施しの英雄の隣に寄り添う   作:由月

32 / 33
久しぶりの投稿過ぎてどうしようもないです。土下座?もうしてますとも。
とりあえず少し本編を更新させてください。番外編はもう少しお待ちくださいね。

今回は三者視点。前回の序章の続きのカルデアside。荒削りなので後で修正いれるかもしれません。今回から少しずつオリジナル要素が強くなってきます。
とりあえずわちゃわちゃさせたかったんだ……。
【前回までのあらすじ:序章特異点F。主人公の活躍によってオルガマリー救出は完了したものの、邪神=サンの仕業で未だカルナさんとの再会はならず……?】

ではどうぞ。


邪竜百年戦争オルレアン
序と一の間


 先のレイシフトから約二時間程経過した。現時刻午後三時頃。この日のカルデアは正しく最悪の日、と言っても過言ではない出来事があった。

 

 裏切りや予期せぬ犠牲、重なる想定外なトラブル。それらを乗り越えられたのは一重に運が良かった、としか言いようがない。

 

 偶々(・・・)、四十八人目の予定外のマスター候補生が居た。そこにデミサーヴァントにもなり得るマシュ・キリエライトが居た。そして生き残ったカルデアスタッフ達が総出で解決に臨み、それを可能にする機材も生きていた。沢山の偶然が重なり、今ここにレイシフト要員であった三名の生存がある。

 

 手を貸してくれたサーヴァントの存在も大きい。ケルトの英雄、光の御子クーフーリン。キャスタークラスであった彼の協力がなければこの異変の概要を掴めなかったし解決もまた不可能だった。それにライダークラスの正体不明のサーヴァント、彼女の存在も大きい。彼女が居なければ、オルガマリー所長の生存は絶望的だった。今頃オルガマリーは、レフの手によってカルデアスに放り込まれ、ブラックホールの最中のような地獄を見たかもしれない。

 

 それらの偶然に感謝し、ロマニはカルデアの廊下を歩いていた。

 

 これからマスター候補生であった藤丸立香が休む医務室に顔を出しに行く。簡単なメディカルチェックは済んでいるものの、不確定要素の多い今回のレイシフトでは用心に越したことはないのだ。

 

 とは言え、ロマニにそこまで不安はない。先程マシュが目覚め、その健康を確認したばかりだからだ。メンタル共に異常なし。――オルガマリー所長も奇跡的に健康体そのものだった。彼女が人外に足を踏み外さなかったのは本当に奇跡だ。ロマニはその方法をオルガマリー当人から聞いて耳を疑った程だ。……そんな事が可能な英霊が存在していたのか……。ロマニには生憎、心当たりがなかった。

 

 考えても分からない事はとりあえず頭の隅の方でも置いておくことにする。今はそれよりも優先事項が多過ぎる。時間が足らない。今手に持っている資料やらタブレットに映されているデータ達を見つめながらの考えは危ないか、とここでロマニは思い直す。が、目的地はすぐそこだ。

 

 医務室に着き、自動ドアが開く。ロマニは慣れた歩きで奥にあるベッドへと近づく。ここに務める他の医療スタッフは凍結処置となった他のマスター候補生の対処へとてんやわんやの騒ぎだ。あちらはダ・ヴィンチが中心となって動いているので心配いらないだろう。他の怪我人への処置も既に終えている。生き残った者に重傷者はおらず、精々が爆発の破片が飛んでの軽傷だったのが不幸中の幸いだったか。

 

 閑散とした医務室の様子だが、直ぐに他のスタッフも戻ってくることだろう。

 

 そこでロマニはベッドで眠る藤丸の瞼が少し動いたのに気づいた。後少しで目覚める。マシュやダ・ヴィンチにも知らせた方がいいだろう。ロマニは手元の通信機器を操作して一言二言送る。

 

