(旧)ユグドラシルのNPCに転生しました。   作:政田正彦

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モモンガ様視点からみたエレティカ。
モモンガ様がエレティカをどう思っているのかという話。


【番外編】モモンガ様から見たエレティカ(1/?)

 「ううむ……。」

 

 ナザリックの王であり、アインズ・ウール・ゴウンのまとめ役、全ての頂点に君臨するオーバーロード、モモンガ。

 

 彼は今、起きないはずの頭痛に襲われ頭を抱えそうになるほど思い悩んで、迷っていた。

 

 というのも、彼を悩ませる存在など一つしかない。

 

 

 ナザリックで自分に忠誠を誓ってくれているNPCである彼らに、悩まされていた。

 

 

 彼はリアルでは冴えないサラリーマンでしかなかった。

 だが、ナザリックの王として異世界に転移した今、威厳を持った態度で、支配者たる振る舞いをしなければならないといった状況にあるのだが、そのNPCがまた際物揃いで扱いに非常に困るのである。

 

 まずその代表といってもいいのが、NPCでも最高位である階層守護者、その階層守護者の更にまとめ役、守護者統括という役目を与えられたNPC、アルベドだ。

 

 

 彼女はモモンガがユグドラシルの最期の時間を過ごす時に、ペロロンチーノ、ぶくぶく茶釜と久々に会った事で舞い上がり、まぁ、言ってみればテンションがおかしくなっていたのである。

 

 そう言えば言い訳に聞こえるかもしれない、実際、彼がした事実は揺るがない訳であって、アルベドの「そうあるべき」という思考の奥深く、最後の一行には、「モモンガを愛している」と確かに記されていた。

 

 

 それがまさか異世界転移をして、そのままモモンガ様大好きサキュバスになってしまうだなんて誰が想像した?

 

 とにかく、彼女の前では彼は下手なボロが出せない。

 

 彼はそう考えていた。

 ……ちなみに一緒に飛ばされた友人たちには「あんな美人とあんな事やこんな事ができるチャンスじゃないですか!」とか「モモンガおにいちゃん、せきにん、とってよね(ロリ声)」とかネタにされて終わるのだが。

 

 

 ……それと、アルベドとは別に、困らされる、という訳ではないのだが、扱いに困るというか、むしろ彼女が居たおかげで大分助かったのだが、何故彼女は他のNPCと違う行動を取るのか?と考えていたNPCがいる。

 

 

 第一、第二、第三階層守護者、エレティカ=ブラッドフォールンだ。

 

 

 彼女はアインズ・ウール・ゴウンがまだ最盛期に差し掛かる前から存在するNPCで、唯一、「ナザリックの外部で生まれたNPC」である。

 

 その経緯は、あれは偶然だったのか、それとも奇跡だったのか、だれかの思惑が働いたのか分からないが、とにかく突然の事だった。

 

 私達(モモンガ、たっち、ペロロンチーノ)はその時、久々に初心者の街、言わば、このゲームの中では珍しい、安全圏でイベントが開催されるということで他にやることもなかったので見に行った所、やはりというかなんというか、イベント自体はすぐに終わってしまい、暇をしていた。

 

 そこで見つけたのが彼女である。

 

 初めはやけにこっちを見てくるヴァンパイアの女性が居るなと思った。

 

 その後キョロキョロと辺りを見回して居たので、ひょっとしたらなにか困った事があったのかも、困っているのなら助けるのは当たり前、という事で、ひとまず話しかける事にした結果、なんとNPCだったのだ。

 

 ここだけならまだいい。

 彼女はランダムに現れる隠しNPCだったんだろう。

 今回……あるいは別のイベントで使用される予定だったキャラクターだったが、何らかの原因でボツキャラになり、しかし作ってしまったものをそのまま捨てるのも勿体無いということで、こういう処置を取ったのではないか、というのがここまでの見解だった。

 

 だが、その後ペロロンチーノが合流し、彼女に一目惚れ(?)

