雑種フレンズ   作:華範

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すっごく長いよ!あとちょっと百合だよ!


第4話 狩りごっこって・・・どうやってやればええの?

 サーバル達と別れたたてがみは、夜の草原を歩いていた。日が落ちたさばんなちほーは昼間よりも涼しくて過ごしやすい。

「けどもうちょっとしたら寒くなりそうやな・・・どっか寝る場所はないか?」

 来た道を戻ると、麓の巨木にたどり着いた。根本のソファーか、木の上かで迷うが、昼間見た景色の感動が冷めていなかったので、木の上に上った。太い枝によりかかり目を閉じると、風のせせらぎや虫の羽音が心地よい。

「せやけど、信じられへんわ。こんな壁に区切られてない世界があるなんて・・・」

 たてがみにとって、この一日に起きたことは何もかもが新しい経験であり、驚きの連続であった。身体に変化が起き、草原をさまよい、見たこともない動物と出会った。それは、今までの狭い壁の中だけでは決して知ることが出来ない世界だった。

「もう檻の中やないんやな・・・」

 手に入れた自由。その嬉しさとともに、あまりに突然の出来事で不安もあった。明日からは自分の力でこのさばんなで生きていかねばならない。

「うーん・・・悩んでもしゃーない。それよりも明日に備えてしっかり寝んとな」

 歩き回った疲れもあってたてがみはそのまま眠りについた。

 

 

 3日後

 

「・・・ハァ・・・ハァ・・・また逃げられた」

 たてがみは胸を大きく動かし荒い息を整えながら言った。3日間、食料を探して狩りを行ったが、得られたのは野生のハゲワシから奪った腐りかけの肉のみ。生きた動物はまるで捕えられなかった。おかげで空腹ではないが水腹である。

「速さには自身があるんやけど、右に左に逃げられるとどうにも上手くいかんわ・・・」

 たてがみの身体能力は決して低いわけではない。むしろ平均以上のスピードとパワーを兼ね備え、爪も牙も狩りには十分な武器であった。しかし経験不足からまっすぐに追いかけてばかりで、少し逃げ方がわかれば簡単に対処されてしまうのだ。

 そもそも、たてがみの周りに獲物になる動物が少なかった。これは初日の凶行に加え、食料を自分で確保するという宣言は、草食動物のフレンズ達に宣戦布告と受け取られた。そしてそういったフレンズ達が、仲間を避難させて近づかないようにしていたのである。たてがみもその後何人かのフレンズに会ったのだが、肉食系はともかく草食のフレンズには避けられていることが露骨に見えた。

「うーん。すっかりのけもの扱いやな・・・」

 たてがみはため息を吐いた。自由の代償は自己責任。その重さと自分の未熟さが命取りになる厳しい現実を身をもって体験していた。

「やっぱ、無理なんかな?」

「おーい!」

 考えながら歩いていると、頭上から声がして、見上げるとサーバルが手を振っていた。どうやら気づかないうちに彼女の縄張りに入っていたようだ。サーバルは歓迎しようとジャパリまんを取り出し木から降りてこようとしたので、たてがみはそれをやめさせ、自分が木の上に登ってサーバルの隣りに座った。ジャパリまんは必要ないと伝えたのだが、サーバルがどうしてもというので半分だけ受け取った。サーバルはたてがみが木を登って来てくれたことを喜び、「すっごーい!」と褒めた。

