ゾイドバトルストーリー 中央山脈の戦い 山岳基地攻防戦 作:ロイ(ゾイダー)
中央山脈に夜のとばりが降りて間もない時刻。中央山脈の麓に建設された共和国軍の空軍基地は、真昼の様な明るさと喧騒に包まれていた。
サーチライトの眩い明りの元で、整備兵達は、黙々と作業を行っていた。
彼らが作業している場所、コンクリートで舗装された滑走路の上には、黒い機影があった。
その数は、10を超える。それらの機体に乗り込む予定のパイロット達は、今格納庫に隣接している施設にある一室に集められていた。彼らの視線は、壇上に立つ1人の男に向けられている。
顎髭を蓄えた禿頭の中年男性の胸元には、大佐の階級章が輝いている。
「今日諸君らは、記念すべき一撃を敵に与える………!中央山脈北部の帝国軍最大の拠点 ダナム山岳基地………それが諸君らが爆弾を叩き付ける場所である!!これまで我が軍の空の戦友達は、幾度となく彼の地に火の雨を降らせるべく飛び立ってきた。そして、その過程で多くの犠牲が払われた事と、未だにダナム山岳基地は、厳然とこの中央山脈最大の帝国軍の拠点として機能し続けていることは、諸君らも知っている筈だ。」
ここで指揮官は、言葉を切った。彼の目の前に座っているパイロット達の瞳は、一様に敵への怒りに燃えていた。
彼らの多くは、黙っていた。一部からは、啜り泣きにも似た声が聞こえてきそうだった。
中央山脈に配属された多くの共和国空軍のパイロットにとって中央山脈北部最大の拠点であるダナム山岳基地は、宿敵とでも呼ぶべき存在であった。
特に今この場にいるパイロット達は、これまでのダナム山岳基地への爆撃作戦に実際に参加した者も多かった。
彼らは、幾度となく、あの基地に爆弾を叩きつけるまでの途上、帝国空軍の迎撃機に撃墜され、対空砲火に絡めとられて撃墜された戦友を実際に見ていた。
彼らにとってこの夜の任務は、弔い合戦と同じ。部下たちの反応を確認し、壇上の男は、演説を再開した。
「…………諸君らの中には、あの基地の対空砲火の威力を直に見てきた者も多い。あの基地に爆弾を落として無事この基地に帰還できるのか、不安に思っている物もまた数多くいると思う。安心してほしい諸君!我々には、そのための策がある。発見されやすく、迎撃を受けやすい大編隊ではなく、少数精鋭での出撃となった。また昼間の戦いで、敵の航空部隊は、打撃を受けている。そして諸君らには、味方がいる。夜の闇という頼もしい友軍が。また諸君らの機体には、敵のレーダーに探知されない特別な改造が施してある。レーダーを無力化されたダナム山岳基地は、無防備な状態で諸君らの怒りの一撃を受けることだろう。
1発でも多くの爆弾を敵の基地に叩き付けることこそが、これまでに散っていった戦友達への何よりの弔いとなる!………最後に、ここで再び諸君らと顔を合わせる時、全員と会える事を願っている!以上!」
基地司令の訓示が終わると同時にパイロット達は、退室し、宿舎へと戻った。
その20分後、作戦開始時刻になると同時にパイロット達は、それぞれの愛機へと走っていった。
パイロットを乗せた黒い機影が、次々と滑走路から星空へと飛び立っていった。彼らは、夜の闇に紛れ、彼らは北の空へと飛び去って行く。
共和国空軍によるダナム山岳基地に対する夜間爆撃が開始されようとしていた。
ZAC2045年 12月27日 夜 ダナム山岳基地上空
この日の夜、ゼネバス帝国軍最大の山岳基地 ダナム山岳基地攻略作戦を発動したヘリック共和国軍は、ダナム山岳基地を初めて直接攻撃した。
襲撃者達が現れたのは、地上ではなく、空からであった。
星一つない闇夜の空を、10以上の〝影〟が飛んでいた。
「ダーク1から各機、全兵装使用許可。これより標的への攻撃を開始する。」
「了解」
「了解」
「了解」
「了解」
