雑種フレンズ   作:華範

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第3話 ジャパリパークってなんぞや

 昔の夢を見る。たくさんの目に見られる夢だ。毎日毎日、絶えることなく私の檻に現れ、鉄格子に仕切られた私の小さな世界を、広い広い場所から、しかしギュウギュウに詰めあって。あるものは柵に身を乗り出し、ある者は肩車されながら、笑ったり、前脚をふってみせたり、或いは怯えながら遠巻きに・・・

 

 

「げほっ・・・げほっ・・・はっ!?」

 目を覚ますと、たくさんの目が少女を見ていた。ある者は怒った顔をしていたし、ある者は遠巻きに警戒しながら、ある者はなぜかワクワクしていたりした。身を起こすと、視線はそのままに皆後ずさりながらも・・・。あぁ、いつもどおりだ。少女は心の中でため息を付いた。身体がビショビショの泥塗で、口も泥が入って気持ち悪い。

「やっと起きましたね。お水もう大丈夫で?」

 背後から声がして振り返ると、少女を泥まみれにした張本人であるカバが少女を見下ろしていた。少女の体がブルリと震える。しかし、頭を下げるなどプライドが許さない。精一杯虚勢を張る。

「おかげさまで。まぁ、なんなら全部飲み干してもいいくらいやけど?」

「昔はそんなセルリアンもいたらしいけど・・・それはさておきあなた、一体どこの地方から来たの?フレンズを襲って食べようなんて、随分と世間知らずですわね」

「フレンズ?なんのこっちゃわからんで?」

 聞きなれない言葉に少女は首を傾げる。すると、今度は耳の大きな少女が進み出る。

「もしかして、あなた昨日のサンドスターで生まれたの?あっ、私はサーバル。サーバルキャットのサーバルだよ。よろしくね」

「おう、よろしゅうな。なんやようわからんけど、ウチは目覚めたら二本足で歩いてて、知らん場所に来とったんや。この檻エラい広いし、餌くれるアイツラもおらんし、なんにもわからんねん。ここの事、教えてくれへんか?」

「大丈夫、私が全部教えてあげるから!まず、ここは檻?じゃなくて『さばんなちほー』って言うんだ。すっごく広くて、いろんなフレンズが住んでるんだよ。あっ、フレンズって言うのは・・・」

 サーバルのよく脱線する説明を要約すると、ここはジャパリパークのさばんなちほーという所で、フレンズとは動物がある生き物の特徴を持って二本足で歩くようになったものらしい。フレンズはサンドスターという火山から降ってきた虹色の砂によって誕生し、少女はそれにより生まれたフレンズなのだということである。

