(旧)ユグドラシルのNPCに転生しました。   作:政田正彦

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他の守護者から見たエレティカです。


【番外編】他の守護者達目線(1/?)

ナザリック地下大墳墓、第9階層のどこか……。

 

 

 「……これで守護者各員は集まったようね。」

 「ちょっと待ってくんなまし、我が姉、エレティカ=ブラッドフォールンがまだでありんす。」

 「いいのよ、彼女はそもそも呼んでいないもの、今回は彼女についての会議を行うのだから。」

 

 

 アルベドによって、集められたエレティカを除いた各員が一室に集まる。

 一名居ないのにも関わらずその部屋にはピリピリとしたプレッシャーが張り詰めており、もし仮に、ここにレベル1の一般人が突然放り込まれようものなら、尻餅をついて失禁するかもしれない。

 

 「エレティカについて……って、どういう事?」

 

 まずその場で口を開いたのは第6階層守護者であるアウラ・ベラ・フィオーラ。

 エレティカについて、という言葉のそもそもの意図が分からない、という顔である。

 次には「エレティカはエレティカでしょ?」とでも言いたげである。

 

 「……まず、貴方達、彼女についてどれだけ知っているのか聞いてもいいかしら?」

 

 「?……ええと、シャルティアのお姉さん、ですよね?」

 

 「それだけではない筈よ。」

 

 「……ナザリックで至高の御方々に仕える下僕の中で、唯一ナザリックの外部で生まれた存在……という事を言いたいのですか?」

 

 「それもあるわ。」

 

 「それも?」

 

 アルベドは一つ息を付いたあとで、皆の顔を見渡した後で、立ち上がってこう続ける。

 

 

 「私達、彼女について知らない事があまりにも多くないかしら?」

 「……それ、どういう意味?」

 

 「私達は皆、彼女は「ナザリックの外」で生まれたシャルティアの姉、ということしか知らないわ。」

 「ヌヌゥ。モッタイブラズニ言ッテクレ。ソレノ何ガ問題ナノダ?」

 

 「……成る程、確かに、これは盲点でした。」

 「……デミウルゴスは気づいたようね……言い方を変えましょう。

 私達の内で一人でも、「彼女がどこで生まれ、どうして至高の御方々に仕えており、どんな事を考えているのか」を、知っている人物が一人でも居るかしら?」

 

 「…………。」

 「……いないの?どうして?……そう、例えば私であれば皆知ってのとおり、ここでタブラ・スマラグディナ様によって創造された者で、統括守護者という地位、役職を頂いた身であるというのは周知の事実よね?」

 

 それだけではなく、モモンガ様への愛だとか、性格だとか、どんな事を考えているのかといった事をだいたい知っている階層守護者達は、そこまでは口に出さず、静かに首を縦に振る。

 

 

 「……では彼女は?どこでどうやって生まれたの?」

 「でも、そもそもナザリックには私達とは違う生まれ方をした者は数多くいます、よね?」

 「そう、その通り、そして彼女もそうなのでしょう。

 ……でもだとしたらそもそも一つの矛盾に気付かない?

 シャルティア、貴女に関することよ。」

 

 「わ、私?」

 

 ビッと指を指され、まさか自分に矛先が向くと思っていなかったシャルティアが驚きながら必死に頭を動かすが、何が矛盾なのかは分からない。

 我が姉、エレティカと、自分が関係する事に矛盾になんてあるのか?どこに?

 

 「……まさか、アルベド、それは……いや、しかし……。」

 「…………ま、まさかアルベド!アンタ、私達の「そうあるべき」と定められた事に対しての事を言っているの!?」

 

 自分より早く気づいたらしいアウラに、目が向けられ、アルベドは一つコクリとうなづく。

 

 「なんてこと、それは……不敬じゃないの?」

 「でもこれは事実よ。」

 「さっきからなんのことを言っているでありんすか!?アルベド……デミウルゴス!」

 

 ついに熱を持たないはずの頭が熱を帯びるのを感じた時、限界に達したシャルティアがアルベド、デミウルゴスに詰め寄る。

 

 「……シャルティア、君とエレティカ、君たちは、姉妹だね?」

 「そうでありんす!そこに……何、が…………。」

 

 「……シャルティア、貴女は「そうあれ」とペロロンチーノ様に創られた存在よね?」

 「そうで、ありんす……あれ?でも、でも、姉は……エレティカは……。」

 

 

 

 「……そう、あなたはペロロンチーノ様によって創られた存在。しかしあなたの姉は……「ペロロンチーノ様によって創られた存在ではない。」これでは、……そもそも姉妹という関係性に矛盾を感じるなという方が無理があるというものよ。」

 

 「…………!!」

 

 衝撃であった。

 考えたこともなかった。

 そうあれと創られたから。

 シャルティアが創られた存在であるのに対しエレティカはそうではないと言う。

 しかし、それでもそうあれという自分の中の何かが、「お前とエレティカは姉妹だ」と言う。

 

 「……シャルティア……。」

 「ツマリ……アルベドハナニガ言イタイノダ?」

 「……シャルティア、貴女と、貴女が姉だというエレティカ=ブラッドフォールンは……。」

 

 

 

 「私とシャルティアは、紛れもなく、一片の曇りもなく、ただ一つの矛盾さえなく、完璧に、完膚なきまでに姉妹よ、アルベド。」

 

 全員が一斉にその声のした方向へ振り返る。

 ドアの前で、悠々と、余裕の表情でそこに立つのは、件の人物、エレティカ=ブラッドフォールンその人である。

 「私をのけ者にして、こんな場所でこそこそと内緒話だなんて、ずるいじゃない。」なんて言うエレティカは、各守護者の疑念の目線等気にする様子もなく、一歩一歩と確かにシャルティアに歩み寄る。

 

 一体いつからそこにいたのか?

