シルバーウィング   作:破壊神クルル

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18話

束と共にお風呂でふざけ合った結果、湯あたりをしてしまったイヴと束。

二人は楯無とクロエの手によって風呂場から連れ出された。

 

「まったく、いい年をして一体何をなさっているのですか?束様。恥ずかしくはないのですか?」

 

「面目ございません」

 

クロエが呆れる様に束に注意する。

束は説教するクロエの前に正座をさせられている。

そしてイヴは事前にクロエの手によって着替えさせられ、ベッドの上で伸びている。

楯無は自分がイヴの着替えをさせる事が出来なくて残念がっていた。

 

「だって、いっちゃんの裸体を見ているとムラムラ来て‥欲求的本能には逆らえなかったんだよ。コレは生物として当然の衝動であって」

 

「くどいですよ、束様」

 

「そうね、くどいうえに見苦しいですよ、篠ノ之博士」

 

「グハッ!!あ、青髪如きに‥‥」

 

クロエと楯無にまるで汚物を見られるような目と言葉攻めで束は精神的ダメージを受けて、その場にバタッと倒れた。

 

 

「うっ‥‥うーん‥‥」

 

イヴが目を覚ますと窓からは朝日の光が入り始めていた。

 

(あれ?此処は何処だろう?‥‥あっ、そっか、たばちゃんの所に泊まったんだった)

 

(でも、お風呂に入ってからの記憶がない‥‥なんでだろう?)

 

(ん?体がなんか動かない‥‥)

 

起きようとしたイヴであったが、何故か体が動かない。

そこで首を動かして辺りを見渡すと

 

「スー‥‥」

 

「すぴー‥‥」

 

「‥‥」

 

左右を束と楯無にガッチリとホールドされていた。

 

「なに?この状況?」

 

イヴは何故こんな状況になったのか理解できなかった。

束と楯無によってホールドされて動けないイヴは、クロエが二人を起こすことで、ようやく解放された。

朝食を摂った後、楯無はIS学園にイヴは更識家の離れに戻る事になった。

 

「それじゃあ、たばちゃん。またね」

 

「うん、元気でね、いっちゃん」

 

「うん‥コレ、ありがとう」

 

イヴは束に待機モードのリンドヴルムを見せて礼を言う。

 

「いいって、いいって、それよりも受験、頑張ってね」

 

「うん、頑張る」

 

そして、それぞれISを纏って帰って行った。

イヴがリンドヴルムを纏っている中、彼女の深層心理の奥では‥‥

 

『ハハハハハ‥‥なかなか面白そうなオモチャを貰ったみたいじゃないか一夏‥‥機会があれば、そのオモチャ、私にも使わせてくれよ、クククククク‥‥』

 

イヴの深層心理の奥では彼女自身もしらず、暗闇の奥底で密かに牙と爪を研ぐ獣が育っていた。

帰路についている中、イヴは楯無に気になっている事があり、尋ねた。

 

「ねぇ、たっちゃん」

 

「何かしら?」

 

「たっちゃんの本当の名前って確か刀奈だよね?」

 

「ええ、そうよ」

 

「それなら、たっちゃんじゃなくてかなちゃんって呼んだ方がいい?」

 

楯無と言う名はあくまでも更識家の当主が代々受け継がれてきた名前であり、たっちゃんとはその楯無の愛称なので、彼女の本当の名前である刀奈と言う名の愛称をこれからは呼んだ方が良いかと尋ねる。

 

「今まで通り、たっちゃんでいいわよ」

 

暗部の家系である以上、あまり自分の情報を他者に知られてはなにかとマズイ。

故に更識家の当主は代々楯無を名乗っている。

自分が更識家の当主である以上、今の自分の名前は更識刀奈ではなく更識楯無なのだ。

イヴには今の自分を見てもらいたい。

だからこそ、楯無はイヴにこのまま自分の愛称であるたっちゃんと呼んでもらいたく、彼女にこのままたっちゃんと呼んでくれと言う。

 

「うん、わかった」

 

イヴには楯無の家の事情を詳しくは知らないが、楯無本人がこのままたっちゃんと呼んでくれと言うのであれば、彼女の言う通り、この先も彼女の事をたっちゃんと呼ぼうと決めたイヴであった。

 

それから再び時は流れ、長かった夏休みも終わり、二学期となったIS学園では、生徒の長、生徒会長を選抜する生徒会選挙が行われた。

IS学園の生徒会長は、他の学校の生徒会長とはちょっと違い、選挙活動で選ばれるのではなく、立候補者はISの模擬戦により勝ち抜いた者が生徒会長となる仕組みとなっていた。

と言うのも、IS学園の生徒会長は、学園の方針により、生徒会長の肩書は

 

