シルバーウィング   作:破壊神クルル

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9話

イヴの手によって拉致された束と楯無。

拷問係を仕留め、イヴを救う為、タッカーの研究所をISで駆け抜け、武装した研究員や警備兵をちぎっては投げ、ちぎっては投げて快進撃を進めていた中、タッカーが生み出したイヴとは、違う生物兵器が二人の前に立ちはだかった。

全身をヘドロの様なモノに包まれたその生物兵器は体を斬ってもすぐに再生してしまう。

しかも両手の掌と口からは中国が開発中のIS装備の衝撃砲を撃つことが可能となっていた。

その発射速度は物凄く速く、衝撃砲を機関銃の如く発射している為、下手に近づけない。

 

(どうする、どうすれば‥‥)

 

束は親指の爪を噛んでヘドロ生物兵器の攻略法を考える。

その時、束の頬にピチャっと冷たい液体の滴が落ちてきた。

 

「つめたっ!!なに?」

 

束が辺りを見回すと、その滴は束の背後にあるタンクから漏れていた。

彼女がヘドロ生物兵器の攻撃で吹き飛ばされた時にぶつかった拍子でタンクに小さな穴が開き、そこから漏れていた。

 

「これって‥‥」

 

束はタンクに書かれていた化学式を見て、

 

「っ!?そうだ、コイツを使えば‥‥」

 

束はタンクの中身を見て、あのヘドロ生物兵器を倒す手段を思いついた。

そして、

 

「おい、青髪‥‥」

 

プライベートチャンネルで楯無に自分の作戦を伝えた。

 

「な、なるほど、それを使えば‥‥それで私はどうすれば?」

 

「お前は水蒸気爆発の準備をしろ、その間、私が時間を稼ぐ、水蒸気爆発をさせた後は、アイツをあのタンクにブチ当てるぞ」

 

「了解」

 

ガチャッ

 

「‥‥」

 

束は楯無に作戦を伝えた後、ライフルに通常弾ではなく、炸裂弾を装填し、楯無を狙っているヘドロ生物兵器に狙いを定める。

そして、引き金を引く。

束から放たれた炸裂弾はヘドロ生物兵器の腹に当たった。

当然、その炸裂弾もヘドロ生物兵器には分厚いヘドロの為、決定打にはならず、ヘドロの一部を傷つけるだけで、その傷もすぐに再生する。

そして、ヘドロ生物兵器は楯無から束へターゲットを変更し、口から衝撃波を撃つ。

 

「ほらほら、こっちだよ、ドロリー~悔しかったら当ててみな~」

 

束はヘドロ生物兵器を挑発する。

その挑発にムキになったヘドロ生物兵器はしつこく束を狙う。

その間に楯無は清き激情(クリア・パッション)の準備をする。

 

「篠ノ之博士!!準備が出来ました!!」

 

「よし、やっちゃって!!」

 

「はい」

 

楯無は再び清き激情(クリア・パッション)を発動する。

 

「ふん、無駄だと言うのに学ばない連中だ。この分ならイヴ、お前の出番は無いかもしれないぞ」

 

「‥‥」

 

監視カメラから送られてくる映像をモニター越しにタッカーは再び清き激情(クリア・パッション)を発動させ、ヘドロ生物兵器に攻撃を加える楯無の行動に呆れる。

そして、タッカーの傍にはイヴが控えており、光の宿らない赤紫色の目でモニターを見ていた。

 

ヘドロ生物兵器は楯無の清き激情(クリア・パッション)を食らい、炸裂弾以上のダメージを受けるが、体がまたもや再生をし始める。

 

「青髪行くぞ!!」

 

「はい!!」

 

だが、此処で束と楯無は瞬時加速、イグニッション・ブーストで再生行動をしているヘドロ生物兵器へと接近し、

 

「「くらえ!!」」

 

ヘドロ生物兵器をタンクの方へと蹴り飛ばす。

 

「□□□□□□□□□□□―――!!!!」

 

蹴り飛ばされたヘドロ生物兵器はタンクにブチ当たり、その衝撃でタンクは破損し、中の液体がヘドロ生物兵器に降りかかる。

 

「□□□□□□□□□□□―――!!!!」

 

タンクの中の液体を浴び、ヘドロ生物兵器はもがき始める。

だが、もがいているヘドロ生物兵器の身体が固まり始めた。

タンクの中身は大量の液体窒素で、ヘドロ生物兵器の周りのヘドロが液体窒素で凍り始めたのだ。

 

「地獄に‥‥」

 

