ゾイドバトルストーリー 中央山脈の戦い 山岳基地攻防戦   作:ロイ(ゾイダー)

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第9話 軍狼達 後編

「ヒュー!やったぜ!!!」

 

「流石隊長だ!」

 

「ざまあみやがれ!ゼネバス野郎!」

 

「特大のキャンプファイヤーだ!」

 

火柱を上げて燃え盛る破片を撒き散らして炎に沈む敵の基地を見つめ、バーンズの部下達は歓声を上げた。

 

バーンズも爆発炎上を続けている敵基地の周囲にいる部下と合流し、その小さな勝利を祝った。

 

 

――――――――――彼らの凱歌は長続きしなかった。

 

バーンズが次の獲物を捜すぞ、と部下達に命令を下そうとしたのとほぼ同じタイミングで彼らの頭上にミサイルが降り注いできたからである。その数は、20発以上。

 

 

「ミサイル!」

 

炎と煙を吐きだしながら上空から自分達に向かって来る金属の投げ槍の群れを見やり、コマンドウルフ部隊の隊員の1人が叫んだ。

 

 

「まだ敵が居やがったのか!」

 

「全機散開!回避を優先しろ!」

 

突然の攻撃に驚きつつ、バーンズは部下に指示を出す。部下の機体も、即座に反応し、迫り来るミサイルに対処した。

 

多くのパイロットは、コマンドウルフの軽快さを活かしてミサイルを回避する。一部の機体は、背部の2連装ビーム砲座を連射してミサイルを撃墜しようとする。

 

「落ちろ!」

 

バーンズのコマンドウルフLCは、上空に向けてロングレンジライフルを発砲する。

 

発射された砲弾は、先程第122基地の格納庫を吹き飛ばしたものと異なり、空中で炸裂した。その砲弾は、榴弾であった。

 

対大型ゾイド用の徹甲弾の様に貫通力や破壊力こそ少ないが、被害半径は広く、多数の敵に損傷を与えることが出来る。

 

今回バーンズは、ミサイルとコマンドウルフ部隊の射線上に破片を撒き散らし、ミサイルを破片で撃墜しようと試みたのである。

 

発射された砲弾は予定通りに信管を作動させ、燃え盛る破片が放射状に飛び散った。

 

それは、接近するミサイルを次々と巻き込み、叩き落した。炎の網に絡め取られた数発のミサイルが空中で空しく高性能爆薬を炸裂させた。

 

最後のミサイルが地面に激突した時、被弾した機体はいなかった。

 

「ミサイルを撃ってきたのはどこのどいつだ……!」

 

思わずそう自答したバーンズもその答えは、分かっている。

 

 

「敵の増援部隊です!」

 

彼の部下の1人が叫ぶ。

 

その部下は、上官の疑問に答えようとしたわけではなく、単に乗機のセンサーが敵の反応を捉えた事に驚き、反射的に叫んだだけだった。

 

だが、それは見事な掛け合いの様になっており、皮肉だった。

 

 

「その様だな」

 

バーンズのコマンドウルフLCのセンサーも敵を捕捉していた。

 

バーンズの目の前にある操縦桿の計器に新たな敵部隊のゾイドを示す赤い光点がモニターに表示された。

 

 

新たに出現した敵部隊は、第6高速中隊の東―――――――つい先程、バーンズ達に廃墟に変換させられた第122基地のある丘陵のやや下方、基地に繋がる一本道に存在していた。

 

それは、ミサイルが飛来した方向と同じであり、この部隊がミサイルを発射してきたのは確実だった。

バーンズは、こちらに接近してくる敵機の群れを見下ろし、キャノピー越しに観察する。

「ブラックライモスまでいやがるのか……!!」

 

バーンズは、顔を歪めて呟いた。

敵部隊は、ゲルダー、ハンマーロック、イグアン、モルガ、ザットン等殆ど小型ゾイドで編成されていた。

 

その数は、15機。

 

内3機いるザットンは、背中に黒い箱……多連装ミサイルランチャーを載せていた。先程ミサイルを撃ち込んできたのはこれらの機体だろう、とバーンズは確信した。

 

