ゾイドバトルストーリー 中央山脈の戦い 山岳基地攻防戦 作:ロイ(ゾイダー)
私としてはステゴサウルス型とパキケファロサウルス型のギミックが楽しみです。
――――――――――――中央山脈北部 帝国側勢力圏―――――――――
雪が降り積もる険しい岩場にその部隊は配置されていた。この帝国軍部隊は、ディメトロドン1機 ゲーター3機を中核とする電子戦部隊で、更に彼らを護衛する為の小型ゾイド部隊が10機近く周囲に展開していた。
「上空に敵機なし………昨日とは大違いだな」
第327哨戒部隊指揮官 ヴォルフラム・ドルゲ大尉は、愛機の対空レーダーの表示を見て言った。対空レーダーには、敵機の姿は確認されていない。今のところは。
「今日は来ないのかな?」
「だといいな」
彼の愛機のディメトロドンとは、1年以上の付き合いになる。
ドルゲとディメトロドンの初陣は、ゼネバス帝国の失地回復の第一歩となったバレシア湾上陸作戦―――――――――約2年の平和のぬるま湯に浸っていた共和国軍に暗黒大陸で軍備増強に努めた帝国軍の戦力を見せ付けたこの戦いで彼とディメトロドンは、決定的な役割を果たした。と言っても最前線で暴れ回ったわけでは無い。
ドルゲのディメトロドンと戦友達は、電子戦という銃弾を使わない戦いで勝利する事で友軍に貢献したのである。
彼の愛機 ディメトロドンは、武装面では、ゼネバス帝国軍の保有する大型ゾイドの中で最も貧弱だ。
だが、この機体には、デスザウラーやアイアンコングといった帝国軍の強力なゾイドにも匹敵する威力を秘めている。それは、電子戦能力。
ディメトロドンの最大の特徴である巨大な背鰭は、高性能のレーダーシステムなのである。
更にディメトロドンには、強力な電子システムが搭載されている。
ディメトロドンに搭載されている電子システムは、敵の電波を捉え、自動的に分析し、瞬時に電子妨害を行う事が可能であった。
初陣となったバレシアの戦いで、ディメトロドンは、共和国軍の大型電子戦ゾイド ゴルドスを撃破し、強力な妨害電波で共和国軍の通信網を破壊した。
ディメトロドンの電子攻撃によってレーダーも通信機も使用不能になったバレシア湾沿岸の共和国守備隊は、降伏を余儀なくされたのである。
「このディメトロドンの電子システムがある限り、共和国の奴らに奇襲はさせんよ!」
初陣以来、愛機と共に祖国の勝利に貢献してきたドルゲは、自分の職務に誇りを持っていた。
電子戦という一見地味な任務が、如何に現代の戦争で重要な役割を果たしているかを彼は知っていたからだ。
「後5分で昼飯ですね。」
ドルゲの部下の1人が言う。
退屈な上空警戒任務では、食事は、数少ない楽しみの1つ。と言っても保存食。だが、それでも彼らにとっては貴重な日々の糧と言えた。
「ああ、ビーフシチューのパックを開けよう。あれは、一番美味いからな」ビーフシチューのパックは、彼らにとっては、御馳走であった。
「!!本当ですか?!隊長殿っ」
「おう。今日は敵機が来ない日みたいだからな。」
こんな日は久しぶりだな。とドルゲは心の中で呟く。
ここ2週間近く、共和国空軍の飛行ゾイドが侵入してこない日はなかった。
ドルゲらは、今日が平和な日になると思っていた。
しかし、彼らが昼食を取る事は二度と無かった。突如、ディメトロドンの護衛を務めていたハンマーロックが爆散する。
「何だ?!」
「敵襲!」
「あれは、アロザウラー………寒冷地仕様かっ」
彼らの目の前に現れたのは、共和国軍が新開発した中型ゾイド アロザウラー。
アロザウラーは、寒冷地仕様に腰部に排気ダクト、脚部にスキー板の様な安定板を装備し、雪と岩の大地に溶け込むような寒冷地迷彩塗装が施されていた。
アロザウラーの数は、6機。
