(旧)ユグドラシルのNPCに転生しました。   作:政田正彦

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冒険者編第二章(3/4)

 「しかし、こんだけ見渡しが良いんだ。隊列を組む必要もなかったかもなぁ。」

 「警戒は大切だ。いつ何が起こるか分からないんだぞ。」

 「ここから見えるあの氷山にはフロストドラゴンが棲んでいるという話もありますし、警戒するに越した事はないと思います。」

 「ほう、ドラゴンですか。」

 

 氷山の上にフロストドラゴンというドラゴンが生息しているという話から、大昔には、それよりももっと強い、天変地異を操るドラゴンが居たらしいがしかし名前は忘れてしまったという話などをした。

 本来はここで、少しだけモモンとニニャの間の暗い空気が晴れるのだが、そもそも逆鱗に触れた訳でもないため、他愛のない話をしている、という意識しかなかった。

 

 エレティカとしては、「あれ、そういえばこの話って結局どうなったんだっけ。ニニャが死んでしまったから、アニメでは知らないまま終わったけど。」と記憶を遡る。

 しかし思い出す前に、ンフィーレアが、「あれ、おかしいな……」と声を漏らす。

 

 「どうかしましたか?」

 「いえ、前に来た時は、あんな頑丈そうな柵無かったと思うんですが……。」

 

 それは木で作られた柵であり、上の部分は針のように鋭く尖っているそれは閉鎖的で攻撃的な印象を持たせる。国の兵士の駐屯地だと言われても信じてしまいそうだ。

 それを見て、一同はあからさまに警戒の色を強める。

 

 しかし、村からは特に、誰かの悲鳴や怒号が聞こえるだとか、火の気が上がっているだとか、殺気立った気配があるだとかいう訳ではなく、ひとまず、人がいるのであれば話を聞いてみようという事になった。

 

 そして、門、と思われる場所に近づいた瞬間である。

 

 「あれは!?」

 

 ぞろぞろと現れたのは、武装したゴブリンの集団。

 いつの間にか四方八方をゴブリンに囲まれ、絶体絶命かと思われる状態に陥っていた。

 まさに一触即発、そんな雰囲気の中、ゴブリンの一匹がこう言い放つ。

 

 「お兄さん方、こっちとしては戦闘は本意ではないんですよ。武装を解除してくれますかねぇ。特にそこのフルプレートの兄ちゃん、あんたからはヤベェ雰囲気ってのをバリバリ感じるぜ。」

 

 やや荒っぽい声色でありながら、ゴブリンでは珍しい程丁寧な口調でそう告げる。

 ちなみに普通のゴブリンの口調は「クラエ!」とか「キエロ!」とかである。

 

 武装を解除しろ、と言われた漆黒の剣とモモン達であったが、四方八方を魔物に取り囲まれて、剣や弓矢を突きつけられている現状で、武装を解除しろと言われてはい、そうですかと言うわけもなく、その場でしばらく硬直状態が続く。

 

 だがそれは長くは続く事は無かった。

 いち早く「姐さん」を呼びに行ったゴブリンが「姐さん」を呼んで戻って来たからであり、その姐さんこそ、この状況を解除するその人であった。

 

 

 「どうしたの?ゴブリンさん。」

 「おお、姐さん。」

 

 「エンリ!?」

 「え?ンフィー!?」

 

 そう叫んだンフィーレアの言葉を聞いて、漆黒の剣の面々は昨夜聞いたンフィーレアの甘酸っぱい話に登場した、「エンリ」と言う可愛らしい村娘の話と、その容姿を教えてもらったことを思い出す。

 そして今現れた村娘がその特徴そのものであることを。

 「あの子!」「であるな。」

 

 あの娘の様子を見るに、どうやら危険はないようだと判断した漆黒の剣達は、武装を解除する。

 モモンの方は、「村に来る薬師が魔法を使える」と言うエンリの言葉を思い出し、それはンフィーレアの事だったのだなと一人「縁とはどこでどう繋がるか分かったものではないな。」とこぼした。

 

 

 

 ひと段落つくと、ンフィーレアは冒険者のみなさんには申し訳ないが、この村に何があったのか知りたい、とエンリと家の中へ入っていき、それを漆黒の剣の面々とモモン達は了承し、村を見ていく事にした。

 その心境には「片思いの女の子と二人きりになるんだから、邪魔をしないでやろう」と言う心もある。

 

 エレティカはと言えば、「あの赤いポーションの事もあるし、エンリと話すことで、モモンやティカの正体はバレるだろうなぁ」と思っていた。

 

 そんなエレティカとモモンが見ているのは、村人達がゴブリン達による弓術の教授を受けている所であり、ついこないだまで弓を持った事もない村人達にしては上出来、と言った結果に「なかなかやるじゃないか」と感想をこぼしていた。

 

 「ついこの間まで戦うことを知らなかった村人が、生きるために戦い方を学ぼうと、友人を、仲間を、親兄弟を守ろうとしている。ナザリックの者達に比べればまだまだお粗末な者だが、その逞しく生きる姿は、賞賛するべきだ。」

 「その通りだと思います。モモンさん。」

 

 

 フッとヘルムの下に笑みを作るモモン。

 気分はさながら、武の道を極めた武闘家が稽古に励む弟子やその子供を見るようなそれである。

 

 「ペロロンチーノさんにも今度話を聞いてみようか。」

 「そうですね、いいと思います。」

 

