シルバーウィング   作:破壊神クルル

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プロローグ
プロローグ


~side一夏~

 

人は生まれる環境を選べない

 

人は決して平等ではない

 

この二つは確かに正しい‥‥

でも‥‥

 

天は二物を与えず

 

これは嘘だ。

 

姉の織斑千冬と弟の織斑百秋は容姿、武術、学力‥生きていく内に必要で人がうらやむ才能を有していた。

私の家‥織斑家は、普通の家族とはちょっと異なる。

姉の千冬と弟の百秋と私は、半分血が繋がっていない。

所謂異母兄弟と言う奴だ。

私の父、織斑四季は共通の父であるが、私の母が父の愛人であった。

その母が亡くなり、私は織斑家の養子として引き取られた。

父の愛人の子である私は姉の千冬と弟の百秋とは折り合いが悪かった。

織斑家では居場所がない私だったが、父はそんな私を溺愛してくれた。

この家の中で唯一心を許せるのが父、四季だけだった。

 

家の外では近所に住む、篠ノ之束と言う変わり者の科学者?の人が私に対して親切だった。

束さん曰く、一目惚れだそうだ‥‥。

だが、束さんの妹の篠ノ之箒とはやはり、折り合いが悪く、よく私を目の仇にしてくる。

決して味方の多い環境じゃないけど、大好きな父が居て、面白い年上の友人?がいるこの環境を私は気に入っていた。

だが、そんな生活はある出来事で一変してしまった。

ある日、日本を射程距離内とするミサイルの配備されたすべての軍事基地のコンピュータが一斉にハッキングされ、2341発以上のミサイルが日本へ向けて発射される事件が起きた。

イージス艦や対ミサイル装備のバック3を用いても2341発以上のミサイル全てを撃ち落とすことは不可能だった。

政府もこの事態に国民に明確な指示を出すことも出来ず、日本中がパニックに陥った。

日本の誰もが絶望した中、奇跡が起きた。

以前、束さんが開発した宇宙開発のためのマルチフォーム・スーツ、インフィニット・ストラトス、通称IS‥その一機が日本に飛来するミサイル全てを撃ち落とした。

後に白騎士事件と呼ばれるその事件は、搭乗者不明のIS「白騎士」がミサイルを撃ち落とし、ミサイルから日本を救った事で、この事件以降、ISとその驚異的な戦闘能力に関心が高まることとなった。

この白騎士事件の後、ISは束さんが目指した宇宙開発のためのマルチフォーム・スーツではなく、核に次ぐ既存の兵器全てを上回る超兵器として認識されるようになった。

この認識からISは瞬く間に世界へ普及し、アラスカ条約と呼ばれる協定が結ばれ、モンド・グロッソと呼ばれる世界大会も開かれるようになった。

しかし、このISには重大な欠陥ともいうべきモノがあった。

それは、ISは女性にしか使用できないと言うモノであった。

この欠陥から世界は女尊男卑の様相に変わっていった。

ISを作ったとされる束さんは白騎士事件後すぐに姿を消し、連絡がつかなくなった。また束さんの実家である篠ノ之家は重要人保護プログラムの一環で家族がバラバラにされた。

箒の事は正直どうでもいいが、束さんが姿を消してしまった事は私にとって悲しい出来事であった。

普段はなれなれしく抱き付いてくる束さんが消え、もう二度と会えなくなるのかと思うと、もっと束さんと話しておけばよかった。

もっと束さんと一緒に居ればよかったと、後悔ばかりしていた。

 

世の中が女尊男卑の世界へと変わっていく中、政治家であった父は何とか女性のみによる行き過ぎた政治が行われない様にと奮闘した。

女性議員の中には女性だけが優遇される法律を施行しようとする議員もいたからだ。

犯罪を犯しても女性ならば、刑罰が軽くなったり、年金や生活保護のお金が女性ならば男性よりも多く貰える。

治療費や学費に関しても女性のみ無料。

反対に男性には刑罰が重くなったり、年金や生活保護の受給金額が今までよりもすくなくなったり、治療費や学費が女性を無料にした分男性は通常の二倍の金額を払わなければならないなど、差別的な法律が施行されようとしたが、父はそれらの法律が施行されるのは防いできた。

