施しの英雄の隣に寄り添う   作:由月

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大変お待たせいたしました。更新予定を大幅に過ぎて申し訳ありませんでした。お詫びに今回は立て続けに更新させてください。

今回は対エミヤ戦とオルガマリーさん救出編です。

今回は視点がころころ変わりますので注意です。


主人公視点からいきます。




 

――主人公side――

 

 

 

 

 戦車を走らせる事十分。キャスターさんの証言通り、その洞窟はあった。自然のままの姿という感じでぽっかりと黒い入口が見えるだけだった。と、そこで私は感じる殺気にああなる程ここでくるかと一人納得した。

 

 洞窟前に戦車をとめて、皆に降りてもらう。

 

『着きましたね、皆さん大丈夫ですか?』

「大丈夫ー。いや凄いね、これこんなに早いなんて」

「そうですね、見た感じ古代戦車の様相をしていらっしゃるのに、中々のスピードでした」

「こんなの絶対可笑しいわ……」

《ははは、それはほらサーヴァントの宝具な訳だからね》

「アンタ、あれだろ。絶対神代寄りの人間だろう」

『あはは、ご無事で何より。――ところでキャスターさん、この後はお任せしても?』

 

 皆の口々の感想を私は笑って受け流す。そしてキャスターさんに確認を取った。

 

 キャスターさんは少し意外そうに瞬き一つして、頷いた。

 

「あー、なる程なぁ。分かった、ここはアンタに任せるか。――先行ってるわ」

『はい、お任せください。皆さん、それではまた』

「えっ?ライダー、着いてこないの?」

『ええ、まあ着いていきたいところなんですけどね。――でも』

 

 首を傾げる藤丸さんに頷きながら、私は言葉をきった。

 

 ビュンと風切り音が迫る、ソレを私は大剣を盾にする事にして防いだ。ガキンと鋭い音をたてソレは四散する。ふむ、そう負担はないようだ私は少し安心する。

 

 ソレは矢だった。形状は剣に近かったけれど、多分弓で射出されたのだろうなと私はあたりをつける。そしてその矢はマスターである藤丸さんに目がけて放たれたものだった。

 

 私は次が来る前に、と藤丸さんに向き直る。

 

『ね、こんな感じで狙ってくる人がいるようなので私が相手をします』

「え、でもライダーが――」

 

 相手をする必要はないんじゃないか、藤丸さんの言葉が紡がれる前に私は口を開く。

 

『いや、私この中では機動力的に一番ですよ?――相手は索敵される範囲外からの遠距離です。きっと魔力探知の精度の低い、ギリギリの範囲での狙撃です』

 

 まだ迷う藤丸さんに、私は最後の一押しをする。

 

『なので、空も飛べちゃうライダーさんこと、私にお任せあれ』

 

 にっこりと軽く笑って言えば藤丸さんやマシュさん皆の顔が緩む。キャスターさんだけが少し怪訝そうに眉をしかめていたけれど、それも一瞬の事だ。

 

「分かった、ライダー。またね」

 

『はい、また会いましょう』

 

 私の言葉に藤丸さんは決意した顔で頷いた。

 

「皆、急ごう。――マシュ、行ける?」

「はい、先輩。私は大丈夫です」

 

 藤丸さん達は先に急ぐようだった。私は最後までは見送らず、背後に向き直る。すなわち街の方角、殺気の主の居るであろう方へ。

 

 

 多分、そろそろだろう。

 

 私は崖の上に今しがた来た人物に声をかける。

 

『通してよかったんですか?』

 

「おや、私を知っているような口ぶりだ。生憎と君とは面識がなかったように思うが?」

『ええ、初対面ですね。――けれど、あの弓の腕前。矢を受ければ分かります。貴方が歴戦の戦いを戦い抜いた猛者であると』

「良く言う、邪魔すれば殺すと言わんばかりの殺気だったというのに」

 