「墜ちろ‥‥」

 

「「ベイビ!!」」

 

束と楯無はそれぞれの武器を固まったヘドロ生物兵器に向け、引き金を引いた。

 

「□□□□□□□□□□□―――!!!!」

 

蒼流旋に装備されているガトリングガン、アサルトライフルに装填された炸裂弾が固まったヘドロ生物兵器の体を粉々にした。

さすがのヘドロ生物兵器も体を粉々にされては再生不能の様で、ヘドロ生物兵器の破片はシュッ~と言う音を立ててまるで氷が解ける様に溶けていき、最終的には何も残らず消えた。

 

「ば、バカな!?」

 

まさか、液体窒素を使ってヘドロ生物兵器を倒すとは予想外だったのか、タッカーは思わず声をだして、驚愕する。

ヘドロ生物兵器を倒した束と楯無は、監視カメラに向かって、

 

「今からそっちへ行く!!」

 

「首を洗って待っていろ!!」

 

「「タッカー!!」」

 

殺気を含んだ不敵な笑みを浮かべてタッカーに宣言した。

そして、その監視カメラを破壊した。

 

「おのれ~!!おのれ~!!おのれ~!!あのアバズレ共が!!実験動物(予定)と狩られる害虫の分際で~!!」

 

タッカーは顔を真っ赤にして、これまでにない程の怒りを覚えた。

 

「イヴ!!手加減はいらん、アイツらに最大限の絶望と恐怖を味合わせてやれ!!」

 

「はい‥‥お父様‥‥」

 

タッカーはコンピューター制御で隔壁や防火シャッターを操作して束と楯無をイヴが待つ闘技場へと誘いだした。

当然、束も楯無も自分達が誘導されている事に気づいている。

だが、この先にイヴが待っているとなると、タッカーの誘いに乗らない訳にはいかなかった。

やがて、二人は闘技場の様な場所へと出た。

二人が闘技場に入ると同時に入って来た入り口が堅い鉄の扉で塞がれた。

しかし、二人はそんな事を気にせず、ただジッと眼前を見ていた。

 

「‥‥」

 

「‥‥」

 

「‥‥」

 

二人の眼前にはイヴが相変わらずの無表情のまま立っていた。

そして、硬化テクタイト製の防弾ガラスで出来た観客席の向こう側にはタッカーが不敵な笑みを浮かべて立っていた。

 

「ようこそ、お二人さん‥‥まさか、此処まで来るとは予想外だったよ」

 

「ショウ‥‥タッカー‥‥」

 

「アイツ‥‥」

 

タッカーの姿を見て束と楯無は顔を怒りで歪める。

 

「私を倒したくば、まずは私の最高傑作の作品であるイヴを倒してからでないと、私は倒せんぞ、ハハハハハ‥‥」

 

タッカーは自分が負ける事など無いと言わんばかりに余裕の態度である。

そんなタッカーに、束は、

 

「お前をぶちのめす前に聞きたい事がある」

 

「ん?なんだね?冥土の土産に答えてやろうじゃないか」

 

「イヴ・ノイシュヴァンシュタイン・アインス‥‥本当は織斑一夏って名前なんじゃないか?」

 

「ふん、やはり、君のような勘のいいガキは嫌いだよ」

 

(やっぱり、あの子は‥‥)

 

束とタッカーのやりとりを見て楯無はイヴ=一夏だと言っていた束の言葉が事実だと知った。

そしてタッカーは束と楯無に一夏がイヴになった経緯を教えた。

第二回モンド・グロッソの時、誘拐された一夏が姉に見捨てられ、自分の下に売られて来た事

尚その際、誘拐したテロリスト達の手によって強姦された後と言う事

束と楯無は一夏が強姦された事実を知り、驚愕すると同時に一夏を強姦したテロリスト達に殺意を覚えた。

 

「こうして私の最高傑作、イヴが生まれた訳だ!!ハハハハハ‥‥」

 

「この子はお前の作品じゃない!!私の大事な友達だ!!」

 

「だったら、取り戻してみるがいい‥‥天災科学者、篠ノ之束!!イヴ、まずはそいつを血祭りにしてやれ!!」

 

「‥‥はい。お父様」

 

イヴは手に倭刀を出現させ、続いて背中に天使の翼を出すと、束めがけて斬りかかって来た。

 

「くっ、速い‥‥」

 

束はイヴの切込みを紙一重で躱す。

 

「ダメです!!篠ノ之博士!!紙一重で躱しちゃ!!」

 

イヴとの戦闘経験がある楯無はイヴの攻撃を紙一重で躱す危険性を指摘するが、遅かった。

 

ドカッ!!