いずれも素早い動きで護衛機に攻撃を開始した。
アロザウラーの背部の2連装ビーム砲が火を噴いた。コックピットを撃ち抜かれたハンマーロックがもんどりうって倒れた。
アロザウラーの左腕………電磁ハンドがイグアンの頭部コックピットを握り潰し、右腕に内蔵した火炎放射器をゲルダーに浴びせる。
「なんて速さだ……うぁあああ」
「電子戦機を守れっくっ」
奇襲攻撃を受けた事もあり、護衛部隊は、次々と雪原に崩れ落ち、屍を晒す。
最後の1機がアロザウラーの集中砲火を浴びて大破炎上した。
護衛機を全て葬った共和国軍機は、ディメトロドンに襲い掛かった。
ディメトロドンの頭部コックピットをパイロットごと嚙み砕いた。
ドルゲが最後に目撃したのは、鋭い歯が並んだアロザウラーの口だった。こうして第327哨戒部隊は、全滅した。
同じ頃、周囲の対空警戒を担当していた3つの帝国の哨戒部隊が共和国軍の小部隊の襲撃を受けて壊滅状態に陥っていた。
この襲撃には、4機のシールドライガー寒冷地仕様で編成された第7高速中隊第1小隊も参加していた。
「救援を呼ばれる前に叩くぞ!」
「はい!」
「了解!」
4機のシールドライガー寒冷地仕様が、雪に覆われた険しい山肌を駆け降りる。4機の白い獅子が獲物に襲い掛かった。
先頭を走るのは、指揮官であるケインのシールドライガー寒冷地仕様である。ケインのシールドライガー寒冷地仕様の前に護衛機のハンマーロック3機が立ち塞がった。
「邪魔だ!」
ケインのシールドライガー寒冷地仕様が横薙ぎに火炎放射器を掃射、炎の渦に飲み込まれたハンマーロック3機が炎に飲み込まれる。
ティムのシールドライガー寒冷地仕様がハンマーロックの胸部にレーザーサーベルを突き立てる。他の2機のシールドライガー寒冷地仕様もそれぞれ護衛機を葬っていた。
護衛機を全て仕留めた4機のシールドライガー寒冷地仕様は、ディメトロドン2機、ゲーター3機で編成された哨戒部隊に襲い掛かった。
ディメトロドンは、接近戦ビーム砲、ゲーター3機はビームガトリングで弾幕を張って応戦する。だが、それらの攻撃は、シールドライガー寒冷地仕様を撃破するには不十分過ぎた。
火炎放射器が火を噴き、炎の渦がゲーター数機を飲み込み、燃え盛る残骸に変換した。
「くたばりやがれ!」
ティムのシールドライガー寒冷地仕様がディメトロドンに肉薄し、至近距離から火炎放射を浴びせ、撃破する。
最後に残ったディメトロドンに指揮官機のシールドライガー寒冷地仕様が飛び掛かる。
ストライククローの一撃が、ディメトロドンの背鰭を薙ぎ払う。ディメトロドンが悲鳴を上げる。
「これで、終わりだ!」
シールドライガー寒冷地仕様のレーザーサーベルがディメトロドンの首筋につきたてられた。
同じ頃数十キロ先では、ベアファイターとコマンドウルフの混成部隊がディメトロドンと護衛部隊を撃破していた。
今回の対空警戒部隊への攻撃には、共和国陸軍のシールドライガー、コマンドウルフ、ベアファイター、アロザウラー、スネークスといった山岳での活動に優れたゾイドで編成された部隊が参加していた。
しかし、例外も存在した。
第233遊撃戦旅団 通称 ウィンター・ラビット旅団に所属する兵士達とそのゾイドがそれである。定数2500人のこの旅団は、1年前のデスザウラーによる帝国の攻撃による共和国首都失陥以来、多数編成された遊撃戦(ゲリラ戦)部隊の1つであった。
その最大の特徴は、ザブリスキーポイントに程近い共和国北部等の寒冷地出身者が兵員の大半を占めているという点である。
超小型ゾイドと歩兵部隊で編成されたこの部隊は、中央山脈北部等の寒冷地での後方浸透ゲリラ作戦のために設立された。彼らは、寒冷地でのゲリラ戦のプロフェッショナルと言えた。
