(旧)ユグドラシルのNPCに転生しました。   作:政田正彦

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第一部の全編リメイク版が、9月15日より、更新開始となりました。
今現在これを見ている方は、そちらをお読みになることを推奨致します。


https://novel.syosetu.org/114385/32.html


第一部《主人公に原作知識がある場合》(リメイク待ち)
転移まで(1/3)


 私の名前は好豪院英梨(こうごういん えり)

 いたって普通の……ちょっとアニメとか漫画とか、そしてその二次創作が大好き、特に異世界物とかが大好きな、ごくごく普通~~~の女子高生……でした。

 

 でしたっていうのは……まぁ、何ていうか……。

 

 私、今、オーバーロードの世界でNPCやってます。

 

 異世界転生ってやつ、ですかね~……アハハ……。

 ……笑えない。

 

 え?どうして転生したのか?そんなのこっちが知りたい。

 こちとら明日も普通に学校に行こうとしておやすみなさ~いってベッドに入って目が覚めたらこうなってて意味がわからないなんてもんじゃない。

 

 ゲーム最終日にログインしてたら異世界転移したモモンガさんもビックリですよ。

 

 いや、しかも何かただの異世界転生ではなくて、某遊びじゃないゲームみたいに、ゲームの中に閉じ込められてしまったらしく、他の皆さんは普通にユグドラシルを楽しんでいるのに対し、私の扱いはプレイヤーではなくNPC。

 

 ……つまりログアウトなんか出来ませんよ、と。

 

 はい、意味が分からない。誰か説明してくれ。むしろ代わってくれ。

 しかもこの世界が憧れのオバロの世界で?ユグドラシルっていうゲームで?そのゲームの中のNPCとして転生して?原作のキャラの人たちと出会って?

 

 ……ふぅ……一言だけいいですか?

 

 本気(マジ)で意味が分からない。

 

 

 

 あー……えっと、そうですね、今は説明するよりも、当時の私の様子を見てもらった方がわかり易いと思います。

 

 というわけでですね、こっからやっと本編……ていうか本編までのプロローグ?かな?が始まります。

 

 

 これは、ユグドラシルのNPCに転生した私の物語が始まります。

 

 

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===

 

 

 

 

 チチチチチ・・・・

 

 

 私がその重たい瞼をうっすらと開くと、どうやら今日は気持ちのいい晴天らしいという事がまず頭の中に入ってきた。

 

 遠くで小鳥の鳴き声が聞こえ、森の木々がざわざわと風に揺らめいて擦れあう音が聞こえる。

 

 日差しが差しており、私を照らしているようだが、そこに、思わず手で遮ってしまいそうになる程の熱は無い。

 熱くも寒くない気候、風も吹いているのか吹いていないのか分からない程度でしかない。

 

 「くぁ……」とあくびをして一つ、背伸びをする。

 

 そこでようやく違和感に気付く。

 

 本来そこで目に入るハズなのはこんな大自然の森の中の景色ではないはず。

 

 おおよそ女の子の部屋というよりは、好きなアニメキャラのポスターだとか、キャラグッズ、フィギュアなんかが置いてある、ヲタ女の部屋、それが目に入ってきて然るべき光景。だが現実は違った。

 

 

 はて、私はいつからこんな草むらの中で寝ていたのだろうか?

 ……と、そこでようやく周囲に目を向けて……。

 

 「ここ……どっこやねん……」

 

 唖然とした。

 

 

 えっ、も、森の中?え?私普通に自宅のベッドで寝てたよね?

 あれ?夢かな?と思い試しに頬をツネって……ホラ!!やっぱり痛くない!!なぁんだやっぱり夢じゃないかと、ホッと胸をなで下ろす。

 

 

 

 ……その割にはやけに意識がはっきりとしている。

 いや、あ、あれよ、多分きっと、ほら、明晰夢ってやつだ。

 

 

 以前夢に関する本で、明晰夢かどうかが判別できる方法として簡単なのは、爪に「伸びろ~」って念じる事だったと思うのだが、今やってるけど全然できないんですがそれは?

