(旧)ユグドラシルのNPCに転生しました。   作:政田正彦

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シャルティアちゃんと双子の姉妹になった主人公、エレティカ。
ついに転移。


転移まで(3/3)

 私がユグドラシルのNPCになってからどれくらい経っただろうか。

 寝ていたから分からないな。

 

 

 でも……ああ、本当に色々な事があった……。

 色々な事が多すぎて、何から説明したらいいのか困るなあ。

 

 

 ええと、まあ、とりあえず一つ言えるのは……。

 

 

 

 ペロロンチーノ様はやはり、このゲームを辞めてしまったという事だ。

 ぶくぶく茶釜様もまた、リアルの仕事の方をとった。

 

 最後のログインしていた時の様子は……嬉しそうでもあり、悲しそうでもあった。

 

 確かに夢……生活が安定して、職にありつける事は大きい。

 けれど、ここでの生活もまた大きい。

 

 

 だが所詮はゲームだ。

 少なくとも、彼らにとってはゲームなのだ。

 

 そしてそのゲームも飽きられ始め、ついに残ったのは、やはり、原作通り、モモンガさん、ただひとり。

 

 ペロロンチーノ様が、最後に「眠り姫っていうのもなんか違う気がするしな……エレティカには、やっぱりこれまでどおり、1階層と、2階層、3階層の守護者として、シャルティアとここを守っていて欲しいな……いつか帰ってきた時のために」

 

 と言われたので、私はペロロンチーノ様がやめてからもずっと「待機モード」でここを守ってきた。

 

 大丈夫。

 

 あの1500人のプレイヤーが攻めてきたって、結局は勝てたんだから。

 

 私はその時に一度死んでしまったけれど、生き返った時のペロロンチーノ様の安心した様子といったらなかった。

 おもわず【ありがとうございます】なんて言って、「復活した時にまでメッセージが用意されているのか!?……うちの子にも覚えさせようかな……」「でもそれって死ぬのが前提みたいな感じでちょっと……」といった感じでちょっとした騒ぎになってしまったのはいい思い出だ。

 

 そういえばある時には私達に一目惚れしたとか言い出した人間のプレイヤーの人まで居たっけ?その人はペロロンチーノ様が撃退したけれど、その後にどこか自慢気に「今のやつ、見た?」と言っていた。懐かしい。

 

 

 と、まぁ、そんな思い出を抱きながら私はずっと、双子の妹であるシャルティアとここを守っている。

 

 まぁ、今はもう、誰も来ない事はわかっているんだけども。

 

 けれど、それももう終わり……そして新しい、異世界でのアインズウールゴウンの伝説が始まるんだ。

 

 メッセージログには、モモンガさんの「どうせですから、最後まで残って行きませんか……」という悲痛なメッセージが表示されている。

 

 だから、きっと、もうすぐ終わってしまう。

 

 この時計の針が0になったとき、この世界、ユグドラシルでの生活が終わるのだ。

 

 

 

 私はメッセージログウィンドウを閉じ、じっとその時を待つことにした。

 

 

 23時40分……あと少しで異世界転移が始まる。

 せっかくだからその瞬間をこの眼に収めておきたいのだが、果たして何か変わったという実感が湧くようなものなのだろうか?

 

 まぁいいや、あともうちょっとで、NPC脱却なんだから。

 

 

 

 異世界に転移したあとのことに思いを馳せて、その時を待っていた。

 

 

 そして、ついに、異世界転移の時間が……やってくる前に、私はあることに気づく。

 

 ついさっきまでそこにいた筈のシャルティアが、いない。

 どういう事だと動揺して思わずあたりを見渡すが、いない。

 

 

 そうして混乱していると、後ろからぐいっと何かに引っ張られて、そのまま転移の魔法、ゲートに突っ込まれた。

 

 突然の事に動揺し、抵抗しそうになったが、しかし、すんでの所で私はこの引っ張る腕がどこか懐かしい事に気付く。

 

 

 そしてその転移の魔法で連れ出された場所はあの玉座がある間。

 NPCなので未だに一度も入ったことのない部屋。

 