これまで彼らは、主にカンガルー型アタックゾイド ショットダイルを運用していたが、2週間前から新型の24ゾイド バトルローバーに更新されている。
今回のダナム山岳基地攻略作戦でも敵の補給路の寸断や後方攪乱、偵察等の攻略部隊への支援任務に従事する事となっていた。そして、今日も彼らは、この極寒の雪山で作戦を行っていた。
今回の彼らの獲物は、帝国軍の対空警戒部隊である。
「護衛は、イグアン4機とモルガ、シルバーコングが数機か………目標を攻撃する前に叩いておくべきか……?」
ゲリラ部隊を率いる隊長の男は、岩陰に隠れながら赤外線対応式電子双眼鏡で敵部隊を眺めながら、言った。
彼の黒い双眸の見つめる先には、ディメトロドンの赤い巨体があった。それこそ、彼と彼の部下の攻撃目標。
「隊長、全員は位置に着きました。」
背後から副官が小声で伝えてきた。
「分かった。手筈はいつも通り、俺の隊がミサイルを発射したら、皆で一斉にディメトロドンを叩け!」
「了解!」
隊長は、組み立てたばかりの手持ち式の対ゾイドミサイルを肩にかけ、目標に砲口を向けた。
「………当たれ!」
爆炎と同時に砲口から小型ミサイルが発射された。そのミサイルは、後部から炎を噴き上げながら、吹雪の中を突進し、護衛部隊のイグアンに着弾した。それを合図に部下達も次々と、ミサイルを発射した。
赤外線誘導方式のミサイルは、発射された方向に存在する最大の熱源を目指して飛翔していった。
この極寒の地で高熱を放つ物と言えば、軍用ゾイド以外あり得ない。
そしてこの場で、最も高い熱を放っているのは、大型電子戦ゾイド ディメトロドン………正確には、その背鰭、レーダーシステムだった。
レーダーシステムを兼ねるディメトロドンの背鰭に小型ミサイルが次々と着弾した。ディメトロドンの背鰭が爆発と同時にはじけ飛んだ。
背鰭を吹き飛ばされたディメトロドンの悲鳴が響き渡った。
「やったぜ!」
「よし、全部隊撤収!」
指揮官の男が右手を高く掲げ、空中に信号弾を発射した。空中で信号弾が炸裂するのと同時に各所に伏せていた特殊部隊員がバトルローバーに乗って退却を開始した。
「逃がすか!」襲撃を受けた帝国軍も逃げる特殊部隊を追撃しようとする。だが、そこに新手が出現した。新手………その正体は、共和国側のホバー式の戦闘ビークル サンドスピーダの寒冷地仕様―――――-スノースピーダである。
スノースピーダに跨った共和国兵は、右手に持ったサブマシンガンを乱射し、敵歩兵目掛けて手榴弾を投げつけた。
護衛部隊のゾイドに随伴していた歩兵部隊が打撃を受けた。それでもなお、イグアン1機を含む帝国軍部隊は、共和国軍特殊部隊を追撃する。
次の瞬間、イグアンの左脚の真下の地面が爆発した。
撤退用に埋設していた地雷が炸裂したのである。この地雷は、直接ゾイドや車両が踏む事で信管が作動するタイプの地雷で、ホバー飛行するスノースピーダは、その上空を飛んでも問題はなかった。
「くっ、地雷だと……!?」
左脚を損傷したイグアンはその場で膝を付く。その隣では、シルバーコングが地雷を踏んで吹き飛ばされていた。
煙幕と地雷が齎す混乱に乗じてバトルローバーとスノースピーダの混成部隊は、撤退していった。白煙が晴れた後、残されたのは、背鰭を吹き飛ばされたディメトロドンと護衛部隊のみ。
短時間の間で、ゼネバス帝国軍が中央山脈北部前面に形成していた警戒網は、ズタズタにされた。
その5分後、共和国空軍の戦爆連合が上空を通過した。
対空警戒の電子戦部隊を喪失したゼネバス帝国軍は、それを察知することが出来なかった。
「畜生なんて数だ!陸軍のディメトロドン部隊は何をしていたんだ?!」