そして中心には、指揮官機――――――サイ型中型ゾイド ブラックライモスの姿があった。

 

ブラックライモスは、ゼネバス帝国軍が開発した中型突撃ゾイドであり、ブラックライモスの総合性能は、大型ゾイドのレッドホーンにも匹敵すると言われている。機動性に優れるコマンドウルフにとっても油断できない相手である。

 

「ボス、どうします?」

 

副官のザック・ロードン中尉が尋ねる。当初の目標であった敵基地は既に破壊した。敵部隊とは交戦せず、撤退するという選択肢もある。

 

コマンドウルフの機動性と山岳地帯の険しさを考えれば、敵部隊の追撃からは逃れる事は容易だろう。

 

だが、それは、彼と部下のプライドが許せなかった。

 

「隊長!俺達はまだやれます!」

 

「遠くからミサイル撃ち込んで来た奴らに一撃加えてやりましょうや」

 

「数は、向こうが多いが、ゾイドの性能は、こっちが上……やれるな!」

 

「おう!」

 

「はい!」

 

「了解です」

 

「俺達とコマンドウルフの連携、見せてやりましょう!」

 

部下に激を飛ばすバーンズを真似るかの様にコマンドウルフLCが天に向かって吼えた。その咆哮が合図となった。

 

 

指揮官機を先頭に白い狼の群は、険しい岩の斜面を駆け下りる。コマンドウルフのカラーリングの白と地面を構成する黒い岩のコントラストは、岸壁を乗り越える白波を思わせる。

 

「コマンドウルフ!!」

 

険しい山の斜面を軽やかに駆け下りて向かって来る敵機を見たある帝国兵は仰天した。

 

「この程度で驚くなよ!糞野郎ども」

 

獰猛な笑みを浮かべ、バーンズは、コマンドウルフLCのロングレンジライフルのトリガーを引いた。

 

ロングレンジライフルが火を噴く。

 

次の瞬間、砲弾が敵部隊の隊列の中で炸裂する。

 

初弾は、地面に火柱を上げただけで終ったが、2発目は、見事に敵機に命中した。

 

直撃を受けたゲルダーがバラバラになって吹っ飛ぶ。

 

部下のコマンドウルフも背部の2連装ビーム砲を敵部隊に向けて撃ち下す。

 

移動射撃である為、命中率は低いが、コマンドウルフの2連装ビーム砲は光学兵器では連射力が高い為、それが命中率を補っていた。

 

 

10機のコマンドウルフから発射されるビームの驟雨が、帝国軍のゾイドに降り注ぐ。

 

ビームで頭部コックピットを撃ち抜かれたハンマーロックが崩れ落ちる。

 

無論、帝国軍部隊も射撃演習の標的の様にただ撃たれていたわけではなく、反撃の砲火をコマンドウルフの群れへと発射する。

 

だが、それらの攻撃には、容易く回避されてしまい、コマンドウルフ部隊の接近を阻止するには至らなかった。

 

 

「敵部隊は、接近戦を挑んでくるのか!」

 

この部隊の指揮官は、ミサイル攻撃で第122基地を襲撃した敵はそれなりに打撃を受けたと判断し敵が、襲撃を仕掛けてくるとは想定していなかった。

 

全方位レーダーと、偵察用のビークルを有する事で索敵性能に優れたブラックライモスだったが、パイロットがそれを活用できなくては宝の持ち腐れだった。

 

 

「お前ら、接近戦だ。連中に俺達の牙と爪の威力を見せてやるぞ」

 

「おう!」

 

「やってやります!」

 

「了解です!」

 

部下達の怒号にも似た荒い返答がコマンドウルフLCのコックピットを満たす。

 

指揮官機を先頭に10機のコマンドウルフは、敵部隊の懐に飛び込み、爪と牙を振るった。

 

対する帝国軍も近接戦闘用の兵器で応戦し、戦闘はあっという間に接近戦に移行した。

 

 

狭隘な山道でも、コマンドウルフの機動性は健在だった。

 

 

ハンマーロックが長い両腕を振り回し、コマンドウルフを威嚇する。

 

