ゾイドバトルストーリー 中央山脈の戦い 山岳基地攻防戦   作:ロイ(ゾイダー)

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ゴジュラスmkⅡ量産型は、デスザウラーのロールアウト以降やられ役へと落ちぶれ、のちの暗黒軍との戦闘では、完全な雑魚の状態でした。
こうなったのには、何か理由があったのではないかと考えたのが劇中のゴジュラスパイロットの戦術と訓練についての設定です


第18話 雪上の前哨戦 後編

 

 

3機のゴジュラスmkⅡ量産型の長距離キャノンから発射された砲弾6発は、3発が帝国軍部隊に着弾し、5機の小型ゾイドを破壊した。

 

 

更に1発は、モルガが牽引していたAZ砲を吹き飛ばした。残り2発は、部隊の周辺に着弾して衝撃波で歩兵やアタックゾイドに損害を与えた。

 

 

 

「敵襲!砲撃開始!」

 

 

 

谷の出口にいたゼネバス帝国軍は、発見したばかりの敵部隊に対して砲撃を開始した。

 

 

山の上から降りてくる雪混じりの冷たい空気で形成された白いヴェールを切り裂いて無数の砲弾と光線が第5連隊に襲い掛かった。

 

 

「3番機大破!」

 

 

損害が出たのは、部隊の前衛を務めていたアロザウラーとゴドスの部隊である。集中攻撃を受けたゴドス数機が爆散した。

 

 

更に重装甲のアロザウラーも1機撃破された。撃破されたアロザウラーは胴体に被弾していた。

 

 

アロザウラーは、対空機銃、ゴドスは、ロングレンジガンで反撃するが、まだ有効射程範囲ではない為、帝国軍部隊に打撃を与える事は出来なかった。

 

 

「くっ、これでは味方部隊が一方的にやられるだけか……」

 

 

グレイは、長距離キャノンの照準を合わせながら歯噛みした。

 

平地の戦闘の様に長距離キャノンの砲撃で敵の火力を封じ込めて味方部隊の突破口を開けると判断したのは、判断ミスだった。

 

 

砲撃戦を続けていても無駄に被害を拡大するだけ…………そう判断したグレイは、ゴジュラスを前に出す事を決意した。

 

 

「ゴドスとアロザウラーは、一旦下がれ。俺達が前面に出る!」

 

 

「どうするんですか?」

 

 

スコットが尋ねる。

 

 

「作戦変更だ。俺達が盾になるんだよ!ゴジュラスの装甲なら並大抵の攻撃を弾き返せる。」

 

「了解」

 

 

最前線で隊列を組んでいたゴドスとアロザウラーが左右に分かれ、谷の端に寄る。

 

 

 

彼らに代わって、それまで後ろにいたゴジュラスmkⅡ量産型3機が前衛に出る。

 

 

耐久力に優れたゴジュラス部隊が、ゴドスとアロザウラーの混成部隊の盾となる陣形である。これは、グレイが士官学校時代に学んだ地球の戦術の1つ、戦車による歩兵支援戦術の応用である。

 

 

「やはり砲撃だけで敵を叩くのは無理があるな。」

 

 

長距離キャノン砲を何発も撃ち込んだが、どれだけの戦果が上がっているのかは不明である。

 

赤外線センサーにいくつもの熱源の塊が表示される。敵ゾイドがフレアを散布したな。グレイはそう推測した。

 

ゴジュラスmkⅡ量産型の長距離キャノンをこの距離から撃っても砲弾と戦力の浪費になるだけ……そう判断したグレイは、新しい戦術で対応する事を決断した。

 

 

「……射撃戦では、無駄に損害が出るだけだ!エミリー、ファーデン、敵陣に突っ込むぞ。このゴジュラスmkⅡのパワーで帝国軍をスクラップにしてやる!」

 

 

「接近戦を仕掛けるんですか!」「ゴジュラスの本分は格闘戦だ。俺達ならやれる。」

 

「了解です!」

 

 