「たてがみちゃんって結構身体がおっきいのに木登りが出来るんだね」

「昔ちょっとやっとってな。久々にやったら出来るようになっとったんや」

「へぇー。それで、さばんなの暮らしには慣れた?ハイエナの群れと喧嘩してタコ殴りにされたとか、色々噂を聞いて心配してたんだよ」

「まぁ、上手くいかんことばっかりやな・・・」

 たてがみはサーバルに悩みを打ち明けた。よほどお思い詰めていたのか、気がつくと随分長く話し込んでいた。

「なんか、やっぱりウチがパークに居るんは場違いなんちゃうかなーて。皆に避けられとるし、本当は狩りなんてやったこともなかったし・・・」

 自分の実力不足と能天気さに落ち込むたてがみを見て、サーバルは励まそうと肩をたたいた。

「そんなことないよ!最初はみんな上手くいかないものだし、フレンズの特技はみんな違うから。私だって、周りからはドジでおっちょこちょいって言われてるんだよ」

「そうなん?全然そんなふうには見えんけど」

 たてがみから見たサーバルは、明るく誰とでも仲良く話し、耳も大きくて可愛らしいみんなの中心というイメージだった。しかしサーバルにはサーバルなりの悩みもあるらしい。

「狩りごっこだと弱いし、木登りが出来るのと耳がいいことぐらいしか特技もないし、頭も悪いし・・・私はたてがみちゃんの方がステキな鬣もあって、力も強いのに足も早いし木登りまで出来て、すごいと思うよ。カバと喧嘩したときだって、怖かったけどちょっとかっこいいなって思った」

 サーバルはどうすればそこまで言えるのかわからないほど、たてがみの長所を並べた。それは単に悪い面の見方を変えただけのものもあるかもしれない。それでいて一切の嫌味を感じなかった。

「狩りごっこのやり方だって、群れで追い込むのが好きなフレンズもいれば、一人でじっと待つほうが得意なフレンズだって居るよ。でも、たてがみちゃんは一人で狩りをしなきゃいけないから・・・そうだ!私の狩りごっこのやり方を教えてあげる!」

 サーバルの提案はたてがみにとって魅力的だった。ごっことついているので遊び半分なのだろうが、大いに役に立つことだろう。たてがみが了承すると、サーバルは早速耳をピンと立てて辺りを窺った。

「木の上からだと、目だけじゃなくて、耳も遠くまで聞こえるよ。例えば・・・」

 サーバルが草むらの一角を指す。一見何もないようだが、よく見ると何者かが草を分けて動いているのが解る。

「何かおるな。気づかんかった」

「索敵は私の特技だからね。それに、木にも工夫があるんだよ」

「どういうこと?」

「あの草むら、背丈ぐらいの高さがあるから目だけじゃこっちが見えない。それにあっちは風上でこっちが風下だから、音も届きやすいんだよ」

「すごいな。で、襲うんか?」

「ダメ、あれはクロサイだから、二人がかりでもきっと勝てないよ」

 クロサイは木の近くを悠々と通り過ぎていった。

「あそこにおるんは?」

 今度はたてがみが草の生えていない窪地を指差した。そこでは幾つかの草食のフレンズが話し込んでいる。

「あれは距離が遠すぎるかな?それに、あそこにいキリンがいるでしょう?キリンは背が高いからすぐに見つかっちゃう。こっちに近づいてこないのも、キリンが危険な草むらを教えてるからじゃないかな?」

「なるほどな、目のいいフレンズと一緒におれば、それが危険を知らせてくれると・・・」

「フレンズの得意なことはみんな違うからね。違うフレンズが集まれば、それぞれ特技を活かして狩りごっこも楽しくなるよ」

 それから暫く待って夕方になってからサーバルが動いた。

「すぐ近くにインパラ。行けるよ」

 先程の草むらに角が突き出していた。

「よし来た!」

「小さいけど足は結構早くてジャンプ力があるよ。私が追いたてるから、はさみうちにしよう」

 2人は素早く木から降りる。サーバルは茂みの中を分け入り、たてがみは外から出てくるのを見張る。しばらくしていると、茂みが激しくゆらいで、インパラとサーバルが狩りごっこを始めたのがわかった。

「みゃみゃみゃみゃあ!」

 サーバルはインパラをこちらへ誘導するため、派手に声を出して追いかける。インパラの角のおかげで大体の位置がわかるので、たてがみも合わせて移動する。暫くしてインパラが茂みから飛び出してきた。

