シルバーウィング   作:破壊神クルル

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27話

~side篠ノ乃箒~

 

授業が終わり、百秋は千冬さんに何か聞きたい事があるのか、教室を出て行った千冬さんの後を追いかけて行った。

その間、私はあの疫病神にそっくりな女、イヴ・ノイシュヴァンシュタイン・アインスの姿をチラッと見る。

イヴ・ノイシュヴァンシュタイン・アインス‥‥見れば見る程、あの疫病神にそっくりな女だ。

名前、髪の色と長さは違うが、その姿形はどう見てもあの疫病神、織斑一夏が成長した姿にしか見えない。

織斑一夏‥‥千冬さんと百秋の腹違いの姉弟の一人。

奴は千冬さんと百秋の父である、四季おじ様が外で作った愛人との間に出来た子らしい。

そして四季おじ様は実の子供の千冬さんや百秋よりも何故か一夏の方を可愛がっていた。

外で女を作り、しかもその間に子供まで設けるなんて私には四季おじ様の行動が信じられなかった。

何故、外で女なんて作った。

何故、愛人に子供を産ませた。

何故、愛人の子供ばかりを可愛いがって実の子の千冬さんや百秋を可愛がらない。

百秋が寂しがっているのに何故、見てあげない。

私は一夏と四季おじ様が一緒に居る時、その後姿を寂しそうにいている百秋を何度も見た。

愛人の子供なんかよりも千冬さんと百秋の方が、出来が良いにも関わらず、愛人の出来損ないの子供ばかりを可愛がる四季おじ様。

百秋は父親が自分を見てくれないのは、一夏の存在のせいだと言っていた。

私もそう思う。

百秋の母親は四季おじ様が一夏を養子に迎える少し前に事故で亡くなった。

四季おじ様は正妻が亡くなったのを機に一夏の母親である愛人との再婚を考えていたのだが、運悪くその愛人も死んでいた。

四季おじ様はそんな愛人の忘れ形見である一夏を引き取ったのだと千冬さんが私の父に家族について相談しているのを聞いた。

もしかして四季おじ様は一夏に亡き愛人の姿を重ねていたのかもしれない。

元々四季おじ様と百秋の母親との結婚は政略結婚だったらしい。

二人も子供を作っていても織斑夫婦の仲に愛情と言うモノは存在しなかったのかもしれない。

私は百秋の家庭事情を思い出しながら奴の事をジッと見ていると、奴は徐にポケットから銀の懐中時計を取り出し、布で磨き始めた。

 

(あの時計はっ!?)

 

奴が磨いている懐中時計を見て、あの時の事を思い出すのと同時にやはりあの女が一夏なのではないかと言う疑問が確信に近づく。

あれは小学校に上がる直前か上がったばかりの頃‥‥

一夏は四季おじ様から誕生日プレゼントに銀の懐中時計をプレゼントされ、奴は普段からその懐中時計を大事に持っていた。

四季おじ様からの愛情を誰よりも貰い、更に愛人の子供の分際で誕生日プレゼントまで貰うなんて何ておこがましいのだろう。

しかもそれを自慢するかのようにこれ見よがしに持ち歩いている。

百秋としてはそれが我慢ならなかったのだろう。

それに愛人の子供と言う立場を教えてやらなければならないと百秋は言っていたので、私も百秋の意見には賛同した。

そして、ある日‥‥

私が一夏を背後から羽交い締めにしている間に百秋が奴から懐中時計を奪う。

 

「かえして!!おとうさまからもらったおまもりかえして!!」

 

一夏は私を振り払って時計を取り戻そうとするが、日頃から剣道で鍛えている私の羽交い締めを軟弱な一夏が振り払えるわけがなく、喚いているだけだ。

そして、百秋は一夏から奪った懐中時計を思いっきり地面に叩き付けた。

 

「ああー!!」

 

叩き付けられた懐中時計はいとも簡単に壊れ動かなくなった。

 

「うぅ~‥ひっぐ‥おとうさまからのおまもり‥」

 

目的は果たせたので、私は奴を解放する。

すると、奴は壊れた懐中時計を拾って、無様に涙を流している。

 

「ふん、これで少しは自分の身の程を知ったか?」

 

「お前は汚らわしい愛人の子、必要のない人間なんだよ、この出来損ないが!!いいか、もしこの事を親父に喋ったら、ただじゃおかないぞ!!」

 

私と百秋はその場を後にした。

これでアイツも少しは懲りただろう。

 

