「ふぅ、まさかこんな下級のポーション一つにこんなに翻弄される事になろうとはな……。」
「全くですね……しかし、それだけこの世界と私達の居た世界とでは差異があるという事、どんな所からボロが出るか分からない以上、警戒を強めるべきかと。」
「だな……。」
あれから私達は赤いポーションがこの世界でどれだけの価値があるんだろうか?という疑問を解消させる為にリィジー・バレアレに鑑定してもらう事にしたのだが、まぁ~それはもう凄い剣幕で「これをどこで手に入れた!!?」「なんとか製造方法を知る事は出来んのか!?」とまくし立てられて大変だった。
結局の所、今日の所は「私達は薬師ではない」と一蹴して帰ってきてしまったわけだが。
まぁこれでカルネ村入りするときによりスムーズに話が進めばいう事無し、なんだけどね、モモンガ様は「たかが下級ポーションでこんな目に遭うとは」と結構注意力が高まった感じ、かな?いや、どうだろ……。
「これからは不用意に私達の世界の物を使ったり人に見せたり渡したりするのは避けた方がいいですね。」
「そうだな……まぁ、そこは元からそのつもりだったからいいのだが、より注意するべきだろう。」
大丈夫みたいですね。
リィジー=バレアレさんをカルネ村に誘う時はどうしよう?
ん~~~……まあなんとかなる、かな?
「……時に、ティカよ、人間をどう思う?」
えっ!?それ私にも聞くんで……あっ、そうか、モモンガ様は私のカルマ値とか見れないんだったね、一応私は善寄りだからここは素直に答えるべき、かな?
「そうですね……相手がどのような人間かによりますが、友好的な人間であればそれだけ好意的に感じますし、敵対的であれば、残念ですが、何の感情も沸きません。
せいぜい怒りや悲しみ、哀れみといった程度のものでしょうか。」
「そうか……ティカはそのように割り切って考えているのだな。」
流石にゴミとかノミとかとは思ってはいませんとも。
ただね、ちょっとヴァンパイア寄りになってきたのか、自分に関係ない人物だと目の前で死んでても何の感情も沸かないんだよね。
もしカルネ村のエンリとかネムとかが危険に晒されてたら、少し、いや、かなり怒ると思うけど。
……あぁ、そういえばあの駄犬にほうれんそうを覚えさせ……ん~……そこまでしなくてもいいかな?怒られるのも一つの勉強だと思ってくださいっす。
「では、これからの行動方針について話し合うとするか。」
「承知しました。」
「……ティカ、その、なんだ……もっと砕けた感じで話せないか?」
「え?」
「いや、これから冒険するにあたって、モモンとティカという冒険者は仲間であり、肩を並べる同等の存在、今のままだと、モモンはどこかの王族か貴族、ティカはそれに従う従僕のように見られるのではないか、と思うのだ。」
あぁ、成程、つまり……「普段から敬語だから特に意識してなかったけど正直その敬語で話されるの気が休まらないからせめてモモンの時位もっとフレンドリーに接してくれないかなぁ」という事ですね分かります。
「いえ、それはそうかもしれませんが……よろしいのですか?」
「うむ、構わん。既に出会って会話してしまった連中には……慣れない土地で緊張していた、とか言い訳をするか、いざという時には記憶を弄ればいい。」
記憶を弄るってあなた……まぁいいけどさ。
「えっと…………とは言いましても、その、これが普通ですので……例えば、どのように、その、砕けた口調にすれば?」
「ふむ、ちょっとアバウト過ぎたか?なら、ティカに設定を追加するという形にしよう、そうすればお前も演じられるだろう。」
えっ、まじっすか、自信無いっすよモモンガ様!
「そうだな、じゃあまず……昼にも話していたらしい設定を取り入れて、ティカはモモンと同郷であるという設定はまず大前提に入れよう。出身はここから遠い異国の地である。ここまでは良いとして、問題はティカとモモンの関係性だ。」
「同郷からここまで遥々やってきたわけですから、”冒険において”二人はパートナーのような存在なのでしょうか?」
「うむ、ペロロンチーノさんには悪いがそういう事にしよう、なんなら後で3人になってもいいしな。」
ほへぇ、パートナーになってしまった。
これは……アルベドには絶対に知られないように……。
……っ!おい、そこで監視してる影の悪魔(シャドウデーモン)!!分かってんだろうなッ!!?
「では、モモンとティカは、パートナー同士であり……要するに、気を許せる相手である、という事でしょうか?」
「うむ、であることから、ティカの私に対する口調は敬語ではなく、そうだな……シャルティアやアウラと話す時のように、あるいはセバスやユリと話す時のように。出来るか?」
「もちろんです。も、もちろん、だよ?……もちろんだよっ?」
「おお、そうそう、そういう感じで今後も頼む。」
うおおおなんだこれ凄い恥ずかしいんだけど……。
出鱈目で特にこだわりがなく間違いが多かったとはいえ敬語がいかに便利だったことか……!!