「分かりました隊長!」

 

 

 

3機のゴジュラスmkⅡ量産型は、上空に向けて野太い咆哮を上げると、敵部隊へと吶喊を開始した。

 

 

「格闘戦か……俺もあまりしたくないんだがなぁ」

 

 

グレイは、揺れるゴジュラスのコックピットで呟いた。彼は、ゴジュラスパイロットとなってからは、近接格闘戦の経験は数える程しかなかった。

 

 

それは他の2機のパイロットも同様で、エミリーは2回、スコットに至っては0回であった。

 

これは、第1次中央大陸戦争の数々の激戦………クロケット砦の戦いやブラッドロック戦役、グレイ砦の戦い、レッドリバー戦役でゼネバス帝国軍の将兵を恐れさせた、

 

 

ゴジュラスを操縦する為だけに訓練され、パイロットとなったゴジュラスパイロットでは有り得なかったことである。彼らの様に格闘戦の経験が少ない、あるいは格闘戦が苦手なゴジュラス乗りは、現在のヘリック共和国陸軍では珍しくない存在になりつつあった。

 

 

ゴジュラスパイロットに格闘戦が苦手なパイロットが生まれ始めた原因はいくつかあるが、その中でも、最大の理由は、ゴジュラスmkⅡ量産型が正規採用された事が挙げられる。

 

ゴジュラスに長距離キャノン砲を装備し、火力を強化したこの機体は、遠距離から敵ゾイドを破壊する事を可能にした。

 

 

だが、背部の長距離キャノン砲による火力の増大は、ミサイル攻撃で通常型のゴジュラスを苦しめたアイアンコングを射撃戦で圧倒する事に成功したが、同時にゴジュラスとそのパイロットが接近しての格闘戦を行う必要性も低下させたのである。

 

 

またゴジュラスmkⅡ量産型が配備されて以降のゴジュラス部隊の任務は、それまでの敵陣に殴り込んでの肉弾戦より、他部隊への火力支援任務の方が多くなっていた。

 

 

これらの条件が重なったことが、格闘戦が苦手なゴジュラス乗り等という奇妙な存在を生み出したのであった。だが、たとえパイロットに格闘戦の経験が殆ど無くとも、乗っているゾイドはゴジュラスである。

 

 

人間に捕獲され、人工物の身体と多数の火器や電子機器を組み込まれる以前は、この中央大陸東部の生態系の頂点に君臨する金属生命体であった。野生体の時点でその破壊力は、伊達では無かった。

 

 

鋭い歯が並んだ顎の力は、チタニウム合金の板をビスケットの様に押し潰し、嚙み砕く事が出来た。左右の太い腕の力は、ビルを突き崩し、太い尾の一撃は、並大抵の大型ゾイドを倒す威力を持っている。

 

そしてこの肉食獣は、獲物をいかに捕え、どの様にしてこの手で獲物を引き裂き、噛み砕けばいいのか本能として〝覚えていた〟。

 

 

自らと乗り手を鼓舞するかの様に敵に向けて3機の大型機械獣は、咆哮した。

 

 

「エスターン、スコット、止まるなよ!」

 

 

「分かってます!」

 

「了解っ!」

 

3機のゴジュラスmkⅡ量産型は、帝国軍部隊を肉弾戦で叩き潰すべく、突進を開始した。3機のゴジュラスmkⅡ量産型の突撃は、帝国軍部隊に動揺を与えた。

 

「ゴジュラス!突っ込んでくるのか!?」

 

 

レッドホーンに乗る帝国士官は、3機のゴジュラスが自分達に向かって来るのを見て驚愕した。

 

 

彼らは、敵のゴジュラスmkⅡ量産型は、白兵戦は、部下のアロザウラーやゴドスに任せて遠距離から砲撃を浴びせてくるだけだと考えていたのである。

 

 

彼を含む多くの帝国軍パイロットにとってゴジュラスとの交戦等、1か月前、この地に配属された時には想像もしていない事だった。だが、それは間もなく現実の物となりつつあった。