 ハッと鼻で嗤うその人、褐色の肌に白髪、戦闘服の赤、そう英霊エミヤさんがそこに居た。黒いもやに侵されてはいるものの、普通に理性はあるようだ。

 

 英霊エミヤとはFateシリーズにおいて中々の常連さんだ。無銘、贋作、正義の味方の成れの果て。彼を示す言葉は数多くあれど、歴戦の修羅場を潜り抜けてきた猛者に他ならない。

 

 確実に私よりも卓越した戦闘技術の持ち主だ。

 

 ――けれども。

 

『ここは通しません。――申し訳ありませんが、貴方はここで終わりです』

「なる程、全霊でお相手しよう」

 

 一歩たりとも退くわけにはいかないのだ。私は大剣を握る手の力を強めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――エミヤside――

 

 

 

『ここは通しません。――申し訳ありませんが、貴方はここで終わりです』

 

 随分な物言いだと思った。まるで自分(英霊エミヤ)は通過点だと言わんばかりの傲慢さだ。

 

 通してよかったのか、等とほざくが、アレは邪魔をする隙すらなかった。それほどの威圧、殺気だったのだ。全くこの英霊は何者なのか、とエミヤはぼやきたくなった。

 

 白い襤褸布を頭からすっぽりと被った小柄な人物。服装はどこか東洋の民族衣装を思わせるものを着込み、裾や袖が長い服からは手足すらあまり見えない。徹底した隠し様に不審人物の様相だとエミヤは思った。もしくは謎の人物を気取る変わり者か。

 

 その感想はその人物の声を聞くまでで、その声を聞いてその考えは消えた。ザラリとした、ノイズのかかった声。上手く言えないが、機械音声のような得体の知れなさがその声にはあった。

 しかしその動揺はエミヤの奥深くで抑える。ここで簡単に揺らぐほど生温い地獄を渡り歩いてはいない。

 

 それにしてもあの宝具は厄介だ。その細腕で振るわれるのには余りに大きすぎる大剣。身体を上回る大きさの剣は炎のように黒いもやを噴出させ、こちらの攻撃をいとも容易く弾く、斬り伏せる。壊れた幻想(ブロークンファンダズム)で爆発させてもあの大剣で振り払われてダメージはゼロ。加えて同じく黒いもやを纏う戦車も機動力や物理的破壊力が侮れない。

 

 エミヤは矢を番え、放つ、休まず連射する。あの英霊に近距離での戦闘を挑んだらこちらの方が分が悪い。何せこちらは弓兵(アーチャー)だ、近距離もこなせるが、遠距離での攻撃より有効打とは言えないだろう。

 

『はぁああああッ!!』

 

 気合と共に大剣の黒いもやが膨れる、戦車の車輪がぎゅるりと高速回転する。待て、なんだその助走は、とエミヤはツッコミの前に干将莫邪を投影魔術で顕現させる。

 

 ゴォッと音をたて、地面を走っていた戦車が宙を浮ぶ。速度は減速されず、むしろ加速し、こちらへと向かってきた。これだから英霊は、とエミヤは毒づきたくなった。

 

 もはや戦車は目の前、あの細腕で大剣が振り上げられる。その絶望的な状況でエミヤは双剣を構えた。

 

 まあこれでも時間稼ぎくらいにはなった。あの泥に侵された状態で上手く機能しない割に良くやった方か。願わくば、騎士王(彼女)の結末が酷い事にならないように。

 

 漆黒の死神の一撃は無慈悲なほどに鮮やかだった。

 

 

 

 

 

 

 

――主人公side――

 

 

 

 危なかった、私はヒヤヒヤしながら洞窟内を戦車で走らせていた。勿論、体勢を低くして頭が障害物にぶつからないようにして。この洞窟途中から人工物が入り混じるようになるんだけど、それでもほら岩とか突き出てたら危ない上にこの薄暗さだ。

 

