しばらくして、光の柱……超位魔法、《フォールンダウン/失墜する天空》がもたらした破壊による光と砂煙が晴れ、そこに一人のオーバーロードと、それに対峙する一人の戦乙女が戦闘準備を終えてそこに立っていた。
それは騎士というより狂戦士であった。
自分の身丈より遥かに巨大な全長と、切っ先で禍々しい髑髏を貫き、生命のように血肉を纏い、生きているかのように鼓動するハルバード、「血で血を洗う」を、小枝でも振るうかのように軽々と持ち上げている。
全身の装備は赤黒く、所々に黄金の輝きを放つアクセントが加えられたデザインの鎧は彼女の為に存在し、彼女を絶対な堅牢さでもって守護すると思わせる重々しい物であった。
(ただし製作者の趣味により、ちょくちょく肌が露出している)
攻撃を受けたエレティカは今まで微動だにしなった身体を震わせて、顔を歪めた。
……顔を歪めた?
「いッッッたーーーーーーい!!!」
それはその場にいた、そしてそれを見ていた誰もが予想外の反応、顔を歪めながら苦痛を訴える悲鳴であった。
「なんッて事するんですか!!!死んだらどうすんですか!!この馬鹿!!!!」
「馬ッ……!?もしや、素の性格か?」
「そうですが、何か?」
「いや、何度見ても普段のお前とは随分違うなぁと……」
「幻滅しました?」
「いいや全く。普段のかしこまった態度より良いと思うぞ」
エレティカの、普段は絶対に見せない”素”の反応に、一見冷静なようで面を食らっているモモンガとそれを見ている下僕達。
始めて彼女の素を見た数名は目が丸くなっていた。
「嬉しい事言ってくれますねぇ……でも一発は一発ですからね!」
それはまるでただの少女のような、それこそ女子高生位の、明るい性格の女の子に見えただろう、それが完全な武装をした100レベルのトゥルーヴァンパイアじゃなければの話だが。
エレティカが姿勢を屈め、クラウチングスタートのような体制に入ったと思うと、まるで銃声、あるいは何かの破裂音のような乾いた後を立てて姿が消える。
「(早い!)」
「くぁっ!?」
しかし、彼女の進行方向には事前に仕掛けた罠、 《トリプレット・マキシマイズ・マジック・エクスプロードマイン/魔法三重化・魔法最強化・爆撃地雷》が仕掛けてある。
対するエレティカは罠に引っかかったものの、いち早くそれを察知し、腕で防御の体制を取った為、大したダメージは入らなかった。
「言い忘れていたな……このあたりには罠を仕掛けさせてもらった、飛行で飛んできたらどうだ?」
「そうですか?でもぉ……それ、嘘ですよねぇ?あのモモンガ様が大した効果の無い魔法にMPを割く訳ないじゃないですか、妹ならともかく私は騙されませんよ?」
「……フッ、そうか、バレバレか」
「えぇ、バレバレです」
「(嘘だろ、本気で全部バレてる……!!)」
当然である、エレティカは既に一度この戦いを……正確には正規ルートであるシャルティアとモモンガの戦いを幾度となく見ているのだから。
……今、何故かその事を忘れて突っ込んでしまったが……。
「(すっかり忘れてたなぁ、この後は何が起こるんだったっけ?)モモンガ様こそ、本来は後衛職なのですから、上位アンデッドでも創造して後ろから戦ってはいかがですか?その綺麗なお顔に傷を作りたくはないでしょう」
「おっと、そうは行かんぞエレティカ、私がお前の持つ武器の効果を忘れているとでも思ったか?」
「そうですか、では気の毒ではありますが、お一人で頑張ってくださいね」
そう、エレティカの持つ「血で血を洗う」がある以上、下手な戦力では愚策に成り得ない故、モモンガは一人で戦うしかない。
「では、いくぞエレティカ」
「あらあら、絶対なる支配者であるモモンガ様が「いくぞ」なんて仰ってはいけませんよ?そこは「どこからでもかかって来い」位の事を仰らなくては」
「そうか?そうかもな……ところで、何故お前は私を「様」付けで呼ぶんだ?」