 

 

「ばっ、ばけものだあ!」

 

帝国兵の1人は、乗機のコックピットで悲鳴を上げた。彼の視界の先………モニターに表示された画像には、吹き荒れる吹雪をヴェールの様に纏う2足歩行の白い巨獣がいた。悲鳴を上げた帝国兵は彼だけではなかった。

 

 

鋭い歯が並んだ凶悪な面構えの巨大な鋼鉄の肉食獣が3体揃って自分達に向かって来るのを目撃すれば、恐怖を抱くのも無理もない事だと言える。

 

 

しかも、この肉食獣は、敵国の象徴的役割を与えられる程活躍し、多くの味方の将兵とゾイドを葬ってきたのである。

 

 

 

「逃げるな!全機砲火をあの3機に集中しろ!絶対に近付けるな。」

 

 

しかし、帝国軍部隊の兵士達も訓練を受けた兵士である。指揮官機を中心に帝国軍機が、ゴジュラスmkⅡ量産型に向けて砲撃を開始した。

 

 

帝国軍の兵士達は、自分達を叩き潰す為に突進してくる3機の巨獣を阻止すべく、レーザー砲やキャノン砲のトリガーを、ミサイルの発射ボタンを押し続けた。

 

 

 

3機のゴジュラスmkⅡ量産型の白い、雪景色に溶け込む様な塗装が施された装甲の上を幾つもの色鮮やかな火球が彩る。

 

 

 

それらの攻撃は、ゴジュラスmkⅡ量産型の分厚い重装甲を貫通するには至らず、ゴジュラスmkⅡ量産型の動きを鈍らせる程の効果しかない。

 

 

だが、搭乗しているパイロットに対しては衝撃によってダメージを与える事が出来た。

 

 

グレイら、ゴジュラスmkⅡ量産型のパイロット達は、砲弾が着弾する衝撃にシェイクされた。

 

 

「くっ」

 

 

グレイは、衝撃に悶えつつ、ゴジュラスmkⅡ量産型の左腕に装備した4連速射砲を盾の様に掲げる。接近してきた中型小型ゾイド対策の兵装である4連速射砲は、緊急時には盾として使用できた。

 

 

「……見えた!連中……なんて数だ。」

 

 

グレイは、正面モニターに映る映像を見て叫んだ。

 

 

今の彼には、谷の出口にいる敵部隊の陣容がはっきりと見えた。彼の目の前には、4機のレッドホーンを中心に小型ゾイドが展開していた。

 

 

その後ろには、AZ砲を牽引したモルガやゲーター、ザットン等、輸送機や支援用の機体がいる。

 

山に囲まれた谷底に集まった銀と赤に染められた軍勢は、吹雪で少しぼやけて見えた。

 

 

そして、鋼鉄の怪獣達は、遂に獲物に喰らい付いた。3機のゴジュラスmkⅡ量産型が、帝国軍部隊に向けて吼える。

 

 

ゴジュラスの咆哮を至近距離で聞いた者は、恐慌状態に陥った。

 

 

 

彼らの戦意は、強風に掻き消された蝋燭の火の様に喪失した。まさに魂消る、と形容すべき事態だった。一部のゾイドは、コンバットシステムがシステムフリーズを引き起こした。

 

 

「落ちろ!」

 

 

グレイのゴジュラスmkⅡ量産型が左腕側面に装着した4連速射砲を乱射する。

 

 

ハンマーロックが砲弾を頭部に受け、後ろに倒れた。至近距離から砲弾を受けた頭部は、無残にも弾け飛んでおり、それは、散弾銃を頭に受けた人間を思わせた。

 

 

他にも数機の小型ゾイドが速射砲弾の直撃で鉄屑と化す。

 

 

近くにいたイグアンに喰らい付き、胴体ごとゾイドコアを噛み砕いた。

 

 

 