警戒飛行していたシュトルヒ・ブラックバードのパイロットは、目の前に出現した敵の大編隊を見て、思わず叫んだ。
彼とシュトルヒの前には、共和国空軍の大編隊があった。
その数は、優に100は下らないだろう。
シュトルヒの早期警戒機仕様であるこの機体が、到底敵う相手ではない。
彼は機体を反転させ、友軍基地へと退避しようとしたが、その判断は遅すぎた。
大編隊から数機のプテラスが飛び出し、退却するシュトルヒ・ブラックバードを追撃した。
シュトルヒ・ブラックバードは、必死で逃げる。だが、元々、背部にレドームを装備していることもあって、その動きは通常機に劣っている。
プテラスの1機が背部の空対空ミサイルを発射した。直後、ゼネバス帝国軍唯一の早期警戒機は、ヘリック共和国製のミサイルを受けて火球と化した。
中央山脈北部における航空撃滅戦の火ぶたは、こうして切って落とされた。ゼネバス帝国空軍の迎撃を殆ど受けることなく、サラマンダーとプテラスで編成された共和国空軍の戦爆連合は、攻撃を開始した。
彼らは、真っ先に空軍基地や飛行場に襲い掛かった。
最初に共和国空軍の標的となったのは、ヴィンターシュタール飛行場であった。
山岳地の麓に建設されたこの空軍基地には、シンカー、シュトルヒ、レドラー合わせて約40機が配備されていた。
彼らが、敵機の反応に気付いたのは、敵編隊が肉眼で辛うじて見えるまでに接近した辺りで合った。
「なんて数だ……!」
基地の管制塔にいた士官の1人は、猛スピードで接近してくる敵の航空部隊を見て思わず叫んだ。
全機を発進させる時間はない。基地司令官は、思わず苦虫を嚙み潰したような表情をした。
山の麓にある空軍基地に空襲警報が鳴り響いた。
「空襲!空襲!防空部隊は、直ちに迎撃せよ!戦闘機隊は発進を急げ!」
けたたましい空襲警報が基地全体を包み込み、基地のパイロットや整備兵等、兵士達は行動を開始した。
「共和国の奴らめ、仕掛けてきやがったな」
「どうやってここまで発見されずに来たんだ?」「地上の索敵部隊の奴らは寝ぼけてやがったのか……!」
「糞!早く迎撃機を上げろ!このままじゃ全滅する!」
彼らにとって、ここまで敵の航空部隊が攻めてきたのは、初めての経験だった。
これまでは、遥か手前で、共和国空軍の編隊の反応を地上の対空警戒部隊が発見し、各地の帝国軍基地に連絡を入れていたからである。しかし、今回は、それがなかった。
「迎撃開始!滑走路に敵を近付けるな!」
「叩き落とせ!」
対空ザットンと対空マルダーで編成された防空部隊が共和国空軍機を迎え撃つ。
対空ザットンは、背部に搭載した対空砲でプテラス部隊を迎撃する。
1機のプテラスが翼に被弾し、墜落する。更に数機が被弾した。
だが、対する共和国空軍も地上の防空部隊のゾイドや対空陣地に襲い掛かった。
戦闘爆撃機仕様のプテラスが、対地ミサイルを発射する。対空ザットンの背部にミサイルが着弾し、炎上する。
更にサラマンダー1機が爆撃を開始した。上空から降り注ぐ爆弾を浴びて、対空ザットン、対空マルダーが数機纏めて破壊される。
「爆撃開始、レドラーは絶対に滑走路の上で叩け!上にあげるんじゃないぞ!」
滑走路上空に侵入したサラマンダー部隊が次々と爆弾を投下する。滑走路には8機のレドラーが駐機されていた。
空中では、無敵を誇るレドラーも、滑走路の上では、無力な的だった。
彼らは、俎板の上に横たえられた魚と同じ。滑走路に駐機されていた8機のレドラーは、成すすべもなく破壊された。空中で炸裂したクラスター爆弾の子弾の雨を浴びたレドラーは蜂の巣にされていた。
サラマンダー部隊の空爆の後、護衛機のプテラス部隊までもが低空に降りてきて機銃掃射を開始した。スクラップ置き場さながらの惨状の中、まだ無事な滑走路から、1機のレドラーが離陸しようとする。その背後に1機のプテラスが張り付いた。