 そうこうしている内に藤丸の瞼が持ちあがる。ぱちぱちと眩しそうに瞬きをした後、カッとその青い瞳が見開かれた。あまりの迫力にロマニはヒィッと短い悲鳴を思わず上げる。

 

「ッ!! ――マシュは!? それに所長は?! ……というか、ここはどこ?」

 

 勢いよく身体を起こし、急な動作で目眩を感じたのか。藤丸の叫びに近い問いかけは勢いをなくし、最後の方は身体を丸めベッドに手を付き俯くほどだった。慌ててロマニは膝をつき藤丸の顔を覗き込む。そして優しく肩に手を置き、安心させるように笑いかけた。

 

「おはよう。藤丸君。ボクの事は分かるかい?」

「――ドクター。ロマニ、だよね」

「そうだよ。――そしてここはカルデア。その医務室だ。キミは二時間前くらいにレイシフトを終え、最初の特異点を見事修復したんだ。つまり、ギリギリ間に合ったんだ」

 

 あの特異点の最後にね、ロマニは少し苦笑する。よく頑張ったね、と労わりの声も共に。ぼんやりとした様子の藤丸も徐々に記憶が整理されたのか、ロマニの言葉に頷きを返した。ロマニは柔らかな声で話を続ける。

 

「キミの懸念のマシュと所長は無事だよ。二人ともキミより先に目覚め、それぞれ作業に当たっている。もっとも、二人ともキミの事が心配なようだったけれど」

「……」

「あの様子だと仕事にはならないんじゃないかなぁ。特に所長なんて動揺が激しかったからね」

 

「――ッ、俺ちょっと二人に会いに行ってくるよ」

 

 ロマニの言葉に藤丸は腰を浮かせベッドから降りようとした。それをロマニはやんわりと手で制止する。

 

「?――なんで」

「そろそろかな……」

 

 訝し気にする藤丸にロマニは医務室の入り口のドアへと視線を投げた。それに釣られるように藤丸の視線も向く。

 

 

「先輩ッ!!」

 

「フォウ!」

「ちょっとわたしは行かないって言ったでしょう?!」

「まあまあ。そうは言っても君、五分に一度は藤丸君の容態を気にしていたじゃないか」

「べ、別に……わたしはアイツの事なんて――」

 

 医務室のドアが開き勢いよく入室してきたのはマシュとフォウだった。それに続くようにダ・ヴィンチに背を押されるオルガマリーも足を踏み入れる。怒り気味のオルガマリーをダ・ヴィンチが宥める形だが、よくよく両者の言葉を聞けばオルガマリーの心配の在り処は一目瞭然だ。

 

「……みんな」

 

 呆然とした藤丸の呟きに賑やかな一行は水を打ったように静かになる。その理由はみるみるうちに潤んだ藤丸の瞳にぎょっとしたから、だった。

 慌てるマシュやオルガマリーに構うことなく、藤丸はベッドから降り駆け寄った。そして藤丸に飛び込むフォウをも巻きこんで、皆を可能な限り抱きしめるように腕を回す。突然のハグにマシュはきょとんとしたし、オルガマリーは当然烈火のごとく怒りに顔を染めた。面白がったダ・ヴィンチが後ろから抱き込んだせいで皆もみくちゃだ。一番の被害者はやんわり仲裁しようとしてダ・ヴィンチに巻き込まれたロマニだったかもしれない。ぐえっと蛙が潰れたような苦しい声が彼から聞こえた。

 

「もー!いいから放しなさいよ!! これからアナタに説明しなきゃいけない事が山ほどあるんですからね!……そんなに喜んでくれるのは嬉しいけれど」

「「所長……!」」

 

「!! 聞こえたの!? 藤丸もキリエライトも目を輝かせないで!もうッ!!」

 

 激昂するオルガマリーのもっともな言葉に藤丸はハグから解放する。そしてオルガマリーのぽろっと洩らした呟きにマシュと共に目を輝かせるのだった。それに益々顔を赤くするオルガマリーはもはや当初の当たりの強さは見当たらない。こうなってくると怒りより照れで顔が赤くなっているように思えてくるのが不思議だ。