 

 ……うむ、時に本が間違っていたりすることはよくある事だ。よくよく考えれば、女子高生が好む頭のふわふわした感じの雑誌の話だったような気もする。

 

 全く当てにならない雑誌の知識に騙されて憤慨し、目覚めたら真っ先に「適当な事を書くな」とコメントを送りつけてやろうと心に決めた。

 

 あ、それか、想像力が足りないってことか?う~~~んそれにしては森とかすごいリアルだが……。

 

 

 

 ま、いいや、とりあえず、夢の中なんだし、覚めるまで夢の中を探索して遊ぼ~っと……イタッ!……くはないけど、クソ~この年になって見事なまでに転んじまうとは……誰も見てない、よね?

 

 夢の中でまでこんなドジを踏むなんて。

 

 

 

 

 

 そしてそのまま森の中をさまようこと……時計がないので正確な時間は分からないけど、今まで見た夢の中ではいっちばん長い夢だなぁ~っと思い始めてから更に結構経った頃。

 

 

 ……あ、あれ?おかしい、全然目覚めない。

 どっゆことやねん……?

 

 よし、落ち着け、まずは状況確認だ。

 

 

 よくよく見て見ると、周囲の状況以外にもおかしい点がある。私自身、見たこともない洋服来てる点だとか……肌が妙に真っ白である所とか……おおお、おっぱいがでかくなってる所とか、更には「何か口の中に違和感を感じるな?」と思い、いーっと歯をむきだして触ってみると、歯が「これで紙とか切れるんじゃない?」と思う程鋭く尖っていた。

 

 もしこれで眼も赤ければ、私、ただのヴァンパイアなんだけど……。

 うん?女の吸血鬼もヴァンパイアでいいんだっけ?

 ドラキュリーナ?ヴァンピレス?どちらもしっくりこないな。

 

 こういう時近くに都合よく水溜りとか池とか……とにかく自分の姿を確認できるものがあればいいのだが。

 

 とりあえず、明日学校行ったら絶対この事自慢しちゃおう。フヒヒ。

 

 

 ……まぁきっとこんなにぐーすかねてる時点で遅刻確定だろうけど。

 おーい?起きろ私~そろそろ起きないと遅刻だぞ~。

 

 

 

 しばらくして、まず夢から目覚める為の代表的な方法として有名なのは頬をつねる事だと思い出し、実行する。

 しかしよく考えたら始めてきた時にそれをやって目覚めなかったのだから今やって目覚める道理はない。

 あとは……目を閉じたり開いたり、とか?

 

 そんな事を色々と試す。

 

 果ては弱めのビンタを私の頬にお見舞いするが、目覚める気配はない。

 

 

 

 ……はぁ……起きれない。

 

 起きれない、という事自体は冬に布団から出られなくて二度寝してしまい夢の世界へなんて事は何度もあったから慣れてるのだが、夢の世界から出られなくて寝過ごすなんて言って誰が信じてくれるだろう?

 

 私ですら信じられない。

 

 

 ほとほと精神的に疲れ果て、もうどうにでもなれという気分になる。

 このまま夢の世界を楽しむというのもアリかもしれない。 

 流石にいつまでも目覚めない私をいつかは母が起こしてくれるだろう。

 

 

 そうと決まればと森を散策を初めて歩いている時、唐突にそういえばヴァンパイアならもう一つ、特徴があるではないか、と思い出す。

 

 ヴァンパイアの数ある逸話の中には闇夜に紛れて空を飛んだり、ゲームの中のヴァンパイアの設定ではよく、空を飛翔する事が出来るヴァンパイアが多い。

 こう……翼とかマントとかで、《バッ》!!っと……バッ……?

 

 突然布を勢いよく広げたような音がして背後を見る……と、背中に、バッサバッサと、それっぽい翼が……えー?すっごいリアル、触ってもいい?

 

 触ってみてもやっぱりリアルである。

 温度とかはわからないが、「触っている」「触られている」という感覚はある。

 

 

 ひょっとしてこれ、飛べるのでは~?なんて思い立つ。飛べないか試せないか……いや、夢の中だし!いいよね別に!と覚悟を決めて全力で空へ飛び立つ。

 

 

 《ピョンッスタッ》……《ピョンピョン》《バサッ》《バッサバッサバッサ》

 

 

 飛べませんでした。

 

 うん……まぁ知ってましたけどね? 