闇夜の空に溶け込む様な黒い塗装を施したプテラスの編隊…………彼らこそヘリック共和国空軍が夜空に放った刺客―――――――夜間航空戦闘部隊 第5夜間戦闘航空団 通称ブラックエンジェルズであった。
この部隊は、夜間爆撃用に改造されたサラマンダーとプテラスで編成されている。ダナム山岳基地への夜間爆撃作戦の先陣を切るのは、プテラスのみを装備する第21夜間戦闘爆撃隊であった。
サラマンダー装備の部隊 第24夜間爆撃隊は、陽動の為、ダナム山岳基地よりも奥地にある帝国軍基地への爆撃任務に従事していた。
今回、第21夜間戦闘爆撃隊の攻撃目標は、中央山脈北部最大のゼネバス帝国軍の基地………ダナム山岳基地。これまで共和国空軍が幾度も空爆と航空偵察を行い、その度に多大な損害を被ってきた場所である。
夜間爆撃のプロであるブラックエンジェルズにとっても、油断できない相手といえる。
「隊長、7年前を思い出しますね。初めて俺達が、ゼネバス帝国の首都に爆弾を落とした日のことを。」
副官のパトリック・エバンス中尉の声が指揮官機の通信機から飛び込んでくる。
彼は、隊長と並ぶブラックエンジェルズのベテランパイロットであった。彼と隊長は、幾度も夜間の航空戦を経験してきた。
「そうだな。あの時は、俺たちだけで帝国の心臓部に爆弾を落とすなんて無茶苦茶だってみんな思っていた。俺もそうだった。」
「だが、やり遂げましたよ!……そして、今回もやってやりましょうぜ!」
「ああ」
「こっちのプテラスは、レーダーに探知されないんでしょう。月や星の明かりさえも雲に隠れたこの暗闇で俺達を見つけることなんて………」
「奴ら、慌てるでしょうね!寝てるところに爆弾を落とされるんですから……」
「このプテラス夜戦型は、ステルス処理がされている。帝国軍のディメトロドンのレーダーシステムや基地の対空レーダーでも理論上では、探知されない筈だ。だが、油断するなよ。……向こうには、熟練のゾイド乗りが大勢いる。機体性能に頼りすぎるな!」
「はい!」
「了解です。隊長」
第1小隊指揮官 エディ・アーウィー大尉は、後方を飛ぶ部下達に釘を刺す。彼の部下達は、いずれも夜間飛行経験を最低で5回は経験した夜間爆撃のエキスパートであった。
ブラックエンジェルズは、夜間爆撃仕様のプテラス 通称 夜戦プテラス 34機で編成されていた。この改造型プテラスは、元々夜間爆撃仕様のサラマンダーの量産が間に合わないため、急遽生産された機体である。
プテラスの夜間爆撃仕様であるこの機体は、通常型のプテラスに夜間用レーダー、レーザー測距器等の夜間戦闘用の装備が追加されている。
任務によっては、胴体にロケット弾パックやマルチディスペンサーを追加装備することもある。
今回は、翼下にクラスター爆弾と特殊焼夷弾を搭載していた。後者は、火災を起こすことで後続の爆撃隊に目標を爆撃する際の目印を残すための兵装である。
そして、今回出撃する機体の最大の特徴は、全身をダークグレー系の塗料で覆われているという事。
この塗料は、単なる夜間戦闘用の迷彩塗装ではなく、レーダー波の反射を抑えるステルス塗料である。この特殊な塗料により、夜戦プテラスは、レーダーに表示されなくなるのである。
「もうすぐ基地が見えてくるぞ。全機散開、手筈通りにやるぞ!」
「了解」
「了解」
星明りすらまばらな闇夜の空を黒い翼竜達は、駆け抜けていく。
彼らの眼下………雪が降り積もりつつある中央山脈の峰々………巨大な恐竜の背骨の様なそれらの谷間には、二重の城壁に囲まれた城塞がある。
その城塞こそ、ブラックエンジェルズの攻撃目標たるダナム山岳基地である。
同じ頃、ダナム山岳基地の大半は静まり返っていた。
守備隊兵士を含めた基地の人間の大半は、眠りに就いていた。一見すると敵襲等無いと油断しているようにも思える。
