シルバーウィング   作:破壊神クルル

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12話

タッカーの呪縛から一夏を解放し、後は張本人であるタッカーをボコるのみとなった時、一夏はタッカーとのけりは自分がつけると言って何処かへと行ってしまう。

彼女の事が心配になった楯無は後を追った。

そして、彼女が見たのは額に白い羽根が突き刺さり、絶命しているタッカーの姿と自らの頸動脈に日本刀の刃を押し当てようとしている一夏の姿‥‥

 

(まさか、あの子、自殺を!?)

 

楯無は蒼流旋を瞬時に展開して一夏に近づいて彼女が手にしていた日本刀を弾き飛ばした。

 

「っ!?」

 

「させないわよ!!」

 

「どうして‥‥」

 

日本刀を弾き飛ばされて一夏は楯無を睨みつけ、

 

「えっ?」

 

「どうして邪魔をした!?」

 

自分の自殺の邪魔をした楯無に対して声を荒げる一夏。

 

「貴女こそ、何をしているのよ!?」

 

一方、楯無も一夏に声を荒げる。

 

「私は‥‥私は、もう、生きていちゃいけないんだよ‥‥」

 

顔を俯かせて先ほどとは打って変わって弱弱しい声を出す一夏。

 

「‥‥」

 

「私はこの手であまりにも多くの人の命を殺めすぎた‥‥それにもう、私は人間じゃない‥‥化け物になってしまった‥もう、たばちゃんに合わせる顔なんて‥‥だから‥‥だから、もう‥‥私は生きていちゃいけないんだよ!!」

 

タッカーの手によって洗脳されていたとはいえ、解放された時、自分が今まで何をして来たのかその光景がフラッシュバックして自分がこれまで何をして来たのかを見せつけられた。

これまで自分が殺して来た人の為に罪を償うのはもう、自らの命を絶つしか方法は無いと言う一夏。

 

「何をバカな事を言っているのよ!!」

 

楯無は一夏に反論する。

此処までボロボロになってまで一夏を助けにきたのに、その本人が自殺をしましたでは、自分は一体何をしに此処へ来たのか分からない。

それにタッカーの話を聞いてこれまで一夏がどれだけ酷い目に遭ってきたのかを知った。

此処で自殺なんてされたら、彼女の人生は一体何だった?

汚い大人達に人生を滅茶苦茶にされたまま死ぬなんてあまりにも不憫すぎる。

 

「貴女は、生きなさい!!貴女が殺した人達の事に対して少しでもすまないと思っているなら、尚更死ぬなんて許さないわよ!!」

 

(それにこの子が殺してきた連中‥‥調べて見たら、アイツらも本来は裁かれなければならないことを結構やっていたし‥‥)

 

楯無はこれで一夏が殺してきた女性権利団体の連中は本来ならば、裁判所で法によって裁かれなければならない罪を数多く行ってきた。

だが、女性権利団体に所属している。

女性だからという理由で世間には表立つこともなく、闇へと葬られ、一般人は知らされることもなく、犯罪を行った張本人達は裁かれることなく、新たな犯罪に手を染めて権力と金を貪っていた。

 

「‥‥」

 

「それに貴女が死んだら、篠ノ之博士はどうするの!?あの人もボロボロになってまで貴女の事を助けようとしたのよ!!貴女は博士の好意を無駄にするつもりなの!?」

 

「うぅ~‥‥たば‥ちゃん‥‥私は‥‥私は‥‥生きていても‥‥いいの‥‥?もう、人間じゃないのに‥‥化け物に‥‥なっちゃったのに‥‥」

 

楯無の言葉に一夏の目からは涙が流れてくる。

 

「いいのよ、貴女は生きて‥篠ノ之博士だってきっとそう願っている筈よ‥それに博士なら、きっと貴女の身体も元に戻してくれる筈よ‥‥さあ、行きましょう」

 

楯無の誘いに一夏は小さく頷く。

 

「あっ、ただその前に‥‥」

 

楯無は一夏を束の下へ連れて行く前にタッカーの研究室にあるコンピューターを物理的に破壊した。

コンピューターの中には彼のこれまでの研究データが残っている筈だ。

そのデータが外部へ流出すれば、きっと第二、第三のタッカーを生み出し、一夏の様な子を生み出してしまう。

そんな不幸な連鎖は、今すぐに此処で断ち切らなければならない。

コンピューターのデータ同様、研究室に保存されていたバハムートも全て破壊した。

研究室とコンピューターを徹底的に破壊した後、タッカーの死体のすぐ傍に落ちていたバックを開けると、其処には、バハムートの生成方法、イヴの情報とデータが記録された書類や記憶媒体があり、楯無はそれらも全て廃棄した。