「うーん。思ったよりもキテレツで信じられへんわ」

「大丈夫、私だってよくわからないし。それで、あなたは何のフレンズなの?見たところ、私と同じネコ科っぽいけど」

 サーバルの問いに少女は自分の記憶から名前を探してみる。夢に出てきた連中は自分のことを何時も決まった幾つかの呼び名で呼んでいた気がするが、思い出せなかった。

「うーん。何やったか思い出されへんわ・・・」

「そっかぁ。博士に聞かないとわからないかな?でも大丈夫!それなら私が付けてあげるから!」

 サーバルは持ち前の明るさでそう言い切ると、彼女の名前になりそうな特徴を探した。

「面白いまだら模様だね、それとすっごく立派な髪の毛」

「へへ、鬣がウチのチャームポイントやからな!」

 少女は豊かに蓄えられた髪を持ち上げて見せる。するとカバが何かを思い出して言った。

「そういえば、何年か前にサバンナに飽きたと言って出て行ったライオンは、そんな感じの頭でしたわ。その、鬣というものをはやしていて・・・」

「それじゃあライオンちゃんかな?」

「いいえ、ライオンはまだらではなかったですわ」

「う~ん・・・それじゃあ、『ライオンもどき』っていうのはどうかな?」

「そんなパチモンみたいに言われたないわ!」

「さすがにそれはあんまりですわ、サーバル」

 サーバルの命名センスは少女とカバに全否定された。

「うーん。じゃあとりあえず、『たてがみちゃん』って呼ぼう!それならいいでしょう?」

「まぁ、さっきのよりはマシやけど・・・」

「やったー!たてがみちゃん、改めてよろしくね!」

「こっちこそ。ありがとうな、サーバル」

 サーバルとたてがみ(仮)は握手を交わした。一段落すると今度は腹の虫がなり始める。

「あぁ、おなかすいてたんだよね」

「せや。ずっと不思議やったんやけど、なんでここのフレンズは肉を食うのもおるのにみんな仲よう暮らしとんのや?」

「それはね、ジャパリまんがあるからだよ!」

 サーバルはたてがみを先程フレンズ達が集めていた何かが山積みされた場所に案内した。そこにいた青い耳をした生き物(?)にサーバルは話しかける。

「ねぇ、ボス!」

 ボスと呼ばれた生き物はサーバルの呼びかけに反応すること無く、地面に散らばったジャパリまんやその包み紙を回収していた。

「ガン無視されとるやん」

「ボスはいつもこんな感じだよ。それで、これがジャパリまん。ボスが持ってきてくれるんだ」

 サーバルが山積みされた中の一つを無造作に拾い上げてたてがみに渡す。包装を剥がすと、ほのかに肉の香りのする白い物体が現れた。

「すっごーい!最初はみんな包みごと齧り付くのに!」

「いや、アイツラがよぅ似たもん食っとったから」

「アイツラって誰?」

「わからん。前おった場所で、毎日じっと見つめられる代わりに餌をもろうとった」

「じゃあボスとおんなじだね!」

「こんなちんちくりんやなかったけどな」

 たてがみは一口だけ齧ってみる。食感は今一つだが、味はよかった。

「なんや肉っぽくないけどまぁ、食えんこともないわ」

「でしょー!ボスが時々持ってきてくれて、フレンズはみんなこれを食べてるんだ!ねぇボス!たてがみちゃんは新しいフレンズなんだ!だから、たてがみちゃんの分のジャパリマンも用意してくれない?」

 サーバルはボスの前にたてがみを立たせて紹介した。ボスは暫くたてがみを見つめていたが、すぐにジャパリまんを回収する作業に戻り、余ったジャパリまんを持って帰ろうとする。

「えーっ!どうしてー!?」

「ちょちょちょ待ちぃな!何やウチのことが気に入らんのかもせえへんけどそれはないで!」

 たてがみ達の言葉も意に介さず、ボスはさっさと丘を降りて何処かへ行ってしまった。

「んー、もしかしてカバはんを襲ったことがまずかったんかな?」

「でも、こんなことって今までなかったよ!ボスはどんなフレンズにも平等なのに!」

「んー困ったわ・・・」

 折角の食料がなくなってしまい、たてがみは再び途方に暮れる。お人好しのサーバルはそれを見て助けずにはいられなかった。

「じゃあ、私のジャパリまん半分あげるよ!」

「え、そりゃいくらなんでもあかんて」

 サーバルの申し出にたてがみは驚いた。この厳しいさばんなちほーで自分の食べ物を与えるなど正気ではない。カバもすかさず止めに入る。

「ちょっ、サーバルあなた!パークの掟は自分の身は自分で守る、見知らぬ相手に自分の身を削ってまで良くすることはないわ」

 カバの言葉が至極真っ当であることはたてがみにも理解できた。尤も、彼女らがボスにジャパリまんを受け取っていなければではあるが。たてがみにとってその矛盾は大きく心に引っかかった。

「で、でも・・・」

「サーバル、もうええ。大丈夫や」

 たてがみはサーバルの耳を軽く撫でながら言った。

「ウチは前は狭いところに住んどったんや。アンころは今のあんたらみたいに飯は困らんかったけど、自由がなかった。今はまったく逆や。折角こんな広い所におるんやし、自由に生きるのも悪うないと思うんや。餌貰うて仲ようするんや無くて本当の意味で自立して・・・」

 たてがみはカバの方を向いてにやりとしたり顔をする。自分の言葉を使って意趣返しされたカバは少しムッと唇を噛んだが、一方で感心もしていた。

「ジャパリパークの掟は自分の身は自分で守る・・・その代わりフレンズは全てに対して自由よ」

「言われんでも」

 たてがみはそう言うと夕日に向かって歩きだす。するとサーバルは引き上げようとするたてがみの前に立ちふさがった。

「困ったことがあったら私になんでも聞きに来てね。私の縄張りはあの木だから」

「おう。今日は親切にしてくれてありがとうな」

「それと、あまりフレンズは襲わないでほしいかな?みんな私の友達だから」

「約束する」

「うん。ありがとう」

 サーバルはたてがみと抱擁を交わした。更に丘を降りようとすると、今度はカバが後ろから声をかけてきた。振り返ると、ジャパリまんを投げつけてくる。

「あなた狩りには慣れてないんだから安定するまではそれでなんとかしなさーい!」

 また歩き出すと、後ろから声がする。

「誰かれ構わず喧嘩するのはやめなさーい!」

「まったく、しつこいなぁ」

「あ・・・態系を壊・・・リアンが現れ・・・程々にね!」

「遠すぎて全然聞こえへんわ。まったくオカンやないんやし・・・」

 たてがみはそう言いながらも、口元はほころんでいた。

 

 

「そういやうちの鬣って、おとん譲りやったっけな?」

 


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