「これはおかしな事を、主人の友人たるモモンガ様を様付けで呼ぶのは当然……………待って、何かおかしい、私は大切なことを忘れている?……この事を……こうなる事を知っていた?……そして、その為に……いや、どうでもいいか、今は……”攻撃を受けたからには全力で滅ぼさなくては”」
「……そうか、理解した(お前の状態は、な)」
そしてもう一度エレティカの突進……今度は手に持ったハルバードで斬りかかりながら超高速で突っ込んでくる。
が、そこを見切り、「甘い!《マキシマイズマジック・グラビティメイルシュトローム/魔法最強化・重力渦》!!」と、黒ずんだ紫色の球体を放つ。
途中で方向転換し、それから離れるエレティカ。
「《マキシマイズマジック・ホールド・オブ・リブ/魔法最強化・肋骨の束縛》!」
そして、そのエレティカの着地点を中心に彼女を閉じ込める形で巨大な骨のドームが形成され、こんな物に捕まるものかと、易々とそれ形成し切る寸前で上空に飛び立ち脱出する。
だが、モモンガの狙いは閉じ込めることではなく、その脱出した瞬間である。
「《ドリフティング・マスターマイン/浮遊大機雷》!!」
「くっ!」
それを魔法、《シャドー・ダイブ/影への侵入》で影の中へ逃げ込むエレティカだったが、それを許さない。
「《マキシマイズマジック・アウトラル・スマイト/魔法最強化・星幽界の一撃》」
「グッ!」
非実体化した物に対して効果を発揮する魔法の一撃、その何発かがエレティカの身体に突き刺さる。真っ黒な影となった身体だったが、それは影に潜る前に実体化する。
一見なんのダメージを受けていないように見えるが、僅かに吐血したように口から血が流れ出ているのが、良い証拠となっていた。
「《サウザンドボーンランス/千本骨槍》!」
畳み掛けるようにモモンガの攻撃は続く。
エレティカを中心として、その三六〇度あらゆる角度から同時に骨で生成された槍が猛スピードで攻撃を仕掛ける、が、「《変わり身の影》」というスキルを発動し、エレティカの身体は攻撃を受けた後、そのまま影となって消える。
変わり身で攻撃を回避すると同時に影の中へ退避する、シャドー・ロードのスキルの一つである。
「《影の牢獄》」
「チッ……《グレーター・テレポーテーション/上位転移》!」
影に逃げたエレティカからの、相手を捕縛しつつ呪いのダメージを与えるスキルから逃れるためにモモンガが転移を行い、空中へ逃げる。基本的に影からの攻撃は空中に居る敵に弱いからだ。
逃げたモモンガを追って高速で影から這い出し、攻撃を加えんとするエレティカ。
「そこか!」
「スキル!《不浄衝撃盾》!!」
「何っ……ぐあっ!!」
不浄衝撃盾、妹であるシャルティアも使う、攻撃と防御を同時に行うことが出来るスキルの一つだ。
「フッ、今のはスキルか?見たことも無いな」
「あらあら、昔はレベリングの為に、貴方様の前でも何度か使ったことがあるのですが、忘れてしまわれたのですかぁ?」
「(うっ、流石にちょっと厳しいか?)そうだったか?」
「……いいでしょう、忘れてしまったと言うならもう一度教えればいいのですから」
そう言いながら、右手でスキルを発動する。
それは光りながら高速で回転する大きな斧のような形の物であった。
「いいですか?これはシャルティアの持つ清浄投擲槍と同じ種類のスキル、
「マジックキャスターにスキルを避けろとは、無茶を言うものだな……!!」
「ね」で投げられたそれはアーチ型に旋回しながらモモンガの身体へと吸い込まれるように投擲され、モモンガの身体を斬り付ける。
「ぬがぁっ!!」
「(大した演技力ですねぇ、モモンガ様……!本当はそんなに効いていないのでしょう?でも、ここは騙されたふりをしてあげますよ!)
おやおや、大丈夫ですか?だから避けてくださいと言ったではないですか!