 あぁ、NPCじゃなければ、絶対に仲間に誘ったのになぁと残念そうにしながら、仕方ないとその場を後にしようとしたところで、なんと、NPCである彼女がペロロンチーノを引き止めたのだ。

 

 どうなってるんだコレ?とそのNPCをしげしげ見ているとたっちさんが驚きの声を上げてNPCの説明ウィンドウをこちらに見せてきた。

 

 ……そこにはなんと、先程までなかったはずの、傭兵として雇用することができるという旨の文章、なんだこれ?という前に、ペロロンチーノが迷いなくYESをポチッ!

 

 

 これが彼女がナザリックのNPCの仲間入りした経緯である。

 

 ここまでの経緯だけで、だいぶ……いやとても、すっごい、とんでもなく異質、変わったNPCであると理解できるだろう。

 

 

 彼女は、何というか……そう、謎が多いのだ。

 

 

 実を言うと、そもそも傭兵NPCとしてステータスを見たり、育成方針をこちらで決めたり、スキルを取らせたりといった事は管理出来るので、性能において彼女に知らない事はない。

 

 だが、彼女の「設定」はどうかと言われると、実はモモンガは「初心者の街の近くに有る森で蘇り、何らかのショックで記憶を失い、街に迷い込んでいたトゥルーヴァンパイア。」という事しか知らない。

 

 というのも、設定にある蘇る前……つまり記憶を失う前、彼女はどこで何をしていて、どうして死んだのか?むしろ何故トゥルーヴァンパイアとして蘇ったのか?

 

 その辺の設定が良く分からない。

 

 ギルドのNPCであればツールを使ったりコンソールを開くことでそのあたりの情報もアクセスすることができたのだが、あれはギルドで作ったNPCではない。

 その為、詳しい情報を見ることができないのである。

 

 

 なぜか、と言われるとそれが公式のNPCだからだとしか言えないのだが……そう、例えば、この迷宮を一緒に探検してくれるNPCが居たとして、そのNPCの情報を丸裸にできたとする、すると、そこには「あなたを裏切るつもりである」と書かれていたらどうだろう?

 

他にも、やけにカルマ値が低いだとか、そういうことも見られないように設定されている。

 

もっとも、何かそれを看破出来るアイテムやスキルがあれば別の話なのだが。

 

 つまりはそういう、プレイヤーにとって、クエストのネタバレになる設定は見られないようになっているのである。

 

 

 という事から、モモンガ、ペロロンチーノ、ぶくぶく茶釜等のアインズ・ウール・ゴウンの面々は、エレティカが「どういう設定のNPC」なのか、結局理解出来ず終いでここ、異世界に飛ばされてしまい、そうしたらエレティカも意思をもって動き始めているのであって。

 

 

 ここで何が問題かというと、彼女は自分たちにどういう感情を持っているのかが分からない、彼女の行動理念というかそもそも何を考えているのかが分からない、彼女の好きなものは?嫌いなものは?

 

 ……とここまで考えてしまうとまるで好きな女の子の事を考える男子中学生のようだが、彼はいたって真剣である。

 

 

 もっと言えば彼女の行動には不可解な点が多い。

 

 

 まず、カルネ村に行って初めて村人に会った時の対応がそれだ。

 そもそもユグドラシルのNPCである筈なのに何故かこの世界の人間に対しても理解があり、「その格好は怖い」と遠回しに言ってのけ、初めて会った村の娘姉妹に対して言われなくてもポーションで治療する、私たちの姿を見せないようにする等の心配りを見せた。

 それだけではなく、遅れてやってきたアルベドへの迅速な情報共有だとか、ニグンとやらと戦った後でガゼフという王国戦士長の男と何やら会話をしていたりだとか……。

 

 果てはそのニグンの尋問を執り行う際にも「先に隊長格から尋問するよりも、まずはその部下から情報を聞き出したほうが良いのでは?隊長格は他の者より多く情報を持っていると考えるべきでしょうし」という鶴の一声があり、それもそうかと特別情報収集官(尋問官)であるニューロニスト・ペインキルに指示したところ、なんと奴ら陽光聖典と呼ばれる部隊の者には「特定の状況下で質問に3回答えたら死亡する」という魔法がかけられていたのが発覚した。

