(旧)ユグドラシルのNPCに転生しました。   作:政田正彦

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カルネ村まで(2/3)

 現在、ひとまず第一階層で警備という名の待機中。

 今までと違うのは、隣にシャルティアが居ることだろうか……?

 

 

 さて……カルネ村を見つけた時が昼だったから、まだ夜である今はミラーオブリモートビューイングで何もしていないって事、かな?

 

 いや、でもペロロンチーノ様やぶくぶく茶釜様あたりがその作業にあたっている、という可能性も否定出来ない。

 とはいえ時刻は先ほど1時を回ったばかりで暗いため、少なくとも日が昇るまでは時間があると考えていいだろう。

 

 もしも今ミラーオブリモートビューングを使ったなら、カルネ村が襲われる前に襲われていた、名前も知らない村を救うことが出来るかもしれないが……。

 

 いや、そもそもまだ「世界征服なんて面白いかもしれないな」とモモンガが言うまで何日か猶予があったはずだ。

 記憶では3日と記憶しているが実際のところどうなのだろう。

 

 なんにせよ、カルネ村発見まではまだもう少し時間がかかる訳だ。

 それまでに上手いことカルネ村まで連れて行ってくれるように、都合の良い言い訳を考えておかなければ。 

 

 「姉様?さっきからずっと難しい顔で考え込んで、どうかしたでありんすか?」

 「え?いや……そうね、これからの事について考えていたわ……」

 

 まぁ嘘は言ってない、嘘は。

 非常事態のこの状況で考えに耽って、隣で話しかけてきていた妹に一瞬気づかないなんて、と頭を振って余計な考えを外に放り出す。

 

 「……姉様は、”ナザリックの外”に居たんでありんしたよね?」

 「そうね……」

 

 いきなり何の話だろうか、シャルティアは、「前々から聞きたかったのですが」を付け加え、口を開く。

 私も日が昇るまでは暇なので、妹と話をするのも悪くないと思い静かに聞く。

 

 「……そこは、いわゆる、”リアル”という場所なのでありんすか?」

 「いいえ、リアルは私が居た所よりも更に外側の……至高の御方々にしか行き来出来ない、地獄より残酷な世界」

 

 外では専用のマスクをしなければ息も出来ない程汚染された空気で満たされ、無論ユグドラシルのように魔法が使えるわけでも、化物じみた身体能力があるわけでも、数え切れないスキルがあるわけでもない世界、と正直に話したらどんな反応をするだろう。

 そんな世界で今も至高の御方々が戦っているのだと知ったら。

 

 多分「お守りしなければ!」とか言って自分もその世界へ行こうとするのではないだろうか。

 

 「……そうでありんすか……」

 

 しかしその手段がない以上、そう言う訳にも行かないし、そもそも私はモモンガ様の居たリアルとはまた違う……まぁ、それこそ異世界から来た存在な訳で、リアルという場所から来たわけではない。

 故にこれも嘘ではない。

 しかし地獄より残酷な世界に自分の親でもあるペロロンチーノ様が居たと知って、何故自分にその世界に行く力がないのかという無力感。そもそもそんな世界で私がかの御方を守ることが出来るのだろうかという疑問。しかしそんな世界からでも生きて帰ってきてくれて良かったと、どこかホッとしている情けない自分。

 

 そんな事を思っているのだろう。

 シャルティアの表情は暗い。

 だが、それ以上に残念だったのは。

 

 「……私なら、リアルのことについて何か知っているかもって?」

 「な!?ど、どうして」

 「わかるわよ、あなたの姉だもの」

  

 本当はリアルという場所について知っているのなら是非にもその世界について詳しく教えて欲しかった。

 しかしその世界から来た訳ではないと知って、そして御方々にしか行き来出来ないと言われて、アテが外れたような気分になっていた。

 

 私はシャルティアの姉として、シャルティアが生まれたその時から知っているのだ。

 そして、その設定も、今、どう思っているかも。

 

 「……必要であれば御身自ら話してくれるわよ」

 「そうでありんすね……」

 

 ……ひょっとして、他の守護者も、モモンガ様達が見ていない所では同じように、泣き言を言ったり、愚痴を言ったり、涙を流したりしているんだろうか……?