 

「えっ?‥‥グハッ!!」

 

躱したと思った束の腹部に衝撃が走る。

イヴは束に切込みが躱されたと同時に髪の毛を拳状にして束の腹部を殴りつけたのだ。

殴りつけられた束はそのまま壁に激突した。

 

「篠ノ之博士!!」

 

「うっ‥‥ぐっ‥‥」

 

壁に叩き付けられた束にイヴは左片手平突きの姿勢をとる。

 

「お姉さんを忘れて貰っちゃ困るわよ!!」

 

楯無は蒼流旋に纏った水をドリルの様な螺旋状にしてその水を飛ばす。

イヴは翼をはためかせて上へと逃れる。

 

「逃がさないわよ!!」

 

上に跳んだイヴを楯無は蒼流旋に装備されたガトリングガンで狙い撃つ。

すると、イヴの背中に生えている翼から羽根が降り注ぎ、楯無のガトリングガンの弾を相殺する。

楯無が蒼流旋でイヴを銃撃している隙に束がイグニッション・ブーストでイヴの至近距離に接近し、アサルトライフルのオプションについているグレネードランチャーでイヴを攻撃する。

 

「っ!?」

 

ドゴーン!!

 

「やった!!」

 

「この至近距離なら少しはダメージを‥‥」

 

しかし‥‥

爆煙が晴れるとイヴは無傷だった。

 

「な、なに!?」

 

倭刀を持っていない方の手にはいつの間にか盾を装備しており、イヴはこの盾で束のグレネードランチャーを防いだ。

 

「グハッ!!」

 

そして、束を再び髪の毛パンチで殴り飛ばした。

束は、今度は地面へ叩きつけられた。

 

(くっ、頭がクラクラする‥‥やっぱりまだあの時の薬が抜けていないせいか‥‥)

 

「ああ、一つ言い忘れていた‥イヴがナノマシンを使って出現させる事が出来るのは武器だけじゃない‥‥盾の様な防具も出現可能なのだよ」

 

タッカーが追加説明を二人にする。

 

「くっ‥‥」

 

束が苦虫を噛み潰したように悔しそうに顔を歪める。

 

「つ、強い‥‥あの織斑千冬なんかより‥‥」

 

イヴの強さを改めて実感した楯無。

彼女はもしかしたら、あのブリュンヒルデこと織斑千冬よりも強い存在なのではないかと思った。

 

「っ!?」

 

イヴは地面に倒れている束を楯無の方へと蹴り飛ばす。

蹴り飛ばされた束を両手で受け止める楯無。

そこをイヴが再び強襲し、二人を髪の毛パンチで殴り飛ばす。

 

「ハハハハハ‥‥いいぞ!!イヴ!!そのまま奴らをじわじわといたぶり締め上げてやれ!!ハハハハハ‥‥」

 

観戦席ではタッカーがご機嫌な様子でイヴの奮闘ぶりを称える。

イヴはタッカーの言葉通り、わざと致命傷を避け、まるで猫が鼠をなぶる様に二人に苦痛を与える。

イヴの髪の毛パンチや拳、蹴りはどういう訳かISの絶対防御機能が働かず、二人は確実にダメージを受けていた。

 

「ぐっ‥‥」

 

「ゴフッ‥‥」

 

ボロボロになっている二人であるが、目はまだ死んでおらず、彼女達は諦めては居なかった。

イヴ(一夏)を取り戻して、タッカーをボコる。

それだけが彼女達の原動力となっていた。

 

(イグニッション・ブーストでも多分、いっちゃんの動体視力では探知される‥‥いっちゃんの不意を突くにはそれ以上のスピードを出さなければ‥‥となると‥‥)

 

「おい、青髪‥‥そのランスを貸せ‥‥それと‥‥」

 

「えっ?」

 

楯無は束の作戦を聞き、楯無は目を見開く。

 

「出来るだろう?それぐらい‥‥」

 

「で、出来ますけど‥‥」

 

「じゃあ、やれ」

 

「わ、わかりました‥‥」

 

束の作戦を聞き、楯無はアクア・クリスタルを展開し、それを霧状にする。

 

「‥‥いくよ、いっちゃん‥‥」

 

束は楯無から借りた蒼流旋を構える。

それを見たイヴは倭刀を消し、ロシアの時の様に蒼流旋を出現させ、迎え討とうとする。

 