だが、基地司令官のヴァイトリング少将は、共和国軍が夜間に空爆を仕掛けてくると予想していた。彼は、防空部隊を基地の各所に展開させていた。
第23防空大隊第3中隊所属のディメトロドンもその1機であった。
「はぁ~~~眠くて敵わねえぜ。早く交代の時間が来ねえかなぁっ」
乗機のコックピットでペーター・ランドルフ中尉は、欠伸をかきつつ愚痴を溢した。
彼は、今回の任務に不満を抱いていた。ディメトロドンのパイロットである彼の任務は、対空警戒。
夜間に敵の航空部隊が襲来してきた場合、彼のディメトロドンのレーダーに捕捉されることになる。
昼間以上に先手を打つことが重要な夜間の戦いでは、彼の任務は重大である。
「本当に、敵なんて来るのかねぇ」
ペーターは、半信半疑だった。
それは、この基地に居住する兵士達の多くの意見でもあった。
これまでダナム山岳基地は、何度か共和国空軍の空襲を受けている。その度にダナム山岳基地と其処を防衛する防空部隊は、爆撃隊に痛撃を与えてきた。
2日前も、高高度偵察仕様のサラマンダーが司令官の操縦するアイアンコングmkⅡ限定型の対空射撃によって撃墜されていた。
その後では、夜間とはいえ、ダナム山岳基地を攻撃してくるとは考えにくい。それが、ペーターらの意見だった。
だが、基地司令官のヴァイトリング少将は、そうは考えなかった。彼は、今夜共和国空軍の奇襲が行われると予想し、防空部隊に迎撃態勢を整えさせていた。
「はあ、来るなら早く来てほしいもんだ。このディメトロドンのレーダーを突破出来るとは思えないが……」
レーダーシステムのモニターを覗きながらペーターは、呟いた。彼の願いは、数秒後に叶えられた。
1発の共和国製の航空爆弾が彼のディメトロドンの付近に着弾したことによって。ディメトロドンの周辺の地面で火柱が上がった。オレンジ色の炎の柱がディメトロドンの赤い装甲を明々と照らす。
「!!な、なんだ?事故か?」
次の瞬間、再び爆発が起こった。
今度は、彼の後方、倉庫の並ぶ地区であった。彼の背後で、籠城戦に備えて蓄えられていた物資のいくつかが炎に包まれて、爆発を繰り返した。
「……!!敵襲だと!」
次々と基地の各所で爆発が起こるのを見たペーターは、その爆発の正体が事故などではなく、共和国軍の攻撃だと理解した。
ディメトロドンのレーダーにも、地上へと落下してくる航空爆弾の反応が時折表示されている。
慌ててペーターは、レーダーの表示を見る。敵機が基地上空に侵入したのなら、レーダーで捕捉されている筈だった。
だが、彼の予想に反して彼の愛機の対空レーダーには、何も表示されていなかった。
「レーダーに反応がない!!レーダーの故障か?」
ディメトロドンのパイロットとなって1年、ペーターは、この様な事態に遭遇したことがなかった。
これまでの戦いでは、敵機であれ、友軍機であれ、地上目標であれ、空中の敵であれ、ディメトロドンのレーダーシステムの索敵圏内にいるゾイドは、必ずレーダーに捕捉されていた。
だが、今回は、味方機の反応しかなかった。肝心の基地に爆弾を叩き込んでいる敵機の姿は、全く表示されていない。あたかも夜の闇に紛れて見えなくなってしまったかのように。
「畜生!どうして、どうしてディメトロドンのレーダーに映らないんだ!」
彼がコックピットで悪態をついている間も、爆弾はダナム山岳基地に降り注ぐ。爆弾が着弾する度に防御壁の内側に火柱が立ち昇る。
ブラックエンジェルズ所属の夜間仕様のプテラスは、次々と基地の各所に爆弾を投下していく。
それらの1発当たりの破壊力は、大きいとは言えず、ブラックエンジェルズの全機の搭載爆弾を合わせても辛うじてサラマンダー1機分を超える程度である。
そのため、爆撃は、見た目程にダナム山岳基地に被害を与えたわけではなかった。
「全機迎撃開始!」