(…………ん?何故騙されたふりをしなければならないの?……まぁいいや)」
ちなみに、ここで避けろというのは例えモモンガがマジックキャスターでなかったとしても不可能である。
このスキルも清浄投擲槍同様、MPを使えば必中効果を付与することが可能であるからだ。
ちなみに清浄投擲槍との違いは、その演出(エフェクト)と、刺突ダメージか斬撃かと、清浄投擲斧の場合は同時に二つ投げる事が出来る点である(その場合回数も二つ減るのだが)
「まだまだ行きますよ!《清浄投擲斧》!」
「舐めるな!!《リアリティ・スラッシュ/現断》!!」
先程と同様に投擲された清浄投擲斧を食らうモモンガだったが、それと同時に放った空間そのものを斬り付け、景色がズルリと滑り、エレティカの胴体から大量の血が吹き出る。
だが、その大きなダメージとなったと思われる一撃は、エレティカのスキルによって、まるで水面を叩いたかのようにぐにゃりと揺れ、元に戻ったときにはダメージも無かったことになってしまっていた。
「ただの回復ではないな?何をした!」
「スキル、《水の月》ですよ。もしかして、わざとやってますかぁ?そんなに私に興味が無かったなんて、悲しいです。くすん」
「……それは本音か?」
「もちろん」
あからさまに悲しいですという反応に一瞬「どう見ても嘘だが、それはそれで、興味を持たれなかったとしても悲しくもなんともないという事実になって悲しい……」と思いつつ、再びモモンガは魔法を放つ。
そして対するエレティカもまた同じ清浄投擲斧だ。
……これでエレティカが今日撃てる清浄投擲斧の回数が0になった。
「(でも、MPはだいぶ削れている……随分と減っているように見えるHPは偽装だろうけどね……そして私にはまだ攻撃出来るスキルはいくつか残ってる……)《イクスプロージョンサークル》!」
「《トリプレット・マキシマイズマジック・コール・グレーター・サンダー/魔法三重化・魔法最強化・万雷の撃滅》」
モモンガが魔法を発動すると、一瞬でエレティカに向かって雷の魔法が牙を剥く。
たいするエレティカのスキルはモモンガの居る地点を中心に爆発を起こすスキル。
それは炎属性によるものであり、炎属性はモモンガの弱点でもあった。
ただし、その威力はMPの付加量に比例する。
彼女のMPは(彼女の基準では)決して多いと言えるほどではない為、連発は出来ない。
「キャアァァ!!」
「くっ……!!(くそっ、いってぇ!!!だが、ここは悟られないようにせねば……!!)」
「……(うわぁ痛そー)おやモモンガ様?炎への対策は?」
「……弱点を補うのは基本だろう?」
「(……ここで本来なら騙されて神聖魔法を使うべきなのでしょうが……生憎私は信仰系マジックキャスターではない為、スキル以外での攻撃は出来ない。かといってスキルで攻撃したとしても、魔法で対応されて魔法戦に持ち込まれてはモモンガ様の方が圧倒的に分がある。ならば……直接攻撃あるのみ!…………はて?別に騙されていないのならもう一度炎属性の攻撃をすればいいだけなのでは?まぁいいか)」
本格的にハルバードを構えたのと同時に、モモンガが防御魔法をかける。
「いい判断です」と心の中で賞賛しながら、エレティカは地面を蹴ろうとする。
だがしかし、刹那聞こえてきた声によって、その足はすんでのところで止まってしまう。
「……まったく、なんて不利な戦いなんだ……」
「……なら、逃げればいいじゃないですか?」
「まぁそうなんだけどなぁ……私は……そう、非常に我が儘なんだよ、エレティカ。逃げたくないんだ……誰にも理解されないかもしれないが、私はこの瞬間にギルド長としての満足感を得ているんだ。何だろうな……
私は……いや俺は、ギルド長の地位にあったが、基本的にやっていたのは実務や調整だ。だが今の俺は、ギルドの為に戦闘で戦っている。
……自己満足かもしれないな」
「……モモンガ様は、自分の事を我が儘だと仰言いましたが、それは私も同じ事です」
「何?」
「妹と仲間や親が殺し合うのを見るのも、かといって自分の手で殺すのも嫌だからという理由で、ナザリックに反逆行為にも等しい行為を行っているのですから」
「エレティカ!?お前……!!」
モモンガにとってそれは驚愕するに、驚愕で全身が雷に撃たれたかのような衝撃を受けるに十分な言葉。
エレティカは、精神支配状態でありながら、自らが行っている行為、そして置かれている状況について理解したのだ。
無論、「エレティカの強い精神がうんぬん」という精神論ではない。
