

ボディーガードの中には軍から引き抜いたIS部隊も居た。

この鉄壁なガードをくぐり抜けられるモノか、来るなら来いとこの時理事はそう高を括っていた。

そしてある嵐の夜、それはやって来た。

長い銀髪を靡かせ、雷鳴とどろく嵐の中、ソイツはやって来た。

屋敷に張り巡らされた何十にも及ぶ防衛網を突破して、ソイツは自分の前に今立っていた。

屋敷の敷地内、中にはついさっきまで人間だったものが彼方此方に転がっており、壁は血で真っ赤に染め上げられ、床は血がチョロチョロとまるで沢の様に流れていた。。

核に次ぐ威力を誇るISでさえ、目の前のソイツには歯が立たず、操縦者諸共ガラクタと成り果てている。

 

「あっ‥‥あっ‥‥」

 

自らの執務室の壁に追いやられ、理事は腰が抜けて床に倒れ伏している。

外では雷鳴と稲光が光り、自らの命を狩りに来た死神の姿を映し出す。

赤紫の目をした長い銀髪の少女だった。

それが今自分の命を狩りに来た死神の姿であった。

 

「ま、まって‥‥まって、頂戴!!」

 

理事は少女に向けて手を広げて、

 

「あ、貴女、女なのにどうしてこんな事を‥‥」

 

「‥‥」

 

理事が何故同じ同性なのに女性権利団体の理事たる自分の命を狙うのかを尋ねるが、死神は何も語らず、ただその冷たい目で理事を見下ろしている。

 

「そ、そうだ、貴女、私のボディーガードにならない?あの警戒網を破って此処に来た貴女の腕を買うわ」

 

「‥‥」

 

理事は目の前の死神をスカウトし始める。

しかし、死神は一切理事のスカウトには応じず、理事に一歩前に近づき、右手を上げる。

 

「そ、それじゃあ、お金を払うわ!!貴女に支払われたお金よりも払うわ!!」

 

「‥‥」

 

死神の報酬よりも多額の金を払うと言っても全く関心を示さない。

 

「じゃ、じゃあ、貴女が一生遊ぶのに困らない額のお金はどう?私は女性権利団体の理事よ。それぐらいのお金は直ぐに用意できるわ」

 

「‥‥」

 

今度、理事は更に金額を上げるが、それでも死神は靡かない。

すると、先程死神が上げた右腕が人の手の形からみるみるうちに大きな包丁のような刃物へと姿を変えた。

 

「っ!?」

 

その光景を理事は信じられないモノを見たかのように目を見開いて見ている。

そして、その刃物となった腕に勢いをつけて‥‥

 

「ま、待って!!」

 

「‥‥死ね」

 

最後の最後に死神は口をきき、刃物の腕を一気に理事めがけて振り下ろした。

その直後に一際大きな雷鳴が轟き、理事の最後の絶叫をかき消した。

尚も鳴り続ける雷鳴と勢いを増す雨音が聴こえる理事の執務室には頭から真っ二つになった理事の死体だけが残されていた‥‥。

 

 

大雨が降りしきる某国の夜の町中を一人、傘もささずに歩く銀髪の少女はスマホで何処かに電話を入れた。

 

「やぁ、イヴ。仕事は終わったのかね?」

 

「‥はい、お父様」

 

「いい子だ。戻ってきたら、今度は君を楽しい所へ連れて行ってあげよう」

 

「‥‥はい」

 

「それじゃあ、君が帰って来るのを待っているよ」

 

その言葉を最後に電話は切れた。

少女はスマホをポケットに入れ、再び歩き出した。

ただ、この時の少女の目は光を宿さず、まるで人形の様に人間性が感じられなかった。

 

 

それから暫くして‥‥

 

 

~side 刀奈(後の更識楯無)~

 

とある国の女性権利団体に所属する女性議員と某国の女性権利団体の理事が何者かの手によって殺害された事件は当初、二人が女性権利団体の関係者と言う事から男による怨恨の線が考えられたが、犠牲者の中にISを纏った搭乗員が居た事から、その線は直ぐに変更され、犯人は女と言う事に変更された。