『生徒会長、すなわちすべての生徒の長たる存在は最強であれ』

 

これがIS学園生徒会長の存在である。

つまり、この条件を満たせば、例え一年生でも、専用機を持っていなくても生徒会選挙でトップの座に辿り着けば、生徒会長となれるのだ。

しかも生徒の長である生徒会長にはIS学園の教師とほぼ同等の権限がある。

学園における方針を決める職員会議にも出る事の出来る出席権やその場での発言権、賛成権に反対権もある。

勿論、普通の学校と同じ、生徒会の仕事も存在する。

つまり、IS学園の生徒会長は、文武両道の器も有さなければならない。

その為、立候補者は大抵、実力や頭角を出して来た2年生、そして現生徒会メンバーが手を上げる程度である。

しかし、今年の生徒会選挙には一年生が一人立候補した。

それは他ならぬ楯無であった。

一年生の立場で、生徒会選挙戦に立候補した楯無に対して二年生、三年生の先輩たちは『無謀だ』 『生意気』だのと陰口を叩かれた。

だが、先輩たちから陰口を叩かれるのを分かっていながら何故、彼女は生徒会選挙に名乗りを上げたのか?

それは、他ならぬイヴの為であった。

夏休み中の模試の結果、ISの操縦技術からイヴは十中八九、IS学園に入れるだろう。

だが問題はイヴの学力でもISの技術でもなく、イヴ自身の問題だ。

イヴは織斑一夏だった頃の痕跡は織斑家の者達がまるで自分達の汚点を消すかのように消してくれた。

その点に関しては楯無としては手間が省けた。

そして、イヴ・ノイシュヴァンシュタイン・アインスとしての書類は束が用意してくれた。

これにより、イヴ(一夏)はイヴ・ノイシュヴァンシュタイン・アインスとして存在している。

だが、織斑千冬はかつて捨てた妹とそっくりのイヴに絡んでくるかもしれない。

ましてやイヴは何処の国にも企業にも属さずに束お手製の専用機を持っている。

難癖をつけられて専用機を没収される可能性もある。

イヴを守るためには一般生徒では、守れない。

ならば、イヴが入学する前に自分は学園において確固たる地位を築き上げねばならない。

その確固たる地位を築くためにもこの生徒会選挙戦に勝って生徒会長にならなればならない。

その為ならば、先輩たちの陰口ごとき何の苦でもない。

こうして挑んだ生徒会選挙戦‥‥

IS学園でも専用機を持っている生徒は少なく、楯無はその少ない生徒の一人‥‥

そして生徒会選挙戦では、入学式の実技試験同様、専用機の使用は反則ではない。

だが、案の定、試合に専用機を持って望むと、先輩たちからは『ずるい』 『卑怯者』とブーイングとバッシングが飛ぶが、同級生からは声援がとんだ。

IS学園が設置されてまだそんなに歴史は深くはないが、一年生で生徒会選挙戦に立候補したのはこれまでの歴史で楯無が初めてであった。

IS学園史上初の一年生からの生徒会長誕生に同級生達は期待を込めていたのだ。

 

「更識‥‥楯無‥か‥‥」

 

試合が行われているアリーナにて、千冬は試合をしている楯無の姿をジッと見る。

楯無の事は千冬自身も知っていた。

IS学園に入学する前にすでに自身の専用機を有しており、しかもロシアの現国家代表。

メディアでは、かつての自分に最も近いIS操縦者として取り上げられている。

一見優秀そうに見える彼女を千冬は苦手‥というか嫌悪している存在だった。

優秀なIS操縦者で実家は金持ち‥‥それだけを聞けば、そこら辺の女尊男卑主義の女と変わらないかもしれないが、彼女は‥‥楯無はそうではなかった。

彼女は己の中の正義を抱き、それを信じて突き進んでいる。

その正義は決して自己中心的なものではなく、ちゃんと筋は通している。

そんな彼女を千冬は世間を知らない理想主義者、典型的な箱入り娘だと言う視点でとらえており、その綺麗さを羨みつつ、その綺麗さに対して反吐が出そうな感覚を抱いていた。

人を食った様な性格に猫被りな態度と言動。

そんな所も千冬が楯無を嫌う一面でもあった。

その楯無が自分と同じくIS学園の教師と同じ権限を持つ生徒会選挙戦に参戦した。

何故、彼女が?