 

 そんな少年少女のやり取りをこっそりともみくちゃから逃れた大人二人は感慨深そうに目を細めるのだった。

 

「さて、我々は準備に取りかからないとね」

「あとキミの自己紹介も藤丸君にしなくてはいけないんじゃないか?――あの特異点ではバタバタしていたから結局はキミに触れないままだったし」

「おっとそうだった」

 

 準備へと気を回すダ・ヴィンチにロマニは呆れながら指摘する。それに茶目っ気交じりにてへぺろととぼけるダ・ヴィンチにロマニは冷たい視線を送った。この微笑みの似合う美女、中身はおっさんである。……三十路のロマニが言う事じゃないかもしれないが。

 

 どうやら藤丸マスター候補生のチュートリアルの続きは天才、ダ・ヴィンチの自己紹介から幕を開けなくてはならないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、自己紹介をさせてもらおう。何を隠そう、私こそがレオナルド・ダ・ヴィンチさ。万能の天才といえばこの私、頼りにしてくれていいんだよ?気軽に“ダ・ヴィンチちゃん”と呼んでくれたまえ」

 

 場所を移してここはカルデアの空き部屋。突如の不幸によってカルデアには使われない区画があり、ここはその一つだった。持ち主の居ないこの部屋は机が一つ、椅子が二脚しかない殺風景さだ。そこにホワイトボードをどこからか持ち出し、チュートリアルの続きとダ・ヴィンチが藤丸に簡易的な講義をするらしい。マシュは藤丸の隣に座り一緒に受ける心積もりのようだ。ちなみにオルガマリーもこの場に同席している。手元のタブレットで作業をしつつ、講義に参加するつもりらしい。ロマニは泣く泣くダ・ヴィンチの代わりに仕事に戻っていった。頑張れ、ドクター、藤丸は心の中で激励を送る。

 

 えっへんと胸を反らし、自己紹介を終えたダ・ヴィンチは藤丸の拍手を受けご機嫌のままホワイトボードに文字を書いていく。

 

「今日は簡単にこのカルデアの英霊召喚システムについての講義をしようと思う。――まあ大体はその契約の維持方法とマスターの心得、そして魔術的なお話を少ししようか。最後にロマニのへそくりをつか……ごほん、なんでもないよ。サーヴァントを呼び出すからそのつもりでね」

「へ?」

「あの。その、いいのでしょうか?」

「ああ。ロマニのへそくりの事かい?――まあ後でなんとかするから君たちは気にしないでくれ」

「……そうは言っても気にするでしょうよ」

 

 ダ・ヴィンチの話に藤丸が疑問符を浮かべ、マシュがそれを引き継ぎ問いかける。流石にドクターのへそくり、と言われては良心が痛むような気がする。それをダ・ヴィンチは微笑みで受け流し、ぼそりとオルガマリーがツッコミを入れた。聞き咎めたダ・ヴィンチが聞こえてるよ、とにっこり笑う。……流石サーヴァント、地獄耳いや聴覚が良いらしい。オルガマリーはこっそり涙目になった。

 

「気を取り直して、簡単な話からいこうか。サーヴァント、という名から勘違いされがちだがこれは単なる隷属と侮ってはいけない。きちんとそれぞれの個と向き合う事をお勧めする。――過去に聖杯戦争でサーヴァントと上手くいかなくて敗退するマスターは数多くいるからね」

 

 ホワイトボードに書き込みつつ、ダ・ヴィンチは話を続ける。

 

「そしてサーヴァントにも人間と同じように善人、悪人といるのさ。我々にも心がある。一応、善・中庸・悪と属性が分かれていたりするけれど、それに捉われてもいけない。あくまで一つの基準、考えに過ぎないのだから。時と場合によっては悪属性のサーヴァントが助けてくれる、なんてことも十分あり得るし、その逆も然り」

 