「どじゃーん!!」

「たてがみ!?何でこんなところに?」

 インパラは突然現れたたてがみに面食らった。しかし、背後からサーバルも迫っている。

「さぁ、おとなしく観念するんや!」

「みゃみゃみゃみゃみゃあ!」

 サーバルとたてがみが同時に飛びかかる。

「わわっ、死にたくない!」

 インパラは咄嗟に高く跳躍し躱した。そしてサーバルとたてがみは・・・

「ふんぎゃ!」

「いったーっい!」

 正面衝突し、そのまま倒れてしまった。

「ふぅ、生きた心地がしなかった・・・って、2人とも大丈夫!?」

 インパラはのびてしまった2人を介抱するはめになった。

 

 

「あっははははは!ホンマ笑えるわ!」

「うん。インパラも付き合ってくれてありがとう」

「気にしなくていいよ。でも、参加してるなら最初から伝えてよ。こっちはもうだめかと思ったから」

「それはすまん」

 目を覚ますともう真夜中、狩りごっこは滑稽な結末に終わり、サーバルとたてがみはお互いのたんこぶを見て笑いあった。

「うん。でもごめんね。あんまりいい見本見せられなくて」

「えぇってえぇって。教わるもんは教わったし、後はまたちっさいところからコツコツとやればええから。それよりも・・・」

 たてがみはサーバルを隣に抱き寄せる。

「サーバルが相談に乗ってくれたんが嬉しいわ。一人やとお腹のことばっかり考えとったけど、サーバルが一緒におるだけでそれも忘れるぐらい元気になるんや。のうサーバル。昼間色々励ましてくれたんのお礼、言ってなかったやろ?」

「お礼?いいって。たてがみちゃんが自分のいいところに気がついてくれれば・・・」

「そのことやけどサーバル。アンタ気付いとらんかもしれんけど・・・サーバルのこと、ウチはすごいかわいいって思うで」

 たてがみの突然の告白にサーバルは頬を赤らめた。

「そ、そんなことないよ」

「おっきい耳も可愛いいし、今日付き合うてみて、抜けてるように見えてすっごい努力家なんやなってわかったわ」

「そんな、私ドジでおっちょこちょいだし、一人じゃ何も出来ないし」

「けど、カバの時も、ウチの相談に乗ったんも、誰かのために頑張れる力がないと出来へんで。サーバルの特技は、耳の良さや木登りやなくて、誰にでも優しく出来る心なんやと思う。そんなサーバルのこと、ウチは好きやで」

 たてがみの言葉に、サーバルの顔は茹で上がったように真っ赤っ赤になった。意外に褒められると弱いようである。

「うぅ、急に顔が熱くなっちゃった」

「あっはっは!照れとる顔もめっちゃかわいいわ。サーバルのいいとこ、また見つけてもうたな」

 たてがみはサーバルの愛らしい面を発見し嬉しかったが、サーバルは耳をしゅんとさせると、顔を背けてしまった。

「うぅ、今日はもう帰るね」

「え?どうしたん?もしかして気に障ったんか?」

 怒らせてしまったと思ったたてがみは慌てる。サーバルは振り返って違うと言いたかったが、そうすると余計に顔が沸騰してしまう気がした。

「うぅん、でも、今日はもう寝たいの」

 サーバルは生まれて初めて嘘をついた。けれどたてがみはそれ以上深追いはしない。

「そっか・・・また今度、遊ぼな」

 そうそっけなく返して、自分の寝床へと帰るため、サーバルに背を向ける。サーバルはようやく振り返り、その背中に叫んだ。

「うん。約束だよ。私達、友達だからね!」

 ちゃんと伝わったかな?でも大丈夫。自分にもよくわからない思いが言葉にできた。友達、群れでも仲間でもないサーバルが得たかったものが見つかった気がした。

 

 

「何当たり前のこと言っとんねん・・・まぁ、悪い気はせんわ。うん、友達・・・エエ言葉やな。誰が考えたんやろ」

 家路をたどってさばんなを歩く二匹のフレンズ。さばんなちほーのトラブルメイカーズ、そして大親友が生まれた夜を、月は静かに見守っていた。


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