施しの英雄の隣に寄り添う   作:由月

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十四話~最終話までに間違った記述があった為今日修正を入れました。
これで大丈夫でしょうか?もしまだ間違っていたらご指摘の方お願いします。


今回は前回お話したエピローグです。この話はあくまで一つの可能性の話です。
今まで自重していた糖分を詰め込んでみました。甘いです。注意。

主人公視点で行きます。最終話直後からお話が始まります。


エピローグ それはとある可能性の一つ

――主人公side――

 

 

 

 

 車輪の回る音、馬の蹄の音もする。時折ガタンと揺れるのは大地の起伏のせいか。うつらうつらとしていた意識が徐々に覚醒する。

 

 私は何か温かな温もりに包まれているのを感じた。寝ぼけながら背中が温かいなぁと呑気に思って目を開けるとカルナさんの顔がすぐ近くにあり私はぎょっと目を見開いた。え?何この体勢。私をすっぽりと背後から抱きしめるようにカルナさんは座っていた。見れば戦車の御者台に座り手綱を握っているのはカルナさんだった。

 

「ん?ああ、起きたか。おはよう。――どこか痛みはないか?」

『お、おはようございます。……痛み……はまぁうん。ちょっと身体が動かないかなぁくらいですよ。しばらくすれば治りますって』

 

 カルナさんに顔を覗き込まれながらの問いだったので私はしどろもどろに返すしかなかった。正直言ってしまえば全体的に身体の痛みはあるけれど、これは多分宝具の無茶な使用のせいなのでしばらくすれば治まると思うのだ。今は腕一本動かせないけれど喋れるし、大丈夫だろう。心臓破裂してないのでこれでも軽傷だ。

 

 私のへらっと笑った顔にカルナさんは少しグッと何かを堪えるような顔をした。

 

『カルナさんはどうですか?どこか怪我をしちゃったとかないですか?――痛く、ないですか?』

 

「――ッ、お前は、どうしてそう……ッ」

 

 カルナさんこそ怪我とか大丈夫だろうか、アルジュナさんとの戦闘は神話クラスな規模なわけで無傷で済むはずがないのだ。私の宝具を全部あげて、ようやくあの黄金の鎧の代わりが出来た。けれどあれは痛みを消し去るものではない。怪我を治しはするけれど痛みは存在するのだ。

 

 だからこその私の心配にカルナさんはくしゃりと顔を歪ませて私の肩口に顔をうめてしまった。ぎゅっと抱きしめる力が強くなる。私は抱きしめ返せない自分が恨めしいなと思う。腕も持ちあがらないから、震えるその背に手を添える事さえ出来ないのだ。

 

 カルナさんは私が言っていない邪神の力の代償について薄々気づいているのかもしれない。私はじんわりと温かくなる肩口に、カルナさんの小さな嗚咽に胸が痛くなってくる。

 

 でもここでカルナさんに罪悪感を抱いてしまうのはカルナさんに失礼だから。

 

『カルナさん』

 

「……なんだ?」

『こっちを向いてください』

「ん?」

 

 カルナさんは顔を上げ、私の顔をのぞきこんだ。カルナさんの赤くなった目元と涙の跡に私は苦笑する。ううん、やっぱり泣かせてしまったか。

 

 私の手は動かない。精々動くのは首くらいで。うん、だから今の私に出来るカルナさんへの精一杯の愛情を。

 

 ぐっと私はカルナさんの顔に首を伸ばして近づけた。

 

 ちゅっ、小さなリップノイズを残す。理想はカルナさんの唇を奪う事だけど、どうにも届かない。だから届くギリギリの彼の白い首筋に小さなキスをした。小鳥がついばむような軽いものでやった私は気恥ずかしさに顔が赤くなる。

 

『へへ、届かないや……』

「――ッ、お、お前はッ!!」

 

 へにゃりと情けない笑みを赤面したまま浮かべた私にカルナさんはわなわなと身体を震わせた。私を支えていない方の手で私のキスした首筋を押さえていた。見れば顔どころか首筋まで真っ赤になっていた。色白だからなお分かりやすいのがたまらなく私の心をドキドキさせる。

 

「……オレの理性を試しているのだろうか。だが、そうだな。お前が元気になったら覚えていろ」

『へ?』

 