これは、原作知識によるものだ。
エレティカは最初戦いながら、この戦いに既視感を覚えていた。
初めに突っ込んでから違和感を覚えた。
この戦いはどこかで見たことがある。
こうなる事を私は知っていたはずだ、と。
そしてモモンガと相対するのは本来自分ではなく、シャルティアだったハズだが。
妹が”精神支配”によってナザリックに敵対し、それを殺す為にモモンガが戦うという本来のシナリオ。
だが思い出せるのは、”それが起こってから、本来はこうだった”という事のみ。
次にモモンガがどんな一手を繰り出してくるのか、それが思い出せなかった。
そして思考すらも、目の前の敵を打ち倒すためにはどうすればいいか。
それだけを冷静に分析して考えている戦闘マシーンと化しており、今でもエレティカは本気でモモンガを殺そうと、その原作知識すら利用している。
だが、今、自らの心中を吐露するというモモンガの行為は、結果として一瞬だけエレティカの霞んだ脳を戦闘から切り離すことに成功した。
ただし思い出したのはあくまで今までの事。
未だに、原作でこの後どうなったのか、シャルティアが勝利したのか、それともモモンガが勝利したのか、それすらも思い出せないでいた。
シャルティアが精神支配を受ける前後の出来事を覚えていなかったように、エレティカもまた精神支配を受け、いくつか記憶が飛んでいるのだ。
原作知識を有して、モモンガのそれが演技だと分かっていながらそれに乗るのは、単純に「原作にないルートへ行くと原作知識を活用することができなくなるから」というただそれだけの理由である。
自らがこうなる前に事前に何年も時間をかけて手を打っておいた、”最後の安全装置”の事すら今は忘れてしまっている。
一方でモモンガはそれを聞いて驚愕していた。
NPC同士で殺し合うのも、親子同士で戦うのも見たくないという自分と全く同じ理由がこの反逆行為の理由だったからだ。
仲間同士で殺し合うのを見たくない。そしてそれに加えてエレティカは、自分の手で殺すのも嫌だと言った。
それが彼女が反逆行為に等しい独断専行に走った理由……。
そして、彼女がこの戦いにおいて本当に望んでいるのは、自身を俺に殺してもらうという事であると、理解してしまった。
「無駄話はこれくらいで十分でしょう?では行きますよ、モモンガ様、せいぜい死なないで下さいね?《眷属召喚》!!」
そして、先程も言われた「避けてくださいね」や「死なないでくださいね」が、挑発などではなく、彼女の本心から来る言葉だと知る。
「……チッ、《シャークスサイクロン/大顎の竜巻》!!」
エレティカはシャルティアと同様、トゥルーヴァンパイアであるため、そのスキルである眷属の召喚もスキルとして行う事が出来る。
それを見て、一斉に排除することが可能な、大きな竜巻を巻き起こす魔法を行使するモモンガだったが、それに視界を遮られてしまう。
「(《オーバーヘイスト/限界加速》そして《タイム・アクセラレーター/自己時間加速》!!)」
そしてエレティカがその隙を見逃すはずもなく、所有する数少ない魔法の一つ、自分と自分の体感時間を加速させる魔法を行使し、限界まで自分の速度を底上げし、先程の突進より更に早く、竜巻を突き抜け、ハルバードを振りかぶる。
「加速したか……!!」
そのままハルバードの刃がモモンガを斬り付け、鉄よりも強固な骨であるモモンガの身体に刃が振り下ろされ、金属でも叩きつけたかのような甲高い音が鳴り響く。
「くっ……!《ボディ・オブ・イファルジエントベリル/光輝緑の体》発動!」
しかし次の瞬間発動された魔法によりモモンガの姿がブレ、刃の届かない程度の後方へとモモンガの位置がずれ、一瞬ではあるがエレティカの体勢が崩れる。
エレティカのスピードではほんの一瞬が命取りである。その隙を逃す手はない。
「《グレーターマジックシール/上位魔法封印》、開放!」
「ぐぬぅぅぅぅ……!!」
この魔法により、エレティカの数少ない自身を強化する魔法を封じられる。
そして今現在働いている魔法の効果も、永久ではない。
効果が続いているうちに!と、ダメージを負ったもののそこで踏みとどまり、再度ハルバードを叩きつける。
「ぐあぁっ!!!……くっ、《フライ/飛行》!!」
「逃がすかぁ!!」
「《トリプレット・マキシマイズマジック・リアリティ・スラッシュ/魔法三重化・魔法最強化・現断》!!」
すかさず追撃を加えんと高速で飛び上がるエレティカに対し、三重化、最強化した一撃を放つ、が、エレティカの勢いを止めるまでには至らず。