その日の夜、家族で見ていた財宝鑑定団と言う様々な人(依頼者)が持っている「お宝」を、専門家の鑑定士が鑑定し、番組独自の見解に基づく値段付けを行う番組で意外なモノが高価な鑑定結果を得たり、高価だと思われていたモノが偽物などで安価になってしまうという意外性や、鑑定物に対する蘊蓄が堪能できるのが特徴な鑑定番組を見ていると、

 

「はい、次のお宝は此方です」

 

スタジオに呼ばれた依頼者が持ってきたある懐中時計の鑑定を専門家が行う。

 

(あの時計‥今日、百秋が壊したアイツの時計とそっくりだ)

 

鑑定に出された時計を見て、私は最初何となくだが、テレビの中の時計とアイツが持っていた時計が似ていると思った。

 

「では、いくらなのでしょうか?オープン・ザ・プライス」

 

鑑定が終了し値段が表示される。

 

『いち‥じゅう‥ひゃく‥せん‥まん‥じゅうまん‥‥』

 

するとたかが懐中時計一個にかなりの高額な値段が叩き出された。

 

(なっ!?)

 

表示されたその値段に私も驚いた。

その後、この時計の補足説明が行われた。

それを聞いてますますあの時計が今、テレビに出ている高級品の時計だったのではないかとより強く思えてきた。

 

翌日、私は道場の更衣室にて百秋に昨日壊したアイツの懐中時計がもしかしたらかなりの高級品だったことを教えた。

 

「おい、百秋、あの懐中時計、ちょっともったいなかったんじゃないか?」

 

「えっ?いいんだよ、どうせ、親父がそこら辺の露店で買って来た安物だろう。それをアイツときたら、いつも大事そうにもっているんだから、まったくお笑いだ」

 

百秋は安物だと言う。

どうやら、百秋は昨日の番組を見ていない様だ。

 

「いや、それがそうでもない様だ‥‥」

 

「えっ?どういう事だよ、それ?」

 

「実は昨日やっていた財宝鑑定団って番組で、似たような懐中時計の鑑定依頼をした奴が居てな」

 

「うんうん」

 

「その時の値段が‥‥」

 

私はあの懐中時計の値段を百秋に耳打ちする。

 

「はぁっ!?マジかよ!!」

 

百秋も昨日の私同様、懐中時計の鑑定値段に驚いていた。

 

「ああ」

 

「ちくしょう、それだったら、アイツの時計、壊さないで取り上げて売ればよかった」

 

百秋は残念そうに呟いた。

確かにあの時計を売れば当分お小遣いには困らない値段だった。

だが、壊してしまったものは仕方がない。

あの番組がもう一日早ければと私達は悔やんだ。

そして、その日以来、何故か姉さんは私に話しかける事がなくなった。

私が話しかけても無視するか適当にあしらうような態度を取り始めた。

それは、百秋に対しても同じような扱いだった。

その反面、何故か一夏とベッタリするようになった。

元々姉さんは変わり者で付き合う人を選り好みする性格だった。

私としてはあの変わり者で扱いにはめんどくさい姉さんの面倒を見てくれるので、何とも思わなかった。

それから姉さんがISを作り、白騎士事件が起こり、私達家族は姉さんのせいで重要人保護プログラムの適用者となり、家族はバラバラにされ、引っ越しを何度も強いられる生活となり、百秋とも別れる事になった。

しかもその元凶である姉さんは私たちに行方を知らせず、行方不明‥‥。

だが、あれから六年経ち、私はこうして百秋と再会する事が出来たのに、何故アイツまでいるんだ?

アイツは姉さんと同じく必ず厄災を運んでくる筈だ。

私の視線を気にすることなく、アイツは懐中時計を布で磨いていた。

 

昼休み、百秋が私を昼食に誘ってくれた。

私と姉さんとの一件でクラスから妙に浮いていることが気になったのだろう。

やはり、百秋は良い奴だ。

そして、百秋と昼食をとっていると、奴は私にISについて教えてくれと頼んできた。

まったく、あんな奴(セシリア)の挑発に乗るなんて、まだまだ精神の修行が足りないのではないか?

まぁ、私自身も自分の住んでいる国を馬鹿にされたのでちょっとはイラっと来たが‥‥

ならば、日本人の代表として百秋にはあの金髪ドリルを倒して仇を討ってもらおう。

それに教えるということは、放課後は百秋と二人っきりになれるではないか!!

うむ、悪くはない。

私は放課後、百秋にISについて教えることにした。

そう決意した矢先、三年の先輩が百秋に絡んできた。

一組で行われるクラス代表選抜戦はクラス内だけには留まらず、学校中の噂になっているようだ。

そして、その三年の先輩は百秋にISを教えてやると言ってきた。

どこの馬の骨ともわからぬ女に百秋をくれてやってたまるか!!