後退しようとしたゲーターを踏み潰し、特殊合金製の爪の生えた太い腕……クラッシャークローでモルガの胴体を握り潰す。尻尾を振り回し、後ろに回り込もうとした敵機をなぎ倒す。

 

 

グレイは、数える程しか格闘戦を経験していない自分がここまで上手く敵を蹴散らすことが出来ている事に驚きを感じていた。

 

 

「これが、ゴジュラス本来の力なのか……」

 

愛機であるゴジュラスmkⅡ量産型の破壊力にグレイは驚嘆していた。

 

 

 

ゴジュラスmkⅡ量産型の圧倒的なパワーの前に帝国軍の小型ゾイドは、紙細工の様に引き千切られ、叩き潰された。彼の僚機も、複数の敵機を相手にその破壊力を発揮していた。

 

 

「やあ!」

 

 

エミリーのゴジュラスmkⅡ量産型が不用意に接近してきたゲルダーの胴体を踏み潰す。そのゲルダーのパイロットは、接近して連装電磁砲をゼロ距離射撃することによってゴジュラスの脚部を破損させようとしていたのだが、その意図は、無残な失敗に終わった。

 

 

更にエミリーのゴジュラスmkⅡ量産型に5機のモルガが突撃する。5機のモルガはレーザーカッターをむき出しにし、目の前の巨獣に突進した。

 

 

だが、その5機は、ゴジュラスmkⅡ量産型の太い尾の一薙ぎで文字通り叩き潰された。

 

 

まるで子供が遊び飽きたおもちゃを片付けるかの様な無造作な一撃。だが、その一撃で、彼女のゴジュラスの前にいたモルガ5機が破壊されたのである。

 

 

エミリーのゴジュラスmkⅡ量産型のテイルアタックを受けたモルガは、プレスされた空き缶の様に直撃を受けた箇所が潰されていた。

 

 

胴体に直撃を受けたモルガの中には、文字通り真っ二つになった機体もあった。

 

 

モルガの大型ゾイドに匹敵すると言われる頭部装甲も、完全に粉砕されていた。スコットのゴジュラスmkⅡ量産型は、AZ砲を牽引していたモルガ部隊の側面に突撃した。

 

 

スコットのゴジュラスmkⅡ量産型は、左腕の4連速射砲を乱射した。頭部装甲を撃ち抜かれたモルガが擱座し、牽引されていたAZ砲が横倒しになった。

 

 

撃ち下された76mm砲の連打がモルガ隊を撃ちのめす。

 

 

「踏みつぶしてやるぜ!」

 

 

スコットのゴジュラスmkⅡ量産型は、モルガ隊をその巨体で踏み躙った。230tの質量を持つ巨体の前に成す術無く、踏み躙られる。

 

 

胴体を踏み潰されたモルガが、雪原に緑色の体液を噴き出して息絶える。

 

 

 

護衛機のハンマーロックが数機、ビーム砲を乱射しながら、ゴジュラススmkⅡ量産型を止めようとした。

 

 

だが、小型ゾイドであるハンマーロックが大型ゾイドのゴジュラスの突進を止めるのは不可能であった。

 

 

スコットのゴジュラスmkⅡ量産型は、不用意にも接近してきたハンマーロックをクラッシャークローで捕え、ボロ布の様に引き裂いた。

 

 

もう1機のハンマーロックは、スコットのゴジュラスmkⅡ量産型の左脚に抱き着こうとしたが、接触する寸前に蹴り飛ばされた。

 

 

ハンマーロックはサッカーボールさながらに蹴り飛ばされ、雪原を数回バウンドして頭から地面に激突して大破した。ゴジュラスの蹴りをまともに受けた胴体は大きく凹み、ゾイドコアが潰れているのは確実だった。

 

 

グレイは、部下達が近接戦闘で敵を蹴散らすのを見て安心した。

 

最初、部下達は格闘戦に不慣れなため、敵部隊に袋叩きにされるのではないかという不安を抱いていた。

 

 

 

だが、彼の不安は、杞憂に終わった。

 

 