 

 い、いや、私がまだ飛び方を分かっていないだけで、夢の中で飛べない何てこと……ほら、飛べ、飛べ!もういっそ飛べなくてもいいから浮け!せっかくの夢の中で遊ぶチャンスなんだからさぁ!!アイ キャン 【フライ】《ブワッ!!》~~~~~~~~ッ!!!!??

 

 

 「キャアアアアアアアアア~~~~~~!!!」

  ャアアアア~~~~……

  アア~~~……

  ア~……

  …… 

 

 

 その瞬間、どことも知らない森の中で、一人の少女の悲鳴が響き渡った気がした。

 実際にはあまりに突然の事だったのか、声など出ていなかったが。

 ……まぁ本当は声なんて私に出せるわけがないと知るのはもう少し後である。

 

 木々ににぶつかりそうになりながら、その間を縫うように飛び回り、なんとか無事に……いや、頭から地面に不時着した。

 

 控え目に言って死んだと思った。

 

 え?何?これひょっとしてフライっていう単語に反応した感じ?

 どんなシステムだよ私の夢!!そして怖かったよばーか!!ばーかばーか!!

 

 しかしそうとわかればこっちのもの。

 

 再びフライと心の中で詠唱して宙に浮かび上がる。

 すると、案外楽に飛べるようになり始めてきた。

 例えるなら、水の中を自分の体を動かすことなく、何か魔法の力で泳ぐような感覚。

 慣れれば楽しいもんだね。

 

 ……まぁでも、温度も風も感じやしないんだけどさ~。

 

 

 ……?

 

 おっ、あっちに街があるやん!?

 すご~い!あれなんか外国っぽい!RPGとかで出てきそうな感じが私の好きな世界観にドストライクでやばい!!オラ、ワクワクすっぞ!

 

 新たな指標、目的地を手に入れた私は、さながらお前それどこの戦闘民族?みたいな飛び方で街までひとっ飛びだぜ!!や~、登下校時にもこれが使えればいいのにな~なんて益体の無い事を考えながら。

 

 

 途中、スピードを出しすぎて少しバランスを崩した。

 

 むう。

 

 

 と、街についたわけだけど……人も結構居るんだね?

 夢の中だからか、お空を飛んで来たことに対しては全くの無反応だけれども。

 

 おっ、第一村人発見。

 こんにちは~っと挨拶する為に近寄ってみる。

 

 「ようこそ!ここはユポソンの街だよ」

 

 ……?あ、はぁ……さいですか……?

 よくわからないままお辞儀をしてその場を後にする。

 

 夢の中初の村人とのコミュニケーションだったが、色々と突っ込みどころが満載である。 えっと、まずなんで表情が一ミリも動いていないのでしょうか?口も動かさずに喋るとか器用だね君!腹話術かな?

 

 とはいえ、夢の中だし、しょうがない、のか?

 

 よく見れば他の住人の皆さんも、表情が一ミリも動いていない。

 そんな光景を見ていると、なぜだろう、なんだがとてもRPG臭がする……。

 もう一度話しかけても同じ事言うのではないかとふと思ったが、不自然だし、やめといたほうがいいだろう。

 

 そのまま、気にせず街の中を散策……ほおおおおおおすっごい……まるでRPGのよう……それ何回言うねん……でもすごい……中世っぽいと言えば伝わるだろうか、良くある、それこそ異世界が舞台のRPGにピッタリな世界観だ。

 

 日本じゃ絶対見られないよこんな光景。こんな光景を夢に観るなんて、これはもう完璧に私が心の深い所でこういうとこ行きたいな~って思ってるからに違いないね。

  

 

 ……ただ夢の中だけあって行き交う人たちみんな格好がカオスなんだよね~。

 エルフっぽかったりドワーフぽかったり、果てはなんかもう良く分からないぐちゃぐちゃした「お前それどう言う原理で動いてんねん」っていう化物まで闊歩して……うおっ!!?なんかスケルトンまでいるじゃん!?

