織斑姉弟のコントの様な授業が終わり、休み時間となると、
「ちょっと良いか?」
「ん?」
束の妹、箒が百秋に話しかける。
「箒か?」
「ああ。此処ではなんだ、外で話がしたい」
「分かった」
百秋と箒は教室を出て屋上へと向かった。
クラスメイト達は箒と百秋の関係が気になるのか後をつけていった。
二人の行動をチラッと見た後、イヴは再びポケットの中からピルケースを取り出し、中の錠剤を口の中へと放り込む。
そして、錠剤を噛んでいると、何やら視線を感じ、振り向いてみると、其処には制服の袖をダボダボにしたクラスメイトが居た。
「ジィー」
しかもそのクラスメイトは自分の事をジッと見ている。
(あれ?あの子、確かバスジャック事件の時の‥‥)
彼女は以前、イヴが関わったあのバスジャック事件で果敢にも犯人に挑んだあの時の少女だった。
「‥‥」
イヴとクラスメイトの少女の視線が合うと、その少女はイヴの方へと近づいてきた。
「ん?何か?」
「ねぇねぇ、さっきのラムネちょーだいイヴイヴ」
「イヴイヴって私の事?」
「うん、イヴって名前だから、イヴイヴ」
(何で二度も言うのだろう?)
「えっと‥‥」
「あっ、私は布仏本音。のほほんって呼んで~」
少女の名前が分からず戸惑っていると空気を読んだのか、その少女は自身の名前を告げる。
先程のクラスの自己紹介は千冬の登場により途中で止められてしまい、イヴはバスジャック事件の時に会ったとはいえ、本音の名前を知らなかった。
「あっ、うん‥ただ、コレはラムネじゃなくて常備薬だから‥‥」
イヴはピルケースの中身はラムネではなく、薬なので自分以外の者には渡せないので、ポケットの中を探り、
「‥‥あった、これは正真正銘のラムネだから、こっちをあげる」
オ○オンのミニコーラのラムネ菓子を本音に渡した。
「ええっ!いいの!?」
「うん」
「やったー!!」
ラムネ菓子丸々一つをもらえて上機嫌な本音だった。
~side布仏本音~
春休みの終盤、私は突然、たっちゃん(楯無)から今度、入学するIS学園にて織斑千冬及びその弟、織斑百秋、篠ノ之束の妹、篠ノ之箒の動向を出来る限り監視せよと言う命令を受けた。
何故その様な命令を下したのかを尋ねると、私と同じクラスメイトになったイヴ・ノイシュヴァンシュタイン・アインスの保護を目的とするモノであった。
イヴ・ノイシュヴァンシュタイン・アインス?
聞いた事のない名前だった。
何処かの国のVIPなのだろうか?
それにその保護対象のイヴちゃんと、織斑千冬 織斑百秋 篠ノ之箒この人達は何か関係があるのだろうか?
でも、本来私はかんちゃん(簪)専属の従者なのだけれど‥‥
その事をたっちゃんに伝えると、たっちゃんは物凄い顔をして、
「いいわね?本音。やりなさい。当主命令よ、い・い・わ・ね」
と有無を言わさずに言ってきた。
あの時のたっちゃんの顔は、悪さをしたたっちゃんや私を怒っている時のお姉ちゃん並に怖かった。
あんなたっちゃんの顔は今まで見た事がない。
まぁ、かんちゃんとはクラスも違ってしまったし、私は渋々ながらも、たっちゃんの命令を聞くことにした。
そして、かんちゃんと共に入学したIS学園。
山田先生がクラスの皆に自己紹介をするようにと言って、出席番号一番の人から自己紹介を始めた。
そんな中、イヴちゃんの番となり私は今回保護対象であるイヴちゃんを見た。
わぁ、綺麗な人‥‥
あれ?この人‥‥
私はイヴちゃんの姿を見てなんか何処かで会ったような気がした。
それにしてもイヴちゃんは女の私から見ても綺麗な子だった。
他のクラスメイトもイヴちゃんの姿に見とれていた。
SHRの後、監視対象の一人、織斑百秋がイヴちゃんと接触した。
イヴちゃんは彼を見てなんか嫌そうな顔をしていた。
そして、彼に対して拒絶とも言える言葉を投げかけると、それに反応して篠ノ之箒が声を荒げて食って掛かろうとするが、タイミングよくチャイムが鳴り、百秋と箒は自分の席へと戻って行った。
授業中、私はこっそりと織斑百秋を見る。
織斑百秋‥‥織斑先生の弟で世界初のIS男性操縦者。
織斑先生の弟だからか?それとも世界初のIS男性操縦者だからか?クラスの大半は彼に興味津々みたいだけど、監視対象と言う事で私は彼をそういう目では見ていない。