だが、そんな父の事を邪魔に思う連中が居た様だ。

ある日、父は公用車にて、いつものように仕事へと出かけって行った。

だが、その道中で父の乗る公用車が爆発し、父はその爆発に巻き込まれ、還らぬ人となった。

表向きは車のエンジントラブルとされたが、私は父を狙った暗殺だと思った。

父が死んだ後、織斑家の当主は姉の千冬となった。

女尊男卑の世界へと変わっていく中、親戚一同が千冬を当主に推したのだ。

姉を当主に押した理由が父の直系で一番上の子である事

世の中が女尊男卑の世界へと変わっていき、女性の立場が上になった事

そして姉はISの世界大会、第一回モンド・グロッソの優勝者である事が最大の理由であった。

だが、まだ成人していない子が大金持ちの家の管理など出来る訳がなかったので、親戚が後見人となったが、コレがいけなかった。

織斑家の財産は親戚連中が姉の知らぬ間にそのほとんどを使い込み、屋敷もいつの間にか他人の物となり、私達姉弟は屋敷から追い出され、父が密かに残していてくれたセカンドハウスへと移り住んだ。

父が私達姉弟に残した遺産と姉が第一回モンド・グロッソで優勝した優勝賞金で私達は細々と暮らしたが、姉も弟も父が死んだのも、屋敷を追い出され、上流階級から庶民に成り下がったのは全て私のセイだと決めつけ、私への風当たりをより一層強くした。

それでも私は姉や弟に追いつこうと必死に努力した。

だが、姉から返ってくる言葉は、

 

「そんなことも出来ないのか、情けない」

 

「もう少し百秋を見習え」

 

「お前は本当に私たちの家族なのか?お父様が養子として迎え入れたが、お前は本当にお父様の血を受け継いでいるのか?」

 

等の罵倒ばかりであった。

この時、私は既に家族に見捨てられていたのかもしれない。

姉と弟は、近所にはある事ない事を触れ回り、忽ち私は『織斑家の疫病神』と言われた。

そのせいで、学校では勿論いじめにあった。

その主犯格が弟の百秋であった。

例え、世界が女尊男卑の世界へと変わっても織斑千冬の弟と言うだけで、世間は男の百秋を特別視し、特別扱いをした。

元々、弟は頭もよく、人当たりも良いので、優等生の仮面と織斑千冬の弟と言う立場を最大限に活用しこの女尊男卑の世界を生き抜いていた。

反対に私は女でも、女尊男卑の世界でも、腫れ物扱いされた。

そして、中学生の初めての夏休みのある日‥‥

私は、弟の百秋とその男友達の手によって犯された‥‥。

夢見る少女と言う訳では無いが、私だって女の子だ。

自分の初めては愛する人に捧げたかった。

それなのに、自分の初めては弟と学校で自分の事を虐めて来るような輩に乙女の純潔を奪われてしまったのだ。

無理矢理犯された後、汚れた身体の私に男達は、

 

「いいか、もし、この事を学校に言ってみろ、その時は二度とお前の大事な所を使えなくしてやる」

 

「まぁ、お前の様な疫病神が言ったところで誰も信じちゃくれないだろうけどな」

 

「それもそうか」

 

『ハハハハハハ‥‥』

 

男達の下衆な笑い声が響く中、私は悔しさと強引に純潔を奪われた悲しさに涙を流した。

その後も百秋は事あるごとに私に無理矢理性的関係を求めてきた。

半分自分とは血が繋がっていないから、

他の女子に対してこのような強姦紛いの事をすれば、必ず問題になるが、私が相手の場合は何の問題もないから、

たったそれだけの理由で、私は弟の性処理具扱いにされたのだ‥‥。

姉の千冬も百秋の所業を知って見て見ぬふりをしたのだった‥‥。

 

 