 と、そこに、どうやら話を終えた……訳ではなく、何故か酷く焦った様子のンフィーレアが走って来るのが見える。

 

 「モモンさん!!」

 

 「どうしました、そんなに慌てて。」

 

 はぁはぁと息を切らし汗を垂らすンフィーレアに、まさか不測の事態に陥ったのかとモモンも若干警戒を強める。

 だがその次に言うンフィーレアの言葉に呆気に取られる。

 

 

 「モモンさんは、アインズ・ウール・ゴウンの方なのでしょうか!!?」

 

  

 そのかなり確信を持っているらしい表情に思わず身じろぎするモモンだったが、咄嗟に「何のことかな。」としらばっくれるものの、それはンフィーレアから見て、謙虚で囃し立てられたりお礼を言われたりすることに慣れていない、シャイな人物であると言うようにしか見えなかった。

 エレティカの「あーあぁバレちゃった」とでも言いたげな表情もあったが。

 

 「あの、分かってます。名前や所属する場所を隠すのには何か理由があるんだろうなと思います……それでも言わずには居られなくて……この村を……僕の好きな人を守ってくれて、ありがとうございました!」

 

 と、ここまで真剣に言われ、モモンはそれに答えるべく、ため息を漏らしながら早々に観念することにし、怪訝そうな声で疑問を口にする。

 

 「どうして分かった?」

 「きっかけは、あの赤いポーションでした。同じ色のポーションである事や、異邦人らしいと言う事、この辺りの国や事情について疎いと言う事などが共通点として見られたので、もしかしてと思ったのと、あとは、モモンさんの強さ、ティカさんの魔法、ですかね。」

 

 成る程言われてみれば確かにと言う風に納得した様子を見せるモモン。

 むしろここまで共通点があって何の関係もないと思う方が難しい。

 ティカに至っては名前が知られていると言ってもいいだろう。

 彼女達と会った時に名乗った覚えこそないが、そういえばあの姉妹の前で「エレティカ」と何度か呼んだことがあったかもしれないからだ。

 少し安直すぎたかと少し後悔したモモンだったが、下手なネーミングで偽名を名乗れとか言ったらペロロンチーノさんになんて言われるか分からないので、略すしか無かったんだと正当化する。

 

 そして、なんのことかわからない、といいつつ、あからさまにどこか焦った様子のモモンの対応から考えれば一発で、それこそ目の前の少年でも理解できるだろう。 

 実を言うと、ンフィーレアはそうでなかったのなら、「ではアインズ・ウール・ゴウンと言う人たちに何か心当たりはありませんか?」とでも言うつもりだったのだ。

 

 「大したことはしていない。困っている人が居たら、助けるのは当たり前の事だ。」

 「それでも、ありがとうございます……それで、えっと、もう貴方なら気づいていると思うんですが、実は今回の依頼は、貴方達から、どうにかあの赤いポーションの製法、その糸口が掴めないかと思いまして、その……。」

 

 後半はかなりの小声で、震えるように「すみませんでした」と謝罪するンフィーレア。

 しかしそれをモモンは「何を謝ることがあるんだ?」と不思議そうに返す。

 

 

 「今回の依頼はコネクション作りの一環だったのだろう?何が問題だと言うんだ?そもそも君は赤いポーションの製法を知って、どうするつもりだったのだね。」

 

 「エッ!!?えっと、それは、知識欲と言いますか、その……特に考えていませんでした。」

 

 「悪用するつもりだったのならともかく、そうでないなら、私としては、私達がアインズ・ウール・ゴウンに属していると、誰かに言いふらしたりしなければ、言うことはない。ついでにその赤いポーションについてだが……まぁ、考えておくとしよう。だが期待はしないでくれ。」

 

 「は、はい!ありがとうございます!!」

 

 

 そうンフィーレアが言い終わると、話は終わったなと言うように視線を元に戻したモモンだったが、それを眩しいものを見るように、憧れるようにンフィーレアは見続けた。

 流石はエンリが凄いと言うだけの人物だと。

 

 同時に、もしもモモンが居なければ?と考える。

 

 もしもモモンがたまたま村が襲撃されている時に通りがかって居なかったら、今頃エンリは。

 

 いや、例えばそこに自分が居たとして、彼女の両親が殺されてしまうよりも早く居たとして、尚且つ手に漆黒の剣の方が使っていたような剣が転がっていたとして、そんな状況であったとして自分に何が出来ただろう。

 

 恐らくは何も出来はしないだろうと彼の頭脳はそう結論付けた。

 

 彼は自分の「弱さ」を誰よりも理解していたから。

 

 

 もっと強くなりたい。

 

 愛する人を守れるぐらい、強く。

 

 モモンさんのようになりたいとまでは言わない。

 

 けれど、それに少しでも近づく事が出来るなら、なんて考えてしまう自分は愚かだろうか。

 

 

 モモン、という名の、アインズ・ウール・ゴウンの誇り高き戦士、いや、この村を救った英雄を前にして、少年はそんな事を思うのだった。

 

 

 「すみません、私のせいで……。」

 「いや、お前のせいではあるまい、私達の警戒が少し足らなかっただけだ。」

 

 

 短くそんなやりとりをし、どうやら準備を終えたらしい漆黒の剣と合流し、一行は本命であった薬草回収へと、森へ向かうことにした。




ちょっと短いかも。
後で書き足すかもしれません。

次はようやく奴が出るぞ奴が~。

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