施しの英雄の隣に寄り添う   作:由月

31 / 33
序章編終わりです。
今回は付け足し要素です。どうしても前回と今回の話は同時に投稿したかったので遅れてしまい、申し訳ありませんでした。
駆け足気味になっちゃったような気がするので後で修正入れるかもしれません。

第三者視点から始まります。




 

――第三者視点――

 

 

 

 

 

 ロマニ、ダ・ヴィンチは信じられない光景を目にした。いや、その二人だけではない、生き残ったカルデアスタッフの全員がその光景に息をのんだ。

 

 レイシフト自体はギリギリ間にあった。なので藤丸、マシュ両名の存命は確実だった。

 

 けれど、カルデア所長のオルガマリーは生存は絶望的だった。レフの裏切りによりそれは確定ですらあった。

 

 それなのに、この目の前の光景はどう言った事だろうか。

 

 オルガマリーの遺体を確認する為に特異点のレイシフト関連が終わってからスタッフ数名と共に行った。

 

 果たしてそこには傷一つない、オルガマリーが横たわっていた。爆心地の中心だったから他には黒こげのナニカがあるだけの酷い有り様で傷一つないオルガマリーの異質さが一層際立っていた。

 

 急いでカルデアスタッフと共にオルガマリーを回収、身体の精密検査を行った。

 

 結果は魔術回路、刻印ともに無事。という奇跡のようなものだった。

 

 これには驚きつつもスタッフ総出で喜んだ。同じ予想外でもいい結果の方が良いに決まっている。

 

 目覚める様子のないオルガマリーの様子はロマニが責任をもって受け持つことになった。オルガマリーの横たわる医務室は今ダ・ヴィンチとロマニしかいない。

 

 まあ最も二人ともすぐにでも他の仕事に取りかからないといけないのだが。

 

「それにしても驚いたな、君もそう思うだろう?ロマニ」

「ああ、レオナルド。皆そう思っているに違いないよ。――藤丸君やマシュにも知らせたら喜ぶんじゃないかな?それにしてもアレは……」

 

 あの場にいた真名不明のサーヴァントが何かをしたのだろうか。ロマニは浮かんだ言葉を飲み込んだ。

 

 ダ・ヴィンチはそれを面白そうに笑みを浮べる。

 

「まあそうだとしたらあれだね。正しく奇跡のような事じゃないか。――うん、どうせなら明るい結果の方がいいし、今はどうでもいいんじゃないかい?」

「――レオナルド、君って奴は」

「ははは、そんな顔をしない。アレだよ、時にはポジティブにもならないとね。この先やっていけないさ。何せ特異点があと七つもある」

「ふぅ、分かっているさ。そんなこと。――この後藤丸君が起きたらその話もしないとね」

 

 ため息交じりのロマニの言葉にダ・ヴィンチは優しい眼差しを向けた。正しく微笑みの貴婦人たる優美な笑みを浮かべて。

 

「そうさ、だからこそ明るいニュースも言える事を喜ばないとね」

「――そうだね。先は長いから、ね。うん。――ああ、ボクって情けないなぁ!」

「ははっ、何を今更。ロマニが情けない事なんて皆周知の事実だろう?」

「酷いな、レオナルド。――うん、でも、頑張ろうか」

 

 救われた命がある事をロマニは感謝しつつ、次へと意識を向けた。なるべく所長のあの子への負担も減らしておきたいしと。

 

 

 

 

 

 

 

 

――主人公side――

 

 

 

 ぱちり、と私は意識の覚醒をもって目を開けた。仰向けのまま、腕の一本も動かせないこの状況。とても覚えがあるなぁとため息も吐く。

 

 けれど後悔はしていなかった。震える手を振り払わなくてよかったと。

 

 ここで私の宝具、漆黒の大剣の正体について話そう。あれは邪神の心臓、そのもののようであり、概念のようであり、まあ不確かなモノだ。それを私の心臓と同化させる事により、固定化、宝具として顕現出来るようになっているのである。何を言っているか分からない?まあ冒涜的な話だからね、仕方ないね。ちなみに心臓がここにあって邪神()様が困らないかという点は安心してほしい。何せあの邪神様、心臓何個もあるらしい。これ以上は私の精神がアカンと言っているので深くツッコミするのは止めにしよう。

 

 まああの宝具、私の意思の力が大分威力に関係あるようだ。私が信じれば信じた分だけ実現する。だからオルガマリーさんを復活するのに彼女の魔力を感じる小石と手の温もりが必要だった。私がまだオルガマリーさんを生きていると信じる為に。

 

 とそこまでつらつらと考えて私は目を再び目の前に向ける。

 

 ここは英霊の座か。目の前の白いだけの空間を見て私は理解する。顔を左右に動かして、辺りを見渡した。

 