そのハンマーロックの背後からコマンドウルフが飛び掛かり、叩き伏せる。

 

コマンドウルフの電磁牙がミサイルランチャーを背負ったザットンの首を切断する。ゲルダーの連装電磁砲が火を噴き、コマンドウルフLCの脚を狙う。

 

「!」

 

コマンドウルフLCはそれを跳躍して回避、次の瞬間そのゲルダーは、3機のコマンドウルフの援護射撃を受けて爆散した。

 

ザットン2機が背部のミサイルランチャーに被弾。

 

1機は、ミサイルが誘爆し、火柱を背中から吹き上げて真っ二つになった。

 

もう1機はミサイルが払底していた為事なきを得たが、間もなくコマンドウルフに撃破された。

 

帝国軍部隊は、近接格闘戦に持ち込まれて次々と撃破されていった。

 

その中でも、ブラックライモスだけは、複数の敵機から攻撃を受けても尚戦闘能力を維持していた。

 

黒い重戦車、黒の槍兵と帝国兵に讃えられた防御力はだてではなかった。

 

「こいつら!」

 

指揮官機のブラックライモスが、近くにいたコマンドウルフに胴体両側面の大型電磁砲を発射した。

 

コマンドウルフはその攻撃を右横に跳躍して回避する。だが、完全には回避しきれず、右肩の装甲に傷を付けた。

 

「くっ」

 

ブラックライモスは、止めを刺すべく大型電磁砲を向ける。

 

一瞬、ブラックライモスのパイロットは、撃破を確信した。だが、彼が大型電磁砲のトリガーを引こうとしたその時、強い衝撃が彼を襲った。

 

「何」

 

突然の攻撃に驚く彼と、被弾した敵機の間には、背中に大型砲を背負ったコマンドウルフ………コマンドウルフLCが立ち塞がっていた。

 

 

「リック!大丈夫か?なんて防御力なんだ奴は!」

 

バーンズのコマンドウルフLCがロングレンジライフルを発砲する。砲弾は左の大型電磁砲に命中し、ブラックライモスの大型電磁砲が破壊される。

 

「隊長!」

 

「こいつはおれの獲物だ!」

 

主力火器を1つ失ったブラックライモスは、頭部の接近戦用ビーム砲をコマンドウルフLCに向けて乱射する。

 

バーンズは、機体を左右にジャンプさせて、その攻撃を軽やかに回避する。

 

その攻撃は牽制で、本命は別の攻撃だった。射撃では敵を撃破出来ないと判断したのか、ブラックライモスは、コマンドウルフLCに向かって突進した。

 

 

「隊長!」

 

部下のコマンドウルフ数機が背部のビーム砲を連射した。

 

しかし、それらのビームはブラックライモスの重装甲に弾き返されてしまった。

 

瞬く間にバーンズの眼前にブラックライモスの鼻っ面が迫ってきた。

 

その先端には、高速回転するドリルがあった。

 

「!!」

 

ブラックライモスの高硬度ドリルの破壊力は、ゴジュラスの重装甲にもダメージを与える威力を有する………装甲の薄いコマンドウルフが受ければ一溜りも無い。

 

対するバーンズのコマンドウルフLCは、その場を動かない。

 

ブラックライモスの高硬度ドリルが、コマンドウルフLCのボディに接触するその寸前、コマンドウルフLCが動いた。

 

敵機の装甲を突き破り、内部機関を引き裂く筈だったその一撃は、空しく何もない空間を切った。

 

バーンズは、自機に迫り来る高硬度ドリルを紙一重で回避すると、反撃に移った。

ブラックライモスの頭部右側面の接近戦用ビーム砲を電磁牙で噛み千切る。

 

「懐に入られたか!」

 

ブラックライモスのパイロットは、機首を旋回させ、今度こそ頭部の高硬度ドリルを叩き付けようとする。

 

正面モニターに表示された周囲の映像を見た途端、彼は血の気が引いた。

 

何故ならブラックライモスの頭部には、コマンドウルフLCのロングレンジライフルの砲口が突き付けられていたからである。

 