そして、第二回モンド・グロッソが行われた年‥‥

中学生最初の春休みの時、私は無理矢理姉に連れられて第二回モンド・グロッソの開催地、ドイツへとやって来た。

そして、その大会の決勝戦当日、私と弟はホテルから会場に向かう途中、複数の男たちに誘拐された。

私と弟は別々の場所に監禁された。

誘拐犯の会話から私達姉弟を誘拐した目的はお金ではなく、姉に決勝戦を辞退させることが目的の様だ。

大会を中継しているテレビを見ながら、姉が決勝戦を辞退するのかを確認している誘拐犯達。

テレビの中に映し出されている会場では、いつまでも始まらない決勝戦に観客たちがざわついている。

ざわつく観客たちに司会者が、

 

「只今日本代表、織斑千冬選手のISに不具合が見つかり、現在メンテナンス中とのことです。皆様、もうしばらくお待ちください」

 

と、決勝戦がなかなか始まらない事を説明している。

姉が試合関係者に少しでも時間を伸ばす様に頼んだのだろう。

だが、果たして姉は私達姉弟を助けに来るだろうか?

私がそんな思いを抱いていると、突如、誘拐犯達のトランシーバーから慌てた声が響いた。

 

「織斑千冬が、軍の連中を率いてこっちに来た!!」

 

「こっちはもうダメだ!!とても防ぎきれない‥‥ぐあぁぁぁー!!」

 

どうやら、姉は軍隊と共に弟を救出したようだ。

誘拐犯の別動隊はその無線を最後にこっちに連絡を入れてくることはなかった。

別動隊が潰された事で犯人達にも動揺が広がる。

弟を助けたのだから、此方にも姉、もしくは軍が来るのではないか?と言う不安だ。

 

「ど、どうする?」

 

「だ、大丈夫だ。こっちには地下室がある。なにより、人質もいるんだ」

 

「おい、急いで地下室に行くぞ」

 

こうして私は誘拐犯と共に地下室へと連れられていった。

誘拐犯達は軍、そして姉の襲撃がいつ来るのかを緊張した面持ちで待ち構えていた。

しかし、何時まで待っても軍がこの監禁場所に襲撃を仕掛けてくる気配はない。

そんな中、携帯テレビでモンド・グロッソの様子を確認していた誘拐犯の一人が声を上げる。

 

「おい、コレを見ろ!!」

 

誘拐犯達がテレビの画面を確認すると、其処には決勝戦に出ている姉の姿があった。

 

「アイツ、弟だけを助けて妹を見捨てたのか!?」

 

姉の行動に誘拐犯達でさえ驚いていた。

それと同時に私の中に絶望、怒り、悲しみなど負の感情が渦巻いた。

そして、決勝戦の結果は姉の圧勝‥‥姉は二大会連続で優勝しブリュンヒルデの称号の防衛に成功した。

試合が終わり、記者のインタビューで、

 

「大会連覇おめでとうございます」

 

「ありがとうございます」

 

「今回の連覇を誰に伝えたいですか?」

 

「それは勿論、私の唯一の家族である弟‥百秋にです」

 

姉は今、唯一の家族は弟と言った。

それはつまり、私の存在など無かった事にされたのだ‥‥。

 

「まさか、あのブリュンヒルデ様が身内を切り捨てるとはな」

 

「自分の栄光を守るために身内を切るか、いやな世の中だねぇ~」

 

「それとも現地調査の情報通り、『疫病神は家族として認めていない』のか?」

 

その言葉を聞いて私はビクッと体を震わせる。

 

「お嬢ちゃん、君には同情するよ。まぁ、誘拐した我々が言うことじゃないがね」

 

「そして申し訳ないが、君には死んでもらう」

 

ゴリッと音をさせ私の額に銃口を押し当てる誘拐犯。

死の恐怖、そして姉から見捨てられた怒りで私は焦点の定まらない瞳で誘拐犯を見上げる。

 

「では、さらばだ‥‥織斑一夏‥‥」

 

誘拐犯が銃の引き金に指をゆっくりかけた‥‥。


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