タッカーの研究成果全てを破壊した後、楯無は一夏を束の下へと連れて行った。

そして、束と再会すると、

 

「いっちゃん‥‥」

 

束は両手を広げて一夏を受け止めようとする。

 

「たばちゃん‥‥」

 

ようやく、束と一夏は再会する事が出来た。

だが、一夏は束を抱きしめる事に躊躇した。

自分の手は血に染まり切っている。

そんな血で汚れた手で友達を抱いてもいいのか?

それに自分はその友達でさえ、何の躊躇もなく刺した。

にも関わらず、束は一夏を受け入れようとしている。

その行為が一夏を戸惑わせる。

すると、待ちきれなかった束が一夏へと抱きついた。

 

「いっちゃん!!」

 

本来ならば、束の方が一夏にまた刺されるのではないかと躊躇する筈だ。

しかし、彼女は一夏が元に戻ったのだと確信し、自ら一夏へと抱きついたのだ。

 

「‥‥たばちゃん‥‥たばちゃん!!」

 

束に抱きつかれて感極まったのか、一夏も束を抱きしめる。

 

「おかえり‥いっちゃん‥‥」

 

「うん‥ただいま‥‥たばちゃん‥‥」

 

束と一夏‥再会し抱き合う二人の姿に楯無ももらい泣きをした。

そして、一夏の健康診断をするために束は一夏を自分の研究所へと連れて行くことにした。

タッカーがここからの脱出用に使用するために用意していたヘリの座席には楯無、クロエ、一夏が乗り、束がヘリを操縦する。

 

「さて、それじゃあ、研究所へレッツゴー」

 

束の操縦の下、ヘリは上空へと上がる。

 

「束様」

 

そんな中、クロエが束に声をかける。

 

「なに?くーちゃん」

 

「この方も研究所へ連れて行ってもよろしいのですか?」

 

クロエは楯無も研究所へ連れて行ってもいいのかと尋ねる。

 

「あっ、それもそうだね。おい、負け犬、適当なところで、降りるんだ」

 

束は楯無に降りろと言う。

 

「ちょっ、ひどくないですか!?」

 

楯無は自分の扱いがあまりにも酷くないかと抗議する。

 

「だって、お前、ロシアの国家代表だろう?お前の口から私の研究所の場所がロシアにバレたら、また引っ越さないといけないじゃん」

 

束は楯無の口から研究所の場所がバレることを嫌悪した。

引っ越しが面倒という理由から‥‥

 

「そ、そんなことしません!!」

 

「本当かな?」

 

ジト目で楯無を見る束。

その目は完全に楯無の事を疑っている。

 

「一緒に戦った仲間を売るような人として最低な行為は暗部の人間の恥辱ですからね」

 

「えっ?私達、仲間だったの?」

 

楯無の仲間発言に驚く束。

 

「えっ?違うんですか?」

 

そんな束の態度に驚く楯無。

 

「てっきり付属品かと思っていた」

 

「‥‥Σ(゚д゚lll)ガーン」

 

あまりのショックに真っ白になる楯無。

 

「たばちゃん、この人も連れて行ってあげて」

 

そんな楯無を援護したのが一夏であった。

 

「いっちゃん!?」

 

まさかの一夏の言動に驚く束。

 

「この人は信頼できる人だと思う」

 

楯無とはまだそこまで深い付き合いでないが、自分の自殺を止めた時の楯無とのやり取りで彼女は信頼できると判断したのだ。

 

「むぅ~いっちゃんがそう言うなら‥‥おい、負け犬、いっちゃんの優しさに感謝しろよな」

 

「ありがとう!!一夏ちゃん!!」

 

楯無は一夏に抱きつき、礼を述べる。

 

「おい、私のいっちゃんにあまりベタベタするな!!」

 

ヘリの中はカオスな状態となった。

 

 

そして、やってきた束の秘密研究所。

束は一夏の健康状態をチェックしようとするが、その前に一夏は自分が束につけた背中の治療をしようと言うが、束はあえてそれを拒否した。

背中の傷さえも一夏との友情の証でもあり、自分が一夏の為に戦った証明だからと言う理由で束は背中の傷を残すことにした。

そして、束は一夏の健康診断を始めた。

まず、一夏の投与された戦闘用ナノマシン『バハムート』を知るために、一夏から血液を少し取って解析機にかけ、その間に機械で一夏の体を調べる。

そんな中、

 