それに布仏家は代々更識家の従者の家系であり、更識家の事情柄、布仏家もそれなりに人を見る眼はあり、私だってこの人が良い人なのか悪い人なのかぐらいの判別はつくつもりだ。
そう言った視点で織斑百秋を見ると、ああいう堺○人ばりのうさんくさい笑顔の人は如何も信じられない。
ああいう人は大抵、口で言っているきれいごとと心で思っている事が真逆な事が多い。
織斑先生の場合は彼と違って思った事をストレートで口にするタイプの様だが、言っている事が教育者らしくない。
此処は軍隊ではなく、学校なのに‥‥。
そして、始まった授業。
織斑君は、春休み中に必読する筈の参考書を古い電話帳と間違って捨てたらしい。
意外と抜けている。
彼の簡単なプロフィールをたっちゃんが用意していて予めに読んだが、本当に小、中学校の時、天才と言われていたのかと疑問に思う。
まぁ、何とかと天才は紙一重って言うけど‥‥
そして、授業が終わるともう一人の監視対象の篠ノ之箒が織斑百秋を連れてどこかに行ってしまう。
クラスメイト達も二人の関係が気になる様子で二人の後をつけていった。
私も二人がどんな会話をするのか気にはなったが、イヴちゃんが何かをポケットから取り出して、白い何かを口に放り込むのを見て、思わず足が止まった。
あれってもしかしてラムネ菓子かな?
いいなぁ‥おいしそう‥‥
そう思って彼女を見ていたら、彼女と目が合ってしまった。
此処で目を逸らして移動してしまっては不審がられてしまう。
やむを得ない、此処は保護対象である彼女に思い切って接触してみよう。
そして、私は保護対象である彼女に接触をした。
すると、彼女が先程口の中に放り込んだのは常備薬だそうだ。
彼女は何か持病でも持っているのだろうか?
流石に常備薬を貰う訳にはいかない。
彼女はポケットの中をゴソゴソと探ると、オリ○ンのミニコーラのラムネ菓子を私にくれた。
イヴイヴ、いい人かもしれない。
ただ、彼女の雰囲気がまるで読めなかった。
其処に居るのに居ない様な‥‥
そして、その場にはもう一人のイヴイヴが居る様な気がしてならなかった。
私はそう思いながら、イヴイヴから貰ったミニコーラのラムネ菓子を口の中へと放り込んだ。
口の中にコーラ独特の味が広がった‥‥。
二時間目の授業はISではなく通常の座学だった。
ISに関して素人だった百秋であったが、通常の座学では先程のISの授業の汚名を返上した。
二時間目は特に何事もなく終わった。
「ちょっとよろしくて?」
二時間目が終わった後の休み時間、百秋に金髪でドリルの様な髪型のクラスメイトが話しかけてきた。
「ん、何?」
「まぁ、何ですの!?そのお返事!?私に話かけられるだけでも光栄なのですからそれ相応の態度と言うモノがあるのではないかしら?」
金髪のクラスメイトは世間の女尊男卑色に染まった女の様に百秋に尊大な態度を取る。
(なんだ?この女、偉そうに‥俺を誰だと思っているんだ?)
彼女の態度に百秋も内心イラッとする。
しかし、入学初日に事を荒げたくない彼は、平常心を保つ。
「悪いけど、俺、君が誰だが知らないけど」
百秋は彼女に正直な意見を述べる。
イヴが本音の名前を知らなかった様にやはり、自己紹介が途中で終わってしまったため、百秋も目の前の金髪のクラスメイトの名前を知らなかった。
「私を知らない!?セシリア・オルコットを!?イギリスの代表候補生にして入試主席のこの私を!?」
セシリア・オルコットと名乗った金髪のクラスメイトは百秋が自分の事を知っていなかった事に癇癪を起したかのように声を上げる。
そこを百秋が手で制する。
「質問いいか?」
「ふっ、下々の要求に答えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ」
どうやら。彼女はイギリスの貴族出身者の様だ。
彼女の態度は女尊男卑だけでなく、貴族出身者と言う彼女の家柄も関係していた。
「代表候補生ってなんだ?」
百秋はセシリアの言う「イギリスの代表候補生」の意味が分からなかった。
彼の質問に周りのクラスメイトはズッコケ、セシリアは体をプルプルと震わせる。
(バカみたい)
(此処まで無知なんて‥本当に天才なのかな?)