 一体どうしてここにいる?

 いや、それはもうどうでもいい。

 

 彼女は今確かに「シャルティアと自分は姉妹である」と、言い切ったのだ。

 

 「……シャルティア、私と貴女は姉妹、そうでしょ?」

 「そ、そうで、ありんす。そうであるはずであるはずなんでありんす!で、でも……。」

 「そうである、と思うのは何故かしら?」

 「わ、私とエレティカは……生き別れの姉妹で、ペロロンチーノ様の手によって、生み出された私と外の世界で生まれたエレティカが、ナザリックで再会を果たした、それが私が知っている私と姉様の記憶でありんす。」

 

 「そう、それは正しいわ。」

 

 「でも、ペロロンチーノ様に創られた私と、外で生まれた姉様とはそもそも生まれ方が違うではありんせんか……?」

 

 「……それがなんだと言うの?」

 「え?」

 

 涙目でキョトンとするシャルティアの肩に手を置くと、「良い?貴女達もよく聞いておきなさい」と言い、こう続ける。

 

 

 「確かに私とシャルティアではそもそもの生まれ方が違うわ、だから本来は姉妹ではないのではないかという疑念を持ってしまうのは確かに仕方のない事かもしれない。特にアルベドには姉妹が居るし、アウラとマーレは双子の姉弟ですもの……そう、仕方ないわ。

 けれど、だからなんだというの?”至高の御方”が「そうあれ」と定めた事に疑念を持つ事、それ自体がそもそもおかしいでしょう?」

 

 そのあまりに強い目力に、思わず唾を飲み込むアルベド。

 他の守護者達ですら、その迫力に気圧される。

 そうだ、自分たちは一体何に対して疑念を持っていたのだろう?

 

 「良い?同じように、あの方々がアウラとマーレが双子だと言ったら双子なのよ。デミウルゴスがナザリックで一番の知見を持つ者と言ったらそうなの。アルベドがモモンガ様を愛していると言ったらそうでなくてはならないし、私とシャルティアが姉妹だと言うのならば、私達は姉妹でなければならない。」

 

 「違う?」と各々に顔を向けるが、反論は出てこない。

 むしろ、そう言われて「確かにそうだ!」とさっきまでとは違う、確信めいた顔つきになった者がほとんどである。

 

 「エレティカ……ごめんなさい、謝罪するわ。確かにその通りね。」

 「いえ、いいのよ、私ももっと貴女達に説明しておくべきだったわ、私自身のことについて、私がどんな人物であるのか……分からないというのは恐怖だもの、御方々ですら、今の未開の地に対して警戒しているのだもの。それと同じよ。」

 

 アルベドが頭を下げようとするが、それを制止しながら、そう言ったエレティカは、言い切った後で一つ息をつくと、「この機会だから、今のうちに私に聞いておきたい事があったら言ってちょうだい?」と言い、次の瞬間から、「エレティカってどんな人?」的な会議が始まった。

 

 そして、そんな話題の中心人物たるエレティカの心情とは……。

 

 

 

 

 「(ああ、ああああああああああああっぶねええええええええええ!!!)」

 

 もし、もしもたまたま自分が9階層、ロイヤルスイートにて爪の手入れをしてもらう為に訪れていなかったら、そしてここを通りかからなかったら、今頃どうなっていたん!!?

 

 もうほんと怖いわ!!まさかそこを突かれると思ってなかったから完全に油断してたしね!?

 

 あービックリしたー……。

 

 守護者達が外の廊下まで聞こえるくらいの大きな声でヒソヒソ話しててくれて本当に助かったー……。

 

 

 と、内心で流れる冷や汗を拭いながら、守護者たちの「そもそもどこで生まれたのか?」とか「至高の41名の方について」とか果ては「けんこうしんだんという物について何か知っていることはありますか?」なんて全然関係ない質問までされる質問地獄の最中だったが、なんとか涼しい顔でやり過ごすことに成功したエレティカだった。

 

 

 

 そして会議は続けられる。

 

 

 

 「……では次の質問ですが、そもそも、シャルティアであれば、アウラと不仲であるとか、貴女と姉妹であるといった「そうあれ」といった定めがある訳ですが、貴女にはそういった物は?」

 

 「無いです。そもそも生まれ方が違うので、ペロロンチーノ様は私に「そうあれ」と設定する事が出来ないのです。今の階層守護者という地位も、最初はガルガンチュアと同じく、正式なものではなかったのですが、ペロロンチーノ様のお心遣いによって、シャルティアと同じ役目を頂いたのです。」

 

 いつの間にやら会議は各守護者とエレティカが対になるような位置に座って進行しており、なにやら、圧迫面接のような雰囲気を醸し出している。

 

 「じゃあさ、私達についてどう思ってる?」

 

 そして、つまらなくなってきたのか、このやり取りに既に飽き始めたアウラが、聞いた覚えのある質問をエレティカに問いかける。

 エレティカもそのことをわかっているので、「お、お姉ちゃん!」と焦るマーレを放って、それに返事を返す。

 

 

 

 「全員、大事な仲間だと思っているわ。」

 

 

 エレティカは心の中で、「大変手のかかる」や「可愛い」を付け加えながら、笑顔でそう答えた。




知らぬが仏と言いますが、
無知は罪とも言いますし、
知らないで済まない事もあるわけで。

知らないって怖い。

それはどんな人でも同じ。

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