 あれ?カルナさんが居ない?それに白い空間が一部ひび割れている。キラキラと光を帯びながらひび割れは少しずつ修復されているようだった。おお、良かったと私は焦った心を落ち着かせる。

 

 カルナさんの所在はどうなんだろう?あれかな?邪神()様のせいかなと勝手に結論付ける。にしても心配だ。カルナさん、ああ見えて心配性だから無茶していないだろうか。

 

 ああでも、私はうとうとと襲い掛かる睡魔に瞼を下ろす。

 

 また会える気がする。というか、私が探しにいけばいい話だしとぼんやりと思った。

 

 

 

 夢を見た。包み込むような暗闇はすでに私に馴染んでいる夜の安息を告げるものだ。

 

 ――答えよ。

 

 この不可思議な声にも大分慣れた気がする。そうですね、邪神様の声ですね。

 

 ――答えよ、我が愛し子よ。

 

 うん?なんですかと私は耳を傾ける。

 

 ――我が愛し子よ、次なる試練汝が司るは騎乗兵ではない。

 ――汝が差し出したるは霊基そのものだ。故にそれ(騎乗兵)は使えない。

 ――理解せよ、それは代償であると。

 ――次は何が当てはまるかは知らぬがな。

 

 キエエエエエ!シャベッター?! ナンデ?!と私は死ぬほど驚いた。邪神様普通に喋れるなら普通に話そうぜ?と混乱のまま脳内で私はぐるぐるする。

 

『――って私、ライダーじゃないんですか?』

 

 

 ――せいぜい我が目を楽しませるがいい。

 ――汝に祝福あれ。

 

 おいおいついに隠さなくなったぞと私は背筋が寒くなった。

 目の前の暗闇がふわりと消える。

 

 

 

 

 

 

 

「――ねえ。起きなさい」

 

 グラグラと身体を揺すられる。遠慮のない力強さはカルナさんではあり得ない程の力だった。優しさが、というより必ず起こさんばかりの力加減だ。

 

 おかげで私はぱっちりと目を開ける。

 

「あ、起きたわね。――ねぇ、ここは何処なのかしら?なんでアナタが目の前に居るの?」

 

 そこに居たのはオルガマリーさんだった。白い空間にぺたりと座り込むオルガマリーさんに私は訳が分からなかった。うん?なんで?と私は驚きのままこてりと首を傾げる。

 

「いや、分からないってアナタねぇ……!」

 

 首を傾げたのをオルガマリーさんはフルフルと怒りで身体を震わせる。私はこりゃアカンと起き上がる。お、すんなり起き上がれた。結構寝てたのかな?と私は思う。

 

『いやいや、私も結構驚いたんですよ!うん。だってここは英霊の座ですからね』

 

 英霊の座という言葉にオルガマリーさんはザッと顔を青ざめさせる。それに私はわたわたと慌てた。そこで私はオルガマリーさんの身体から伸びるキラキラと光る糸を見つけた。

 

 思わず手に取る。と、オルガマリーさんには見えてなかったようで怪訝そうな顔をされた。

 

 手に取って分かったのはこれは魔力パスで、オルガマリーさんは霊体らしいという事だった。ははあ、と私は納得する。

 

「何よ、分かったのなら私にも分かるように説明して頂戴」

『あ、はい。――結論から言うと大丈夫ですよ。オルガマリーさん』

「何が大丈夫なのかしら?」

 

 これは全部話すとオルガマリーさんの精神的に駄目じゃないか。良くて取り乱し、悪くて発狂ワンチャンといった所だろうかと私は思った。

 

『うーん、あ!これは夢です。なので、大丈夫ですよ』

「……ゆめ?」

 

 私の突拍子もない言葉にオルガマリーさんはきょとんと瞬きをする。そうすると美人なオルガマリーさんが幼く見えて可愛らしいなと私は和む。

 

 まあ嘘ではないけれど。多分だけど、オルガマリーさんは夢を媒介に私の座へと干渉してしまっているのだ。夢なのでオルガマリーさんは魂だけの存在で、私と繋がっている魔力パスを断ち切ればきっと帰れる。

 

 なんで魔力パスが繋がっているかというと、私の宝具を全部オルガマリーさんにあげてしまったからだ。勿論、あれは私()の分霊の宝具なのでそれ程本霊に影響はない。オルガマリーさんへの影響も、この魔力パス以外はない筈だ。

 

 あの時、特異点冬木市でオルガマリーさんを救うのは本当にギリギリだった。何せオルガマリーさんの本体(肉体)次元が違う場所(カルデア)にあって特異点にいる私には干渉が出来ない。せめて肉体も一緒にレイシフトしてくれたらよかったんだけど。それで私は考えた。干渉できないなら別方面でのアプローチにするしかない、と。