 

 まぁでもオバロでスケルトンは見慣れてるから全然平気だけどね~。

 

 つかよく見たらあのスケルトン顎めっちゃ尖っててモモンガさんそっくりじゃん!やっぱり私の夢だけあって、スケルトンっていったらあの顔なんだなぁきっと。隣にいる銀色の騎士さんなんか私の想像の中のたっちさんぽくて好き~。

 

 

 思わず凝視してしまったが、あんまり見ているのもなんだかな、と思い、再び街へと視線を移す。

 

 

 

 「た、たっちさん、今なんかあっちのヴァンパイアの娘にすっごい見られたんですけど……」

 「うん?気にすることないさ、ここではフレンドリーファイアはもちろんの事PL同士での戦闘が出来ない初心者御用達の街だからね」

 「成る程……あっ、じゃあ、ひょっとしてあの娘も初心者なんじゃ?なんかすごい回りをキョロキョロしてるし」

 「いや、それにしては凝ったキャラメイクをしているんだけど……イベントが早く終わってしまって暇だし、行ってみようか?」

 「ですね」

 

 

 

 

 さて、さて、次はどうしよう?

 どこへ行こうかなぁ……。

 

 「ねえ、そこの君」

 【わひゃっ!?は、はい】

 

 「(あれ?メッセージウィンドウ?音声ではなく?……だとしたらNPCか?でも、名前が表示されていないし……。)……何か困った事でもありましたか?先程から何かを探しているようだけど……」

 

 【い、いえ……その……えっと……】

 

 

 どどどどうしよう、まさか話しかけられるなんて。

 しかもあの至高の御方の一人、モモンガさん(っぽい人)に!

 緊張しているのか、上手く声が出せない。

 いや、上手く、というか、全く声が出せない。

 

 

 「えーと……たしかNPCの情報を見るには、こうだったっけかな?ちょっと失礼しますよっと」

 

 なっ何?なんか出てきた。

 

 ▲▽名前:エレティカ=ブラッドフォールン▽▲

 齢:0

 性別:女性

 種族レベル:ヴァンパイア:lv1

       真祖(トゥルーヴァンパイア):lv1

 職業レベル:ワルキューレ/ハルバード:lv1

 

 

 説明:

 大昔にこの近くに存在していた亡国で不幸にもその命を落とし、数年、あるいは数日、はたまた数分前に蘇ったばかりのトゥルーヴァンパイアであり、死んだショックのためか、別の要因があるのか原因は不明だが、記憶が無く、行くあてもなく森を彷徨っていた所で、街へ迷い込んでしまった存在である。

 

 

 「……だそうです、たっちさん」

 

 「NPCだったのか……ランダムで出現するのかな?少なくとも前ここに訪れた時こんなNPCは見なかったし、それに……凝ったキャラメイクをしているから、リアルの友人を探している人なのかと思っていたのだが……」

 

 何を言ってるんだろう、この人たち、っていうか今目の前のモモンガっぽい人、たっちさんって言った?いや、まさかそんな、でも私の夢の中だとすればありえるけど。

 

 けど、この板(空中に浮かんでいるのはもはや気にしない)文字が全部裏返しになっているけど、レベルとか種族って文字が見える。そして、名前の欄……これ、ひょっとして、「ブラッドフォールン」って書いてないか?

 

 

 ひぇ、よくできた夢だこと。

 

 

 ブラッドフォールンと言えば、私が大好きな小説、「オーバーロード」に登場するキャラクターの一人、シャルティア=ブラッドフォールンと同じ名前ではないか。

 目の前の人物も、名前を教えてもらったら実はモモンガとかたっちみーとか、あるいはモモンとか、ぎぶみーとかそんな名前だったりして。

 

 「非敵対の証に名前の文字が赤でも白でもない黄色だから、とりあえずプレイヤーの敵ではないみたいだね。ヴァンパイアってのが怖いけど。……まぁそれは同じ異形種である私たちが言えたことではないか」

 

 「そうですねぇ……どうします?とりあえずギルドの皆に報告……」

 

 「お~い、モモンガさん、たっちさ~ん!!俺も今イベントクエストを終えまし……うおおおおおおおお!!!??」

 

 

 

 

 二人の会話に割っては入れずに困惑していると、後ろから、まぁやっぱりというべきか、モモンガというらしい人とたっちさんを呼ぶ声が聞こえたので後ろへ振り返ると、なんとそこには騎士風の装備を着たバードマンが居るじゃないですか。

 

 たしか、シャルティア・ブラッドフォールンの製作者も、バードマン。

 もし名前がペロロンチーノだったら……。

 

 