 ああ、でもエミヤさんには手こずらされた。弓から射出されるものが爆発するんだもの、滅茶苦茶ビビりながら戦った。むしろよく勝てたな、私といった具合だ。よくよく考えたら私今までカルナさんと一緒に、という形以外での戦闘経験皆無に等しいんじゃ……。この特異点での戦闘以外だと本当にそうだった、うわぁと私は頭を抱えたくなる。

 

 と、そこで私の身体は金色の粒子に変えられそうになっているのに気づく。

 

『あ、もしかして騎士王さんとのアレコレもう終わったとか――』

 

 そう言えば、うろ覚えの記憶の中では騎士王との一騎打ちで見事エクスカリバーを宝具で防いだマシュさん、までは覚えているんだけど。その後、なんか会話して、そして騎士王とキャスターさんが強制送還、という流れだったような――。

 

 つまり、この場に居るサーヴァントが聖杯の主を失ったことによりその場に留まれなくなっているのか。

 

『――って駄目じゃん!』

 

 私は消えかけの自分の手を見て叫ぶ。やばいよとても不味い状況だ。問題はその後のレフ教授のイベントだ。

 

 このまま私もここから手を退けば。

 

 照れてそっぽを向くあの横顔を思い出す。魔術をかけた石を手渡してくれた時の白い手の温もりを、藤丸さんやマシュさんに向けるあの不器用な、優しい言葉たちを。

 

 それらが全部なくなってしまう。オルガマリー・アニムスフィア、という女の子が魂ごと消えてしまう。

 

『私は――』

 

 傲慢でもいい。禁忌?そんなのとうの昔に踏み越えている。

 

 昔の覚悟を思い出す。カルナさんを救うと決めた時の重い覚悟を。

 

 それより重い覚悟なんて出来るはずはない。けれどもこの場に踏み止まれるくらい覚悟なら出来るから。

 

『ぁあぁああああッ!!』

 

 バクン、と大きく動く筈もない心臓が音をたてる。

 

 金色に変換していた粒子が消える。私の身体を構築していた魔力たちが急速に元に戻っていくのを感じる。身体が、また再構築されていくのを私は目を瞑って耐えた。

 

 それと同時に理解した。――唐突に、かつて宝具を会得した時と同じように私の脳内でその文字は浮かんだのだ。

 

 この宝具の本質(・・)を。

 

『――あー、これは理解出来なくて当然ですよ。予想外すぎます……』

 

 ガラガラと戦車の車輪の音が私を現実に戻す。私は胸に手をあてぎゅっと目を瞑った。

 

 チャリッと右耳から聞こえた涼やかな金属の音。

 

『あ』

 

 私は大事な事を忘れていた。なにを一人で勝手に背負い込むつもりでいたのか。

 今だけはどうか。

 

『カルナさん、どうか私に勇気を下さい。――帰ったら、きっと困ったように』

 

 笑みを浮かべてくれる、それとも呆れるだろうか。私はふふと軽く笑う。

 

 いい意味で力が抜けた。緊張が全てなくなったとは言えないけれど、でもきっと上手く行くと信じる事が出来る。

 

 さあ、私の出来る事をしに行こう。

 

 洞窟の一本道から抜ける。

 

 

 

 

 

 そこは大きく開けた空間だった。奥まったところに大きな炉のような機械が小高くなっている場所に置いてあった。

 

 私は目の前の光景に一瞬息が止まりそうになった。そこには藤丸さんとマシュさんにフォウさん。そして宙に浮かぶレフ教授とオルガマリーさんの姿があった。

 

 レフ教授の隣にぽっかりと空間が穴を開けていて、そこにはカルデアと思われる施設が見えた。どうやら空間を切り取り、繋げているようだ。

 

「このまま殺すのは簡単だけど、それでは芸がない。最期に君の望みを叶えてあげよう」

 

 レフ教授は柔らかな声のまま無慈悲にオルガマリーさんに言う。というか大分話は進んでいるようだった。まだ気づかれてはいないようだし、私は戦車を浮かせる。

 