対するダナム山岳基地の防空部隊も曇った夜空の暗闇に向かって次々とミサイルや対空機関砲、高射砲弾を撃ち込んでいった。
ハンマーロックが背中のミサイルを発射する隣でAAモルガが対空機関砲を乱射していた。だが、それらの攻撃は、一向に上空を乱舞するプテラス隊を捉えることはなかった。高い誘導性能を誇るハンマーロックの対空ミサイルも、見当違いの方向に飛んでいく。
「畜生!レーダーに反応がないぞ」
「レーダーに映らないだと?」
「糞、敵はどこにいる?!」
上空にいる筈の敵機がレーダーに全く表示されないことに帝国軍部隊は慌てた。
夜間の防空戦では、レーダーの存在が昼間以上に重要となる。
レーダーが使えなければ、赤外線か肉眼に頼るしかない。
今回の場合は、赤外線センサーも上空のブラックエンジェルズのプテラスを映さない。正確には、映ることは、映るが、ぼやけた熱の塊としてしか表示されないのである。
さらにブラックエンジェルズのプテラスは、フレアを散布していた。これに夜空に撃ち上げられる高射砲弾が加わる。
空中の熱源の多さに赤外線センサーは、直ぐに信頼できなくなった。
肉眼に至っては一部の超人的な将兵以外は、夜の闇を高速で飛び交う黒い機影を発見することは出来なかった。
「レーダーは使えん!ミサイルを撃つな!無駄弾に終わるだけだ」
「畜生!共和国の奴ら、どんな魔法を使ったっていうんだ?!」
「レーダー無しでどうやって夜戦を戦えばいいんだ!」
夜空に対空砲火が花火の様に撃ち上げられる。だが、それらの攻撃が敵機を捉えることはない。
「サーチライトを出せ!夜の闇から奴らを燻り出せ!!」
次に防空部隊指揮官は、基地の各所に配置されたサーチライトで敵機の姿を焙り出そうと試みた。
サーチライトが次々と夜空を照らす。眩い光線が夜の闇を引き裂く。
「予想通り、サーチライトを使ってきたか。」
防空部隊が、サーチライトを使用することは、エディらブラックエンジェルズのパイロット達も予想していた。
サーチライトの強烈な明かりに照らされては、流石にステルスでも姿を暴かれてしまう。
「させるか!」
エディは、一気に機体を低空に急降下させる。
機体のすぐ上をサーチライトの光線が横切る。
「くらえっ!」
エディは、サーチライトの1つに接近した。
そして、頭部バルカン砲のトリガーを引いた。
トリガーを引く瞬間、彼の眼には、慌てふためくサーチライトの操作員の姿が見えた。彼らの真上をエディの夜戦プテラスが通過する。
「よし!」
サーチライトの破壊を確認したエディは、笑みを浮かべる。
黒翼の翼竜達が夜空を飛ぶ中、ダナム山岳基地の最高権力者である初老の男は、格納庫に向かっていた。
彼が向かっている格納庫には、ゴリラ型大型ゾイド アイアンコングが格納されている。
ハンガーに並ぶ黒い巨体は、見る者にある種の畏怖と頼もしさを与えている。
初老の男―――――――ダナム山岳基地司令官 ヴァイトリング少将は、それらの機体に乗ることはない。彼は、1つのゾイドハンガーの前で足を止めた。
そのゾイドハンガーには、赤いアイアンコング――――――――アイアンコングmkⅡ限定型が鎮座していた。
「出撃できるか?」
ヴァイトリングは、整備主任の男を呼び止める。
「はい!何時でも閣下が出撃できる様に万全の状態に整備しております!」
「そうか。何時も助かる!これより出撃する。」
「はっ」
「来たか。共和国軍め………こんな夜中にノックもなく他人の家に上がり込むとは、失礼な奴らだ」
ヴァイトリング少将は、髭面に笑みを浮かべた後、アイアンコングmkⅡ限定型のコックピットに潜り込んだ。
ヴァイトリング少将を乗せたアイアンコングmkⅡ限定型は、格納庫より出撃した。
同じ頃、ブラックエンジェルズのプテラスは、ダナム山岳基地上空より離脱しつつあった。
