割れた風船を確認して、私は座り込んだ。野性解放で熱くなった体が冷え、反動として疲れがどっと降りてきた。腕が落ちないよう努力はしていたつもりだったが、気づかないうちになまっていたらしい。
「私の勝ちだな」
強敵は誇らしげに言う。52回目にしての初めての一騎打ち、そして初めての黒星。怒りを剣に載せ、大義を背負わせた彼女は、見事に自分を打ち破った。全力の死闘、求めていた敗北。なのに自分の心の内には、安堵よりも別の気持ちが浮かんだ。
「まったく、これで反省したか?」
「うぅ・・うあぁあ」
「おいおい、百獣の王がらしくもない。これでは並び立つ私の立場がないじゃないか」
ヘラジカは先程までの怒りが嘘のように手を差し伸べてくる。その凛々しい姿が、勝っても負けても決して変わらない姿がとてもうらやましかった。要するに私は、悔しいのだ。全力を尽くした戦いで負けたことが。
「次は負けない」
「あぁ、いつでも戦おう。お前がそうであったように」
手を取って立ち上がる。漸く手に入れられた、気取らず、導く必要もない全てをぶつけられる友の手を。自分は今まで怖かったのかもしれない。臆病な自尊心を守るために群れを作り、同類のたてがみにすら、友ではなく兄として振る舞ってしまっていた。だが、今はもう違うのだ。敗者となり、プライドは消え、漸く等しく分かり合える友ができた。
「じゃあ、行こうか。2人の所に」
「あぁ」
ヘラジカと手を取り、城を出る。この馬鹿騒ぎの主犯として自分が呪いをかけた2人の結果を見届ける責任があるし、2人の仲がこじれないように熱を冷まさせなければならない。
「サーバルちゃん!たてがみさん!」
2人がぶつかり合い、かばんは思わず目を覆った。次に目を開けた時、見えたのは背を向け合ってしゃがみ込む2人と2つの割れた紙風船だった。
「・・・ひ、引き分けです!」
アフリカタテガミヤマアラシが声を上げる。サーバルとたてがみは抱きあって泣き始めた。
「うわぁぁあん。負けちゃった!どうしよう・・・たてがみちゃんがライオンちゃんのお嫁さんになっちゃうよ」
「ウチも負けてもうサーバルと旅できへんようなってもうた・・・」
「嫌だよ!離れたくないよ・・・」
「ウチも、絶対に離さへんで!」
力を込めて抱き合う二人に、周囲も不憫に思い始める。かばんは、2人にそっと歩み寄ると、肩に手をかけて声をかけた。
「大丈夫ですよ。元々全部ウソですから」
「え?」
かばんの言葉に、サーバルたちだけでなく周囲も固まり、或いは納得した様子だった。
「たてがみさんがライオンさんに誘惑されたなんて嘘です。単にヘラジカさんに疑われないようにってライオンさんに頼まれたんです」
「そうなの?」
「せ、せやかて、ウチがライオンはんにヘラジカ倒さんとサーバルと別れるっちゅうのは?」
「それは僕にも・・・たてがみさんが戦いに参加していたのは予想外でしたが、それはライオンさんに聞かないとわからないですね」
そうこうしていると、ライオンとヘラジカが仲良く肩を組んでやって来た。
「何だそういうことだったのか!そうならそうとかばんも私にぐらいそう言ってくれればよかったものを」
「ヘラジカのことだから、すぐ話してしまうと思ったんじゃないかな?・・・」
「違いないな!はっはっは!」
「ら、ライオン様。その姿は・・・」
「あぁこれ、負けちゃったよ。いやぁ、本気だったんだけどね」
割れた風船についてそっけなく答えるライオンの姿に部下たちはわなわなと膝をついた。ライオンはサーバルたちを見つけると、結果を察して感心したように首を振った。
「よっ、二人ともおつかれ!」
「なるほど、引き分けか。これは一番いい結果かもしれんな」
「あっ、ライオン!騙すなんてひどいよー!」
「ライオンはん、これは一体どういうことなん?」
サーバルは怒りを、たてがみは困惑を浮かべてライオンに迫った。慌ててライオンは2人に弁解する。
「まぁまぁ落ち着いて。たてがみちゃんが可愛かったから、ちょっと心配になって、2人の実力を測ってたんだ。2人が番として支え合える力があるかどうかね」
「そんなの!愛し合ってるから大丈夫だよ!ライオンはお節介すぎるよ」
サーバルは抗議する。するとヘラジカがサーバルを宥めた。