 そこに居たのは、我が妹、シャルティアと、第六階層守護者の双子、アウラ・ベラ・フィオーラと、マーレ・ベロ・フィオーレ。

 そして、我らがギルド長であり、このゲートを開いた張本人だと思われるモモンガ様と……。

 

 

 「やっぱり、最期はこの子達も一緒に、ね」

 「そうだね」

 「最期くらいは、いいですよね」

 

 ペロロンチーノ様と、ぶくぶく茶釜様のお姿だった。

 

 

 

 そして、約束された時は訪れる。

 

 

 

 

 

 

 23:59:58

 23:59:59

 

 

 

 00:00:00

 

 

 00:00:01

 00:00:02

 00:00:03

 

 

 

 

 「「「……あれっ?」」」

 

 

 「どうかなさ……「どうかなさいましたか?モモンガ様、ペロロンチーノ様、ぶくぶく茶釜様?」」

 

 

 

 

 

 まさか、まさかまさかまさか帰ってきてくれるなんてええええええっ!!

 ばかばかばかばかバカばっか!!

 なんでリアルの方を優先しなかったんだよ~~~~っ

 いやしたのかもしれないけどそれならそのまま来なければいや来て欲しかったけどそれでもさぁ~~~~っ!!

 

 私は溢れそうになる涙を必死にこらえようとして、うっかりアルベドよりも先に至高の方々に声をかけてしまう。

 

 一瞬「えっ」という表情で全員に見られるものの、まぁごめん、あとで謝るからゆるしてほしいでありんす……。

 

 

 「じ、GMコールが使えないみたい、いや、使えないようなんだが……」

 

 「……申し訳ありません、無知な私にはGMコールというものに関してお答えすることが出来ません……」

 

 私が喋らないのを見て、今度こそアルベドがそう答え、その後呼ばれている階層守護者である私たち姉妹と姉弟を見回す、もちろん皆残念そうに、あるいは悔しそうに首を振る者ばかりであり、私も無表情のまま、首を横に振った。

 

 「この場にいる私たち一同、この失態を払拭する機会を頂けるのであれば、それに勝る喜びはございません!」

 

 「ふむ、そうか……」と考えに耽るモモンガ様と、ここはモモンガ様に任せるのが得策だと思い、その様子を見守るペロロンチーノ様とぶくぶく茶釜様。

 この緊急時で、NPC達にボロを出すわけには行かないと思っての行動かも知れない。

 

 そして考えがまだまとまっていないだろう、しかし、このまま行動を起こさないのも愚策だと考えたモモンガ様は頭を抱えるようにしていた手を置き、思い切ったように命令を始めた。

 

 「セバス!」

 「ハッ!」

 「……プレアデスを一人連れ、大墳墓を出て、ナザリックの周辺地理……そうだな、半径1km内の確認せよ。また、人間などの知的生命体などが居た場合、ここに連れてこい。その際あちらから何か要求があればほとんどの場合は呑んでもいい物とする。また知的生命体ではないにせよ、ナザリックに、ひいては我々に対して敵対的である者と接触した場合は、戦闘を控え、即時離脱せよ。私に確認を求めたい場合は、メッセージを使え」

 

 「かしこまりました。モモンガ様」

 

 わぁ~、やっぱモモンガ様すげぇ~。

 支配者って感じするわ~。

 伊達に何年も魔王ロールやってないね!!

 

 「他のプレアデスたちは、9階層に上がり、侵入者の警戒にあたれ」

 「「「かしこました、モモンガ様」」」

 

 

 「……ではモモンガ様?私達は何を?」

 

 「ああ、そうだな……」

 

 

 えっと……原作ではここで、R18指定の行動が許されているのか、許されているのならばゲーム内である可能性が高まるという事で、アルベドのおっぱいを揉むシーンなんだけれども……。

 

 「アルベドは、第4、第8を除く各階層守護者に、6階層の闘技場まで来るように伝えよ。時間は今から一時間後とする。アウラ、マーレ、シャルティア、エレティカに関しては、そのまま闘技場に向かって構わん」

 

 「かしこまりました、モモンガ様」

 

 

 ……えっと、私も行かなきゃなんだよね?ふぅ……少しはなれているとは言えちょっと疲れるなぁ……。

 

 《バタンッ》

 

 

 

 「う、うう……ぐずっ」

 

 ……ん?