 

 それが私の宝具をオルガマリーさんにあげて、彼女の霊基に干渉、そこまでくれば微かに残っていた肉体への魔力パスを通じてオルガマリーさんの肉体を再構築、魂の固定化をあの崩壊の中でタイムリミットギリギリで私は完遂した。

 

 だからその時につなげたオルガマリーさんの魔力パスが今ここに残っているのだろう。あの時はそこまで気が回らなかったのだ。

 

 とそこまで私はつらつらと思考に没頭していた。ハッと意識を現実に戻す。

 

 オルガマリーさんは俯き、ぐるぐると何やら考えているようだ。小さく、どうして?と延々と呟いていてその伏せられた金色の瞳が澱んでいた。

 

 あっちゃーと私は頭を抱えたくなった。もしかしなくてもオルガマリーさん、SAN値やばくないかと。

 

『緊急!ライダーさんのスーパーお悩み相談室の開催です!!』

 

「え……?」

 

 ぱちぱちと一人寂しく私が拍手したら、オルガマリーさんはそろそろと顔をあげた。

 

 オルガマリーさんは迷子のような不安そうな顔をしていた。私は優しい笑顔を意識して笑う。

 

 だってオルガマリーさんが追い詰められるのは仕方ない事だと私は思う。若輩の身で突然名家の当主となり、世界の命運を握るプロジェクトの責任者となり、期待されていたマスター適正はなく、挙句の果てに唯一の味方だと思っていたレフ教授に裏切られた。

 

『――なんでも良いんです。何か、誰かに聞いて欲しい事、してほしい事はありませんか?ほら、ここは貴方の夢ですし、ここでなら愚痴を吐いても誰も責めたりしませんよ』

「…………ほんとに?」

『ええ、勿論』

 

 迷うようなオルガマリーさんの声に私は頷く。オルガマリーさんの綺麗な顔がくしゃりと歪む。ぶわりと涙も金色の瞳からこぼれていた。私はそっとオルガマリーさんの背を撫でる。空いていた私の手をオルガマリーさんは両手でぎゅっと痛いほどの力で握った。背を撫でている手はそのままに私はオルガマリーさんの好きにさせる。

 

「ほんと、は。アナタに言う事じゃないかも、しれないけれど……ッ!」

『はい』

「怖いの、このまま生きるのが……こわい」

『ええ』

「次はどんな危険があるかとか、またレフに会うかもしれないとか、それもあるけれど……。でも、それよりも、わたしは!」

 

 オルガマリーさんの嗚咽交じりの声は段々と大きくなっていく。ぎゅっと彼女に握られた手はオルガマリーさんの額に押し付けられていた。涙の感じる濡れた感触すら感じるような気がする。

 

 それは罪深き者の懺悔のような切実さが感じられる声だった。

 

「わたしは、失望されるのが怖い!! あの藤丸だって、私の、父のした事を知れば見る目を変えるわ!いえ、それよりも前に世界の命運を一人で背負えなんて言えば蛇蝎(だかつ)の如く嫌われるのに決まっている。だって――だって、そうでしょ?無理に決まっているわ、そんな事。恨むなっていうのが間違っているのよ」

 

『オルガマリーさん』

 

 熱がはいっていくオルガマリーさんに私は静かに名前を呼んだ。

 

「キリエライトだって、キリエライトだって恨んでいるのに決まっているのよ。誰に聞いてもそうだって。――当然よ。誰だって二十年生きられないって知れば恨みたくもなります、殺されたって文句は言えやしない。分かってます、それは分かっているのよ。でも、それでもわたし」

 

『オルガマリーさんッ!』

 

「ひぅ!」

 

 支離滅裂となっていくオルガマリーさんの後悔の声に私はもう一度鋭くオルガマリーさんの名を呼んだ。もうそれ以上、自分自身を傷つけるような言葉を並べて欲しくはなかった。

 

 我に返ったオルガマリーさんは目を丸くしてこちらを見た。私はオルガマリーさんに怒ってないよと微笑みを浮かべる。

 

『オルガマリーさん、これは受け売りなんですけれど。“特別”じゃない事は悪じゃない、決して悪い事じゃないんですよ』

「えっ」

『何かの分野で一番や二番にならなくちゃとか、特別な役割を果たさないととか、そういうのがないと価値がないってことはないと思います』

 

 私はオルガマリーさんに伝わるようにゆっくりと語る。オルガマリーさんは唇をはくはくと戦慄(わなな)かせた。

 

『その人が生きている、未来があるってだけで生きていく価値はあります。生きていていい理由になるんです。――例え限られた短い時間でも、そこにその人が価値を見出したらそれでいいんですよ』