と言う疑問を持ったが、千冬が一番恐れるのは、やはり、楯無が生徒会長に就任する事だった。

千冬は生徒会選挙戦に立候補した生徒の中でも一番の実力がある現在の生徒会長の生徒に特別訓練を施し、楯無の対抗馬とした。

自分はドイツ軍IS部隊の教官を務めた経験もあり、現在は学園で教師をしている。

強力な人材を育てる自信が千冬にはあった。

だが、決勝戦において、楯無はその生徒に対して、圧倒的な差をつけて勝利し、見事、IS学園初の一年生、生徒会長の座に就くことになった。

 

(ふぅ~イヴちゃんに比べるとまだまだね)

 

決勝戦を終えてピットに戻った楯無は一息つきながら、イヴと戦った相手を比べる。

束が居たら、『比べる相手のレベルがちがいすぎるでしょう』と言いそうだ。

一方、楯無と戦い、敗北した生徒はピットにて千冬に対して特別訓練をしてもらったにも関わらず、負けてしまった事に関して謝った。

だが、そんな生徒に対して千冬は彼女の頬に平手打ちをして罵倒を投げつけた。

 

『私がコーチをしてやったにも関わらず、なんだ?あの体たらくは!?』

 

『貴様、それでも本当に学園最強の生徒会長だったのか!?』

 

『八百長をして生徒会長の座に就いたのではないのか!?』

 

『貴様の様な負け犬にはIS操縦者の資格はない!!そんな腕でよくこの学園に入れたな!?』

 

『この学園に入れたのも裏口入学なのではないか?』

 

『貴様の様なクズはこの学園に相応しくない!!さっさと出て行け!!』

 

千冬本人は罵倒したが、これはドイツでも行った行為であり、教官から罵倒されてもその悔しさをバネに更に強くなる、更に高みを目指す。

そんな結果を軍では出していた。

現に彼女が教えた士官の一人は出来損ないの烙印を押されていたが、自分が教える事により、一部隊の隊長にまで上り詰めた程だ。

だが、此処は軍ではなく、学校であり、其処に居るのはISが乗れると言うだけで何らかわらない女子高生だ。

千冬はその事をすっかり忘れていた。

試合に負け、さらに尊敬する千冬から平手打ちをされ、罵倒されたその生徒の精神的ショックは大きく、後日、その生徒は学園を自主退学した。

 

新たに生徒会長に就任した楯無は、早速、生徒会長権限を使い、生徒会のメンバーを自分が信用おける人物で固める事にした。

とは言え、その人物は自分の従者であり、本音の二つ上の布仏虚だけであり、今年一年は自分と虚だけで生徒会を運営するしかなかった。

覚悟していたとはいえ、二人だけで生徒会の仕事をするのはかなりきつく、週末になっても楯無は実家に帰れない日があった。

帰れない連絡をイヴに入れ、彼女の残念そうな声を聞く度に罪悪感で一杯になる。

でも、これは未来における投資だと思って楯無はIS学園での地位を築き上げていった。

 

 

~side簪~

 

本音から姉が二学期にIS学園で行われる生徒会選挙戦に参加すると聞いた。

情報の元は本音の姉の虚さんからだ。

姉妹なのに私と本音の姉妹関係は全くの真逆だ。

本音はマイペースな所があり、姉の虚さんはしっかり者‥‥姉がしっかり者と言う点では私達姉妹と似ているが、本音と虚さんの仲は私達と違い良好な関係である。

そんな虚さんは私達の知り合いの中で一番早くにIS学園に入学した人で、私も本音もIS学園を受験するにあたってIS学園の色々な情報を虚さんから貰っている。

その虚さんから伝わって来た姉が今度参加する生徒会選挙戦。

何故、姉がIS学園の生徒会に入りたがっているのか?

中学時代に姉は生徒会には入っていなかった。

だが、IS学園では生徒会に入る為に今度の生徒会選挙戦に参加する。

最初は疑問に思っていたが、虚さんからの情報‥‥IS学園における生徒会長の肩書を聞き私は納得した。

IS学園の生徒会長は学園に所属する大勢の生徒の頂点‥‥つまり、生徒限定であるが、生徒の中では最強の称号を得た人物なのだ。

最強‥‥本当に良い響きだ。

あの織斑千冬も第一回、第二回のモンド・グロッソで優勝し、IS界では無敗の称号、ブリュンヒルデの名を貰っている。

そして、姉はそのブリュンヒルデに一番近い国家代表と言われている。

そんな姉は今度IS学園でも最強の称号を狙っている。

来年の受験で私がIS学園を受験する事を姉は知っている筈。

それを知っていて学園最強を決める生徒会選挙戦に参加するなんて‥‥

姉はどこまで私の事をコケにすれば気が済むのだろうか?

学園に入った私を最強の座から見下ろしたいのか?

 

「貴女には決してたどり着けない所よ」

 

とでも言いたいのか?