「君の宝物とやらに触れるといい。なに、私からの慈悲だと思ってくれたまえ」

「な、なにいってるの?レフ?わたしの宝物って……カルデアスの、こと?」

 

 オルガマリーさんの声が絶望に染まる。

 

「や、やめて。お願い。だってカルデアスよ?高密度の情報体よ?次元が異なる領域なのよ?」

「ああ。ブラックホールと何も変わらない。それとも太陽かな。まあどちらにせよ」

 

 うろたえるオルガマリーさんにレフ教授は通常通りの穏やかな声のまま、いっそ残酷に聞こえるままに告げる。

 

「人間が触れれば分子レベルで分解される地獄の具現だ。遠慮なく生きたまま無限の死を味わいたまえ」

 

 私は大剣に力をギリッと込めた。ギュルギュルと高速に回る戦車の車輪は空中でそこまでの音は出ない。そのまま戦車を私は走らせた。

 

「いや――いやいや助けて、誰か助けて!わた、わたしこんなところで死にたくない!」

 

 オルガマリーさんは徐々にカルデアへのその空間の穴に体を近づけさせられる。

 

『“この手が掴むは原罪の端、形を変えよ”』

 

 私は過去最大速度で戦車を走らせていた。これは時速百キロどころではない速さだった。

 

 誰かが息をのんだ気がした。いきなり現れた私に驚いたのかもしれない。

 

 レフ教授の前に躍り出た私は大剣を振りかぶる。

 

「貴様、何者だッ!どこから――」

 

 私は生前(・・)決定的な思い違いをしていた。致命的と言い換えてもいい。私はそれをなんであるか、その事を失念していたのだ。

 

『“邪神の心臓よ”!!』

 

 生前理解できなかった邪神の言葉、それを叫んだ瞬間、呼応するかのように大剣が変化した。ゴォッと音をたてて黒いもやが地獄の業火のように膨れ上がる。

 

 感じる心臓への激痛もなんとか表面に出ることなく抑え込んだ。ここで私の顔が苦痛に歪んだら、レフ教授に付け込まれると思ったからだ。

 

 私は躊躇いなく大剣を振り下ろした。膨れ上がった黒い業火の具現がうろたえるレフ教授をのみこむ。大剣から拍動と共に伝わる、レフ教授の魔力と力の一部を削ぎ落したことを。

 

「ガァアアアアアアッ!! おのれ英霊風情がッ!化石の分際でこの私に刃向かうなんぞ許される筈がない!」

 

 片腕を失くしたレフ教授は叫び、恨めし気に吐き捨てる。私はそれに構う事なく戦車を操り、素早くオルガマリーさんを回収した。

 

 抱き留め、腕の中にいるオルガマリーさんは呆然としたままだった。

 

「だが、ああ!いい気味だ、貴様がそうまでして助けようとしたマリーは助からない、何故ならとうに肉体は爆発四散したのだから!! 例え聖杯を使おうとも、助からないさ!」

 

 レフ教授は狂ったように、高らかに、演説をするかのように言葉を重ねていく。

 

「はは、ハハハハハハハハハ!! そのまま我が王の意思のまま、絶望に打ち震えたまま死に絶えるがいいッ!ははははは」

 

 ケタケタと笑いながらレフ教授は空気に溶けるように消えていった。あの様子だと死んだとは思えないし、単に空間移動しただけだろう。

 

 私は一先ずの危機脱出にホッと息を吐く。と、そこで腕の中のオルガマリーさんが震えているのに気づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――オルガマリーside――

 

 

 オルガマリーは信じられなかった。理解の範疇外もいいところだ。爆発事故だけでも死にそうだったのに、特異点での戦闘続きに挙句の果てに騎士王との一騎打ち?いい加減にしてほしい。

 