「消し飛べ!」

 

勝利を確信した獰猛な笑みを顔に張り付け、バーンズは引金を引いた。至近距離からの一撃の前では、大型ゾイド並みの重装甲で守られたコックピットも、無意味であった。

 

加速された徹甲弾はブラックライモスの頭部装甲を貫き、内部のコックピットを打ち砕いてから、突きぬけていった。

 

直撃を受けたブラックライモスの頭部は、無残に破壊された。

 

数秒後、頭部を半分吹き飛ばされたブラックライモスの背部が爆発した。

 

ブラックライモスの背部装甲がはじけ飛ぶと共に内部から1機の物体が飛び出した。

 

「偵察機か!」

 

2基のエンジンを有するそれは、偵察用ビークルだった。だが、そのビークルは、横合いから浴びせられたビームを受けて墜落、大破した。

 

剥き出しの操縦席に乗っていた搭乗者はビームの直撃で消し炭となった一部を除いて蒸発していた。

 

2人の搭乗者を喪失した黒い重戦車は、力なく地面に崩れ落ちた。

 

倒れたブラックライモスのボディに両前足を乗せ、コマンドウルフLCは、勝利の遠吠えを上げた。

 

同じ頃、部下のコマンドウルフも敵のゾイドを全滅させていた。

 

 

「流石です。バーンズ隊長!」

 

「流石は、黒い重戦車と言われるだけはある………手強かった。」

 

撃破したばかりの敵機の残骸を見つめ、バーンズは言う。彼がブラックライモスと交戦したのはこれが最初だった。

 

「やられた奴はいないな?」

 

バーンズは部下に尋ねる。

 

「へまをして被弾した奴はいますが、全員動けます」

 

副官が答える。彼の言う通り、指揮官機を含む10機のコマンドウルフの内、損傷を受けている機体は半数いたが、大破した機体は皆無であった。

 

「さて、今度こそ……」

 

ずらかるか、とバーンズが部下に撤収を命じようとしたその時、再び彼らの頭上にミサイルが飛来した。

 

「ミサイル接近!また敵部隊です」

 

「!!またミサイルかよ!」

 

「!全機、散開、回避を優先だ!」

 

「はい!」

 

「ちっ今日はミサイル続きだぜっ」

 

コマンドウルフのパイロット達は、操縦桿を動かしてミサイルを回避しようとする。指揮官機を含む10機のコマンドウルフが散開し、斜面を駆けあがる。

 

だが、その動きは最初の時と比べるとどこかぎこちない。

 

最初の時と異なり、部隊の中には先程の戦闘で損傷している機体もあったからだ。

 

立て続けに2機のコマンドウルフが被弾した。

 

どちらも先程の戦闘で脚部にダメージを負った機体だった。

 

1機は、首筋に被弾し、ミサイルの弾頭が炸裂して頭部が丸ごと消し飛んだ。頭部を喪った機体が崩れ落ちる。

 

もう1機のコマンドウルフは、胴体にミサイルが直撃して爆散した。

 

胴体から千切れとんだ頭部が激突して粉々に砕け散る。

 

どちらの機体も、パイロットが生存している可能性はゼロに等しかった。

 

「レーン!ケム!」

 

紅蓮の炎に包まれた部下の機体の姿を見たバーンズの表情は悔しさと後悔の入り混じったものに変わった。

 

ミサイルで破壊された機体は2機だけだった。

 

他の機体は何とか谷を駆けあがり、第122基地の廃墟の付近に合流した。やがてミサイル攻撃を仕掛けた敵部隊が谷の奥から姿を現した。

 

「……今度は大型ゾイドだって!悪い冗談じゃないのか…?」

 

「……なっ……なんで奴がこんなところに!」

 

新たに出現した敵部隊……正確には、敵部隊の最前列に鎮座する敵機の姿を見たコマンドウルフのパイロット達の心は驚愕と恐怖に染まった。

 

重装甲と多彩なミサイル兵器で武装した小山の様な巨体を……。

 

