自由はなかったけれど、身の回りの世話は何時も二本脚がやってくれた。毎日毎日、決まった時間に檻からだされて、決まった時間に餌をもらい、気がついたら寝床が掃除されている。見に来る連中はいつも違うが、世話をしてくれたのは何時も同じ顔だった・・・
朝になる前にサーバルと別れると、たてがみは少しばかり仮眠を取った。サンドスターが降り注いだあとの空気は不思議と澄んでいて心地よい。
「ふぁ~、よう寝たわ」
昨日は遅くまで起きていたため、目を覚ますと正午である。動くには微妙な時間帯であるが、また寝るのも勿体無い・・・
「うーん、こういうときは・・・サーバルのとこに行こっか」
昨日の今日ではあるが、特に予定のない日はとりあえずサーバルに会いに行くのが習慣となっているたてがみであった。
こうして、たてがみはサーバルの縄張りの近くまでやってきたのだが、草むらに覚えのない気配を感じた。
「ん?なんやあれ?」
鳥の羽のようなものが生えたものをかぶったフレンズが草むらを分けて歩いている。キョロキョロと周囲を警戒しているようだが、こちらに気づいている様子はない。たてがみはその姿に何か引っかかるものがあった。
「あれ・・・何でここに?」
たてがみは少女に近づこうとする。少女はたてがみに気づくと、背中を向けて逃げ出した。
「ちょっ、待ち!」
たてがみは走って追いかける。速さはたてがみの方が上だ。しかし少女は右へ左へと振り切ろうとする。
「ちぃ、なかなか小回りが利くな。せやけど・・・」
たてがみは先回りして少女を追い込み、飛びかかって捕まえた。押し倒された少女は震えながらも懇願する。
「た・・・食べないでください!」
「何言っとんねん!一体どこに行っとったんや!えっと・・・なんやっけ?」
たてがみは少女に何か訴えたかったが、雲がかかったように続く言葉が出て来なかった。そうこうしていると、サーバルが駆けつけてきた。
「あー!!たてがみちゃん!それは私の獲物だよ!」
自分の縄張りで勝手に狩りごっこをされたのが気に食わないようだ。
「すまんすまん・・・・ちょっとこいつに見覚えがあったからちょっかいかけてもうてん」
「そうなんだ!で!君は狩りごっこは好き?」
サーバルは少女に詰め寄る。けもの2人に囲まれた少女はぎょっとして「食べないでください!」と叫んだ。
「食べないよ!」
サーバルが慌てて弁解する。少女は狩りと聞いて誤解しているようだ。
「あぁ、すまんかったわ。狩りごっこ言うても、別に取って食おうってつもりやないんや」
「そう・・・ですか」
たてがみが間に入ってなんとか誤解を解くことに成功する。サーバル任せだと会話のドッチボールになりそうなので仕方がない。緊張が解けると、今度は少女の方から質問を始めた。
「あの・・・ここって、どこなんですか?あなた達は、ここの人ですか?」
サーバルが先に答える。
「ここはジャパリパークだよ!私はサーバル!この辺は私の縄張りなの!」
「ウチはたてがみって呼ばれとる。サーバルのダチや」
「サーバルさんに・・・たてがみさん、ですか。じゃあ、そのお耳と尻尾は?」
少女は2人に耳と尻尾のことを尋ねる。そのことにサーバルは不思議そうに、たてがみは訝しげに答えた。
「どうして?あなたこそ、尻尾も耳もないフレンズなんてめずらしいね」
「ウチにとっては、何で下の耳生えてきたんかが謎やわ」
「「「え?」」」
三者三様に疑問点の相違が現れた。
「ま、まぁ・・・それはさておき、あんさん、どこからやって来たん?」
「それは・・・わかりません。覚えてないんです。気づいたらここに居て・・・」
「ほう・・・」
「あぁ!昨日のサンドスターで生まれた子かな?」
「サンドスター?」
「あっこの火山から吹き出してる虹色の砂や。今も周りでキラキラ光っとるやろ。去年ウチもあれで生まれたんや」
「そして何のフレンズか調べるには・・・」
サーバルが少女のあちこちを触って特徴を探す。
「鳥のフレンズなら背中に羽!・・・でもない。ヘビならフード・・・もない。そうだ!たてがみちゃん、見覚えがあるって言ってたけど」
サーバルはたてがみにの発言を思い出す。たてがみは記憶を辿るが、どうにも思い出せそうにない。
「うーん。なんか引っかかるんやけど、はっきりせんねん」
「そうなんだ・・・うーん。これは図書館に行かないとわからないかも」
「図書館?」
「博士っちゅう膨らんだりしぼんだりするかわいいのが住んどる所や」
そう説明したところで、たてがみはあれから図書館に行っていないことを思い出した。サバンナでの暮らしが楽しくて自分の正体にすっかり興味を失っていたのだ。
「わからない事があったら、図書館に聞きに行くんだ!」
「そうなんですか・・・」
「大丈夫、途中まで案内してあげるよ」
「まぁ、それまであんさんのことなんて呼ぶか決めんといかんねんけど・・・」
「・・・すみません。僕のために迷惑を」
「大丈夫!私が付けてあげるから」
そう言うと再びサーバルは少女を調べ始めた。
「うーん?耳なしちゃんはどう?」
「耳はちゃんとあるやろ・・・」
「うーん・・・・じゃあ」
サーバルは少女が背負っていた何かを取り上げた。
「これ、なんて言うの?」
「えっと・・・鞄」
「じゃあかばんちゃんで!」
「え、適当すぎませんか?」
「大丈夫、ウチもそんなんやったから。よろしゅうな、かばん」
たてがみはかばんの手を取った。
「は・・・はい」
3人はさばんなの境界に向かう道を歩き始めた。