爆弾を投下した以上長居は無用。後は、第2派、第3派の夜戦プテラス装備の部隊が被害の拡大に努めてくれる。そう彼らは考えていた。
「司令官殿!」
後方からカリウス・シュナイダー大尉の操縦するディメトロドンが現れる。
「カリウスか。」
「レーダーは使えません。恐らくレーダー波を無力化するステルス技術を利用しているのだと思われます」
「ステルスか。厄介な物を……」
ヴァイトリングは、技術開発局の技術士官からレーダー波を無力化する技術について聞いたことがあった。
「どうします?サーチライトを使用しますか?」
「いや、それよりももっと単純で効果的な手段がある。………まずは、闇夜のカラスを焙り出す。花火を打ち上げるぞ」
「了解!」
ヴァイトリングの意図を察したカリウスは、指揮下にある防空部隊の1つに指示を出す。
少しあって、上空に1発の照明弾が打ち上げられた。
眩い光球が闇夜に弾け、夜間戦闘仕様のプテラスの黒い機影が影のように夜空に浮かび上がる。
「大型の照明弾か!全機急いで離脱しろ!」
エディは、部下に指示を出す。
その時、ビロードの様な闇夜を眩く太い閃光が横切った。
青白い閃光は、プテラス隊の編隊の最後尾を横薙ぎにしていた。
青い閃光に巻き込まれた夜戦プテラス3機が闇夜に散った。3機の残骸が燃えがらとなって地上に落下していく。
犠牲になったのは、最後尾を飛んでいた第5小隊だった。唯一生き残った機体は、慌てて基地上空を離脱する。
エディは、ビームが飛んできた方向を、基地の方角を睨み付ける。其処に居た敵機の存在に彼は、背筋が凍るのを感じた。
其処には、1機の赤いアイアンコングが佇んでいた。サーチライトと照明弾で照らされたそのボディは、鮮血を塗り付けたのではないかと錯覚しそうだった。
「アイアンコング…mkⅡ……赤い悪魔か! 」
エディは、忌々しげに赤い巨体を睨み付けた。
「全機、全速で離脱しろ!」
一瞬で数名の部下を屠った敵の姿を睨み据え、エディは部下達に命じた。
更にアイアンコングmkⅡ限定型はビームランチャーを発射した。青白い光の槍が闇夜の空を切り裂き、そこに隠れていた数機の翼竜を纏めて焼き尽くした。
「糞!第4小隊がやられちまった!」
「夜目が利く奴だ……!」
「隊長!」
「お前ら散開して退避しろ!」
エディは、通信機に怒鳴り散らしつつ、機体を急降下させる。
部下達のプテラスもそれに続く。低空を飛んだ方が、アイアンコングMkⅡ限定型のビームランチャーで狙い撃ちされる確率は減る……彼は、そう判断した。彼の選択は一種の賭けだといってよかった。
命懸けの賭け―――――――勝てば、自分と部下の命は助かるが、負ければ部下と相棒であるプテラス諸共闇夜にその身を散らせる羽目になる。
幸いにも彼と彼らの部下達は、賭けに勝った。彼らは離脱することに成功した。
彼らと入れ違いにダナム山岳基地の上空に侵入する機影があった。ブラックエンジェルズの後続の航空部隊が現れたのである。
「敵の奴ら、嫌がらせに来たんでしょうかね。あんな少数で」
カリウスは、訝しげに言う。
「いや、すぐに第2波、第3波が来る。引き続き照明弾とサーチライトを絶やすな。夜の闇の中からあいつらを引きずり出してやれ」
「了解!」
ヴァイトリング少将のアイアンコングmkⅡ限定型が上空に再びビームランチャーの銃口を向ける。
上空に打ち上げられた照明弾が弾け、照らし出された闇夜から無数の機影が出現する。
その機影に照準を合わせた後、ヴァイトリングは、トリガーを引いた。ビームランチャーの砲口から眩い閃光が迸った。
その日の夜、漆黒の夜空を青白い光槍が引き裂き、いくつもの火球が空中に咲いた。
共和国空軍が行った夜間爆撃作戦は、成功した。作戦に参加した機体の3分の1の損害と引き換えに……。