 

 危うく法国の特殊部隊の隊長という貴重な情報源をむざむざ殺してしまうところだった。

 その魔法をどうにかする手段が見つかるまでは尋問はお預けだ。

 

 もうこれに限っては「運が良い」とか「勘が良い」とかいうレベルを超えているのではないかと思ったがそんなことを言い出したら今この状況がそもそも常識の範疇を超えている。

 

 ちなみに死んだ陽光聖典の者は人食種の口に入ることになった。

 

 

 話がそれてしまったが、つまるところ彼女が他のNPCと違うのは「ナザリックで生まれたNPCではない」という事の他に、「命令をしなくても動く」「人間に対しナザリック内で随一といっていい理解を持つ」「気遣いだとか心配りだとかに非常に長けている」といった点が挙げられる。

 

 

 いずれも表面だけ見れば良い配下なのだが……。

 まずユグドラシルとは違う世界の人間に対して理解を持っている時点でおかしいのではないか、命令をしなくても動く自主性は警戒に値するのではないか、その気遣いや心配りはどこで学んだのか、妹であるシャルティアについてはどう考えているのか?という疑問が生まれるのである。

 

 それに、人間に対して理解がある割には、目の前で人の首が飛んだり、ナザリックで拷問されていたりといった事実に対してあまり関心は無いようだし……。

 

 「いずれにしても、いつかは直接話し合ってみないとな……。」

 

 随分長い間考えに耽っていたようだ。

 休憩もそこそこにして、活動を再開しよう。

 

 

 

 

 <ガサゴソ……>

 

 ん?

 

 

 「<ガチャリ>こんな所で何をやっているんだ?エレティカ。」

 「ああ、モモンガ様、いえ、私は今、これからのことを考えて倉庫に置いてあったアイテムの整理を行っている所です。(モモンガ様を人間化させるアイテムを探すついでに。)」

 

 「ふむ、(またそんな頼んでもないことを……いやホント助かるからいいんだけどね?ちょっと、俺の立場が……。)アイテム整理か……うむ、私も全てのアイテムの効果を理解しているわけではないからな……今後の役にたつアイテムもあるかもしれない、私も手伝おう。」

 

 「ああ、いえ、よろしいのですか?」

 「うむ、それにしても、宝物庫もそうだがここは(ゴミアイテムを捨てるのも勿体ないからと放り込んであった、別名”ゴミ倉庫”だっただけに)特に散らかっているな……どれどれ、これはなんだ?」

 

 「はい、それは「ファ〇リッシュ」ですね、使うと霧状に消臭効果のある液体を吹き散らし、ついでに殺菌や除霊等の効果があります。」

 

 「これは?」

 「はい、それは「クレイジーキラーベアードの木彫り」ですね、置物です。特に効果はないです。」

 

 「これは?」

 「はい、それは「地面に線引くやつ」です、持ち手を持ってコロコロ転がすことで中の粉が落ちて線が引けます。」

 

 「これは?」

 「はい、それは完全なる狂騒……って、まってくださいモモンガ様!それをこっちに向けないd」

 

 <パーーーンッ!!>

 

 「あっ、す、すまんエレティカ!大丈夫か!?」

 「……っ、っ、……。」

 

 「……ど、どうした?大丈夫、か?これは一体……?(ええと、完全なる狂騒の効果は……これか?なになに?アンデッドに対して精神系魔法が効くようになるアイテム?なんだそりゃ?……いや待てよ、それってひょっとして精神安定が効かなくなったという事で、それはつまり……。)」

 

 「……つまり、これを使うと精神が不安定になってしまう、ということか……?ってどうしたんだお前は!?」

 「うわわわわわわモモンガ様だあぁぁああああやべえええええええ!!本物だああああああ!!」

 

 「あ、当たり前だろう!!何を言って……」

 ハッ、ひょっとしてこれがこのアイテムの効果!?精神が安定していない状態だとこうなるってことか!?