「《不浄衝撃盾》!!」
「ぐあぁぁっ!!」
本日二度目の不浄衝撃盾……エレティカはこれでもう不浄衝撃盾を使うことはできなくなった。
地面に叩きつけられるモモンガ、そしてそこに降り立つエレティカ。
だが、今ので魔法による強化の時間は切れてしまったらしい。
代わりに、火力を最も底上げする、シャルティアも持つ切り札を出す。
「……来たか、遂に来たか!お前達姉妹の最強の切り札!」
「《エインヘリヤル》!!」
それは、自身の分身を作り出すスキルであり、造られた分身は単純な直接戦闘しか出来ないが、武装や能力値は本体と一切遜色が無いという、今の状況で言うならば実質驚異度が二倍に跳ね上がったも同然であった。
「《眷属召喚》!!」
そして続けて眷属を召喚する。
召喚されるのは影で作られたネズミのような魔物と、同じく影の狼、そしてカラスといった、シャルティアとほぼ同じ構成のもの。
ただし、エレティカの持つ「血で血を洗う」は、シャルティアの持つスポイトランスのように、ダメージさえ与えれば良いというものではない。
飽くまで戦いに勝利することで始めて全快してくれるというものだ。
この場合の戦いとは、自らが召喚した眷属等、元々フレンドリーファイアが解禁されていなかったユグドラシルの世界に置いて仲間との戦いは想定外の物であり、それはこちらでも同じだと考えられるし、そもそも仲間同士では「敵との勝負に勝利する」という前提条件が満たせない。
よって、シャルティアのスポイトランスと違い、「血で血を洗う」は眷属をいくら叩き潰したところで回復を行う事は出来ない。
「行きますよモモンガ様?繰り返して言いますが、死なないでくださいね?」
「本当にそう思っているなら少しは手加減をしろ!!」
そこから繰り出されるのは超高速のハルバード捌きによる攻撃。
本来前衛の者を相手にするにも十分オーバーキルになり得る猛攻は、猛烈なヒット数を叩き出し、モモンガのHPを削っていく。
モモンガも、《ウォール・オブ・スケルトン/骸骨壁》等の魔法を使うものの、時間稼ぎにしかならない。
だが、それでいい。
時間稼ぎこそモモンガの目的なのだから。
「ここで終わりだ!<The goal of all life is death/あらゆる生ある者の目指すところは死である>!!」
モモンガの背中に、巨大な、そして極めて不吉なオーラを放つ時計版が出現し、大きな歯車が忙しなく回り、針を動かしていく。
「《ワイデンマジック・クライ・オブ・ザ・バンシー/魔法効果範囲拡大・嘆きの妖精の絶叫》!!」
続けて使用する魔法によって、名状しがたい、子供のような、あるいは化物のような、何とも言い難い者の耳をつんざく絶叫が辺りに鳴り響き、眷属たちの動きが止まる。
そして歯車の音を立てながら時計の針は進む。
その間も続く攻防戦。
斬る、躱す。
斬る、躱す。
斬る、斬られる。
斬る、斬られる。
そして全てに終わりを、死を告げる終焉の鐘が鳴り響く。
刹那、辺りが光で包まれ、作られた分身であるエインヘリヤルも、眷属も、そしてエレティカもその光に飲まれ、消滅していく。
そしてやがて音すら消え、空気すらも死んで真空状態に、土をも命を奪われ、死んで砂漠化していく。
そして光が晴れると、そこにあったのはまるで森の中の一角、そこだけが砂漠になってしまったかの様な光景であった。
土は砂漠に、その地に一切の生命はなく、真空状態から戻ろうとして発生した風によって砂嵐が吹き荒れる。
まさに死の土地であった。
そしてそんな死の土地に立っているのは一人のオーバーロード、そして……
「眷属達は全て死んだようですね……私も、姉妹でペロロンチーノ様から頂いた、一度だけ死亡を無かったことにできる蘇生アイテムが無ければ、危ないところでした」
先程と何も変わらない姿で……いや、むしろ蘇生アイテムによってHPが全快し先程よりも活き活きとした顔でクスクスと笑うエレティカの姿だった。
絶望。
見ていた者の脳裏にそんな言葉がちらつく。
「終わりです、モモンガ様、逃げるならお早目にご決断を。それか仲間を呼んでも構いませんよ?”我が儘”を通してここで死ぬというのでしたら、最後に遺言を聞いて差し上げましょう」
「ああ、そうだな……私の方が性能的に不利だから……MPを使い切れば雑魚だから……そう思って温存することなくスキルを使ってくれたお前に、深い感謝を贈るよ。でなければ、こうも上手く事を運ぶことは出来なかった」
まさかの8500字越え。
(ちなみに次回も長い)