「じゃあ、モモンさん、明日はどうする?」
「そうだな……やはり、当初の予定通り、冒険者ギルドへ行って、クエストというものを受けてみよう。」
「うん、分かった!」
「(……14歳くらいの子がかしこまった口調なのも違和感があったが、これはこれで違和感が凄いな……。いやっ、きっと慣れる筈、なんたってエレティカは元々明るい性格の筈だからな!)」
「(うう……これやばい!すっごい違和感あるんだけど……元々のJKだった頃の自分を思い出せ自分!!)」
((これは早く慣れないとな……。))
全く思惑は別の所ではあるが、二人の心が初めて一つになった瞬間であった。
-翌日の朝/冒険者ギルド/クエストボード前-
((よ、読めない……。))
そしてこれが二回目の心が一つになった瞬間であった。
いやぁ、もしかしたらちょーっと位読めるのではないかと思ったけど全然そんな事無かったぜ!!なんだこれ?適当に書いてるわけじゃないよね?と疑うレベルで何も読めない。
文字を解読する~みたいなアイテムがあったら読めたのかな……?
ひょっとしたら宝物庫にあるものをひっくり返せば見つかるかもしれないけど……、私はまだ指輪をもらってないから宝物庫に入れないんだよね……ただ、ゴミ倉庫にもそれなりに使えそうなものはあったけど。
……えっ?ああ、はい、ええと……そういや気にも留めていませんでしたが周りの冒険者の目は「カッパーの癖に」とか「だがいい女じゃねぇか」とか「どっかのボンボンだろ?」といった……まぁ、気にするに値しませんね。
別段特筆すべき点もないでしょう。
やがてモモンが(うっかりモモンガ様と言わないように脳内でもティカの時はこの呼び方にしようと決めました。)意を決したようにバッと一枚の依頼書をクエストボードから剥がして受付へ歩を進め、その勢いのまま依頼書を受け付け娘の前へバンッと叩き付ける。
「これを受けたい。」
「……申し訳ありません、これはミスリルプレート以上のの冒険者様へのご依頼でして……。」
「知っている。だから持ってきた。」
「ですが、規則ですので。」
「下らん規則だ。」
「依頼に失敗された場合、多くの方の命が失われる場合があります。」
ま、そうですよね~……普通はそうなんでしょうが、まぁ、私達だったら正直余裕なんだよね。
そうは言わないし、言うつもりもないけどね、それが狙いという訳じゃないから。
「ふむ……私の連れは第三位階魔法の使い手だ。」
「えっ!?」
「何っ!?第三位階魔法だと!?」
「あの幼さでか……。」
「しかしだとしたらあの細剣は一体何なんだ?」
幼さとは失礼な!!……と思ったけどよく考えたらみてくれはちょっと格好の良い14歳だから……あれ?この異世界ではそんなに珍しくもなさそうだけども。
……ひょっとして私が思っているより幼く見られているのか?
そう思い、私は少しでも大人っぽく見えるように背筋をピンと伸ばす。
……ああ、ちなみに決して魔法特化という訳ではないのにこの紹介、第三位階魔法の使い手、という設定にした件については全くの嘘、という訳ではなく、私がもっているこの細剣や隠し持っているマジックアイテムに秘密がある。
まずその細剣についての説明だが、まず名前は【雷鳴のレイピア】という名前の……まぁざっくり説明するとこの剣は戦士系のクラスを持つ者が持つと第三位階魔法の雷系魔法に相当する雷魔法を放つ事が出来る、という名前のまんまの特殊性能を持つレイピア。ただし攻撃力は同じ等級のマジックアイテムの中でも決して優れているとは言えないというレベルの物。
他にも、身体強化系の魔法を使えるようになる腕輪とか、魔力増強の効果がある髪留め、その他、マジックアイテムがetc……。
完璧に”すごい強い”第三位階魔法の使い手に化けられるようにした装備だ。
「そして私も彼女に匹敵するだけの戦士だと自負している。私達は実力に見合った高いレベルの依頼を希望する。」
「……申し訳ありませんが規則ですので……それは出来ません。」
「……そうか、我儘を言ったようで悪かった。ではカッパーのプレ―トで一番難易度の高い物を見繕ってくれ。」
「かしこまりました。」
よしっ誘導成功だねモモンガ様!じゃない、モモンさん!流石!
「でしたら、私達の仕事を手伝いませんか?」
「は……?」
おっ!で、出たー!
現れたのは四人の冒険者のグループ。
そう、ご存知「漆黒の剣」のメンバーだ。
もう先に言っちゃうけど絶対救ってやるからな~っ!!
「私が漆黒の剣のリーダー、ペテル=モークです。」
いやぁ、実際見てみるとマジでなんていうか、こう、好青年を絵に描いたような人だなぁと思う。
爽やか……爽やか系イケメン?