 「な、なんですかこの……超絶かわいいヴァンパイアっ娘さんは!?お、お名前は!?この際中身おっさんでもいいんで結婚してくださいませんか!!?」

 

 「ちょ、ペロロンチーノさん落ち着いて、この子、NPCですから!!」

 

 

 少し間を置いて、「NPC……?」と静かにこぼしながらそのバードマンは、困惑するモモンガさんと、やれやれと言った感じで「NPCだよ」と肯定するたっちさん、そして眼をぱちくりさせている私、と何度かバードマンの目線が行ったり来たりしてから……。

 

 「……まじで?」

 「「まじです」」

 「えーと……どこのギルドさんがお作りになられたNPCちゃんなのでしょうか?」

 「公式のNPCです」

 「……まじで?」

 「「まじです」」 

 

 バードマンは膝をついて、出ないはずの涙を流しながら「オォォォォ……」と嗚咽を漏らしながら、「こんなの、こんなのってないよぉ……!」とさめざめ泣き始めた。

 いや、表情がまるで動いていないので顔は泣いていないのだが、明らかに嗚咽を漏らして肩を震わせながら腕を地面に叩きつけているあたりかなりの悲壮感だ。

 おまけにあからさまに「悲しい」と言いたげな表情のアイコンまで飛び出る始末である。

 

 

 「あーもう、泣かないでくださいよペロロンチーノさん……」

 

 「だって……だってさ……どこ探しても居ないからもうこの際自分で作ろうって思ってた理想のキャラクター像にピッタリの人物がそこに立っててさ……それなのにNPCって言ってさ……もうわけわかんないよね……普段からこういうNPCを作れよ……ちくしょおおぉぉぉぉ……」

 

 「まぁ、確かに本当にNPCか疑いたくなるレベルで凝った作りしてますよね……」

 

 いや、そんなこと言われても困るわ。

 っていうかNPCじゃな……え、NPCなん?私?そういやさっきも喋ったらメッセージウィンドウみたいなのが出てたな、この人たちは普通に喋ってるのに。

 

 もしかしてNPCだから声が無い?その代わりに文字がピョインッと出ているというのだろうか?だから声が出ないのか?

 

 「……いや、これ、本当にただのNPCか?」

 

 「えっ!?どういう事です!?」

 

 「いや、この子、中のAIが素人目で見ても、尋常じゃないクオリティーだ。

 さっきペロロンチーノさんが全力で走ってきた時に気づいたんだが、顔のグラフィックにわざわざ差分をつけたって事なのかは知らんが、表情に変化がつけられていたんだ、「困惑している」という顔を。そもそも、自分じゃない者に対して呼びかけたのに、そっちを振り返ったのを見るに、声に反応して振り返るなんて機能がついてるって事じゃないか」

 

 「た、確かに……!……てことは、何か今後のアプデやイベントクエストにこの子が関わるかもって事ですかね?」

 

 「それか、何かのイベントに使う予定だったけどボツになって、もったいないから隠しキャラとして登場させた、とか……」

 

 

 

 だ、だめだ、全然話についていけない。

 つまりどういうことだってばよ?

 私について何か話してるのは分かるんだよ。

 それと、私がNPCにしてはすごい細かい作りをしてるって事も分かったけど……あれ?話の内容理解してんじゃん、やっるー私!

 

 ……じゃなくて、これ、完全に、オバロの……モモンガさんが転移する前の世界、だよね、ユグドラシルっていうDMMORPG?の。

 

 つまり私、その……ユグドラシルのNPCになってしまった……。

 

 

 

 

 ……という夢を見ているってことか!!?

 

 な、なんだそりゃ……せめて42人目の至高が良かったよ!!!

 NPCてなんやねん!?中にちゃんと人入ってるっつーの!!!

 

 そりゃその辺のAIが詰め込まれただけのNPCに比べたら表情も豊かだろうし反応も、それこそ数え切れないバリエーションがあるでしょうよ!!

 

 「詳しく調べたいけど、公式が作ったNPCに対しては、ツールって使用出来ないんですよね……」

 

 「くっそー、もしプレイヤーだったら絶対ギルドに誘ったのになぁ……」

 

 そう言いながらペロロンチーノさんは残念そうにため息をついた。

 

 って、あれ?なんか諦めムードになってません?