 ホワイトボードにはサーヴァントの属性、その意味が分かりやすい図になって書かれている。それをどこからか出したさし棒でトントンと叩きながらダ・ヴィンチは話を続ける。生徒の藤丸とマシュは神妙な顔つきで聞き入っていた。中々にいい生徒ぶりである。

 

「勿論、狂化付与を受けてしまったサーヴァントはその限りではない。程度にもよるけれど、大抵は話が通じなかったりするものさ。ま、状況によっては会話を試みてみるのも一つの手だけどね」

 

「ちょっと、ダ・ヴィンチ!」

 

「ダ・ヴィンチ“ちゃん”だと言っているだろうに。君も中々聞き入れないね、オルガマリー」

 

 ダ・ヴィンチの話の途中にオルガマリーが険しい顔で横槍を入れた。その咎めるような声にダ・ヴィンチは穏やかな顔で肩を竦めた。やれやれ、と言わんばかりの大ぶりなリアクションにオルガマリーの怒りは燃える。

 

「無責任な事を言わないで頂戴!大体、そんな適当な事を言って、もしもの事があったらどうするのよ!!」

「所長……」

 

 藤丸やマシュの為に怒っているような内容に二人は感無量だ。所長、と声を出したのは藤丸だが、マシュも驚いたように目を丸くしていた。

 

 ダ・ヴィンチは頷く。

 

「確かに一理あるだろう。藤丸君は初心者もいいところだからね。君の心配も無理はない話さ。――けれど、そう言っていられない場合もある。オルガマリー、君には分かっているだろう?なんでも利用しろ、とは言わないけれどソレに近い心積もりはあった方がいい。何、そう心配しないでも藤丸君の後ろで我々がサポートするんだ。この天才、ダ・ヴィンチちゃんもね!」

「――途中までいいこと言っていたのに、最後でへし折るとかなんなのよ!! ……まあ、いいでしょう。藤丸、キリエライト。アナタ達の眼で確かめるのです。あの冬木市での時のように、油断せず、敵意があるか否かを見極めるのよ」

「おやおや、いいところをとられてしまったね。総括すると、そう言う事だよ。君らの眼が、耳が、そして何よりも心が頼りとなる。なに、悩んだらこっそり通信してくれればこちらの知恵も貸そう」

 

「「はい」」

 

 ダ・ヴィンチとオルガマリーの言葉に藤丸とマシュは神妙に頷いた。満足げに眺め、ダ・ヴィンチは話を続ける。

 

「さて、次はサーヴァントのクラス相性について、だ。その後にカルデアの英霊召喚システムについてと魔力についての話をしていくからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダ・ヴィンチの講義は終わり、次はいよいよサーヴァント召喚となった。オルガマリーはそろそろ現場に居ないと出来ない仕事が差し迫ったので渋々退場となった(本人は颯爽と去って行ったつもりらしい)。

 

 カルデアの召喚システムの根本はマシュの盾にある。かの盾を使う事により、術式の安定を図っているのだ。

 

 ダ・ヴィンチの使っている地下工房の近くにその召喚を行うための部屋がある。元々は単なる空き部屋だったのをダ・ヴィンチが魔改造した結果、星空のような藍色と光が満ちる神秘的な空間となったのだ。その部屋は十畳ほどの広さの筈だが、果てがないように見えてしまう。それ程に幻想的だった。ダ・ヴィンチに言わせるとそれは可視化された魔力がどうたら、と浪漫も夢もない話になってしまったので割愛する。

 

 ロマニのへそくり、もといおごりで十回に及ぶ召喚も終わり今日は解散となる流れとなった。呼び出されたサーヴァント達に挨拶と宜しくの握手を済ませ、とりあえずはカルデアの施設の説明だ、とダ・ヴィンチが連れて行った。なるほど、まだカルデアで迷子になる藤丸では案内役に向かない。なお、後でシミュレーションルームで軽い模擬戦闘をやるらしい。彼らサーヴァントは皆気の良い人達で後でな、マスターと軽く手を振っていった。