 

 「ハァハァ、モモンガぐう至高……やばば……。」

 いやだからって変わりすぎだろこれは!!本物って意味がわからんぞ!?し、しかしこれは、普段冷静沈着なエレティカから本音を聞き出せるチャンスなのでは!?

 

 「え、エレティカよ、突然つかぬ事を聞くようだが……私のことをどう思ってる?」

 「え?モモンガ様のこと?えーと……………………………苦労人?」

 

 グフウッ!!?そんな風に見られてたの俺!!?いや確かに苦労はしてる自覚あるけどさ!!?

 

 「ほ、他には何かあるか?」

 「んー?…………アルベドとかシャルティアのこともあるしデミウルゴスもなんだかんだで性格がアレだから、ストレスが溜まってないか心配、とか?」

 

 う、うわー……よく見てるんだなぁこど……NPCって……いや、エレティカが特別なだけ、そうに違いない……。

 「な、なるほど……。」

 「他にはペロロンチーノ様と仲良しで微笑ましいなぁーとか……アルベドとはいつ結婚するのかなーとか……妹の事はどうするつもりなのかなーとか……あとは、えーと、えーと……。」

 

 「も、もういい、分かった、そうだな、では次にお前の好きな物を教えてくれ。」

 「えー?好きな物?そうだなぁ……(二次)小説とか……食べ物で言うならラー油メンマが好き!」

 「ら、ラー油メンマ?」

 

 なんだそれ……?知らんけど、今度ダグザの大釜で作ってもらうか……?

 

 「では、嫌いなものは?」

 「人が不幸になるのは実際に見るのも物語の中でも嫌だ!あとはネギが嫌いです!」

 

 ええ子や……!!人の幸せを願うことができるええ子や……!!

 あとネギが嫌いってこれユグドラシルの運営は何を思ってそれを嫌いなものにしたんだ!?いやラー油メンマとやらもそうだけどさ、そんなのユグドラシルにあったか!?

 

 ……っていうか、待てよ、もしこれが精神が安定しない事で、「思わず本音を言ってしまうような状態」だったとしたら、普段との違いから察するに……俺ひょっとしてエレティカにだいぶ無理をさせてしまっているのではないだろうか……?

 

 ……本来はこんなに明るい性格って事だろ?

 

 

 

 「……今何かしたいことはないか?」

 「特には!」

 「……そうか、では引き続きアイテムの管理を頼む。」

 「はーい!」

 

 <ガチャッ……バタン>

 

 ……ごめんエレティカ……!!俺もっと頑張るよ……!!

 

 それにしても完全なる狂騒……とか言ったか、あのアイテム、よく考えたら対象がアンデッドって事は俺にも効くって事だろうし……ゴミ倉庫に置かれていた物だし、まだいくつかあるかもな。

 

 あと……エレティカは……うん、流石に永遠にあのままって事は無いだろ、元に戻るまで放っておくかな……元に戻ったらペロロンチーノさんに今まで以上に優しくするように言っておこう、そうしよう。




その後、たまたまエレティカを探しに訪れたバードマンが「萌え死する!!」と謎の死を遂げそうになりその言葉をたまたま聞いた下僕から伝言ゲームよろしく騒ぎが大きくなり、ナザリック内の警戒レベルが3段階位引き上がった大騒ぎになるという事件が起こったり、事の顛末を聞いたぶくぶく茶釜が「こんの大馬鹿野郎!!」と怒り狂って本当に殴り殺しそうになったり、丁度そのあたりで狂騒が治ったエレティカが自室に引きこもって出てこなくなったり、

宝物庫から更に多数の完全なる狂騒が発見され、間違って自分に使ってしまった挙句、
やっとの思いで狂騒状態から治ったと思ったら、
アンデッド、インプ、デュラハン、ドッペルゲンガー、ワーウルフ、ショゴス、アラクノイド、オートマトン(モモンガとアルベドとプレアデス)が偶然ひとつの場所に集まり、大変な事になるのを、モモンガはまだ知らない。


書き溜めが底を尽きたのですこ~しだけ間が空きます。

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