イヴと本音は彼の発言を聞いて呆れていた。
「信じられませんわ!!日本の男性と言うのは皆これほど知識が乏しいモノなのかしら?常識ですわよ、常識」
「で?代表候補生って?」
百秋の質問に改めて代表候補生がどういったものかを説明するセシリア。
その中でセシリアは自分が選ばれた人間であり、エリートなのだと強調している。
(たっちゃんの様に国家代表にもなっていないのになんであんなに偉そうなんだ?)
イヴはまだ候補生であり、正式な国家代表になっていないのにまるで国家代表になっているかのような態度で喋っているセシリアを冷ややかな目で見ていた。
候補生と言う事は他にも候補生は居る筈。
その中で国家代表になれるのは一人だけ‥‥才能に胡坐をかいていると蹴落とされる世界の筈なのに‥‥。
(うわぁ、自分で自分の事をエリートなんて言っちゃっているよ、コレがかんちゃんの言っていた所謂中二病ってやつなのかな?)
本音もセシリアの言動に対して冷やかである。
その後、セシリアは分からない事があれば教えてやると上から目線で百秋に言う。
(この女、マジうぜぇ)
他人から見下される事を何より嫌う百秋はセシリアをうざったそうに見る。
そして、セシリアは入学試験における実技試験で今年の受験生の中で唯一担当教官を倒したのだと自慢げに言う。
しかし、
「俺も倒したぞ、教官」
百秋はあっさりと担当教官を倒したのはセシリアだけじゃないと言う。
彼女や百秋も知らないが、イヴもあの世界最強のブリュンヒルデを実技試験でボコボコにして死の恐怖を味わわせた。
だが、それはイヴの意向により一部の人間しか知らない事実となっている。
その為、記録映像も厳重なロックが掛けられている。
「私だけだと聞きましたが‥‥」
「『女子では』ってオチなんじゃないか?」
「つ、つまり私だけではないと‥‥」
「さぁ、知らないけど」
「あなた、あなたも教官を倒したって言うの!?信じられませんわ!!」
「いや、倒したって言うか、突っ込んで来たから躱したら壁に激突して動かなくなったんだ」
百秋は自分が受けた実技試験の出来事をセシリアに話した。
彼の話を聞きセシリアはまたもや百秋に食って掛かろうとした時、チャイムが鳴った。
「また後できますわ!!逃げない事ね!よくって!?」
(めんどくせぇ女だ)
そう言い残してセシリアは自分の席に戻っていく。
やがて教室に千冬と山田先生が入る。
そして教壇に千冬が立つ。
「それではこの時間は、実践で使用する各種装備の特性について説明する」
そう言って教科書を開いた時、ふと何かを思い出したように、
「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」
と、IS学園で行われる一年生にとって新人戦とも言えるその試合に出る代表を決めると言う。
「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけでなく、生徒会の開く会議や委員会への出席‥‥まあ、クラスの長だな」
(またの名をクラスの雑用係)
千冬の言うクラス代表を聞き、そんな印象を受けるイヴ。
「因みにクラス対抗戦は入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。 今の時点で大した差はないが、競争は向上心を生む。 一度決まると一年間変更はないからそのつもりで、自薦他薦は問わない候補者を募る」
千冬は立候補か推薦者を募る。
すると、
「はいっ。 織斑君を推薦します!」
「私もそれが良いと思います」
いきなり百秋が推薦される。
「えっ!?俺っ!?」
百秋は驚いていたが、内心、自分が推薦されるのは当然の事だと思っていた。
なにせ、自分はIS界では世界最強のブリュンヒルデ、織斑千冬の弟なのだから‥‥
「ああ、ついでに言うと自薦他薦は問わないと言った。他薦されたものにも拒否権など無い。選ばれた以上は覚悟を決めろ」
(日本国憲法の基本的人権の尊重はどうした?この国はどんなクズにも、人権がある筈だぞ)
千冬の発言に呆れるイヴ。
「他には居ないか?居なければ無投票当選だぞ」
今の所、百秋以外の立候補者も推薦者もおらず、このまま百秋がクラス代表に決まるかと言う時、
「待ってください!そんなの納得がいきませんわ!」
セシリアが叫びながら席から立ち上がった。
「そのような選出は認められません!大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ!このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」
セシリアは更にヒートアップして続ける。
「実力から行けば、私がクラス代表になるのは必然。 それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります! 私はこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスする気は毛頭ございませんわ!」
セシリアの言葉‥いや、暴言は暴走機関車の様に止まることなく続けられる。
ただ、周りのクラスメイトは彼女の言葉を聞きしかめっ面をしている。
彼女の言葉は完全に日本、日本人への差別が含まれていたからだ。
「いいですか!?クラス代表は実力のトップがなるべき、そしてそれは私ですわ!」
(だったら、立候補すればいいだろう。それとも自分は推薦されるのかと思っていたのか?)