 

 そんな訳でこの神秘的な室内には藤丸とマシュしかいない。もう、次の予定をこなさないといけない訳だ。――確かこの後は管制室に呼び出されているのだったか。

 

 藤丸はその床や壁に走る青白い光を見ながらポツリと呟いた。

 

「もしかしたら、あの人も呼べたりするのかな……」

「先輩?あの人、と言いますと――」

「うん。冬木市で会ったあのライダーに。――キャスターの方は幸い呼べたから、あの人もどうなのかなって」

 

 へへ、と眉を下げ困った笑顔で藤丸は頭を指で掻く。その誤魔化しの仕草にマシュは数瞬、考えるように顎に手を当てた。

 

「なら、やってみては如何でしょう。――確か先の特異点で幾つか聖晶石を拾っていましたよね?あれは召喚する為のエネルギーにも使えるので、一、二回ならば出来るかと」

「へ?」

「私もあの方にはお礼を言いたいと、思っていますから。先輩だけの気持ちじゃないですよ」

「……ありがとう。マシュ」

 

 マシュの言葉に背を押され、藤丸は召喚式を稼働する事に決めた。幸い、用意は済んである。

 

 虹色に輝く聖晶石を三つ使い、一回召喚術式を発動させる。――藤丸の思い浮かべるのはあの白い襤褸布に包まれた姿。彼女はあの窮地に手を差し伸べてくれた。せめてそのお礼だけでも伝えられたらとその気持ちだけだった。

 

 部屋の中心に三本のラインの光が走る。それは円環の光、ピカピカと光りやがて部屋の中心に収束する。その光の眩しさに目を細める藤丸の視界の隅に虹色の光が掠めた。

 

 現れたるはランサーの印が付いた金のカード。それが輝きを増しボン、と煙が発生した。召喚成功、だ。どのサーヴァントが来たのかは分からないがおそらく高位のサーヴァントなのだろう。

 

「――サーヴァント、ランサー。真名、カルナという。よろしく頼む」

 

 煙が晴れ、先ず聞こえてきた淡々とした声に藤丸とマシュは目を丸くした。出現した姿は黄金の鎧を纏い、金の槍を携えたサーヴァント。白に近い銀髪に青い瞳の下に走る赤の縁取りが特徴的だ。藤丸を見るその目に温度はないように見える。

 

「お前がマスターでいいのだろうか」

 

 ぽかん、と呆気にとられる藤丸にカルナは首を傾げた。それにハッと我に返り、藤丸は慌てて片手をカルナの前に差し出す。

 

「う、うん。俺がマスターの藤丸 立香。よろしくな、カルナ」

「ああ」

「――突然の事で驚いてしまいましたが、新しい仲間ですね。先輩」

「うん」

 

 握手の為に差し出された手をカルナは握り返す。遅れたマスターの挨拶にカルナは少しばかり眼差しを和らげた。そしてマシュと藤丸の会話にきょとりと瞬きをした。突然、とは?とカルナは内心で首を傾げる。

 

 藤丸はそこでカルナの左耳の飾りに目が入った。

 

「あれ?カルナの耳飾り?というかソレなんか――」

「ああ。これはオレが生まれてきてからずっとあるものだが、それが?」

「うーん……?なんか見覚えがあるような、そうじゃないような……」

 

 カルナの左耳にあるものは黄金の鎧と共に太陽神である父より賜りしもの。名の由来ともなる大切なモノだ。それに似たようなモノなどあっただろうか。カルナの内なる呟きは口から出ることはない。

 

 思い悩む藤丸と共に首を傾げていたマシュはあ、と閃きの声を上げた。

 

「思い出しました、先輩!確かライダーさんの右の耳にも同じような飾りがあった筈ですよ!」

「ああ!確かに。あの白い布でチラッとしか見えなかったけど。なるほど、あの人か。ありがとう、マシュ。思い出せてスッキリしたよ」

「いえ……」

 

