「先日は祖母がご迷惑を……。」
「いえいえ、私達の方こそ、知らなかったとはいえあんな物を突然持ち込んでしまって……。」
現在、未だに冒険者ギルドに居るのだが、まぁ、思ったとおりというか……。
モモンとンフィーレアは再会するやいなやお互いに謝り合うという良く分からない事態に陥っていた。尤も現代日本において考えるならこれはよく見られる光景なのだが、ここは異世界。
それを見ている漆黒の剣の人たちは妙な物を見るような顔でそれを見ている。
そしてその心情の中には「あれ?知り会いだったの?」という気持ちも含まれている。
「モモンさんって、ンフィーレア=バレアレさんと知り合いだったのですか?」
「ん。昨日街についたばかりの頃、ポーションを買いに行くのと、手持ちのアイテムの価値を鑑定して貰うために、彼の店を訪れたの。しかしまさかタレント持ちだったとは知らなかったけど。」
と漆黒の剣のメンバーには小声で説明しておく。
ひとまず納得、という顔を見せた彼らだったが、次のモモンの言葉で驚愕の顔に変わる。
「それで、私に指名の依頼があるとの事なのですが……すみませんが私は既に別の仕事を請け負った身。光栄なお話だとは思いますが……。」
「モモンさん!名指しの依頼ですよ!?」
「そうかもしれませんが、それでも先に依頼を受けた方を優先させるのは当然でしょう。」
至極尤もな発言ではある、が、それを言える冒険者はなかなか多い方ではない。
何より漆黒の剣のメンバーからしてみれば自分たちの依頼のせいで、モモンの指名の依頼を無かったことにしてしまったかもしれない。
そこまでは考えていなかったかもしれないが、ペテルは「しかし、折角の依頼が……」と食い下がる。
無論、モモンもここで本当に「いやいや順番は順番だから」等と頭の固い事を言うつもりはない。
「であれば、どうでしょう。彼の話を聞いてから、考えるということで。」
そうして、場所を変えて、もう一度話し合うことにした。
「今回、薬草採集の為に、カルネ村近くの森まで行こうと思うのですが、そこまでの警護と、薬草採集の手伝いを依頼したいのです。」
それが、ンフィーレアの依頼の概要。
ごくごく一般的な警護の依頼だったが……。
「(少し厄介だな、俺もエレティカも人を守るスキルは持っていないし……ぶくぶく茶釜さんだったら違ったかもしれないが。)」
が、いつまでも悩んでいるわけではない。そう思考し、自分に出来ないのなら、と思考を切り替えてからは早かった。
「報酬は規定の……」と言いかけたンフィーレアに被さるように、「ペテルさん、私に雇われませんか?」と言うモモン。
ペテルも、一応話しは聞いていたが、まさか自分に話が回ってくるとは思っていなかったし、雇われないかと言われるとは考えてもみなかった。
「というと?」
「警護任務となると、レンジャーであるルクルットさんのような方が必要ですし、森での採集ならば、ドルイドであるダインさんが居てくれた方が、効率が良いのではないでしょうか。」
名指しされた二人はそれぞれふむと頷く。
「うむ、モモン氏の慧眼、お見事である。」
「こっちは全然問題ないぜ。」
そして、リーダーであるペテルも「ありがたい申し出です!」と嬉しそうに笑い、ンフィーレアも「僕もそれで問題ありません!」と同意する旨を示す。
こうして漆黒の剣と漆黒の二人、そしてンフィーレアの一行はようやく冒険ギルドを後にした。
▼△ 一方その頃 △▼
「……成程、では今頃モモンガ様とエレティカは初の冒険者としての活動に身を投じているという訳ね……では、引き続き監視を。特にエレティカがモモンガ様に色目を遣ってはいないかとか私について何か言っていたとか二人の仲が進展しそうだとかそういう話がもし、もしもあったなら、何よりも早く私に知らせるようにっ!!」
現在、アルベドは二人の監視である従僕達(
アルベドは人間の街に潜入する等の事に向いていない。
それは単に彼女が人間の事を嫌っている等という理由もあるが、そもそも人に扮装する為に必要なスキルを持っていないのである。
その為、人間に近い容姿であり、偽装が楽で、その為のスキルも所持しており、何より人間への理解に長けているといった、こと人間の街への潜入捜査、冒険者として活動するにあたって、エレティカ程それに長けている者は居ない、であるからして、彼女がモモンガ様と現在
しかし理解しているのと不満とか未練とか悔しさとか嫉妬だとかが無いというのとはまた別の話であり、まぁ、要するに、アルベドは彼女に嫉妬していたのである。
とはいえこれがもしシャルティアのようなモモンガ様にあからさまな好意を向ける様な女だったら、アルベドは強引にでもついていこうとしていたかもしれない。
今現在大人しくモモンガの帰りを待っていられるのは一重に、必死に「人間に扮して人間の街で調査をしようと思う」というモモンガを必死に思い止まらせようとした、アルベドに対するデミウルゴスの「良妻たるもの、夫の帰りを待って、家を守る者ではないですか?」と言われた事、そして、エレティカがシャルティアほどモモンガに対してこれといった好意を見せたことがない事がその理由である。
だが今から考えてみれば前者はまだしも後者は「それは理由としてどうなんだろう?」と思えなくもない。
何故なら相手は何と言っても我らが絶対の忠誠を誓う御身そのお方であるのだ。
一緒に……二人きりで、私やシャルティアといった障害がない場所で、あの御身と、肩を合わせて、夜を……くふーーーっ
……なんて事になったとして、嬉しくない女が居るだろうか!?