ISを壊すにはISを用いらなければならない。

そして、ISは男には動かせない。

これが警察の見解であった。

そこで、いち早く犯人として疑われたのが亡国企業と言うISを使用してのテロ組織だった。

亡国企業はこれまで、各国が開発した新型のIS強奪、紛争地への武力介入などの国際犯罪行為を行ってきたことから、真っ先に疑われたのだ。

女性権利団体に所属する女性議員と女性権利団体の理事が殺害され、犯人が亡国企業だと決められ、その線で捜査が行われている頃、香港の港から一隻の豪華客船が出港した。

その客船の乗客の中に日本にて裏工作を実行する暗部に対する対暗部用暗部「更識家」の長女、更識刀奈と父親であり、16代目の更識楯無は共に客船のパーティーホールに居た。

彼女の父は間もなく、楯無を引退し、その後は隠居する事を決め、17代目の楯無の座を長女の刀奈に譲るつもりであった。

ただ、その前に彼女に裏世界の権力者たちを見せておこうとこうして、今回のクルージングパーティーに参加したのであった。

このパーティーに参加している客はその殆どが裏世界の権力者達で互いに食うか食われるかと凌ぎを削っている人間ばかりであった。

そんな人間たちが一堂にあつまり、いざこざが起きないのか心配する刀奈であったが、裏世界の権力者たちはこうした場所でドンパチを仕掛ける事を暗黙の了解で禁止していた。

もし、その暗黙の了解を破れば、それは自分自身、家族、組織の壊滅を意味していた。

故に例え敵対者であってもこの場で会えば、社交辞令と少々の皮肉を言うだけでとどまっている。

パーティーホールに併設されているカジノ区画では、乗客たちがスロット、ルーレット、カード賭博をして、一度に何億、何千ものの大金を賭けている。

 

(お金の匂いがプンプンする客ばかりね‥‥それにどいつもこいつも胡散臭そうな人達ばかり‥‥)

 

(ISの登場で世界が女尊男卑の世界へと変わり、世界経済のバランスが崩壊しかけているこのご時世なのに、ここだけはまるで別世界ね‥‥)

 

刀奈は辺りに居る乗客を見渡し、心の中でその人達を見た印象を述べる。

身なりは皆、高級スーツやタキシード、ドレスに高そうなジュエリーや腕時計を纏っているが、それと同時に胡散臭い雰囲気も纏っている客ばかりであった。

刀奈は父の楯無と共に挨拶まわりを行うと、男達からは下心が籠った目や侮蔑を含んだ目で見られてちょっとイラつく場面もあった。

そんな中、

 

「おや?タッカー博士」

 

父が親しげに声をかける人物が居り、その人物は父の声に気づき、私達の近くにやって来た。

スーツ姿で周りの人間とはちょっと異なり、なんか冴えない学者風の男だった。

その男のすぐ傍にはフォーマルワンピースを着た私か妹の簪ちゃんと同世代の女の子も居た。

ただ、私はその子を見て、違和感を覚えた。

長い綺麗な銀髪をしているのだが、赤紫のその目はまるでガラス玉の様で光を一切宿していない。

おまけに首には首輪に似ている妙な機械をつけていた。

人間の姿をしている人形‥‥

それがこの子を見た私の第一印象だった。

 

「ん?おぉ、ミスター・更識、お久しぶりです」

 

「ええ、本当に」

 

その男は父とは親しい間柄の様子で、父と握手を交わしていた。

 

「おや?そちらのレディーは?」

 

そして、その人物は父の隣に居る私に気づき、声をかけてきた。

 

「私の娘です‥‥刀奈こちらはショウ・タッカー博士だ」

 

父が目の前の眼鏡をかけたその男を私に紹介し、次に自らも紹介する様に私に促す。

 

「はじめまして、ミスター・タッカー。更識楯無の娘、更識刀奈です」

 

私はドレスの両端を摘まみ、少し持ち上げ、一礼する。

 

「はじめまして、ミス・カタナ」

 

その男は愛想笑いを浮かべながら、私に挨拶をしてきた。

 

「ミスター・タッカー、その子は?」

 

父はタッカーと名乗る男の傍にいる少女が気になり、その少女が誰なのかを尋ねる。

正直、私も気になる。

 