プテラスの頭部と胴体の機銃が火を噴き、レドラーに無数の銃弾が浴びせられる。堪らずレドラーは翼と胴体に被弾し、滑走路に激突した。被弾したレドラーは滑走路を滑り、バラバラになって炎上した。
別のプテラスも離陸を試みたレドラーやシンカーの上方に張り付いて機銃弾やミサイルを叩き込み、撃墜していた。
防空部隊も迎撃機も喪失したゼネバス帝国空軍は、ただ逃げる事しか出来なかった。それから10分後、共和国空軍の航空部隊は、次々と基地上空から離脱していった。
「手ひどくやられてしまったな………」
空襲が終わった後、ヴィンターシュタール飛行場の基地司令官は、飛行場を見渡して言った。
「再建には、3週間……最悪の場合、一月は掛かるかもしれません。」
傍らに控えていた副官が彼に言う。
彼らの目の前には、共和国空軍の攻撃で完膚なきまでに破壊された滑走路があった。滑走路は、爆弾によって穴だらけにされ、その上には、撃破されたレドラーやシンカーの残骸が転がっている。
殆どは、空に飛び立つことなく地上で撃破されていた。更に残骸の大半は、激しく燃え盛っていた。放置しておけば、残された飛行場の施設にも被害が及ぶのは明らかである。
既に生き残った整備兵や防空部隊、パイロット等が消火作業を開始している。
滑走路の上が、オレンジの炎から、化学消火剤の泡の白と破壊された滑走路の黒に塗り替えられるには、もうしばらくの時間が必要だった。彼らは、まだ知らなかった。この日、襲撃を受けたのは、自分達だけでは無い事を………。
共和国空軍のプテラス36機は、吹雪に揉まれながら、雪に覆われた山肌に沿って低空を飛んでいた。
プテラス隊は、攻撃目標であるゼネバス帝国軍の空軍基地を目指していた。
内6機は、地上攻撃用の大型バルカン砲を両翼下にぶら下げていた。
この装備は、元々地上支援用の兵装だったが、今回の滑走路攻撃任務に転用された。地上に弾丸の嵐を浴びせることの出来るこの兵器は、敵飛行場の滑走路に展開している敵飛行ゾイドを迅速に破壊するのに最適であった。
「全機、間もなく敵基地に入る!」
「了解!」
「了解」
間もなく、彼らは、目標である帝国空軍基地上空に侵入した。
防空部隊の対空ザットンと対空マルダーが、彼らを迎え撃つ。通常型のプテラス隊が対地ミサイルを発射して、防空部隊と交戦する。
ミサイルを背部に受けた対空ザットンの背部で爆発が起こる。1機のプテラスが翼に対空ビームを受け、地面に突っ込んで大破した。
「滑走路には、獲物が転がってるぞ!」
「全機射撃開始!1機残らずハチの巣にしてやれ!」
激闘の中、6機の改造型プテラスは、滑走路へと突進した。滑走路では、整備兵たちが1機でも多くの飛行ゾイドを発進させようとしていた。
6機の改造プテラスが滑走路上空に侵入した。1機のレドラーが滑走路から離陸しようとしていた。
「行かせるか!落ちろー!」
指揮官機の改造型プテラスのぶら下げていたバルカン砲が火を噴いた。胴体後部にバルカン砲の集中射撃を浴びたレドラーは、煙を吐きながら滑走路に激突した。
バルカン砲をぶら下げた改造型プテラスは、シンカーやレドラーが並んでいる滑走路に銃弾の嵐を叩き込んだ。
6機の改造型プテラスは、短時間でレドラーやシンカーが並んでいた滑走路をスクラップ置き場へと姿を変えてしまっていた。
大火力と重装甲で知られたシンカー重装型も胴体をハチの巣にされ、スクラップと化した。
胴体両脇にバルカン砲を装備したプテラスが去った後通常のプテラスが空爆を開始した。
改造型プテラスのバルカン砲掃射と通常型のプテラスの爆撃によってこの空軍基地は、全ての航空戦力を喪失した。