 ……だとしたら……。

 

 居なくなってしまった悲しみは、私も十分理解しているつもりだから、その悲しみを乗り越える為の手助けが出来るならしたい、と思う。

 最も、彼らの色々な意味の強さなら私が口出しするまでもないと思う。

 

 それに、手助けとは自分でいいつつ、どこか見下しているような気がして気が引ける。

 

 

 「姉様……ペロロンチーノ様は、もう、どこかへ行ったりはしないわよね?」

 「しないわ、大丈夫」

 「……どうしてそう言い切れるでありんす?」

 「……私は、その答えを知っている……けれど……ごめんね、言えないの……それとも信じられないの?、ペロロンチーノ様を、我らが至高の御方々を」

 「……私は……」

 

 至高の御方々の事は信じているし、尊敬しているし、誰より忠誠を誓っているという自信はある。

 だがまた姿を隠されたら?

 またここを去られてしまったら?

 またあの寂しさを感じることになったら?

 

 そう考えるとシャルティアの顔から不安の色が濃くなっていく。

 

 手のかかる妹だ、しかしそれでもなにより愛しい妹である。

 

 慰めようと手を伸ばそうとしたその時、転移の魔法独特の、空気が切れるような音が背後から耳に入り、そちらの方向へ目を向ける。

 

 

 「シャルティアーッ!エレティカーッ!!」

 「ペッ、ペロロンチーノ様ッ?」

 「どうしたんですか?」

 

 噂をすればなんとやらだ。

 駆け寄ってきたのは、至高の御方が一人、ペロロチーノ様その人である。

 

 「ちょっとそこまで、デートしない?」

 

 ……この非常時に何言ってんだこのバードマンは……?

 ……ってあ、そうか、そろそろモモンガ様が「世界征服なんて、面白いかも知れないな」とか口を滑らせる頃か。

 んで、それに伴って「一緒に行きましょうよ」とペロロンチーノさんも誘われたか……あるいは誘った側なのかな?

 

 と、そんな推理をしながらゆっくりと微笑む。

 

 「で、ですが……」

 「是非私もお供させてください。<シャルティア、至高の方の頼みを断る気?>」

 「(うっ……。)分かりました、お供させて頂きます……でありんす」

 「ウンウン、そんじゃ、掴まって、すぐ地表まで飛ぶから」

 

 ……ま、ちょうどいい。

 マーレの結婚指輪でもからかって遊ぶかな(ゲス顔)

 

 

 そして転移した先では、戦士の姿になったモモンガ様と、ローブで身を隠したペロロンチーノさん、そして……えっと、これ、保護色になって近くで見ないとわからないけど、ぶくぶく茶釜様なんだよね?

 

 

 「モモンガさん、遅れました」

 「あれ?その二人も連れてきたんですね」

 「ええ、まあ、どうせなら多い方がいいかな、と」

 「それじゃ行こっか?バレないように」

 「……バレないように……?」

 

 ……バレないようにっていうか……転移出来る時点でバレバレだと思うけど、言わないでおこう。今回は私達もついてるからデミウルゴスも……まぁもしかしたらついてくるかもしれないけど。

 

 「おや?……シャルティア、エレティカ、どこへ……モモンガ様?ペロロンチーノ様にぶくぶく茶釜様まで……そのようなお召し物で一体どちらへ?」

 

 ほらもう見つかった……。

 

 「うむこれには……まぁ、色々と事情が有ってな……」

 「……成る程、まさに支配者にふさわしいご配慮かと」

 「えっ」

 「流石はデミウルゴス、言わずとも私達の真意を見抜いたようね」

 

 ……これ、内心冷や汗だらっだらなんだろうなぁと思うとすごい面白いな……。

 

 「もしお許し頂けるのであれば、僭越ながら、私も視察にご同行しても?」

 「……もうシャルティアもエレティカも許可してるしね」

 「……分かった、同行を許そう」

 「私のわがままを受け入れていただき、感謝致します」

 