イヴは彼女の言葉を聞きながらそう思った。
いや、イヴだけでなく、恐らくクラスメイトの大半はそう思っただろう。
「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で‥‥」
(その後進的な国の発明品で今のお前の立場があるのではないか?)
束がもし、この場に居たら、セシリアは地獄を見ていたのではないだろうか?
セシリアは完全に今の自分の立場はISと言う日本人が作った発明品によって築かれている事をすっかり忘れている。
「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」
「なっ!?」
セシリアの暴言にとうとう我慢できずに百秋が反論する。
「あっ、あっ、貴方ねぇ! 私の祖国を侮辱しますの!?」
百秋のまさかの反論にセシリアは顔を真っ赤にして怒りを示す。
そして百秋とセシリアの間に目から火花が散っていた。
そんな二人の様子を千冬は不敵な笑みを浮かべて見ており、山田先生はオロオロしているだけ。
(やっぱり、この二人、教師に向いていないなぁ‥‥)
教師を名乗るなら先程から差別発言を連発しているセシリアを諌めるべきなのではないだろうか?
なんだか、束とISが可哀想に思えてきた。
イヴがこのクラス教師、束、ISの事を思っている中、百秋とセシリアのやり取りはヒートアップしていき、
「決闘ですわ!」
セシリアは百秋に決闘を申し込んだ。
「おう。 良いぜ。 四の五の言うより分かりやすい」
「言っておきますけど、わざと負けたりしたら私の小間使い……いえ、奴隷にしますわよ」
「侮るなよ。真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいない」
「そう? 何にせよ丁度良いですわ。イギリス代表候補生のこの私、セシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわね!」
互いににらみ合う百秋とセシリア。
「それで、ハンデはどうするんだ?」
「あら?さっそくお願いですか?」
「いや、俺がどの位ハンデをつければ良いかなって」
百秋のその言葉にクラス中が笑った。
「織斑君、それ本気で言っているの?」
「男が女より強かった時代なんてもうとっくの昔の話だよ?」
「今じゃ女の方が強いって常識だよー?」
(果たして本当にそうかな?)
クラスメイトが笑いながら男は女に勝てないのは常識だとを語っているが、そんなクラスメイトに対して本音はその常識を疑問視する。
あのバスジャック事件の経験から、もしもISもない丸腰の状態で相手は大人の男で拳銃をもっている。
そんな状況下でも今、笑っているクラスメイト達は、男は女に勝てないなんて言っていられるだろうか?
本音は世間知らずのクラスメイト達に疑問視と共に若干の不快感を覚えた。
「寧ろ私がハンデをつけるべきなのではないかしら?」
セシリアは完全に上から目線で百秋にハンデをつけてやろうかと言う。
「そうだよ、織斑君ハンデ貰った方が良いよ」
「男が一度言いだした事を覆せるか。ハンデは無くていい」
クラスメイトがセシリアにハンデをつけて貰えと言うが百秋はそれを断った。
「さて、話はまとまったな。 それでは勝負は一週間後の月曜。 放課後、第三アリーナで行う。織斑、オルコット、アインスの三人は準備をしておくように」
「は?」
千冬の言葉の中に今、自分も呼ばれた事に気づくイヴ。
「何故、私も呼ばれているのですか?私は推薦もされていませんし、立候補もしていませんが?」
「では、私が直々にお前を推薦しよう。アインス」
千冬が不敵な笑みと共に上から目線のような目でイヴに言い放つと、イヴは苦虫を噛み潰したかのように顔を歪めた。