一行はしんりんちほーに入り、かばんはいつもの様に膝の上で眠るたてがみの頭を撫でながら、サーバルと談笑していた。すると、バスが停車した。
「ん?どないしたんや?」
たてがみが目を覚まして確認する。かばんが言うには今回はそれほど物騒な話ではないらしい。ただ、路上に矢印の書かれたバリケードがバスを塞いでいた。
「これか・・・普通に退けられそうやけど」
「右側に、なにかあるのでしょうか」
かばんが指摘した通り、右側には木のアーチの続く道があった。
「折角だから、行ってみようよ!」
「えー、ウチはこのまままっすぐ行きたいな。迷路は前やったし、今日は2人で楽しんどいて」
「もー!たてがみちゃんったら、私達夫婦なんだよ。一緒に行動しないと・・・」
「うーん。サーバルが言うなら仕方ないな」
3人はアーチをくぐり、森のなかに入っていった。その姿を見つめる2つの影に、気づくことはなかった。
「かかりましたね、博士・・・博士?」
「じょじょじょ助手・・・さっきサーバルが言ってたのはどういうことです・・・ふ、ふ、夫婦?・・・ふうふうの間違いなのでは?」
「博士、現実に戻ってきてください」
たてがみ達は木のアーチを進むと、少し広い場所に出た。部屋の奥には看板が立っている。
「えぇっと、ラクダは1日にコップ500杯分の水を飲む事ができる。はいなら右へ、いいえなら左へ」
かばんは看板の文字を読む。文字を知らないサーバルはその様子に驚愕した。
「えぇ!?かばんちゃん急に何言い出すの?」
「えぇ?!書いてあったから・・・」
「この芋虫みたいなウネウネに意味があるってことか?」
「うん。ここに問題って文字が」
「文字?これ文字っていうんだ・・・かばんちゃんすごいね」
文字の意味がわかったところでたてがみ達は進む方向を決めた。サーバルが言う通りに、はいが正解だったようだ。その後別の質問に移るが、今度は元の場所に戻されてしまった。
「サーバル、ここ最初の場所やないか?」
「えぇ、なんでなんで?」
「間違えると、ここに戻ってくるってことじゃないでしょうか?」
「じゃあ、今度はこっち!」
「ちょっと待ちサーバル!」
挑戦しようとするサーバルをたてがみが止めた。
「こっからあと何問あるかわからへんのに、闇雲に進んでもウチとサーバルのちっこい頭やと同じところぐるぐる廻るだけやで」
この迷路は非常に厄介である。一問間違えただけで最初に戻されてしまうという悪辣な仕様によって、どれだけ進んでもミスをすれば最初からやり直しなのだ。仮に4問であれば一回で到着する確率は16分の1しかない。サーバルと散々バカをやったたてがみは、サーバルの言うとおりに猛進すると日が暮れても終わらないと考えたのだ。
「無駄なく進むためにはせめて同じミスは防がないといけませんね」
「無理やったらバスに戻るんも手やで」
「いいえ、方法はあります。僕らも文字を使えばいいですから」
そう言うとかばんは、正解の道に印をつけた。
「これで次来たときもどちらが正解かわかります」
「なるほど、文字ってマーキングと同じなんだね!」
サーバルも漸く文字の意味を理解した様子で、3人は再び迷路に挑んだ。今度は間違えても次にフィードバックできるので、順調に進み、無事に迷路を突破することに成功した。
「わぁー。なんか明るくて開けたところだね!」
迷路を突破すると、花畑についた。遠くに大きな林檎のような建物が見える。
「あれが図書館じゃない?」
「うおー!すっごい!中におっきな木があるよ!いってみよ・・・うぎゃぁぁぁあああ」
サーバルは背後から音もなく接近してきたコノハ博士に頭を蹴られ地面を転げ回る。
「サーバルちゃん!?」
「どーも。アフリカオオコノハズクの博士です」
「どーも。助手のワシミミズクです」
「よ、コノハ!ミミ!久しぶりやな。ってか、後ろから殴るんは挨拶なんか?」
たてがみは博士と助手に挨拶する。博士はサーバルが回復しないうちにたてがみに近づくと、たてがみを問いただした。
「私は博士です!全く、人にものを頼んでおいてどれだけ待たせるんですかアナタは!」
「いやぁ、あれから色々忙しくて、気がついたら時間がたってもうて・・・」
「ふ、ふん。私の事など忘れてしまったんでしょう?会いに来てくれると思って待っていたのに・・・」
「悪かったって。別に忘れたわけやないんや」
たてがみが博士の頭を撫でると、博士は「子供扱いしないでください」と目を逸らした。そうこうしているうちにサーバルも起き上がってくる。
「あれ?博士たち、たてがみちゃんと知り合いなの?」
「そういうあなたはサーバルですね。アレにはずっと前に助けてもらった恩があるのです」
「博士の輝きを取り戻してくれた恩人なのです」
「へぇ、そうなんだ!私はたてがみちゃんのお嫁さんのサーバルだよ!」
「!?」
サーバルの「お嫁さん」という言葉を聞いた途端、博士は急激に細くなった。かばんは博士の心中を察して「ご愁傷様です」とこぼした。
「わわっ、博士大丈夫!?」
博士を心配するサーバル。無邪気に気遣う彼女に博士はしばらく黙り込んで、目尻に涙を貯めて答えた。
「こ、こ・・・この、泥棒猫!」
「えぇ!?」