 内心では「これじゃ息抜きできないなぁ」くらいに思ってんだろうな~……。

 まぁ私が助け舟を出しても良かったけど、不自然だし、デミウルゴスに睨まれたくないし……諦めて、モモンガ様。

 

 

 「……うわあ……!」

 「これは……凄いな」

 「キレー……」

 

 おお……こりゃ確かに感動するわ……私もここまで透き通った空は初めてだ……。

 

 「「「《フライ/飛行》!」」」

 

 あ、っと置いてかれる。《スキル/飛行》っと……。

 「《スキル/飛行》!」

 「クコカカカッ」

 

 《バサッ!!》

 

 おう、当然のように変身するのやめーや。

 ちょっとビックリしただろうが。

 

 

 

 

 雲の上から見ると、更に壮観だ……。

 星々がよく見えて、月の明かりだけで周囲がよく見える程に。

 

 大気汚染が、モモンガ様の居た世界よりかは進んでいなかったと思われる私の住む世界の日本でも、こんな光景はまず見られないだろう。

 ……いや、北海道とかならあるいは……。 

 

 「まるで宝石箱みたいだ……」

 「おっと、モモンガさん、意外にロマンチスト?」

 「でもほんと、宝石みたいよね」

 「この星々が美しく輝いているのは、御身を美しく飾るための宝石を宿しているからかと」

 

 「こっちもなかなかロマンチックな事言うじゃない」

 「確かにそうかもしれないな……」

 

 

 「私達がこの地に来たのは……この誰も手にしたことのない宝石を手に入れる為……いや、ナザリックや、わが戦友達、アインズ・ウール・ゴウンを飾るためのものかもしれない、か……。」

 「お望みとあらば、ナザリック全軍を持って手に入れてまいります」

 

 「何言ってるのデミウルゴス?まだこの地にどんな脅威があるかもわからないのに」

 

 「どのような脅威があったとしても、その上を行けば良いだけの事です。ぶくぶく茶釜様」

 「エレティカまでノリノリになっちゃってまぁ……」

 「わ、私も、必要とあればどんな事をしても御身の期待に応えるでありんす!」

 

 「あぁ、そうだな……」

 

 

 ……あっヤベッ……いや、やっぱいいや、ほっとこう(ゲス顔)

 

 「世界征服なんて、面白いかもしれないな……」

 

 「「ッ!?」」

 

 あぁ、言っちゃったよこの人……。

 まぁ、言うと思ってたけどね。

 

 「そうですね……」

 「俺たちなら、割とどうとでも出来そうですけどね?」

 「フフフ……」

 

 うわぁ……これは完全に魔王ですね。

 間違いない。

 

 

 

 そうして、しばらく談笑した後、下から地響きのような、波のような音が聞こえる。

 

 《ズズン……!!》

 

 「ん?あれは……マーレか、早速例の作業に取り掛かっているようだな」

 「さすがうちの子ね」

 「範囲を拡大した上でクラススキルも発動しているみたいだね」

 

 「モモンガ様、今後の予定を聞いても?」

 

 「うむ、マーレの陣中見舞いに行く、何が褒美として良いと思うか?」

 「モモンガ様がお声をかけるだけで、十分かと」

 「うむ(相談する相手を間違えたかな……)」

 

 「シャルティアはどう思う?」

 「え?ええと……デミウルゴスの意見と同様でありんす。私達は至高の御方々にこの身を捧げた身……お声をかけていただくだけで十分でありんす」

 

 「エレティカは?」

 

 え~~~……?あの子ら欲しいものとか一切無いだろうしな~~~?