 

 「ぺ、ペロロンチーノ様が、ペロロンチーノ様がご帰還なされ……うぇぇ……もう帰ってこないのかと思ったよお……」

 

 「それに、ぶくぶく茶釜様も……よがっだ、本当によがっだよお」

 

 「おねえちゃ、泣くにしたって、もうちょっと……うう、ぐすっ!」

 

 「ちょ、ちょっと貴方達、嬉しいのは分かるけど、今は泣いている暇はないわ、早く与えられた使命を果たさないと」

 

 あちゃあ、そういやこういう人たちだったね……全く、世話が焼けるんだから。

 

 

 「シャルティア、せっかく至高の方であり、私たちの造物主(私は違うけど)が帰還されたというめでたい日なのに、そんなぐしゃぐしゃの顔で出迎えるつもりなの?……ほら、ゲートを開いて、一度身なりを整えてきなさい」

 「う、うん、分かった。いや、ええと、分かったでありんす」

 

 「アウラとマーレは私が第6階層までゲートで送ってあげるから、こっちへおいで。アルベド、あとはよろしくお願いします」

 

 「え、ええ……」

 

 ん?なんで困惑顔?……あー、そうか……設定上はシャルティアとアルベドやアウラって仲悪いんだよね、今まで戦闘以外では直接見たことのない私が印象と違っててびっくりしてんのかな?

 

 「じゃあシャルティア、ちゃんと間に合うように来るのよ、いいわね?」

 「うっ、分かってるでありんす……」

 

 「そう?じゃあ行くわね、アウラ、マーレ。

……《ゲート/異界門》」

 

 

 

 

 

 はあ、これから疲れそうだなぁ……。

 それに、ペロロンチーノ様やぶくぶく茶釜様がいる分、原作とのズレも出るだろうし……まぁ、楽しそうだからいいんだけどねっ。

 特にシャルティアいじりがっ!!

 

 

 「さて、では貴方達も、ほら、これで涙を拭いて」

 「う、うん……」

 「ご、ごめん、ありがとう……」

 

 はぁ~アウラもマーレもかわゆすなぁ~~~テラ可愛い。

 ぶくぶく茶釜さんいい仕事してるわぁ~~~。

 

 と、しばらく待っていると、まず先にモモンガ様が転移でやってきた。

 

 「よ、ようこそモモンガ様!第6階層へ!」

 

 「うむ、ところで……」

 

 「シャルティアは、1時間後にここへとの事だったので、身支度を整えてからゲートでやってくるかと」

 

 「ふむ、そうか」

 

 「……あの、ペロロンチーノ様とぶくぶく茶釜様は……?」

 

 「あぁ、宝物庫に、自分の装備を取りに行っている」

 

 「そうですか……やはり私達の夢や幻ではなく、本当にあのお二方がナザリックに帰還なされたのですね……」

 

 

 いやぁー、辞めるってなったときはすごく残念だったけど結果よければ全て良し!

 ……ていうか、戻ってきたのって、ひょっとして私のおかげだったりするのかな?

 バタフライエフェクトじゃないけど……私という存在があるかないかで、戻ってきたのであれば、まぁ、うん……尋常じゃなく嬉しいな。

 

 ……ていうか今の一言でまた双子が泣きそうになってる。

 もう~……。

 

 

 少し落ち着いてから(モモンガ様も空気を読んでくれました)

 

 「ところで、他の守護者が来る前に、3人に手伝って欲しいことがあるのだが……」

 「あの、それがあの、モモンガ様しか触ることを許されないという、伝説のアレですか!?」

 

 「そう、これこそが、我々全員で作り上げた、最高位のギルド武器、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンだ。……(以下説明)……まぁ、なんだ、そんなわけだ」

 

 「すっ、すごーい!」

 「すごいです、モモンガ様!」

 「さすがは我らがナザリックの王、モモンガ様の武器なだけありますね」

 

 「う、うむ……」

 