全くもって腹立たしい‥‥

だからこそ、私は姉がその生徒会選挙戦に負けてしまえと祈った。

だが、神は無情だ。

姉はその生徒会選挙戦に勝利し、IS学園の生徒会長に就任した。

そして、虚さんも姉からのスカウトを受け、生徒会に入ったと本音から聞いた。

一年生で生徒会長に就任したのはIS学園史上姉が初となる快挙だと言う。

姉が栄光を手にするだけで私はどんどん自分が惨めな存在だと実感される。

 

「貴女はずっと無能のままでいいのよ。全部、私がやってあげる」

 

かつて姉が私に吐いた罵倒がどんどん現実化していく。

私は決して無能なんかじゃない!!

私は私の力で日本の代表候補生になった!!

代表候補生の中でも国家代表に近い、専用機枠に入った!!

この成績は無能者では決してたどり着けない領域だ!!

お姉ちゃん‥‥いや、更識楯無!!

せいぜい今年一杯、IS学園最強の座に胡坐でもかいていろ!!

来年は専用機を持った、私、更識簪が貴女を最強の座から引きずり降ろしてやる!!

私は私の力で貴女に私が無能者ではない事を証明してやる!!

本音の話を聞いて、またも私の中で目指すモノが一つ増えたが、構わない。

あの人をギャフンと言わせられるなら、どんな苦労だって、どんな努力だってしてみせる!!

 

姉と虚さんが生徒会に入ってから、週末姉さんが実家に帰って来る回数が減った。

生徒会の仕事が忙しい様だ。

それでも機会を見て実家に帰って来る。

時には虚さんに生徒会の仕事を押し付ける事もあるらしい。

虚さんが本音に愚痴ってその本音が私に愚痴ってくる。

まったく、あの姉は一体何のために生徒会長になったんだ?

どうせ、最強の座を手に入れて私との格の差を分からせようとしているだけなのだろうけど‥‥

それでも、姉の行動にはやはり不審を感じる。

一年前、ロシアで殺戮の銀翼と戦った後の姉は変わった。

IS学園に入ってからも夏休み前は週末には必ず帰って来ては、離れで過ごしている。

夏休み中なんか、家の行事以外はずっと離れで過ごしていた。

更識家の当主である姉の命令で、あの離れには姉以外誰も近づけない。

前の当主である父でさえ、あの離れには近づけない。

姉はあの離れに一体何の用があるのだろうか?

あの離れには何があるのだろうか?

少なくとも姉が妊娠をしていない事から男と密会しているとは思えない。

一体何があるのだろうか?

離れという限られたスペースの中ではやる事も限られている筈。

スペースの関係上、IS関係とも思えない。

忙しい生徒会業務の合間を縫って、虚さんに生徒会の仕事を押し付けてまで、一体姉はあの離れで何をしているのだろうか?

どうしても気になった私は、ある日姉が実家に帰って来た日、私は姉の後をこっそりつけた。

姉は現更識家の当主、後を付けるにしても細心の注意が必要だ。

そして、何とか姉に気づかれる事無く、後をつける事に成功し、姉は離れの中に入って行く。

私は少し時間を置いて、離れに近づいた。

離れの窓は全てカーテンが閉められていたが、ほんの僅かに隙間のある箇所を見つけて、私は恐る恐る離れの中を覗いた。

すると、其処では‥‥

 

「うっ‥‥イヴちゃん‥‥今日は‥‥いつもより、積極的ね‥‥んぅ‥‥」

 

「たっちゃんのおっぱい‥久しぶりだから‥‥んっ‥‥んっ‥‥んぅ‥‥」

 

「ごめんね、生徒会の仕事が‥‥大変‥‥なのよ‥‥んっ‥‥」

 

姉が乳房をさらけ出し、そして銀髪の女の子が姉の乳房にまるで赤ん坊の様に口をつけていた。

銀髪の子に乳房を咥えさせ、彼女の髪を撫でる姉の顔は、お母さんと似た顔になっていた。

まさか、あの子は姉の子供!?

と思ったが、あの子、年齢は私と同じぐらいなので、姉の子供ではない。

髪の毛も青じゃなくて銀だし‥‥

それでもまさか、姉が離れでこんな事をしていたなんて‥‥。

それにさっきの姉の会話からこの様な行為は今日が初めてではない事が窺える。

この様な事、決して他人には言えない筈だ。

姉がこの離れに人を近づけない理由が分かった気がした。

私は姉の弱みを握ったと思ったが、この離れ近づいてはいけないと命令をしたのは、私の姉の更識楯無ではない、更識家の当主、更識楯無である。

私の行為は当主の命令に背いた反逆行為‥‥

このことを知れば、姉は例え妹の私であっても処罰を下すだろう。

姉とあの銀髪の子に気づかれる前に私はその場を後にした‥‥。


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