「ふん、玉砕覚悟か?良いだろう‥イヴ、そろそろそいつを楽にしてやれ」

 

「‥‥はい」

 

タッカーはイヴに束をそろそろ殺せと命令する。

 

「‥‥いっちゃん‥勝負!!」

 

束はイグニッション・ブーストでイヴに接近する。

そして、イヴも翼をはためかせて束へと向かう。

二人の距離は徐々に縮まっていく‥‥

そんな中、束のラファール・リヴァイヴの至近距離で爆発が起きる。

だが、これはラファール・リヴァイヴが故障したわけではない。

楯無が事前に撒いた水のナノマシンを使用しての水蒸気爆発、清き激情(クリア・パッション)を起こしたのだ。

 

「うぁぁぁぁぁぁぁー!!」

 

清き激情(クリア・パッション)の爆風を受け、束のスピードが更に上がる。

 

「っ!?」

 

「なにっ!?」

 

この予想外の束の行動に流石のイヴもタッカーも驚いた。

イヴは攻撃でも防御でもなく、束の突きを回避する。

だが、あまりのスピードに完全に回避する事は出来なかった。

束の突きはイヴが首に装着している首輪を掠った。

 

パキッ

 

その衝撃でイヴの首輪に小さなヒビがはいる。

 

「グアッ」

 

束は捨て身同然の攻撃をしたせいで、着地に失敗し、地面に転がる様に着地する。

そして、纏っていたラファール・リヴァイヴも至近距離で清き激情(クリア・パッション)の爆風を受けエネルギー切れを起こして強制解除された。

 

「そ、そんな‥‥」

 

楯無は束の捨て身の攻撃が決まらなかった事に絶望した様な声を出す。

 

「は‥ハハハハハ‥‥残念だったな!!篠ノ之博士!!君の決死の攻撃も無駄だったようだな!!」

 

束の攻撃が外れた事にタッカーは声を上げて笑う。

 

「さあ、イヴ、今だ!!ソイツはもう、ISを纏っていない!!チャンスだ!!篠ノ之束の首を狩り取れ!!」

 

「させないわよ!!」

 

束を殺すわけにはいかないと、楯無がイヴに飛び掛かる。しかし、主兵装の蒼流旋は、先程束に貸してしまって今は手元にない。

再び清き激情(クリア・パッション)や沈む床(セックヴァベック)を発動させる時間もない。

そこで、楯無は最後の攻撃手段に打って出た。

楯無の手には水で出来た槍が握られていた。

これは、防御用に装甲表面を覆っているアクア・ナノマシンを一点に集中したミストルテインの槍で攻性成形することで強力な攻撃力とする一撃必殺の大技でもあるが、自らも大怪我を負いかねない諸刃の剣であった。

だが‥‥

 

「‥‥邪魔」

 

イヴは斬馬刀を出し、まるでバットで野球ボールを撃つように斬馬刀の刀身で楯無を打った。

 

「がっ‥‥」

 

ズサァァァァァー‥‥

 

斬馬刀の刀身で薙ぎ払われた楯無はゴムボールの様にバウンドをして地面に倒れる。

楯無を薙ぎ払ったイヴは悠々と倒れている束の下へと近づいていく。

 

「うぅ~‥‥い、いっちゃん‥‥」

 

束のすぐ目の前にはイヴがおり、冷たい目で束を見下ろしていた。

 

「い、いっちゃん‥‥私だよ!!‥‥たばちゃんだよ!!‥‥目を‥‥覚ましてよ‥‥!!」

 

嘆願する様にイヴに声をかける束。

そんな束の声も届いていないのかイヴは片腕を上げる。

 

「ふん、無駄だ!!篠ノ之束!!いくら貴様が声をかけようとも、もはやソイツは織斑一夏ではない!!私の最高傑作、イヴ・ノイシュヴァンシュタイン・アインスだ!!さあ、殺れ!!イヴ!!篠ノ之束を殺せ!!」

 

タッカーがイヴに束の抹殺命令を下す。

すると、上げられた腕は大きな包丁の様な刃物へと変わる。

あとは振り下ろすだけで、タッカーの命令は実行完了となる。

 

「‥‥しののの‥‥たばね‥‥死ね‥‥」

 

「い、いっちゃん‥‥!!」

 

束が身を起こしたその時、

 

カチャッ‥‥

 

束のポケットの中から銀の懐中時計がポロッと落ちる。

 

「っ!?」

 

イヴはその落ちた懐中時計を見て目を大きく見開いた‥‥。


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