新たに出現した敵部隊の先頭には、この中央山脈の戦場で、共和国の兵士がサーベルタイガーと並んで遭遇する事を恐れる帝国ゾイド アイアンコングがいた。

 

ゼネバス帝国が、ゴジュラスに対抗する為に開発したこのゴリラ型大型ゾイドは、ライバル機であるゴジュラスと異なり、中央山脈の大半の地域の様な険しい山岳地でも十分活動可能だった。

 

 

ゴジュラスと互角に戦えるパワーと多彩な種類のミサイルによる火力は、中小ゾイドにとっては脅威である。

 

眼の前の機体は、現在量産化が進められている高機動スラスターを搭載した改良型 アイアンコングmkⅡ量産型ではなく、通常型だった。

 

だが、それはバーンズ達にとって何の慰めにもならない。

 

「ア……アイアンコングだと……」

 

バーンズもその鈍色の光沢を放つ巨体を見て自分の背筋が凍るのを感じた。

 

更に先程、バーンズが撃破したブラックライモスが2機、鋼鉄の巨猿の左右に存在していた。

 

 

「あいつら!よくもケムとレーンを・・・!!」

 

コマンドウルフに乗る部下の一人が怒りにまかせて敵部隊に飛び掛かろうとした。「ジョナサン待て!」即座にバーンズはそれを制止した。

 

 

「……隊長!」

 

「全員退却だ!悔しいが、あの数は俺達が相手に出来るもんじゃねえ!」

 

「………分かりました!」

 

「……了解ですボス!」

 

彼の部下のコマンドウルフが一斉に腰部の煙幕発生装置を作動させた。

 

「俺が時間を稼ぐ!お前らは散開して逃げろ!集合地点はプランα-10を使う」

 

7機のコマンドウルフの腰部の装置から噴き出した煙がコマンドウルフの姿を隠していく中、先頭に立つバーンズのコマンドウルフLCは、ロングレンジライフルを前方にいる帝国軍部隊に乱射した。

 

幾つもの爆炎がアイアンコングの小山の様な巨体の周囲に立ち昇る。

 

数機の小型ゾイドが吹き飛んだが、それをバーンズは見ていなかった。

戦果を確かめることなく、バーンズは愛機を反転させる。

 

アイアンコングは、右肩の6連装大型ミサイルランチャーをコマンドウルフLCに向ける。その砲口からミサイルが飛び出すよりも早く、コマンドウルフLCは、その位置から跳躍していた。

 

数発のミサイルが山肌に着弾し、雪の積もった岩石を粉々に打ち砕く。

 

ミサイルを回避したコマンドウルフLCは、戦場を離脱するべく全速力で駆け出した。

 

 

白煙が掻き消えた後は、コマンドウルフLCも、7機のコマンドウルフも姿を消していた。

 

まるで煙と共に大気に溶けてしまったかの様であった。後には、アイアンコングを指揮官機とする帝国軍部隊が残された。

 

「相変わらず………逃げ足だけは早い奴らだ」

 

アイアンコングに乗る指揮官は、姿を消した敵部隊に皮肉を投げつける。彼の表情は笑っていたが、その紅玉の瞳は笑っていなかった。

 

 

「追いますか?アイン隊長」ブラックライモスに乗る副官が尋ねる。

 

「いい、山岳地でコマンドウルフに追いつけるのはサーベルタイガーとヘルキャット、飛行ゾイドだけだ。後はゾンネンフェルト基地の航空隊にでも任せるしかないさ」

 

「……了解しました」

 

退却したバーンズ率いるコマンドウルフ部隊は、約3時間に渡って航空戦力を含むゼネバス帝国軍の複数の部隊から追撃を受けたが、無事友軍拠点へと撤退した。

 

 

この日以降も、ヘリック共和国のゲリラ部隊による小規模攻撃は、盛んに行われ、それを迎撃するゼネバス帝国軍部隊との戦闘は激しさを増していくこととなる。

 

だが、これらの名前すら与えられない小戦闘の数々は、膠着状態を打破するための大作戦の準備に過ぎなかったのである。

 

その事を前線で戦う両軍の兵士達は知る由も無かった。

 

 




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