 カルナさんにしては低い声だった。もしかしてお怒り?と首を傾げる私にカルナさんは熱の帯びた瞳でこちらをじっと見つめてくる。

 

「オレは、お前に関してはもう我慢はしないと決めているからな」

『んん?』

「欲は悪いばかりではない、か。――なるほど、確かにそうだったな」

『か、かるなさん?』

「ドゥルヨーダナの言う通りだったな」

 

 カルナさんはうんと一つ納得したように頷き、置いてきぼりの私の頬に手を添えた。

 

「まずはこれくらいは、な」

『んっ!?』

 

 グッとカルナさんの顔が近づく。あの印象的な切れ長の瞳は伏せられ、頬はまだ赤み引いていない。その色香が、私だけが知っているカルナさんなんだって思えてきて、私は慌ててぎゅっと目を瞑った。

 

 ちゅっと小さな音をたて唇に柔らかな熱が伝わる。二、三度離れては繰り返すそれに私の方がキャパシティーオーバーになってしまいそうだった。

 

 くすりとカルナさんの笑いが唇にかかる吐息と共にもたらされる。なんだ、その余裕は、と私は場違いな方向に思考を飛ばした。じゃないと意識がもたなかった。絶対気絶だ。

 

 最後にぬるりと唇をひと舐めしてカルナさんは顔を離した。

 

『ななななな、むむ無体を働かないって言ったじゃんッ!』

「?――嫌だったか?」

『嫌じゃないけどもッ!!』

「なら、何か問題があったか?」

『うううー』

 

 私の動揺交じりの言葉にカルナさんはこてりと小首を傾げる。私は声にならない呻きを上げるしかなかった。違うんだよ、そういう問題じゃないんだよ、という心からのツッコミは言葉にならない。

 

 カルナさんは我関せずにぎゅっと私のお腹に腕を回し、抱えなおした。ちょっと体勢が崩れたらしい。

 

「オレはお前が無事であるならばそれでいい。――覚えておいてくれ、お前はオレの唯一だという事を」

 

 お前に何かあれば生きた心地がしないんだ。小さな小さな声のカルナさんの呟きに私はただ小さく頷いた。わたしもなんですよ、と小さく私も返したらカルナさんが喉で笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、私たちは住んでいた場所を売り払い、定住地を変えた。念のためにとカルナさんは言っていた。

 

 今住んでいる場所は都から離れた辺境の地で、小さな村だった。決して豊かではないけれど暮らす分には困らない程度だ。村人と馴染むのも時間がかかったものの、今では持ちつ持たれつの関係まで持ってこれた。

 

 ただカルナさんは未だに誤解をされてしまう事が多く私はその度にフォローに回った。結構楽しく過ごさせてもらっている。カルナさんの武の腕を余らせるのは結構心が苦しいのだけど。

 

 まぁ人里に訪れる人の手に余るような獣退治とかたまにやっているので無駄にはなっていないのが救いかもしれない。

 

 私の方と言えばもうあの邪神の力はたまに癒しの力を使う程度だ。それだってよっぽどじゃないとカルナさんの許可が下りない。うーん、過保護になっているようなと私は思うけれどこれもカルナさんの愛情だ。うん。

 

 そんな穏やかな生活が板についた頃になって私はカルナさんにドゥルヨーダナさんについて聞くことが出来た。

 

 夜、寝る少し前にちょっと話がしたいとカルナさんに言ったら快く承諾されたのだ。

 

 寝台に腰かけ隣りに寄り添いながらカルナさんの顔を見た。カルナさんはいつもと変わらない様子で首を傾げる。

 

「それで、ドゥルヨーダナだったか」

『はい、カルナさんは良かったのかなって』

 

 未だに私は思う事がある。もしかしたら、ドゥルヨーダナさんを助けられたかもしれない、と。勿論あの満身創痍の状態で無理を通せば私は死んでいただろう。でも思わずにいられないのだ。カルナさんは後悔はしていないか。私が足を引っ張ってしまってはいないかと。

 

 私のそんな後悔をカルナさんは静かに聞いていた。

 

「オレは、ドゥルヨーダナに言われた。アルジュナを退けたら、それでいいと。友としてのあの男の最後の望みだ。故にオレは後悔は抱かない」

『!』

「それはあの男の最期すら汚しかねない行為だ。オレ達は精一杯生を謳歌し、天寿を全うしてからドゥルヨーダナにまた会えばいい」

『……ッ』

 