2人の部下は、ゴジュラスmkⅡ量産型のパイロットに選ばれただけあって優秀なパイロットであった。

 

 

またゴジュラスは、パイロットが格闘戦で多少未熟でもその野生の本能でそれを補ったのである。グレイのゴジュラスmkⅡ量産型の胴体に数発の砲弾が着弾した。

 

 

「レッドホーンか。」

 

 

グレイは、正面モニターを見据えて言った。グレイのゴジュラスmkⅡ量産型の目の前には、レッドホーンが立っていた。

 

 

背中に火砲を背負った赤い角竜は、襟飾りのビーム砲を乱射する。更にミサイルが発射され、ゴジュラスmkⅡ量産型の胴体に着弾する。

 

 

だが、レッドホーンの火器をゴジュラスの装甲は、貫通出来ない。

 

 

「このゴジュラスの装甲、多少の攻撃で破れると思うな……!」

 

 

 

 

グレイがゴドスのパイロットだった頃には、強力な装甲と火力を有する〝動く要塞〟として自分達では、倒すのが不可能な存在と見做していた。だが、今の彼の愛機 ゴジュラスmkⅡ量産型が倒せない相手ではなかった。

 

 

 

 

グレイと彼の愛機は、レッドホーンと接近戦を行った経験は皆無であった。

 

 

ゴジュラスmkⅡ量産型に乗ってから戦場で何度かレッドホーンと遭遇したことはある。

 

 

だが、それらの敵機は、爪と牙が届く距離のはるか手前で友軍のダブルソーダやキャノッサに発見され、彼らの弾着観測に誘導されたゴジュラスmkⅡ量産型の砲撃で一方的に破壊されたのである。

 

だが、今回は、頼もしい友軍の弾着観測機も存在しない。

 

 

長距離キャノンで仕留められなければ、接近戦で破壊する必要があった。

 

 

 

「当たれ!」

 

 

グレイは、長距離キャノンの発射ボタンを押した。ゴジュラスmkⅡ量産型の背部に装備された長距離キャノン砲の内、左側のキャノンだけを発射する。

 

 

 

数少ない砲弾を節約する為である。

 

 

アイアンコングのミサイルに対抗する目的で開発されたゴジュラスmkⅡの長距離キャノンは、有効射程距離ならアイアンコングの装甲を撃ち抜ける威力がある。

 

 

 

レッドホーンの装甲なら薄紙の様に引き裂いてしまうだろう。

 

 

だが、赤熱化した砲弾は、レッドホーンのボディに命中する手前で爆発した。

 

レッドホーンは、加速ビーム砲を連射して、砲弾をビームで絡め取り、撃墜したのである。

 

 

「砲弾を叩き落したのか!」

 

 

グレイは、敵の砲手の技量に舌を巻く。

 

 

黒煙が晴れた時、レッドホーンの赤い巨体は、まだ雪原に佇んでいた。

 

頭部装甲の一部が損傷し、襟飾りのビーム砲が1基脱落していたが、戦闘能力は健在の様だった。

 

 

 

クラッシャーホーンを振り立ててレッドホーンがグレイのゴジュラスmkⅡ量産型に突撃する。グレイは、視界に映るレッドホーンの頭部が急速に大きくなっていくのを感じた。

 

 

 

レッドホーンの突進力は中央大陸の大型ゾイドの中でも強力な事で知られており、ゴジュラスでも直撃を受ければ、大打撃を受けるのは免れなかった。

 

 

射撃能力を強化されたゴジュラスmkⅡ量産型の場合もそれは同様である。

 

 

 

ZAC2030年~32年のゴジュラス無敵時代には、勇敢な帝国軍パイロットの操縦するレッドホーンの特攻同然の突撃によって多くのゴジュラスが胴体下部や脚部に損傷を受けて戦闘後に戦線離脱を余儀なくされた。

 

 

グレイも、ゴジュラスが火器も正面装甲も無事であるにも関わらず、脚部が破壊されて前線から後方の整備拠点に移送されるのをゴドスのパイロット時代に目の当たりにしていた。

