雑種フレンズ   作:華範

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第25話 禁止用語:パップ

 料理が完成すると、一同が集まっていよいよ試食となる。博士、助手、たてがみが並んで座り、その前にかばんが作ったカレーが置かれた。

 

「改めて、ルールを説明するです」

「我々3人のうち2人以上が美味いと行ったら合格。お前が何の動物か教えるのです」

「ウチも正直な審査をするつもりやから、口に合わへんかったらあしからず」

 

 たてがみとしてはごちそうの一件からかばんと味覚の相性が合わないかも知れないという疑念があったのでこう言ったのだが、かばんは博士に籠絡されたのでは?と一瞬ギョッとした。審査員3人は早速とばかりにまずはカレーをまじまじと見つめた。

 

「しかし、よく見るとおどろおどろしい見た目なのです」

「これで、あっているのですか・・・」

「これってもしかして・・・コアラのパッ」

「やめるのです!たてがみ!それだけはやめるのです!」

 

 カレーを例える上で禁じられた言葉を言おうとしたたてがみを、サーバルを含めたその場の全員が止めた。その後かばんからスプーンの使い方を教えてもらい、各人危なっかしい持ち方でスプーンで料理を口に運ぶに至った。長い咀嚼と少しの間の後、3人が一斉に反応を示した。

 

「辛い!」

「辛すぎます」

「なんですかこれは!食べて大丈夫なのですか?」

「ウチ的には匂いの時点で猛毒や。イヌ科の連中やったら即死すんでこれ・・・」

 

 人間以上の感覚を有するフレンズには香辛料を多く投入したカレーは当然厳しいものであった。そもそも香辛料そのものを吸収できる動物が少ないことをかばんは理解していなかったのである。3人はすぐに水に手を伸ばした。

 

「これはダメですね」

「ダメなのです」

「これでは、何の動物か教えられないのです」

 

 博士と助手はきっぱりと答えた。かばんはそれを聞いて落ち込み、サーバルはかばんを弁護しつつ怒る。しかし、たてがみは顔をしかめながらも再びスプーンを取ってカレーを舐め始めた。

 

「うーん、辛いのはキツイけど、なんか舐めたくなるな」

 

 たてがみはスプーンの上のカレーを少しずつ舐めて、ついには再び口の中に入れた。博士たちもそれに続いて食べ始める。

 

「だいたいこれ、食べ物なのですか?」

「刺激が強すぎるのです」

「食べてるじゃん!」

 

 文句を言いつつ食べ進める博士たち。今度は3人共手を止めること無くあっという間に完食してしまった。

 

「合格!です」

「うん、美味かったで!」

 

 助手とたてがみは満足したようだった。博士はもっとも夢中になった様子であったが、何やら答えるのを躊躇った。

 

「私は・・・これはちょっと」

「えぇ!美味しそうに食べてたじゃん!」

「コノハ、嘘はあかんで。かばんの料理は間違いなく美味かったし」

「で、でも・・・それは」

 

 博士はかばんではなくたてがみの方をチラチラと見る。助手もそれを見て複雑な表情を作った。

 

「助手、やはりアノことは」

「やったね!2対1で合格だよね!さぁ、かばんちゃんとたてがみちゃんのこと話してくれるよね」

 

 サーバルの言葉に、博士は首を縦に振るしかなかった。

 

 

 再び図書館へ戻って、博士たちはかばんとたてがみを並んで座らせた。

「あなたは・・・ヒトです!」

「そーかー、やっぱりハシビロちゃんの言うとおりだね」

「目立つ特徴としては、二足歩行、コミュニケーション能力、学習能力がありますが、多様性があり・・・なんというか一言で言い表しにくいとても変わった動物です」

「群れる、長距離移動ができる、投擲が出来る、それなりの大型・・・色々と特徴がありますが、最も興味深いのは、道具を作る、使うことです。このパークの遺物は、全てヒトが作ったとされています」

「へぇー」

 

 たてがみにとっては先程聞いた話であったが、今までのかばんの行動を見るに全てが当てはまっていた。そして、たてがみが知るヒトとも・・・

 

「それで!今度はたてがみちゃんの番だね!たてがみちゃんはヒトと一緒に居たらしいから、きっと近い種類なんでしょう?」

「そ、それは・・・」

「ほう、やはりそうでしたか」

 

 博士と助手は真逆の反応を示した。しかし、それが意味することは同じであるとかばんには理解できた。

 

「博士・・・辛いのなら、私がここで」

「いいえ助手、島の長として責任を果たすのです」

 

 博士は覚悟を決めてたてがみを見つめた。

 

「アナタは・・・レオポン。ヒョウとライオンの合いの子です」

「レオポン・・・それがウチの名前?」

 

 たてがみはその名前を復唱する。なんと間の抜けた名前だろうかとたてがみは思ったが、サーバルには愛らしく感じられたらしい。

 

「レオポン?なんだか可愛い名前だね」

「はい、僕もそう思います」

「レオポンは、ライオンとヒョウの別名であるレオポルドを併せたものらしいです」

「ライオンの頭とヒョウの身体、毛並みはヒョウ柄。ヒョウのフレンズと同じ喋り方とたてがみはこれ以外考えられませんでした」

 

 助手は本棚から一冊の写真付きの図鑑を見せた。そこには他の猛獣たちのページとは別に、小さなコラムにその獣の写真が載せられていた。たてがみはそれを懐かしそうに眺める。

 

「せやせや。この姿やった。ウチの妹たちに吉にいさん。懐かしいなぁ」

「これがレオポンちゃんの家族なんだ!みんなすっごーい!」

 

 サーバルとたてがみはその写真を見て喜ぶ。かばんもそのページを読み始めた。大型のネコ科動物と表題のつけられたページにはライオンやジャガー、トラ、チーターといった猛獣の写真や絵が並び、他のページにはヒトの何倍もあるゾウや、可愛らしい小動物など、パークのあらゆる動物が詰められた宝石箱のような内容だった。博士は普段この本を使ってフレンズたちの正体を調べているのだろう。さて、ネコ科動物のページに戻り再びレオポンのコラムに目を向けた。レオポンを始めとする複数の猛獣たち。それらの動物たちは、皆何処かツギハギをしたような印象を受ける。そのタイトルを読んで、かばんは思わず本を取り落としそうになった。背後でサーバルの声が聞こえる。

 

「それで、たてがみちゃん・・・じゃなくてレオポンちゃんの仲間は今どこにいるの?」

「はい、そのことについてですが・・・レオポンは絶滅したのです」

「え?」

 

 『檻の中の王』。それが、そのコラムのタイトルであった。

 


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