「こ、これはっ!?」

 

束が声を上げる。

 

「どうかしたの?」

 

一夏も楯無も固唾を飲んで体に何か異常があったのかと思っていると、

 

「いっちゃん‥‥見ない間に随分とおっぱいが大きくなったね!!」

 

「‥‥」

 

束は一夏の成長に感動し、当の本人はしらけて、楯無は一夏の胸の大きさが気になるのか、束の横からモニターを見て、

 

「あら?ほんと、なかなかの大きさね‥‥お姉さんもしかして負けちゃうかも‥‥」

 

と束同様、一夏の胸に興味津々の様子だった。

 

「束様、一夏様の血液の解析が終わりました」

 

「おお、ありがとう、くーちゃん」

 

束がクロエから一夏の血液データを見ると、難しい顔をする。

 

「うーん‥‥こいつは‥‥『すごい』の一言でしか言い表せないね‥‥」

 

「どういう事ですか?」

 

楯無が首を傾げると、

 

「見てもらった方が早いね」

 

束は血液の流れをモニターに出しながら一夏と楯無に説明する。

それによると、一夏のナノマシンは血液に紛れているため見付けるのが困難でこのナノマシンは血液や体内の細胞と同じく使っても新しく生成されるため、その量は無尽蔵となる。

そして、これまでの戦闘からこのナノマシンは体内で一夏自らが望む性質を持つナノマシンを製作・操作することが出来、暗殺者、殺戮の銀翼はその能力を使った身体変化による攻撃を行なって来たのではないかと言う。

もちろん、今の一夏でもそれは使用可能だ。

一夏の想像力次第で様々なものに自身の肉体を変身させることが出来るのではないかと言う。

また、楯無やクロエを治療したように髪を介してナノマシンを別の何かに送ることも可能。

もしかしたら、ISのコアにもアクセスできるのではないかと言う。

髪の毛が本来の黒から銀に変わったのもナノマシンの影響だと考えられる。

束の説明を聞き一夏も楯無も唖然とする。

 

一夏はあまりにも強大すぎる力なので、こんな力はさっさと消してしまった方がいいと思い、束に早く元に戻してくれと頼む。

束はちょっともったいない気もするが、友達がそういうのであれば仕方ないと、楯無と一夏に、

 

「わかった。じゃあ、あのマッドの研究資料見せて」

 

と、タッカーの研究資料を見せてくれと言う。

 

「「えっ?」」

 

「いくら、私でもいっちゃんの体の中のナノマシンを見ただけじゃ、分からないよ。あのマッドの資料を見て、そこからいっちゃんのナノマシンの破壊方法を探らないと」

 

「「‥‥」」

 

束のこの言葉を聞き、楯無は汗が流れる。

 

「ん?どうしたの?」

 

「そ、それが‥‥」

 

楯無は、束にタッカーの研究室とコンピューターを完全に破壊して研究データは残っていないと事を伝える。

 

「‥‥おい、負け犬」

 

すると、束はタッカーに向けた時と同じ冷たい声で楯無に語りかける。

 

「は、はい‥‥」

 

「ちょっと‥‥頭冷やそうか?」

 

逃げようとする楯無の体に一夏の髪の毛が絡まった。

 

「い、一夏ちゃん!?」

 

「貴女が、たばちゃんなら元に戻せるって言ったから、貴女を信用したのに‥‥裏切ったな、私の気持ちを裏切ったな。あの人(織斑千冬)と同じで裏切ったんだ!!」

 

「ちょっ、一夏ちゃん‥‥」

 

涙を浮かべながら怒る一夏とブラックな笑みを浮かべる束が楯無に迫る。

そして‥‥

 

 

~しばらくお待ちください~

 

 

ピクピク‥‥ピクピク‥‥

 

そこには楯無だったものが、モザイクをかけるような状態でピクピクと痙攣して倒れていた。

 

「でも、いっちゃん、私はいっちゃんがどんな姿になっても死んでほしくはない。それだけは絶対に忘れないで」

 

「たばちゃん‥‥」

 

床でピクピク痙攣して倒れている楯無を放置して束は一夏が自殺未遂をしたことを知り、一夏にもう自殺なんて馬鹿なことはしないでと頼む。

 

「いっちゃんをもう、元に戻すのは無理かもしれない。でも、いっちゃんはいっちゃんなんだからね」

 

「うん‥‥ありがとう‥‥たばちゃん‥‥」

 