同じ頃、別の空軍基地にも共和国空軍の攻撃が加えられていた。
こちらは、帝国空軍も少数ながら迎撃機の発進に成功し、共和国空軍と交戦状態に突入した。
だが、数で劣勢の帝国空軍機は、あっという間に数機を残して全滅を余儀なくされ、数少ない生き残りも基地上空から退避することになった。
「敵基地上空より敵航空部隊を排除、爆撃隊突入せよ」
先行したプテラス隊が制空権を確保したのと同時に爆弾を満載したサラマンダー部隊が侵入し、滑走路への空爆を行った。
こうしてこの帝国側空軍基地は、その機能を失った。
「久しぶりに楽な任務だったぜ……」
眼下の雪原の上で紅蓮の業火に包まれる空軍基地を見つめながら、サラマンダーのパイロットの1人は、軽口を叩く。
だが、直後彼らに先程の空戦を生き残った2機のレドラーが襲い掛かった。
「敵機だ!生き延びていやがった!」
「何だと!?」
「さっきの奴らだ。尻尾を巻いて逃げ出したんじゃなかったのか?」
護衛のプテラス隊がサラマンダー部隊を守るべく彼らを迎え撃つ。
プテラスの空対空ミサイルによって撃墜されるまでの間、レドラー2機は、6機のプテラスを撃墜し、3機を撃破した。
共和国空軍の攻撃の前に対空監視部隊という電子の目を喪失したゼネバス帝国空軍は、大打撃を被った。
今回の航空戦は、帝国側からすれば、目潰しされた状態で戦っているのに近かった。
中央山脈北部の帝国軍の航空戦力に打撃を与えたヘリック共和国空軍は、次の一手を打った。
サラマンダー部隊による敵拠点への空爆である。百機以上のサラマンダーが護衛のプテラスと共に大編隊を組んで中央山脈北部に存在するゼネバス帝国側拠点へと殺到した。
「サラマンダー!なんて数だ!!」
中央山脈北部に設営された補給基地のレーダー士官は、レーダーに映る光点の数に仰天した。
それらの光点は、サイズと反応から、サラマンダータイプである事は明らかだった。最初彼は、それをレーダーの故障か、プテラスタイプと誤認したのだと思った。
だが、間もなく彼と彼の同僚達は、その反応が誤認でも欺瞞でもない事を身をもって思い知らされることとなった。
補給基地上空に到達したサラマンダー部隊が空爆を開始したのである。
サラマンダーは、胴体下部の爆弾倉のハッチが開き、満載されていた爆弾が、地上に向かって降り注いだ。
基地全体が巨人の手に掴まれて揺さぶられたかのような揺れと爆音が帝国兵をなぎ倒し、基地の各所で火災が発生した。爆弾の直撃を受けたツインホーンが2機大破し、並べられていたイグアンが将棋倒しになった。
「畜生!空軍の奴らは何をしているんだ!わあっ!」
「落ちやがれ!」
マルダーが対空ミサイルを発射した。
サラマンダー部隊は、悠々と去っていった。サラマンダーとそのパイロット達の仕事はこれで終わりではない。
基地に帰還した彼らは、爆弾を補充した後、再び別の拠点に対する空爆作戦を行うのである。
この作戦を立てた共和国空軍の司令官たちは、制空権が一時的に共和国空軍のものになったこの機会を出来る限り有効活用するつもりだった。
共和国空軍の爆撃部隊は、それまでの低調な戦果を払拭するかの様に日が暮れるまで中央山脈北部に存在するゼネバス帝国側拠点に対する空爆を行った。
この空襲で、中央山脈北部に存在している帝国軍基地の多くは、甚大な損害を被った。
小規模の基地に至っては、事実上消滅したも同然の被害を被っていた。
しかし、ダナム山岳基地は、攻撃を受けることが無かった。
―――――――――ダナム山岳基地 司令室――――――――――――
司令室に存在する大画面モニターの上には、数時間前の航空戦で破壊された帝国軍の空軍基地、撃墜されたレドラーやサラマンダーの残骸、空襲を受けた各帝国軍基地の損害集計の結果等が映し出されていた。