こういうキャラに限って実は暗い過去があってそれを心を許した人にだけ見せてくれるんだけどその一面にギャップを感じて萌えーーーっ!!!!
……つってね、多分そんなことはない。と思う。
「そしてあちらが、チームの目と耳である、レンジャーのルクルット=ボルブ。」
「はぁ~い。」
でこっちがチャラい系イケメン。
チャラい、執拗なまでにチャラい。
必要以上にチャラい。
でもこういうキャラに限ってやるときはやるし守るべき物を守る時の真剣な顔にギャップを覚えて、も、も、萌えーーーーーっ!!!!
……いや、うん、これは多分そうなんじゃないかな?私はそんな趣味ないけど。
「そして治癒魔法や自然を操る魔法を使う、ドルイドのダイン=ウッドワンダー。」
「よろしくお願いする。」
この……この人のである口調っていうのは、実際には「~である」って発音しているわけじゃなく、私達の耳に届くまでに翻訳されているわけだから、実際にはそういう……訛りのようなものなんだろうね。
萌えポイント?あなたはいきなり何を言ってるんですか?
訛りってのがそもそも萌えポイントでしょう!
まったくもう!!
……いえ私はそういう趣味はないんですけどね?
「そして最後に、このチームの頭脳、ニニャ=ザ=スペルキャスター。」
二次創作では嫁にされたり姉と再会を果たして幸せになったりモモンさんラブになったり実験体にされたり死んだのに生き返らされたりと色々な運命の分かれ道があるニニャちゃんだけど……。
もっかい言うけど絶対救ったるからな~見とけよ見とけよ~。
え?男装っ子ですか?
んー……………………アウラのが可愛い、かな。
「よろしくお願いします。しかしペテル、その恥ずかしい二つ名やめません?」
「え?いいじゃないですか。」
「コイツ、タレント持ちなんだ。」
「ほう、タレント。」
この世界の生まれついての特殊能力、タレント。
正直これがユグドラシル時代に有ったとしたらどんな事になってたんだろう?
……ほしい能力が出るまでリセマラとか有り得そうだな……少なくともこのギルドの人達は絶対半数はやるだろうな……。
かくいう私もソシャゲとかでほしい物が出るまでリセマラし続けて及第点と呼ばれる物が出たらやめるって感じだったし。
ちなみにニニャちゃんは魔法適性というタレント持ちで、習得にかかる時間が半分になるとかいう結構強いタレント持ち。
羨ましい……のか?
「この能力を持って生まれたのは、幸運でした。夢を叶える第一歩が踏み出せたのですから。」
「まぁなんにせよ、この街でも有名なタレント持ちですね。」
「でも、私よりも有名なタレント持ちが、この街には居ますけどね。」
「バレアレ氏であるな。」
「……(え゛っ?い、いやもしかしたら同名か同性の人物かも知れないし……)ほう?あぁ、私はモモン、こちらはティカといいます。よろしくお願いします。
……して、そのバレアレという人のタレントとは?」
「成る程、彼のことを知らないという事は、この街の人ではないのですね。」
「彼はリィジー=バレアレというこの街で1番の薬師の孫で、名前をンフィーレア=バレアレといいます。確か、どんなマジックアイテムでも使用可能、というタレントの持ち主です。」
「それは……凄いですね。(ウッソ!?そんな凄い能力を持った奴だったのか!?何も知らずにコンタクトを取ってしまったが……。)」
すかさずメッセージ。
「(モモンさん、これは好都合ですね。そんな有名な人物と事前に知り合う事が出来たのですから、上手くすれば情報源として大いに期待出来るでしょう。もちろんそのタレントの危険性は楽観視できませんが。)」
「(ティカ……。ウム、そうだな、前向きに考えれば確かにそういう見方も出来る、しかしやはり危険だ、今後彼と接触する際は警戒は怠らないように。)」
「(承知しました。)」
「それで、今回の仕事の話なのですが……」
要約すると、エ・ランテル周辺に出没するゴブリンやオーガ等のモンスターを討伐して組合から報奨金を受け取る、それが今回の仕事の報酬となる。
正式な依頼ではないのだが、街の人は危険が減るし、自分たちにはお金が入る、誰も損するものはいないという寸法。
「どうでしょう、我々に協力していただけますか?」
「ええ、こちらこそよろしく。」
特に断る理由はないんだけど……これって正式な依頼じゃないんだよね……?プレートのランクには影響があるのかな?……まぁここは黙っておくほうがいいかな。
「では共に仕事を行うのですし、顔を見せておきましょう。」
そう言って、モモンはそのヘルムを外し、その顔を現わにした。
「「「……!!!」」」
そこには、黒髪短髪、黒目で少し日に焼けたような褐色肌を持つ”若い男性”が少し困ったように笑う姿があった。
作者:「春休みに入ったからいっぱい絵描きたいなぁ」
エレティカ:「これの更新ちゃうんかーい!!」