いや居ない!!断じて居ない!!少なくともナザリックの女、いや男ですら、それが嬉しくない者が居る訳が無い!!!
いや、流石にペロロンチーノ様やぶくぶく茶釜様といった至高の御方々本人の御心はアルベドの知る所ではないにしても……。
ではエレティカはどうなのだろう?
普段でこそ、常に冷静であり……(倉庫のアイテムの事故でひと悶着あったようだが)モモンガ様への好意をあまり表には出さない彼女であるが、もしそれが二人きりになったとしたらどうだろうか?
私や妹のシャルティアの目が無い場所での彼女はどうだろうか?
「モモンガ様ぁ……今日も、いつものアレが……ほしいですぅ……っ。」
「んん?アレでは分からんな……ちゃんと言ってくれ。」
「そんなぁ、意地の悪い事を言わないで下さい……分かってるくせに……」
「フム……では今日は要らないのだな?」
「あぁっ、そんなぁ、欲しい、欲しいですぅ、(自主規制)がぁ!モモンガ様の(自主規制)で(自主規制)な(自主規制)が欲しいのぉ!!」
……なんて事にッなっているのではッ!!?
なんて羨ま、いや、けしからんッ!むしろ憎いっ!!
っていうか何故にモモンガ様の方が攻めなのかっ!?
アルベドは理不尽な嫉妬の炎に燃えながら着々と与えられた仕事をこなしていく。
夫(モモンガ)の帰りを待ちながら……。
「「っ!!?」」ゾワワァ
「ん?どうかしました?お二人共?」
「「い、いや、なんか悪寒が……。」」
何か物凄い理不尽な理由で凄まじい怨念の気を当てられているような気がするんだが……多分アルベドかシャルティアだろうな……念のために後で何か言っておこう。
「大丈夫ですか?」
「あぁ、多分気のせいだろう。」
「そうですか?……あっ、ここからちょっと危険な地帯に入りますので、その時はよろしくお願いしますね。」
「分かりました。」
危険な地帯、と聞いて気を引き締めるティカとモモン。
それを見て、ルクルットが笑いかけながらこう告げる。
「ま、ティカちゃんさ、そんなに心配する事ねぇって、俺が耳であり目である限りは問題ナッシング。どうよ、俺、凄くない?」
「ええ、頼りにしてるからね?」
「お、おうよ!」
最初こそルクルットはティカの体型を見て、確かに魅力的な女性ではあるが幼すぎるのが原因であまり積極的に口説くようなセリフを言う事は無かったが、ついいつもの癖で、という感じで今のようなセリフを言ったところ、にっこり微笑み返すティカの笑顔と対応にあてられて段々陥落しつつある。
無論本人もその事は分かっているのだが、さてどうしたものかと悩んでいる。
ティカの女性としての魅力は実は彼女の思っている以上の物であり、少ない時間でも彼女と関わった者はそれに気付くだろう。
なにせ、ティカの対応に対して、若干ドキッとしつつ、へへへと照れ笑いするルクルットに対して「相手は幼女だぞ、お前は見境という物が無いのか!」とは誰も言わないし、言えないからだ。
それは、ティカがあらかじめ、見かけ通りの少女だと思われ子ども扱いされるのが苦痛だった為、「このような見た目ですが実は成人しているんだよ」と言ってある。
同時に「私達が住んでいた国では一般的に女性は若く見えるものなの。」とも。
基本的には間違いではない。
成人済み、というのは、ユグドラシルに転生した時点で高校生であり、それからすでに何年か経ち……まぁ少なくとも成人はしている。筈である。本人の精神年齢は永遠に高校生であり、肉体年齢的にも止まったままなのだが。
そして国……ナザリックの者は、どいつもこいつも「え?年齢?百から次は数えていませんねぇ」みたいな設定の化け物か「年齢なんてくだらない、数える必要性すら感じません」みたいな人、そして覚えている人にしても、見た目は可憐な少女なのに実年齢は76という、本人曰く「まだまだ育ちざかり」「うん百年もすれば前に立つだけで某吸血鬼が敗北感で下を向いてしまう程の気だるげな女王様になれる」エルフ、そしてその双子の男の娘が居たりだとか……。
仮に現代日本で考えても他国から見た日本人女性は年齢より見た目が若いと言われる事が多い事で有名でもあるし長寿の国でもある。
うん、何も嘘は言っていないね。
漆黒の剣とンフィーレアは「そんな国が……!?」と胸の大きな少女たちが街を行き交う様子や何故か危険な下着でこちらに手を振ってくる様子を妄想していた。
「で、結局の所、ティカちゃ……ティカさん、って、いくつなんだ?」
「ルクルットさん、女性に年齢を聞くなんて野暮ってもんだよ?」
年齢については特に考えていなかったのでそう返しつつ、「……あぁ、っていうか私はスキルで人間に変化しているだけなんだから、ボンッキュッボンの綺麗なお姉さんにすれば良かったんじゃあ……。」
「髪の毛の色は……黒だとナーベと被るし赤くなってる所を白くすればいいか!肌の色も多少肌色っぽくして……完成!」と簡単な、それこそただの女子高生の時でも出来そうなメイクに似た何かしかしていないエレティカは若干の後悔をしていた。
ようやく冒険の旅へ。