どうせ、百秋とお近づきになれば千冬さんとも近づけると思っているのだろう。

私は三年の先輩に百秋にISを教えるのは私の役目だと言ってやる。

すると、先輩は諦めが悪く、自分が三年であることを鼻にかけてくる。

相手が学年のことを鼻にかけてくるのであれば、

 

「私は篠ノ乃束の妹ですから‥ですから結構です」

 

私はあのISの生みの親の関係者であることをこの諦めの悪い先輩に教えてやる。

姉さんの名前を聞き、先輩はすごすごと退散していった。

ふん、無様だな。

そして、放課後、私はまず、百秋の体力と剣の腕の確認のため、剣道場で試合をしたのだが、六年ぶりに再会した百秋の剣の腕はすっかり錆びついていたし、体力も私以下で、一試合しただけで息が上がっていた。

 

「どうしてそこまで弱くなっている!?中学では何部に所属していた!?」

 

「帰宅部!!三年連続皆勤賞だ!!」

 

き、帰宅部だと!?

私はお前との絆を信じ、お前と別れた後もずっと剣道を続けていたというのに‥‥

こいつときたら‥‥

 

「大体部活なんてやっている時間よりも塾で勉強していたほうが効率的だろう?」

 

挙句の果て、こんなことを言ってきた。

私の中で何かが切れた。

 

「‥‥なお‥す」

 

「えっ?」

 

「鍛えなおす!!当分、お前の鈍った剣の腕を鍛えなおす!!」

 

「あ、ISは!?」

 

「やまかしい!!それ以前の問題だ!!」

 

「織斑君って結構弱い?」

 

「IS本当に動かせるのかな?」

 

ほら見ろ、ギャラリー連中にまであんなことを言われて‥‥

こうして私は百秋の鈍った剣の腕と体力作りの為の鍛錬に勤しむことにした。

決して百秋と放課後二人っきりの時間を独占できるとは思ってはいない!!

私はあくまでも同門の不出来を嘆いているのだ!!

故にこれは正当な事だ!!

 

 

~sideイヴ・ノイシュヴァンシュタイン・アインス~

 

クラスメイトの一人があの人にたばちゃんと箒の関係を尋ねると、あの人は、たばちゃんと箒の間柄を暴露した。

すると、クラスメイト達は箒に群がった。

まぁ、ISの生みの親の関係者がこんな身近に居たのだから、驚くのも無理は無い。

クラスメイト達に質問攻めされて箒は、

 

「あの人は関係ない!」

 

と、大声でクラスメイト達に自分とたばちゃんは関係ないと言う。

確かにたばちゃんは妹である箒を何処か赤の他人の様に扱っている様な節があった。

それが何故なのかは私も知らない。

でも、箒の方もたばちゃんの事はそんなに好いている様子はなく、彼女とたばちゃんの関係は私と織斑姉弟と同じ様な関係なのかもしれない。

それにしてもクラスメイト達がこんなにも騒いでいるのに何故、あの二人の教師達は止めに入らなかったのだろう?

生徒の自主性と放置は違うのに‥‥

たばちゃんと箒との関係による騒ぎは箒の一喝で鎮静化した。

 

昼休み、のほほんさんはたっちゃんの妹さんとお昼を食べに行くそうだ。

のほほんさんは私を誘ってくれたが、私がたっちゃんと二人で居るのは何度か目撃されているので、私が変に介入するとたっちゃんと妹さんとの関係が余計こじれるかもしれない為、のほほんさんの誘いを丁重に断った。

そして、そのたっちゃんは生徒会の仕事で忙しいらしい。

のほほんさん以外まだ親しいクラスメイトが居ないので、私は一人で食堂に行くことにした。

昼時と言う事で食堂はやはり、混んでいた。

U字テーブルの席で一人、昼食を食べていると、

 

「ねぇ、君って噂の子でしょう?」

 

百秋が赤いリボンをつけた生徒に声をかけられていた。

 

(赤いリボン‥三年生か‥‥)

 

現在、IS学園では一年生が青、二年生が黄、三年生が赤の色別となっている。

三年生が卒業すると次に入る新一年生は赤いリボンがネクタイをする事になっている。

 

「代表候補生の子と勝負するって聞いたけど、でも君、素人だよね?私が教えてあげよっか?」

 

三年の先輩は百秋にISのコーチをしようかと言う。

成程、確かに昨日の夜、たっちゃんが知っていた通り、一組のクラス代表選抜戦は学園の誰もが知っている様だ。

一年生の中でも専用機を持つ代表候補生と世界で初めてISを起動させた男子‥‥。

注目しない筈がないか‥‥

三年の先輩は親切心から百秋にISのコーチをしてあげようと言っているのだろうか?