 う~~~ん……。

 

 「……そうですね、やはりいくら彼女、いえ、彼が優れた階層守護者であるとしても、まだまだ子供です……ですから……頭を撫でてやるのはどうでしょう?特に、ぶくぶく茶釜様に撫でて頂けたら、それは最高の褒美になるのではと思いますが……とはいえ、彼を労う、という意味でならデミウルゴスの意見と同様で……」

 「よしわかったさっそく撫でてくるわ」

 

 ちょっ早いなあのピンクスライム……。

 

 

 「ふっ……私達も向かうとするか」

 「かしこまりました」

 

 

 

 

 

 「あっ、モモンガ様、ペロロンチーノ様……!」

 

 そこには顔を赤くしながらピンク色の肉棒の形をしたスライム状の生物に撫で回されるマーレがいた。

 ……もし人型の生命体であったなら微笑ましい光景だろうが、こうして見ていると……。

 

 「……捕食しているようにしか見えないよ、姉ちゃん」

 「弟、黙れ」

 

 今回ばかりは弟悪くないですよぶくぶく茶釜さん!

 ……うん?マーレの指に既にリングがはめられている?

 ……ぶくぶく茶釜さんが渡したのか、なるほどね……ってことはそろそろ……。

 

 「ところで、モモンガ様とペロロンチーノ様はどうしてそんなお召し物を……?」

 「う、うむ、それはだな……」

 

 「簡単よ、マーレ」

 

 き、キター!!!ヒドイン!!あっいえなんでもありませんどうぞ続けて。

 

 「絶対なる支配者である至高の御身を眼にしたら、下僕達は仕事を止めて忠誠を誓ってしまうでしょう?それは御身の本位ではない、それゆえの処置……ですよね?モモンガ様?」

 

 「あ、あぁ、そのとおりだ……ハハハ(言えない……ただ息抜きがしたかっただけなんて言えない……)」

「(その理論で行くとシャルティアとエレティカを連れて来ちゃったのは失敗だったかな……)」

 

 「お褒めにいただき光栄の極みごございま……す!!?」

 

 おっと、マーレの指輪を見つけちゃったか……。

 シャルティアは経緯を知ってるからニヤニヤしてるな、私もしてるけど。

 

 「ど、どうかしたか?」

 「何が、でしょうか?」

 「え、あ、そうだ、アルベドにも、このリングを渡しておこう……お前にも必要なものだからな」

 「……このような秘宝をいただいて、感謝の極みでございます……」

 

 ちょっ、もう早く行ったほうがいいんじゃない? 

 ほらもう羽とかぷるってるし。

 

 「デミウルゴスには……また後日渡すとしよう」

 「かしこまりました、かの偉大な指輪頂けるよう、精進してまいります」

 

 「シャルティアとエレティカにも、あとであげるからねー」

 「アウラにも、あとであげるからって伝えておいてね」

 

 「それでは、この辺で失礼することにする、今後も忠義に励め」

 

 《シュンッ》

 

 「ウオオオオオオオオオオオオオオッシャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 うるさっ……。

 

 

 その後、1時間にも及ぶアルベドのモモンガ様大好き結婚したい話(大体2分でループする)を聞かされて、なんだか精神的に疲れた……。

 

 

 さて、次はどうしたものか……。

 

 

 うーん、まずはアルベドにそれとなく最強装備をいつでも着れるように準備しておくように言っておこうかな……?

 

 と、その前に……。

 

 

 

 「マーレはぶくぶく茶釜様とご婚約なさったの?」

 「えぇっ!!?そんな、違うよ!?」

 「そう?でも……指輪をはめる位置がそこだと、婚姻指輪という意味になってしまうのだけど……」

 「そ、そうだったの!?あぁ……すぐに付け直さないと……。」

 

 ※ちなみになかなか付け直そうとしませんでした。

 

 「(なんだ……モモンガ様から頂いたというわけではなかったのね、ふぅ~、焦って損したわ……)」

 

 「それじゃあ、お互い本来の持ち場の警備に戻りましょうか?」

 

 「そうだね、では私はこれで失礼するよ」

 「ええ、マーレ、引き続きお願いね」

 「しっかりやるんでありんすよ、マーレ」

 

 「う、うん、頑張ります」

 

 

 ……さて、どうやってカルネ村に行くこじつけようか……まずはモモンガ様に話を聞いていただくところから始めようかな?




やっぱり今回もダメだったよ……。

アルベド「え??何が???」

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