「――そんな事、誰も言ってくれなかったわ……」

 

 呆然と呟くオルガマリーさんに私は苦笑する。

 

『では一つの話をしましょうか。――無力だった一般人だった一人の人の話を』

 

 私は目を閉じて語り始めた。

 

 そう生前の私の話を。多少のフェイクを交えて話す。邪神様に言われていきなり古代インドに放り出されて困っていた所をカルナさんに拾われた話。そしてその後、カルナさんの呪いを解いたり、カルナさんの従者となった事を。そしてドゥルヨーダナさんと交流したり、カルナさんの傍に居て学んだことなどを。そしてアルジュナさんとの決戦での結末を。勿論、個人名は出さず、上手くぼかしながら話した。

 

 私は知っている。悪役と言われたドゥルヨーダナさんはそういう一面もあるけれど、そうじゃない一面も確かにある事を。特別じゃなかった私が、カルナさんの“特別”となれたことを。何よりも運命とは抗えるモノだという事を。

 

 未来は決められたものじゃない。これから生きる人々が織りなしていくものだという事を。

 

 私はオルガマリーさんに伝えたかった。

 

『――ね?そう悲観する事はないですよ。それに貴方は出来る事がないと嘆きますけれど、そんな事ないですよ。ちゃんと、出来る事はあります』

「こんな褒められたこともない、私でも?」

 

 しょんぼりとしてしまっているオルガマリーさんに私は笑って頷く。というか、レフ教授はどういう支え方をしてたのだろうか。ギルティだなと私は心の中でギリィとしておく。

 

『当然です、周りを見て下さい。現場に行けなくとも、オルガマリーさんはサポートできると思いますよ』

 

 言ったでしょう、と私は続ける。

 

『貴方は最善を尽くせる人です。――ちゃんと優しい所もあるって私は知ってますよ、きっと藤丸さんやマシュさん、ドクターさんだって伝わってますよ』

「!! うん、うん」

 

 ひゅっと息をのんだオルガマリーさんはぐしゃぐしゃな顔のまま笑った。

 

『大丈夫です、上手くいきますよ』

 

 オルガマリーさんの背を撫でてながら私はその涙がおさまるのを待った。

 

 

「――そうね、私らしくもなかったわ。うん、もう少し頑張ってみます。アナタ程の英霊に言われたんですもの、いつまでもべそべそしていられないわね」

『その意気です!私も友人として応援してますね』

「!? ――ええ!」

 

 私の友達発言にオルガマリーさんは一瞬驚いてその後弾けるような笑みを浮かべてくれた。

 

 うんうん。大丈夫そうだと私もにこにこである。

 

 私はぱちりと魔力パスを切った。オルガマリーさんの姿がふわりと消える。ここでの体験はきっとオルガマリーさんの記憶に残るだろう。夢だと片付けられる心配があったので、冬木市にてもらったあの小石をオルガマリーさんの手元に持たせた。今手元に戻ってきてないので、オルガマリーさんの衣服のポケットの中にあるだろう。

 

 

 さて、カルナさんを探そうと私は英霊の座から出ようとした。

 

 ガンッ。

 

 目の前が星が飛ぶ。

 

『いったーー!なにこれ壁?!』

 

 ぶつけた額を擦りながら私は目の前の白い壁を睨む。まさかの出れないとか予想外なんですけど。もしかして、これ邪神()様のせいかな。

 

 邪神様の言った事を思い返せば次の特異点と思われる発言があったので、もしかしてそれが解決するまで出れないとかそう言う事だろうか。私はがっくりと地面に手を付き項垂れた。

 

 次って、騎乗兵(ライダー)クラス使えないんだっけ?

 

 私という英霊は一番ライダークラスが強いので、それ以外となると強さに不安が残る。FGО的に言うとレアリティ的な話だ。

 

 ライダークラスじゃないと戦車使えないし、私の機動力が凄い下がる。敏捷値がDだし、足が速くないのだ。

 

 うーん困ったと私は頭を抱えた。

 




※蛇蝎の如く嫌う――すごく嫌われる事。


これにて序章冬木は終わります。如何でしたでしょうか。この後、所長が目覚めたら藤丸君やマシュさんが突撃してわぁわあ騒ぐんだろうなと思います。涙をこぼしつつ、でも笑顔で。
それで所長は本当に自分が必要とされている事を実感してようやく前に向けるような感じです。主人公のスーパー相談室も少しは効果があるといいな。

一章はもうちょい後で更新始めます。今回で私の文章力の足りなさが露呈したのでしばらくは番外編を更新させてください。
書きたいネタが一杯あるんだぜ!と言っておきます。
カルナさんの出番は番外編で一杯あるよ!と。
あと後で主人公説明も付け足します。スキルもその時公開します。
では。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。