 カルナさんの静かな声に私は唇を噛みしめた。色々な思いがこの胸の中をぐるぐると回る。気を抜けば涙が溢れてしまいそうだった。

 

 カルナさんは不意に私の肩を抱き、私の顔を胸元へと誘う。

 

「つらかったら泣いていい。――オレでは不足かもしれないが、お前の涙を流す場所にしてくれないか」

『――ッ!うう、うわぁああんッ!!』

 

 私は堪らずカルナさんの胸元に縋りつき泣いた。年甲斐もなく、幼子のように声を上げて思うままに。カルナさんは私の頭を優しく撫でてくれる。その手の優しい事、いつの間に撫でるのが上手くなったのか。昔はあんなにも不器用な手つきだったのに。

 

 少しカルナさんの服に涙のシミが出来てしまっている。私はぐずぐずと鼻を鳴らしながら少し恥ずかしく思った。

 

「きっと会えば、いつかのように怒るのだろうな」

 

 私の頭を優しくぽんぽんと撫でながらカルナさんは優しい声で語る。

 

「その時はまた共に謝ろう。あの男の事だ、言葉で詰りながらも許すのだろう」

 

 カルナさんの言葉にクンティーさんの事を報告した時を思い出す。ああ、確かにああいう風に怒るのだろうなぁと想像できてしまった。そして最終的にため息一つで仕方ないというのだろうなぁと。

 

 想像できてしまった光景に私はくすくすと笑う。

 

「泣き止んだか。まだ涙は残っていないか。時には泣いて吐き出すのもいいだろう」

『大丈夫ですよ、カルナさんは優しいですね』

「そうか、多分そんな事を言うのはお前だけだと思うのだが」

『そんな事ないと思うのですけど……。――ありがとう、カルナさん。うん。そうですね、その時はドゥルヨーダナさんに一緒に謝りましょうね』

「ああ」

 

 私の言葉にカルナさんは優しく目を細める。柔らかな微笑は私の心を温かく温めてくれた。

 

「そろそろ寝るか」

 

 カルナさんはそういうと寝台に横になり私に手招きする。うう、一緒に眠るようになって結構経つけれど未だ慣れない。

 

 私がちょっと躊躇しているとカルナさんは私の手をとって、寝台へと引き込んだ。ひえええ、と情けない声が私の口から出る。

 

 カルナさんはくすくすと笑った。なんだその声は、と内緒話をするような囁きで笑う。

 

『わ、笑わないでくださいよぉ!』

「うん?――馬鹿にしている訳でないのだが」

『うぅ……』

 

 カルナさんの天然染みた言葉に私は呻くしかない。知っているけども、私の乙女心というかそういうものが悲鳴をあげるのだ。お察しくださいという奴だ。

 

「かわいい、な」

 

 ぽそりと私の耳元でカルナさんは呟いた。もう、もう!! と私はやり場のないこの羞恥やら悶えやらで顔が真っ赤に染まる。

 

 カルナさんは私のそんな顔を見て心底幸せそうに笑みを浮べるのだ。これでは私が怒れないじゃないかと更に私は悶える。

 

 もうカルナさんにかなわないなと私は諦めた。惚れた方が負けだって言うだろう?もうカルナさんにべた惚れな自覚がある私がかなう筈もないのだ。

 

 きっと月日をこんな日常で重ねていくのだろう。私は幸せを胸に未来へと思いを馳せた。隣で寄り添うカルナさんと一緒に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




という訳でハッピーエンド付け足しです。
主人公とカルナさんは地に足をつけ、普通の村人みたいな感じで過ごすんだろうなぁと。 勿論このエンドでは本当の夫婦として結ばれてます。が、まぁR-15タグではこの程度の描写が限界なので(笑)
ドゥルヨーダナさんに関しては主人公は罪悪感を抱くんだろうなぁという感じでカルナさんに受け止めてもらいました。彼女、涙とかは滅多に流さないのでカルナさんも歯がゆく思っていそうです。


という訳でマハーバーラタ編の更新はこれで終わりです。
次回は番外編のバットエンドの更新をやろうかと。前後編分かれるので、明日明後日と更新します。もしもの話なので見なくても大筋になんら影響はありません。なので苦手な方は退避してください。いいですね?作者と約束です。はい。



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