「……酷いものだな」
部屋に詰めている軍人たちの中で、最上位者の老将は、憂いに満ちた表情で言った。
「……はい。ヴァイトリング少将……共和国空軍の攻撃によって、中央山脈北部の我が軍の拠点は、3分の2が空襲を受けました。」
「空軍も何故迎撃機を出せずにむざむざ壊滅したんだ……?これまでは有効に迎撃出来ていただろうに」
「敵が大規模な航空戦力を送り込んできたのかもしれんぞ。」
「レドラー隊でも勝てない程の数のプテラスとサラマンダーを……か?」
数人の参謀は、これまで空の守りとして機能してきた帝国空軍が何故敵の爆撃部隊を防げず、全滅したのか不思議だった。
「……それについては、空軍と空軍に協力している友軍の偵察部隊から報告があります。」
若い士官が、立ち上がった。同時にモニターに表示されていた映像が別のものに変わる。
「しかし、帝国空軍も精鋭揃いだ。例え、壊滅状態に陥ったとしてもそれ相応の打撃を敵の空軍に与えているのではないか?」
「……空軍基地を奇襲攻撃されては、出来る事は限られている……残念ながら、敵の航空戦力に与えた打撃は、軽微だと判断した方がいいな。それにしても………この基地は攻撃されなかったな。」
ヴァイトリング少将は、不思議そうに言う。
それは、この基地にいる兵士達の多くが抱いた疑問だった。これまで帝国側勢力圏への爆撃の度にダナム山岳基地は、サラマンダー部隊の空爆を受けてきた。
それが、今回の航空攻撃では、周囲の拠点が攻撃されただけであった。何故この基地を襲わなかったのかという疑問は、ダナム山岳基地に勤務している帝国軍兵士の多くが抱いていた。
「はい、流石の共和国のサラマンダー部隊もこのダナム山岳基地の対空防衛網に恐れをなしたのでしょう!」
「サラマンダーは、ゴジュラス並みに戦力価値の高い機体ですからな、敵も大損害を負うリスクを避けたと考えるべきだと思います。」
「恐らく2日前の偵察機が撃墜されたのが利いているのでしょう。」
そう語る副官の言葉には、司令官に対する尊敬が多分に含まれていた。彼らと対照的にヴァイトリング少将と数名の指揮官達は、彼らとは別の事を考えていた。
「……多分、奴らは、夜に仕掛けてくるな」
〝皇帝の右腕〟攻勢で、敵の夜間爆撃に遭遇した経験を持つヴァイトリングは、言った。
「敵が、夜間爆撃を仕掛けてくると?」
「ああ、私が敵の空軍司令官なら少数精鋭の夜間攻撃隊による夜襲を仕掛ける。夜間ならば、このダナム山岳基地の対空火器の命中率も半減する。対空ミサイルも妨害手段で攪乱されては命中率を低下するからな。夜間の警戒体制を厳にしろ。……私が対空部隊を指揮する。」
ヴァイトリング少将は、そう言うと椅子から立ち上がった。
「少将閣下が、直々に?!」
隣にいた副官が思わず目を剥く。基地司令官が自ら対空部隊を指揮するのは、余りにも大げさに思えたからである。
「何を驚く事がある。私は、2日前にも敵の偵察機を撃墜したぞ。あれと同じことをするだけだ。」
初老の司令官は、室内にいる部下達に微笑みかける。
「………はい!少将閣下。」
彼らが部屋を離れてから約1時間後、太陽が中央山脈の峰の向こうへと消え、世界は星空だけが空を照らす闇に包まれた。
ダナム山岳基地とその周辺は、明るさを保っていた。共和国空軍の夜間攻撃隊を警戒した帝国軍の防空部隊のサーチライトの灯りである。
その強烈な明り周辺には、対空火器を搭載したゾイドで編成された防空部隊が陣を組んで夜の闇を切り裂いて敵の航空部隊が来るのを今か今かと待ち受けていた。
それらのゾイドたちの中には、基地司令官 クルト・ヴァイトリング少将の乗機であるアイアンコングmkⅡ限定型も含まれていた…………