 

 

グレイのゴジュラスmkⅡ量産型は、4連速射砲でレッドホーンの突進の勢いを減殺しつつ、左右のクラッシャークローでレッドホーンを抑え込んだ。

 

 

上から押さえつけられたレッドホーンは暴れるが、ゴジュラスのパワーには、敵わない。

 

 

「潰れろ!」

 

グレイは、右のクラッシャークローで敵のコックピットを握り潰す。頭部毎コックピットを粉砕されたレッドホーンは、動きを止めた。

 

 

 

頭部が破壊されても背部の加速ビーム砲とミサイルが火を噴いた。背部偵察ビークルにいる砲手が操作しているのだろう。

 

 

「仇討ちのつもりか」

 

 

そう呟くとグレイは、背部に4連速射砲を叩き込んだ。今度こそ、レッドホーンは動きを止めた。

 

 

 

 

ディメトロドンが頭部に搭載したミサイルと、胴体の接近戦用ビーム砲を乱射する。小型、中型ゾイドには、通用するそれらの火器も、ゴジュラスの堅牢な装甲の前では、爪で引っ掻いた様なものであった。

 

 

「当たれぇっ!」

 

 

エミリーのゴジュラスmkⅡ量産型がディメトロドンに向けて長距離キャノンをぶっ放す。

 

爆風が一瞬ゴジュラスmkⅡ量産型の白いボディを包み、発射された砲弾がディメトロドンの至近距離で炸裂する。

 

その一撃は、直撃こそしなかったが、爆風でディメトロドンの左前足を破壊していた。ディメトロドンは行動不能に陥り、雪に覆われた大地に擱座した。

 

 

頭部に損傷はないが、背鰭のレーダーシステムは、爆風で破損していた。電子戦ゾイドとしては死んだも同じである。

 

 

 

「そこだ!」

 

 

グレイは、レッドホーンの脇腹に長距離キャノンを叩き込む。レッドホーンの胴体に大穴が開き、其処から炎が噴き出してレッドホーンは爆散する。

 

 

「慌てるな!全機包囲してゴジュラスを仕留めろ!数では此方が上だ

 

 

」3機のゴジュラスmkⅡ量産型の破壊力に驚愕しつつ、帝国軍部隊の指揮官は、3機を包囲して袋叩きにしようと試みた。如何にゴジュラスmkⅡ量産型が強力でも所詮は3機。

 

 

 

まだ30機以上のゾイド戦力と対ゾイド火器で武装した歩兵部隊を有する帝国側が有利なのは確実だった。

 

 

 

 

 

だが、その状況は、第5連隊のアロザウラーとゴドスが戦闘加入した事で一変した。

 

 

 

「グレイ中佐達に続け!」

 

 

「ゴジュラスだけに獲物を仕留めさせるな!」

 

 

 

共和国軍第5連隊の通信回線に3機のゴジュラスmkⅡ量産型の活躍に奮い立つ共和国兵達の声が流れる。

 

 

 

同時に数十の機影が戦場に突入した。

 

 

グレイらの後から付いてきたアロザウラーとゴドスが戦いに加わったのである。彼らの戦闘参加で戦いの形成は一気に共和国側に傾いた。

 

 

 

アロザウラーとゴドスの混成部隊は、ゴジュラス3機の強襲で傷付いた帝国ゾイドに止めを刺していった。

 

 

ゴドスの腰部のロングレンジガンの連射がハンマーロックを撃破し、アロザウラーが対空機銃でヘルキャットの頭部を撃ち抜く。

 

 

エミリーのゴジュラスmkⅡ量産型に左前足を吹き飛ばされたディメトロドンは、2機のアロザウラーの火炎放射器を浴びて火達磨となった後、周囲に燃え盛る破片を撒き散らして果てた。

 

 

 

「全機撤収!」

 

 

帝国軍部隊の将兵の大半は、もはやこの戦いで勝利できる可能性がないと判断し、撤退を開始した。

 