それとも、世界で初めてISを動かした男に珍しさを感じているのだろうか?

いや、ただ単に百秋に気に入られたいがためにISのコーチを名乗り出たのだろうか?

ああ見えて、やはり百秋は男としてはイケメンな顔をしているから‥‥

そんな三年の先輩の誘いに対して、

 

「結構です。私が教える事になっていますので‥‥」

 

箒が百秋の代わりに断りを入れている。

 

「えっ?」

 

箒のこの言葉に百秋は驚いている。

あれ?そういう話じゃなかったのか?

 

「貴女も一年でしょう?私、三年生、私の方が上手く教えられると思うな」

 

確かに三年の先輩ならば、経験、知識共に申し分ないだろう。

実際に箒と先輩とではISの搭乗時間にもかなりの差があるだろうし‥‥

だが、箒は

 

「私は篠ノ乃束の妹ですから‥ですから結構です」

 

「そ、そう‥それなら仕方ないわね」

 

たばちゃんの名前を聞いて先輩はすごすごと引き下がった。

授業の時、たばちゃんは『関係ない』なんて言っていたのに、困った時にはたばちゃんの名前を使う。

まるで虎の威を借りる狐だな。

まぁ、箒が彼を何処まで強く教えられるか見ものだな‥‥

 

『ククククク‥‥同感だぜ、一夏。そう簡単に壊れないでくれよ、百秋、貴様には疫病神の厄災をたっぷりと味わってもらわなければならないのだからな‥‥ちょっとは惨めに必死に抵抗してくれよ、天才君、ハハハハハ‥‥』

 

獣が戦の匂いに惹かれて再び浮き出て来ようとしていた‥‥。

 

 

クラス代表選抜戦に向けて百秋は箒にISのコーチを頼んだのだが、彼はクラス代表選抜戦まで箒と剣道をする事だけでとどまった。

その間、セシリアはアリーナの使用許可が下りる限りアリーナで射撃の腕を磨き、同じくイヴもアリーナの使用許可及び楯無が時間を取れる時には彼女に模擬戦の相手を務めてもらった。

そして、模擬戦以外にもイヴは楯無を通じてある事をしていた。

それは、イヴが千冬に無理矢理クラス代表選抜戦に推薦された日の夜の事‥‥

 

「それで、たっちゃんに頼みがあるんだけど‥‥」

 

「何かしら?」

 

「あの人が出た第一回、第二回のモンド・グロッソの記録映像とセシリアさんの記録映像を用意して欲しいの」

 

イヴはモンド・グロッソでの千冬の試合映像とセシリアがISに乗っていた時の記録映像を用意してくれと頼んだ。

 

「分かったわ。数日中に取り寄せてあげる」

 

「ありがとう‥たっちゃん」

 

それから数日後に楯無はイヴが頼んだ映像を入手してくれた。

 

「セシリアさんのは分かるけど、織斑先生のモンド・グロッソの映像を見て何か参考になるの?」

 

今度の対戦相手はセシリアと百秋である。

セシリアの映像記録はわかるが、百秋の対策としてどうして千冬の記録映像が参考になるのだろうか?

 

「恐らく百秋に用意されるのは近接タイプの専用機だから、何か参考になると思って」

 

「どうしてそう言えるのかしら?」

 

「あの人は昔から、自分の言動は全て正しいと思い込んでいる人だった‥百秋が箒の道場に通っていたのもあの人が最初に通っていたから‥だから、百秋の専用機もかならず、このモンド・グロッソに出ていた機体‥暮桜に近い性能を持っている筈‥それに剣道をやっていた百秋に射撃武器中心の専用機を渡す筈がないから」

 

「成程」

 

楯無に説明をした後、イヴはモンド・グロッソの記録映像に目を通す。

 

(厄介なのはこの『雪片』‥‥これも必ず搭載する筈‥‥発動させる前に倒すか、発動後、無駄にエネルギーを消費させて自滅をさせるか‥‥)

 

イヴは記録映像を見ながら対百秋用の戦術を考える。

しかし‥‥

 

『おいおい、一夏、なにまどろっこしいこと練っているんだ?お前ならば、そんなみみっちい策など立てずとも勝てるだろうが‥‥お前はまだ、自分の力を理解していないのか?』

 

イヴの心の闇の中で獣は静かに牙と爪を研いでいた。


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