「!! ……ライダー、だと?」

 

 思い出せたマシュと藤丸の和やかな会話にカルナの低くなった声が割り込んだ。ぽつり、と声自体は静かな、しかし何処となく負の感情が潜んでいそうな声だった。もしかしたら、藤丸の勘違い、又は聞き間違いかもしれないが。

 

「え、っと。ライダーって言うのはね。最初の特異点の時に助けてくれたサーヴァントの事なんだ。割と不思議な人で、情報が少ないからクラスの“ライダー”ってしか呼べないけど」

「――そいつの名は?」

 

 戸惑いながらふわっとした説明をする藤丸にカルナは掠れた声で問う。マシュはこの空気の緊張感に固唾を飲んで見守るしかなかった。

 

 カルナの問いに藤丸は首を横に振る。

 

「……言ってくれなかったよ」

「そうか」

「もしかして、カルナの知り合い?」

 

 頷くカルナに藤丸はもしかして、と疑問を投げかける。それにカルナは視線を少し遠くに逸らす。

 

「――そう、だな。おそらくはその可能性が高いのだろうが。すまない、こちらも事情がある。マスターには関係ない上に、話す得がない」

「え」

「だが、これからまた会うだろう。その時はオレも連れて行ってはくれないか?――いや、これはマスターに頼むべきモノではないな」

 

 カルナのつれない態度に固まる藤丸だったが、後に続いた言葉に咄嗟に手を伸ばす。その手は、話は終いだと部屋を出ようとしたカルナの腕を掴んだ。

 

「待って、カルナ。――よく事情は分からないけど、その頼みは俺に言うべき事だよ。だから、出来る限り連れて行く」

「先輩!?」

「――いいのか?」

 

 事情を問い詰めもせずに了承する藤丸にマシュは驚愕の表情を浮かべる。カルナはカルナで目を見開き、藤丸の真意を確認する。それに藤丸は頷いた。

 

「うん。いいよ。――カルナ、その代わり力を貸してくれ。俺達の人理修復の旅に」

「……もとよりそのつもりだ、マスター」

 

 藤丸の誠実な願いにカルナはフッと柔らかな笑みを浮かべ、頷いた。その笑みを見れば彼に邪念がない事が分かる、そんな純粋な笑みだった。

 

 




やったぜ!▼藤丸 は 新しい なかま を 手に入れた
他のサーヴァントの面子はご想像にお任せします。多分FGO本編のように出会ったサーヴァントは片っ端から召喚していくんだろうなぁ、このマスター。
主人公「これがビギナーズラック、ですか……(戦慄)」

とまあ冗談はさておきちょっとした補足事項。


「――そう、だな。おそらくはその可能性が高いのだろうが。すまない、こちらも事情(※1)がある。マスターには関係ない上に、話す得(※2)がない」
※1妻がなんか怪しい奴に利用されている的な面倒なもの
※2マスターに得がないって意味。迷惑かけちゃうよ、的な。

実はカルナさんめっちゃ焦っています。その理由は次回になれば多分分かります。ので、深く考えないでも大丈夫です。
カルナさんは主人公視点では、説明不足が目立たないけれど、割と初対面の人に勘違いされるのは変わらない。

※オルガマリーさんの心臓はきちんと人間の物。身体も然り。魔術回路や魔術刻印すらも丸々無事でなんも欠けていない状態なので、実はロマニさんやダ・ヴィンチさん辺りから見ると主人公は割と怪しさ満点です。魔術の上を行く、聖杯すら不可能な死者蘇生をすんなりやってのけた、ので。
邪神()の力って凄いね(白目)
禁忌は理の外にある邪神様には通じない、けれどきちんと代償は払っています(身内価格だけれど)その辺もおいおい書いていけたらな、と。

多分後でロマニさんやダ・ヴィンチさんの誤解は解けます。

ではでは。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。