 でもまぁ、もしも私がプレイヤーとしてここに閉じ込められたーとかならまだしも、NPCだしなあ、ついていくってのも無理なんだろうか。

 

 ……待てよ?ついていく?

 仮にこの人、モモンガさんやたっち・みーさん、ペロロンチーノさんに、アインズ・ウール・ゴウンに付いていったとして……そうしたら、どうなる?

 

 ここで、私はオーバーロードのおおまかなあらすじを思い出した。

 

 そうだ、このゲーム、ユグドラシルが終わる時、モモンガさんがナザリックと異世界に転移して……そこから物語が始まるんだ。

 そこでは、もちろん原作なのだから、原作のキャラクターが、たくさん登場するわけで、そこには私の好きなキャラクターだとか、私が「もうちょっとこの人の運命はどうにかならなかったのだろうか」と不憫に思ったキャラだとか、二次創作で取り上げられていた「こんな物、あんな物があるのでは?」という謎の多い世界。

 

 ……い、行きたい。

 

 

 ゆ、夢でもなんでもいいからすっごい仲間入りたい!

 夢でもプレイヤーでもNPCでもいいから異世界行きたいです!!

 アインズ様万歳したいです!!階層守護者の皆とかにも会いたいし!!

 もうこの際異世界に行けなくてもいいからアインズウールゴウン入りたいですぅ!!

 

 思わず、私は手を伸ばし、今にも立ち去りそうだったバードマンの服の端をつまむ。

 頼む、置いていかないで、という念を込めて、少々わざとらしい位眼に涙をためて。

 

 「うーん……《ギュッ》……ん?う、うおおお!?なんか、服の端を掴まれてるんですけど!?やべめっちゃ可愛いなんだこれ鼻血出そうリアルの身体にダメージ行きそうやばい」

 

 「うわぁ、いいなあペロロンチーノさん……じゃなくて、すごいな、このNPC」

 

 お願いだから連れてって!!ペロロンチーノさん!!頼みますよ!!

 

 

 「ん!?」

 

 

 なんて言ってついて行かせてもらおうかと考えて、もうこの際知らないけど隠しクエスト的な扱いで「私を連れて行ってください」的な事を言おうとしたら、うしろのたっちさんから驚きの声があがる。

 

 

 「こ、これを見てくれ!!」

 

 「どれど……え?」

 

 「なんですか今説明欄なんて見てる場合じゃ……えっ?」

 

 促されるがままにその……ボード?コンソール?に目を向ける二人。

 その視線に釣られるように、思わず私も振り返ってそこに視線を合わせる。

 

 

説明:

 (前略)

 行くあてがなく、自分の主となってくれる存在を探している。

 もしあなたにその気があるなら、彼女を雇う事ができるだろう。

 

 

傭兵:

 彼女を雇いますか?

 

 【YES】【NO】

 

 雇うために必要な資金:金貨50000枚

 

 

 

 

 

 「……えっなにこ《ピッ》ペロロンチーノさん!!?」

 

 「うおおおおおやったあああああああああああ!!!!!!」

 

 「ええええええ……?こんなのってアリなのか……?」

 

 

 そこに書かれていたのは私が傭兵NPCとして雇える、という情報であり、それを見たペロロンチーノさんが速攻でコンソールを操作、瞬く間に契約を完了してしまった。

 

 良く分からないけど、これは、私はペロロンチーノさんに雇われたって事、イコール、仲間になった、連れてってくれるって事、で、いいのかな……ええと、それじゃあ……。

 

 

 【エレティカ=ブラッドフォールン、御身に絶対の忠誠を誓います】

 

 「「「重ッ……!!!」」」

 

 あれ、ナザリックのNPC風にやってみたんだけど、ダメだったようだ。

 

 

 こうして、私という、エレティカという名のNPCは、アインズウールゴウンで唯一、「特別な条件を満たす事で傭兵として雇うことができるNPC(多分そうだと思われるけどぶっちゃけよくわかんない)」として、アインズウールゴウンの支配下にあるNPCとなったのであった。

 

 …………ところでこの夢いつになったら覚めるんだろうなぁ……?




ちょっと修正。

あと、最近原作第一巻を買って、本当に傭兵NPCが居るんだと感激しました!!

やったね、これでぼっちな人も寂しくないね!!

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