「いっちゃん‥‥」

 

「たばちゃん‥‥」

 

束と一夏が見つめあっていると、

 

「あ、あの‥‥」

 

モザイク状態から復活した楯無が二人に声をかける。

 

「ちっ、これだから、負け犬は‥‥犬の分際で空気も読めないのか?」

 

束が今しましそうに呟く。

 

「ま、まぁまぁ‥それで?」

 

一夏が束を宥めて楯無に何の用だと尋ねる。

 

「あっ、うん‥一夏ちゃんはこれからどうするつもり?」

 

「えっ?」

 

楯無は一夏の今後について尋ねる。

一夏は既に人間ではなく、ナノマシンを打ち込まれた生物兵器状態。

元の人間に戻れるかは未定。

タッカーに洗脳されていたとはいえ、殺戮の銀翼としてかなりの人を葬ってきた凄腕の暗殺者‥‥

正体がばれていないとは言え、不安定な立場だ。

 

「‥‥織斑の家に戻る?」

 

束が織斑家に戻るかと聞いてみると、

 

「嫌だ!!」

 

一夏は即答で拒否した。

 

「家に戻ればまたあの地獄の様な日々がまっている‥‥もうあんな生活耐えられない!!」

 

束と楯無は知らないが、一夏は弟の百秋によって無理矢理性的関係を強いられていた。

姉には毎日のように罵倒され続け、学校ではいじめられて‥‥

一夏にとってそれはまさに生き地獄であった。

史上最強の生物兵器となった今でもあの時の恐怖、悔しさは忘れられない。

そんな生活に戻りたいかと聞かれたら、拒否をするのも当然である。

 

「うーん、私もいっちゃんと一緒に居たいけど、私は世界に指名手配されているし‥‥それにいっちゃんには静かな環境で静養してもらいたいかな?」

 

束は世界中の政府や企業から指名手配を受けており、そんな逃亡生活に一夏をつき合せたくなく、また今までの境遇から、静かに安全な環境で生活させてやりたいと言う思いがあった。

すると、

 

「だったら、私のところに来ない?」

 

楯無が一夏を引き取るという。

 

「負け犬の所に?」

 

またもやジト目で楯無を見る束。

 

「一夏ちゃんの事に関しては私にも責任があるし、私の家なら、それなりに一夏ちゃんを守れるわよ。どう?」

 

楯無の提案に一夏自身がどうしようかと迷っていると、

 

「‥‥おい、負け犬」

 

束が楯無に声をかける。

 

「だから、その呼び名は止めて‥‥」

 

「約束しろ‥‥」

 

束は楯無の言葉を遮って楯無に言い放つ。

束も更識の家の事は事前に調べてある。

確かに今の一夏を保護してもらうには更識家が一番なのかもしれない。

だからこそ、大事な友達を預けるのだ。

友達の事はちゃんと守ってもらわなければならない。

 

「どんなことがあってもいっちゃんを守る‥どんなことがあってもいっちゃんの力を利用しない‥‥この二つの約束が守れなかったら、お前の家族全員‥‥殺すぞ‥‥勿論お前もな‥‥」

 

束の真剣な空気に楯無も

 

「‥‥約束します。篠ノ之束博士」

 

更識家、17代目当主、更識楯無として束に返答した。

こうして一夏は楯無の実家、更識家で世話になることになった。

住む場所が決まった後、一夏は、

 

「ねぇ、たばちゃん」

 

「ん?なに?いっちゃん‥‥」

 

「用意してもらいたいモノがいくつかあるんだけど‥‥」

 

「なにかな?いっちゃんの頼みならなんでも聞いてあげるよ」

 

束の言葉を聞き、一夏は束に用意してもらいたいものを言った。

 

「‥‥でも、いいの?それは、いっちゃんのお父さんとの絆もなかったことになるんだよ?」

 

「私とお父様の絆は名前だけじゃない‥‥私自身がお父様との絆だから‥‥」

 

「そう‥いっちゃんがそう言うなら‥‥でも、よりによってこの名前を名乗るのは‥‥」

 

「その名前は私の罪‥‥私が殺してきた人たちへの贖罪‥‥私はその名前と共に十字架を背負って生きていくつもりだよ」

 

「‥‥わかったよ、いっちゃん」

 

織斑一夏はこの日、織斑一夏と言う名前を捨てた‥‥。

そして、束が用意した書類の数々の名前の欄には、

 

イヴ・ノイシュヴァンシュタイン・アインス

 

と書かれていた‥‥。


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