 

だが、それは、秩序だった撤退等ではなく、完全な壊走であった。

 

 

指揮官の命令等誰も聞いていなかった。

 

 

あるのは、一刻も早く戦場から殺戮場に変貌しつつあるこの場から逃れようという個々の意志のみ。

 

機動性に優れるヘルキャットやマーダは、脱兎の勢いで戦場から離脱していく。

 

 

対照的に動きの鈍いマルダーやザットン、戦闘で損傷した機体は、亀の歩みで戦場を離脱せざるを得ず、彼らには、共和国軍の好餌となる運命が待ち受けていた。

 

 

ゴドスのロングレンジガンやアロザウラーの対空機銃が帝国ゾイドのボディに叩き込まれ、雪原に撃破された帝国ゾイドの残骸が折り重なる。

 

 

傷付いた帝国ゾイドにゴドスの蹴りやアロザウラーの電磁ハンドが止めを刺す。帝国軍部隊が崩壊しつつある中、1機のレッドホーンが戦場に踏み止まっていた。

 

 

そのレッドホーンはその場に踏み留まり、友軍の脱出を支援すべく、残された火力を優勢な敵部隊に向けて乱射し、角を振り回して敵機を威嚇する。

 

 

ゴドス数機が戦闘不能に追い込まれ、不用意に近付いたアロザウラーがクラッシャーホーンの一撃を受けて地面に叩き付けられた。

 

 

共和国兵達は、手負いの獣は、何よりも恐ろしいという古の狩人の教訓を思い出していた。

 

 

「あの機体とパイロットに接近戦を挑むのは、ゴジュラスでもリスクが大きいな……」

 

 

レッドホーンの姿を見つめ、グレイは呟いた。レッドホーンの突進でゴジュラスmkⅡ量産型の脚部を破壊されでもしたら進軍スケジュールが大きく狂う。

 

 

「どうしますか、少佐」

 

 

「安全策を取る。キャノン砲で吹き飛ばす。エスターン、ファーデン準備はいいな。」

 

「了解」

 

 

「わかりました。」

 

 

そして、ゴジュラスmkⅡ量産型3機は、勇敢な赤い角竜に最大の火力を向けた。

 

 

最後に残されたレッドホーンは、至近距離からのゴジュラスmkⅡ量産型3機の長距離キャノンを受けて破壊された。

 

 

6発の大口径砲弾を叩き込まれたレッドホーンのボディには、6つの大穴が穿たれた。

 

 

その内1発は頭部に命中し、内蔵されたコックピットごと粉砕していた。数秒後、砲弾の信管が作動した。

 

 

赤い風船が破裂する様にゼネバス帝国最初の大型ゾイドは破片を撒き散らしながら火球に変じた。

 

 

勇敢な赤い角竜とパイロットの命が戦場で散華したのが、この戦いの終りを象徴する光景となった。

 

 

2分後、戦場に取り残された帝国軍部隊は降伏し、戦闘は終結した。

 

 

 

この混乱の中、無事脱出出来たのは、ヘルキャット3機とモルガ2機、マーダ3機だけであった。

 

 

 

戦いはヘリック共和国軍の勝利に終わった。

 

 

この戦闘で第5連隊は、大型ゾイド6機を含む45機の帝国ゾイドを破壊、2機を鹵獲した。

 

 

後に戦場となった場所からレーメル峡谷の戦いと名付けられた遭遇戦は、ダナム山岳基地の戦いの前哨戦となった。

 

 

 

しかし、その報告を受けた共和国軍司令部が予期せぬ勝利に祝杯を挙げる事は無かった。何故ならば、吉報を打ち消すかの様に同等の凶報が彼らの耳に飛び込んできたからである。

 

 

 

進軍中の第12遊撃大隊が帝国軍高速部隊との交戦によって壊滅したという報告によって。

 

 

 




次は、ボウマン中佐達のサーベルタイガー部隊と共和国軍の戦闘です。

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