先陣を切った夜間戦闘隊 ブラックエンジェルスは、半数の機体を喪失した。その後に続く形で爆撃を行った他の部隊の損害は更に甚大であった。
それと引き換えに彼らは、ダナム山岳基地への最初の一撃を加える事に成功した。
彼らが与えた損害は、ダナム山岳基地とそこに駐屯する部隊の規模を考えれば軽微なものであり、ダナム山岳基地という巨獣の分厚い皮膚を軽く引っ掻いた程度だった。
しかし、ダナム山岳基地に一撃を与えたという意味は大きく、地上を進撃する共和国軍部隊とダナム山岳基地攻略作戦を支援する共和国空軍の士気を高めた。
その3日後、ヘリック共和国軍 ダナム山岳基地攻略部隊の第1陣がダナム山岳基地の付近に出現した。
第一陣の中には、ゴジュラスmkⅡ量産型も12機含まれていた。
ゴジュラスの見上げるような巨体の足元には、ゴドスやスネークス、ガイサックといった小型ゾイドの姿があった。アロザウラーやベアファイターが、それらの小型ゾイド部隊の指揮官機として展開している。
大型ゾイドは、ゴジュラスだけではなく、マンモスやゴルドスの姿もある。マンモスは、ゴジュラスと同じ様に前面に配置され、幾つかはゴジュラス用の長距離キャノンを装備している。ゴルドスは、重砲部隊に配置され、その全機が長距離キャノンを搭載した後方支援型 キャノニアーゴルドスに改造されていた。ゴルドスの周囲には、給弾車仕様のカノントータス サプリトータスやカノントータスがいた。
この中には、今月の初日にダナム山岳基地への偵察任務を行い、帰還を果たしたスネークス4機で編成される第223遊撃大隊第4小隊も含まれていた。
「見えたぞ!あれが、帝国軍の要塞か!」
ウォーレンは、電子式双眼鏡を眺めつつ驚きを隠せない口調で言った。今月の初日に彼と彼の部下達は、ダナム山岳基地への偵察任務を行っていたが、ここまで近付いたことはなかった。半開きになったコックピットの上で電子式双眼鏡を覗く彼の青い瞳には、ダナム山岳基地の威容が映っていた。高く聳える鉄筋コンクリートの防壁、2枚の防壁に守られた基地施設、ダナム山岳基地への接近を阻む大小のトーチカ陣地。今の所、両軍ともに相手に対して一発の銃弾も発射していない。お互いに敵が自分達を発見していることは知っている。にも関わらず、彼らが攻撃しないのは、非効率的だからである。攻撃する側のヘリック共和国軍としては、ダナム山岳基地の防衛力の高さを十分に知っている。だからこそ、準備不足で攻撃するのはあってはならないことだった。対するゼネバス帝国軍も、先遣部隊を攻撃するだけでは、敵の攻略作戦をとん挫させることができないことを知っている。
「……ダナム山岳基地。また来ることになりましたね。隊長」
「あの要塞をこれから俺達が……」
「……」
彼らは、共和国軍ダナム山岳基地攻略部隊の中で、最初にダナム山岳基地を目撃した兵士の一人となった。
先遣隊は、ダナム山岳基地の守備隊が利用できる火器の射程圏ギリギリの場所に布陣し、後続の友軍部隊到着を待った。
共和国軍が到着したこの日、戦闘が起こった。
この戦闘は、ヘリック共和国側の野戦陣地構築を妨害するためにダナム山岳基地の守備隊がアイアンコングの長射程対地ミサイルとダナム山岳基地の重トーチカの大型砲による射撃を試みたのが始まりとなった。
すぐに共和国軍もゼネバス帝国軍に対してゴジュラスmkⅡ量産型と重砲部隊のキャノニアーゴルドスの長距離キャノンで反撃し、砲弾とミサイルが寒空の下飛び交った。
今日の戦いは、お互いにミサイルと砲弾を射程圏ギリギリで撃ち合うだけのものでしかなく、1時間と立たず終了した。
ヘリック共和国軍ダナム山岳基地攻略部隊は、その後も随時到着した。彼らは、ダナム山岳基地を包囲する様に陣地を構築していった。
中央山脈北部の補給ルートを巡る戦い、中央山脈北部最大の戦闘となったダナム山岳基地の戦いの幕開けは、この様なものだった。