並び立つ二人   作:三毛雅

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 初めてライトノベルの二次創作を書きます。
 この界隈の作法には疎いゆえ、至らないところがありますが、注意事項に該当しない不備がありましたらお伝え頂けると幸いです。

 それでは、ちっぽけな作品ですが、どうぞお楽しみ下さい。


#1

――我が家の関係性というのは、何だか少しだけ歪みがある。

 そう、ぼんやり思い始めたのはいつのことだったっけか。

 

 

「……『成長記録』、か」

 

 たまには埃を払っておこうと押し入れを整理していたら、転がってきたのは古いアルバム達。

 何となく好奇心で覗いてみると、そこには兄の小さい頃の写真が何枚も載せられていた。

 赤ん坊の頃。寝返りをうって、ハイハイをして、立ち上がって。

 そして、私が生まれて、ベッドの脇から私を見つめるお兄ちゃん。一緒に遊んで、一緒にお風呂に入って、揃って2人布団の上で寝て、次第に大きくなっていく私達。

 

「この頃から……」

 

 そして、だんだんとお兄ちゃんは写真に写らなくなる。

 節目節目で私に並び立つように写りはするけど、日常の写真は私を中心に据えたものが多い。

 遊園地ではしゃぐ私、水族館で魚に見入っている私、その後ろでたまに幾分不貞腐れた表情で写るお兄ちゃん。

 心なしか、めくるスピードが早くなる。何だかもやもやとした気分が立ち込める。

 

「あ……」

 

 そして、ついに写真を撮る機会さえ無くなってしまったのか、どこかの公園のシーソーに持ち上げられて笑う私という構図の写真で、アルバムは終わってしまった。

 

 

 

 得てして、兄弟・姉妹の親というものは両方を平等に愛する、世話をするというのはとても難しいのだろう。

 特に、私の親は二人共現役でこの恵まれた生活を守る為に働いている。私達に掛けられる時間は少ない。その上で、二人共ただでさえ少ない時間と手間を、お兄ちゃんより惜しみなく私の為に割くきらいがあった。

 

 どうしてそうなったのか。それなりに周りを、お兄ちゃんを見て成長した今だからこそ考えられる理由は沢山ある。

 

 まず、周りの人の話を聞いていると、どうも兄弟の兄の方というのは下を守るように言われながら、あまり親に手を掛けてもらえなくなる、というのはよくある事らしい。兄弟の片方が小さい頃は特にそうで、物心が付いて、ある程度自分の事が出来るだろうと思われた途端に兄の方は放ったらかされ気味になる、と。

 そして、私達の両親は二人共忙しい仕事に就いている。いつもは毎日帰って来るけど、本当に忙しい時期は片方、下手すれば両方帰ってこない事もままあった。そんな余裕のない毎日の中で、癒しとなるものはウチには『可愛い方』の子供の成長以外に無かったのだろう。

 

 本来の癒し担当、愛玩動物であった筈の猫のカマクラは、私達の幼少時代に散々可愛がられた反動か年のせいか、すっかりふてぶてしくなってるし、特に、お父さんがたまに滔々とウザったらしく話すには、女の子供……娘というものは可愛いものらしい。本当に。

 実際、私は今でこそ世間一般でいう『可愛い』容姿をしているらしいと、『いろんな』意味で自覚をしている。

 うちの両親は、今でこそ会社勤めのどっと疲れた雰囲気に呑まれてはいるけど、顔のパーツはなんだか整っている。そのおかげでお兄ちゃんも私もその特徴を受け継いでいるから、たまに少し可愛い娘ぶるのが無駄に様になっちゃうのだ。

 その特徴が3つめには仇になるんだけど……。

 

 お兄ちゃんは、分かりにくい性格をしていた。私に比べて。

 

 普段は自分から何も言わないくせに、変なタイミングでストレートな言動をして、怪訝な目を向けられたり。それを誤解されて悪意を向けられれば、ひたすら自分の中に溜め込んで目を濁らせたり。

 かと言っていざ好意を向けられると、「ありがとう」の前にまず焦って照れてしまって、黙り込んでどうしていいか分からなくなったり。

 そんな捻デレの種を、私が物心ついた時にはもう既に持っていたのだ。特に最後のソースは昔の私に対しての反応。

 

 でも、そんな分かりにくい反応を時間をかけてほどいていけば、本当にお兄ちゃんは優しさの塊で出来ている。

 お兄ちゃんはシスコンというのは、最近ではいろんな人に言われるようになった事だけど、その言動だって、元々は私がお兄ちゃんの挙動不審を素直に受け入れた結果の、今のお兄ちゃんなのだ。

 

 例えば、昔のお兄ちゃんは、私の前で右手を少しだけ前に出して、私の頭の上らへんに持ってきて少し目線をキョロつかせた後、結局自分の頭を掻くようにして何もしない、なんて事をよく繰り返していた。

 大抵私がお兄ちゃんの為に何かして、それに対して「……ありがとな」とか言ってくれる時にそんな事をしていたので、それを指摘してお兄ちゃんのしたいようにさせてみると、なんと凄く赤い顔をしながら頭を撫でてくれた。

 お兄ちゃんには、そんな変なスイッチみたいな行動が至る所にあって、それをどんどん受け入れて行ったら今のシスコンお兄ちゃんが完成してしまったというわけ。

 

 お兄ちゃんの話を色々聞いていると、どうやら以前は少し気を許しかけたら誰に対してもそんな踏み入ったことをしちゃっていたらしく……多分そこが普段の無愛想と相まってキモがられる原因だったんだろうなと、勝手に私は考えている。

 

 まぁ、お父さん、お母さんも、残念ながらお兄ちゃんのそういう点に気付くのが遅かった。私はいつでもどストレート小町ちゃんだったから、お父さんお母さんのしてくれた色んな事に対して素直に喜んでたし、感謝の言葉も恥ずかしがる事なんてなくすぐに口にしていた。

 

 だから、余計に、お兄ちゃんは……。

 

 どんなワインでも、時間が掛かってから味わわないとその本当の旨味は分からないのだ。なんて、これはワイン飲んだ事なんてないくせに言ったお兄ちゃんの言葉だけど。でもつまりはそう言う事なのかもしれない。

 

 お兄ちゃんがなにとなく蔑ろにされつつも兄としての役割を押し付けられているのに、妹である私は気付かずそれに甘えて、家族からの愛を一纏めに受け取るという、その少し(いびつ)な流れは、私にとって生まれた時から当たり前のものだった。

 

 そして、悔しくも……私はそれになんの疑問も抱いていなかった。

 それが変わったのは、今でもたまに夢に見る、あのささやかな家出をした時からだった。


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