 だから、だからレフがあの大聖杯の所に居た時は助かった安堵で一杯で深く考える事が出来なかった。いつものように助けてくれると信じていたから。

 

 けれど違った。現実はどこまでも私に優しくない、オルガマリーは絶望した。

 

 あれ程信じていたレフが、手のひらを返すように裏切った。裏切ったというより最初から、最初からあの男はオルガマリーを利用する気だったのだろう。

 

 でも死にたくなかった。カルデアスと心中なんて馬鹿げた死に方は嫌だった。

 

「いや――いやいや助けて、誰か助けて!わた、わたしこんなところで死にたくない!」

 

 死に物狂いで、思わず言ったオルガマリーの叫び応えるかのようにその声は響いた。

 

『“この手が掴むは原罪の端、形を変えよ”』

 

 ノイズの混ざったような、生理的に受けつけないと思っていた声だった。でもその声は思ったよりも近くに聞こえて、オルガマリーは涙の浮かぶ視界のままそちらを見た。

 

 白い襤褸布を翻し、あの禍々しい戦車でレフに斬りかかるその姿。その澄んだ青い瞳に迷いなんて一切なく、オルガマリーを助けようとする姿だった。

 

「貴様、何者だッ!どこから――」

『“――――”!!』

 

 うろたえるレフの声を遮るようにその声が断罪を叫んだ。オルガマリーに到底理解出来ない言語であろう、ノイズ交じりの声は本能的に理解してはいけないと思った。けれど、宝具名であったのは確かだ。

 

 その声に呼応するかのように、彼女の大剣が形を変える。禍々しさが一層際立ち、黒いもやがもはや業火に等しい勢いで噴き出す。敵をのみこまんとする大剣はさながら邪神の牙のような有様だ。おぞましい姿のようだろう。けれど、オルガマリーはそうは思わない。

 

 ズバッとレフを斬りつけ、その片腕を落とした彼女はレフの方を見向きもしなかった。

 

「ガァアアアアアアッ!! おのれ英霊風情がッ!化石の分際でこの私に刃向かうなんぞ許される筈がない!」

 

 レフの叫びに特に気にもせずこちらへと戦車を走らせ、宙に浮かぶオルガマリーを抱きしめて回収してくれた。

 

 包まれる優しい温もりに思わずオルガマリーは呆然としてしまう。助かるの?私と思うオルガマリーにレフの追い打ちがかかった。

 

「だが、ああ!いい気味だ、貴様がそうまでして助けようとしたマリーは助からない、何故ならとうに肉体は爆発四散したのだから!! 例え聖杯を使おうとも、助からないさ!」

 

 レフは狂ったように、高らかに、演説をするかのように言葉を重ねていく。そこにかつての穏やかさなんて微塵も見当たらない。

 

「はは、ハハハハハハハハハ!! そのまま我が王の意思のまま、絶望に打ち震えたまま死に絶えるがいいッ!ははははは」

 

 ケタケタと笑いながらレフは空気に溶けるように消えていった。レフの言葉にオルガマリーは目の前が真っ暗になるのを感じる。

 

 ホッと彼女がため息を吐いた。それでハッとオルガマリーは我に返る。死の恐怖にガタガタと勝手に体が震えた。

 

 戦車がそっと地面に降りる。降りられそう?と言われ、なんとか震える足を叱咤し、地面に足をつけた。

 

「所長!大丈夫ですか!?」

「お怪我はありませんか?所長。――申し訳ありませんでした。私、あの時一歩も動けず……」

「マシュだけじゃないよ!俺も、俺も動けなかった……!」

「フォゥ……」

 

 駆け寄り、口々に心配の言葉をかけてくれる藤丸とキリエライトにオルガマリーはほんのり温かな気持ちになる。彼らの後悔の言葉に嘘はなく、心からのモノだとオルガマリーにも分かったからだ。

 

 その時。

 