 ごめんモモンガ様……今はその羞恥に耐えてくれ。

 正直その格好で羞恥に悶えてると考えるとシュールですっごい面白いから。

 

 

 「そ、そういう訳で……これの実験を行いたい」

 「分かりました、すぐに準備します」

 

 

 そうして準備されたかかしを持ってくるリザードガーディアンがかかしから離れるのを見計らって、モモンガ様が呪文を口にする。

 

 

 「《サモン・プライマル・ファイヤーエレメンタル/根源の火精霊召喚》!」

 

 

 《グオォォォオオオオオオ!!》

 

 

 かかしが一気に炎の塊となり、それが意思を持ち、一つの精霊の姿へと変わっていく。

 

 おお、思ったより実際に見てみるとすごいな……。

 いや、ユグドラシルで見たことはあったんだけど、実際に、というか、この異世界で見ると、ここまで熱が伝わってくるし、なによりリアリティーが違う。

 

 「……戦ってみるか?」

 

 「え!?いいんですか!?」

 「あ、あの、僕しなくちゃいけないことを……「マーレ!」ええええ~~~!?」

 「私は後ろから見守っていますね、二人の連携を邪魔しても悪いですし……」

 「エレティカまで!!!」

 「分かってんじゃ~ん!」

 

 

 と、まぁ、こんな感じで普通に双子の戦いを眺めていると……。

 

 「すみません、遅れました」

 「バカ弟のせいで……自分の装備の付け方ぐらい感覚で分かれっての」

 「ちょ!それは言わない約束だろ!?」

 

 「お待ちしておりました、ペロロンチーノ様、ぶくぶく茶釜様」

 「うおおおおおおおおおエレティカだよ姉ちゃん!!マジでエレティカが喋ってるよ!!」

 「うっさいわね!!わかったから触手を引っ張るな!!」

 「ちょ、ちょっと二人共、相手は今まで、その……」

 

 「あっ」とその言葉で察した2人が、双子が戦っているうちに少しだけ離れてまたヒソヒソと(実際にはメッセージで会話している)話し、やがて話し終えたのか、双子の戦いが終わる頃にはまた威厳のある態度になっていた。

 

 「あっ!!ぶくぶく茶釜様~!!」

 「ぶくぶく茶釜様~~!!」

 「あらあら……二人共疲れたでしょう?お水飲む?」

 

 「えっだれコイt……イタッ!!」

 

 あぁ、その役割がモモンガ様から茶釜様になるのね……。

 二人共あんなに嬉しそうにしてまあ……。

 

 

 「お、遅れて、申し訳ないでありんす……」

 「ちょうどいいタイミングねシャルティア、ペロロンチーノ様がお見えになったわ」

 「あぁっ、ペロロンチーノ様ぁっ!」

 

 ここで本来であれば美しさの塊であるモモンガ様に飛びつくのが、今回はペロロンチーノ様の方に飛びついたシャルティア。

 さながら、というか、本当に、長年離ればなれになっていた親子がようやく再会したような……戦場から帰ってきた父親と娘が再会したような、そんな光景がそこにあった。

 

 おっと、ヤバイ、涙が。

 

 「おっとと、はは……ごめんなシャルティア、今までほったらかしにして……」

 「いいんです、私、私……」

 「ほら、エレティカもおいで」

 

 うんっ!?そ、そう、そうだよね……私も?一応?ペロロンチーノ様の下僕なわけですから?……あれ、おかしいな、私いつからこんな忠誠度高くなったんだろ。

 

 しかし流石に妹であるシャルティアの涙でぐしゃぐしゃになった姿を見せられた後では流石に飛びついて抱擁を交わすというのは少し恥ずかしいものがある。

 なので、差し出された手を両手で包んで微笑むだけに留めた。

 

 「……ペロロンチーノ様……よくぞお戻りに……」

 「うん、ただいま。……もうちょっと甘えてもいいんだけどなあ……いや、そこがエレティカの魅力か……」

 

 

 その後、空気を読んでくれたアルベド嬢の計らいで少しだけ遅れてしまったが、ペロロンチーノとぶくぶく茶釜を加えて、転移後初めての、会合?が開かれる。




やっとアニメ第一話が終わりました。

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