「この子は私の知り合いの娘でしてね、生まれつきにある病気をもっていまして、私が治療の為、預かっているんですよ。イヴ、この方は、私の知り合いの楯無さんだよ」

 

タッカー氏がイヴと呼ばれた少女に父を紹介すると、少女は父に一礼する。

 

「ミスター・タッカー、今治療とおっしゃいましたが、貴方はお医者様なのですか?」

 

タッカー氏の言う治療と言う言葉に私は首を傾げた。

 

「ああ、刀奈、タッカーさんは生物研究者であると同時に医師でもあるんだよ」

 

「生物研究‥ですか‥‥何の生物を研究なさっているんですか?」

 

「ナノマシン技術だよ。ミス・カタナ」

 

「ナノマシン‥‥技術‥ですか‥‥」

 

ナノマシン‥‥0.1~100nmサイズの機械装置で、主に医療関係の分野で研究されている技術である。

タッカー氏が生物研究者であり医師と言う事で彼がこのナノマシン技術を研究しているのだと私は思った。

ただ、今回のこのクルージングパーティーの客は殆どが裏世界の権力者達‥‥

此処に居ると言う事は、彼もただの研究者・医師ではないのかもしれない。

 

「ただ、最近ではナノマシン技術をISに投入しようとするIS技術者が居て、私としては妙な心境です。本来ナノマシン技術は医療、生物分野にて、その真価を発揮する技術だと私はそう確信しているのですがね‥‥」

 

タッカー氏は苦笑しながら自分の研究分野であるナノマシン技術がIS技術へと流入していることに関して不満を持っているようだ。

確かにタッカー氏の言う通り、最近ISの技術界でもナノマシン技術は注目され始めてきている。

今、開発中の私の専用機『ミステリアス・レディー』にもそのナノマシン技術が導入される予定となっている。

 

「ミス・カタナ、見た所、このパーティーの参加者での同世代はうちのイヴぐらいのようですから、二人でパーティーを回られてはどうですか?」

 

タッカー氏が私にこの少女とパーティーを回ってはどうだと薦めてきた。

 

「それはいいですな、刀奈、折角のタッカーさんからのご厚意だ。同じ年頃の子と回った方が良いだろう?」

 

父もタッカー氏の誘いを受けろと言う。

正直、私はこの違和感だらけの少女といるよりは父と一緒に居たかったが、父もタッカー氏も私を気遣ってのことなのだろうが、その気遣いが今の私にとっては余計なお節介であった。

だが、この空気の中、断るに断れず私はこの違和感バリバリの少女、イヴとパーティーを回る事になった。

 

「‥‥」

 

「‥‥」

 

きらびやかなパーティー会場を歩く私とイヴであるが、会話が一切ない。

イヴは寡黙な少女なのか、黙って私の後ろを歩いている。

同世代同士なのかもしれないが、これでは警護対象とボディーガードみたいだ。

 

(き、気まずい‥‥)

 

(な、何で無言なの?)

 

(此処はやっぱり私から声をかけるべきなのかしら‥‥?)

 

チラッと後ろを歩く銀髪の少女を見る。

 

「‥‥」

 

銀髪の少女は無言、無表情のままだ。

私は立ち止まり、少女の方を振り向き、

 

「えっと‥‥改めて自己紹介するわね、私は更識刀奈。貴女は?」

 

私は取りあえず無難な所で自己紹介からする事にした。

 

「‥‥」

 

しかし、銀髪の少女は相変わらず無言、無表情のまま‥‥

 

「えっと‥‥言葉が通じなかったかしら?」

 

(日本語じゃだめだったのかしら?じゃあ、英語で‥‥)

 

私が英語で言い直そうとした時、

 

「‥‥イヴ」

 

銀髪の少女が此処で漸く口を開いた。

 

「えっと‥‥イヴ‥なんていうの?」

 

イヴと言う名はさっきタッカー氏から聞いていたので、フルネームを聞いたのだ。

 

「‥‥イヴ‥イヴ・ノイシュヴァンシュタイン・アインス‥‥それが今の私の名前‥‥」

 

「えっ?今の私の名前?」

 

自己紹介でもやはり、目の前の銀髪の少女に私は違和感を覚えた。


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