 ゴゴゴゴと空間が揺れる。すわ地震か、と慌てる四人にピピィと通信機から音がする。藤丸がオンにすれば、ロマニの姿が映し出された。

 

《皆悪いお知らせだ、そこの特異点はもう長くは持たない。――精一杯やってみるけれどレイシフトが出来るかどうか……!いや!でもボク達全力で頑張るからちょっとそっちでも頑張ってみて!》

 

「「「えっ」」」

 

 ロマニの言葉に皆絶望的な表情になる。通信は一方的に切られた。多分安定しない特異点で保てなくなったのだろう。

 

 魔術の魔の字も知らないような藤丸でさえ事態の深刻さに真っ青になっていた。

 

「所長は――。所長はどうなるの?このままだと」

 

 消滅してしまう。その先の言葉を藤丸はのみこんだ。余ほど私の顔色が悪いのか、オルガマリーは乾いた笑みを浮かべた。

 

「ねぇ、ライダー。アナタ、アナタならなんとか出来るんじゃない?」

 

 もう助かるには縋るしかなかった。何故か強制送還から免れていた不明なサーヴァント。自分よりも小さな、彼女にオルガマリーは縋りついた。腕を掴んで揺さぶる。

 

「だって――まだ、なんにもしてない。してないのよ?まだ褒められていないし、認められてもいないッ!!」

 

 震える喉を無視し、みっともなく滲む視界のままオルガマリーは声を上げる。彼女の目は、表情は怖くて見れなかった。これで、見捨てるような、今まで散々見てきた失望の眼差しで見られたらもうオルガマリーの精神は立ち直れない。

 

「…………たすけて」

 

 蚊の鳴くような声だった。どうにかオルガマリーが絞り出した声は小さい。もう立っても居られず、地面に膝をつき、彼女の腕をかろうじて掴んでいた。

 

『――うん、うん。貴方の言う事は分かったよ、オルガマリー。うん、そうだね。そうだったよね。貴方はそういう人だったね』

 

 上から降ってきた声はとても静かな声だった。思わずオルガマリーが顔をあげれば、晴天の空の瞳が優しい光を帯びてこちらを見ていた。まるで親のような、そんな無償の愛を信じさせる輝きだった。

 

「たすけて、くれるの?」

『勿論』

 

 けど時間がないからもうやっちゃうね、失望を含まずさらりと頷かれた承諾にオルガマリーは呆然とした。

 

 彼女は懐からオルガマリーが以前あげた小石を取り出すと、

 

『この手に貴方の手も添えて。――私に信じさせて、貴方が生きているという事を』

 

 柔らかな声にオルガマリーはただただ頷いた。大剣に彼女が両手を添える、その手の中に小石が収まっていた。オルガマリーはその手に両手をかぶせるように添える。

 

『“我が全てを汝に差し出そう、我が心臓は汝の為に”』

 

 ゴゴゴゴと揺れと共に、オルガマリーの意識はなくなった。

 

 不思議と、そこにあの恐怖はなかった。

 

 

 





※ここで補足
なぜ主人公が宝具名を理解して発狂しなかったかという点について。
彼女の宝具は邪神の心臓です。
クラススキルの『邪神の核【EX】』は邪神の心臓を持つが故のスキルでした。邪神の心臓を持つ彼女は曲がりなりにも邪神との繋がりが出来てます。邪神が己の言語で発狂しないように、彼女もその加護で発狂を免れていました。よかったね、主人公さん。そして宝具展開する際に叫ぶ言語は邪神の世界の言葉なので藤丸くんやマシュなどFateの世界の人間には理解できません。したがってマテリアルでの説明も宝具名『“――――”』と不明のままです。
主人公の『』の使用続行もこれがやりたかったがために続けていたという――。 
その節は申し訳ありませんでした。土下座しときます。

そして同じくクラススキル『神性【E】』も邪神の心臓を形式上持つ彼女が少し血縁があると定義された結果です(深く考えちゃいけないんだぜ☆)

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