「まぁそう言うな、サーバル。長と言うものは皆心配症なんだ。種族が違っても放おっておけないからついつい群れを作ってしまう。同族ならなおさらに憂慮してしまったんだろう」
「皆、今回は騙してしまって悪かった。でも、2人は試練を乗り越えて、絆を強められた。私とヘラジカはいい勝負が出来た。私はこれで満足だ。2人は誰の文句も付けられない番だ」
ライオンは謝罪の後に2人の手を取って祝福した。ヘラジカも2人の肩を持って宣言する。
「ここでこの戦いを見た全てのものが証人だ。さぁ、2人共前に出るんだ。皆祝福してくれ。今日ここで、愛し合う2人が種族を超えて番になった!」
「おめでとう!」
「おめでとうです!」
「お幸せに!」
皆口々に新しい夫婦の誕生を祝った。サーバルは嬉しそうに、たてがみはむず痒そうに顔を見合わせた。
「ほらほら、皆祝福してくれてるよ!たてがみちゃんも応えないと」
「でも、ウチこうも皆に褒められたんはパークに来て初めてやさかい、なんか落ち着かんわ」
「もう、肝心な所で恥ずかしがり屋なんだから。プレーリー式の挨拶、しよう」
「えぇ、ちょっとまって、こんな人の多い所で・・・わわっ」
ライオンはサーバルに押し倒されてキスをされるたてがみを見て頷くと、今回の茶番劇の仕掛け人であるかばんに向かい合った。
「ありがとう。まったく、大した奴だね君は。たてがみとサーバルにそれぞれ出した条件に折り合いも付けられる結果になって、私とヘラジカの勝負も成功させたんだからさ」
「そんな、僕は頼まれたとおりにヘラジカさんたちを動かしただけで・・・」
「謙遜することはないぞ。かばんが策を思いついたから、私はライオンと勝負できたんだ。かばんには私達の思いつかないような答えを見つける力がある」
ヘラジカも同意してライオンと共にかばんの左右に立った。かばんに対しても拍手と歓声が沸き上がる。今回の主役となった客人たちへの賛辞を終えると、2人の王は戦の締めくくりに入った。
「ついに待ち望んだ勝利を得た。だがそれ以上に2人の大恋愛を見届けられたことは大きな宝として記憶に残り続けるだろう!」
「私も今日は負けたけど楽しかった!悔しさも勝ちたい気持ちも久々に得ることが出来たんだ!負けたから、私は城を出るよ。またやろう!」
「私は戦えれば、城なんかどうでも・・・これ?誰が考えたんだ?」
そう尋ねるヘラジカに、ライオンはかばんに目線を向けつつ「さぁ、誰だったかな・・・」と恍け、次のルールを決めさせようとした。
「えっと、じゃあ・・・」
「はいはいはーい!ボールを棒で打つんはどうかな?」
たてがみが割り込んで意見する。皆があれこれ考えた結果、攻める側と守る側に分かれ、幾つかの塁を経由しながら一周回る事を目指す遊びが出来上がった。
「えっと、名前は・・・やきゅうでどうやろう?」
「うむ。それが良い。次はそれで勝負しよう!」
次の遊びも決まりこれで万事解決・・・と見えたが、かばんはヘラジカ陣営についたころからずっと感じていた視線に振り返った。
「何やアイツ。黙り込んでずっとこっちを睨んどる・・・」
「ハシビロコウちゃんだね。なんだかずっとかばんちゃんのこと見てるの」
「おーい!意識あるか?」
たてがみがハシビロコウの目の前で手を振るが、その視線はカバンを見たまま。しゃべらないフレンズかと思って諦めた矢先、急に話し始めた。
「ねぇ、君ってもしかして・・・ヒト?」
「え?・・・それって」
たてがみは擦り切れ、埋もれていた記憶が急に浮上していく感覚を感じ始めた。ヘラジカがハシビロコウに確認する。
「ハシビロコウ、この子が何の動物か解るのか?」
「ヒト・・・のような気がする。私も噂で聞いただけで、詳しくは知らないけど、あなたみたいに沢山不思議なことひらめいて、とても器用な子らしいよ」
「ヒトって、どんな動物なの?見た目は・・・?」
「見た目はわからない。でも、頭が良くて、いろんなこと知ってて、いろんな物使ったり作ったり」
そうだ、規則正しく、毎日エサを与え、檻の戸を開き、木の棒で檻を掃除して・・・煙を吸って・・・
「どこに居るんだろう・・・誰か聞いたことあるか?」
誰も答えない。自分にも解らないし確証は持てない。だが、今までにないくらい過去の記憶を揺さぶられる。
「だれも知らないのか・・・」
ヘラジカが諦めかける。いや、知っている。確かにあの狭い世界にヒトは存在した!毎日会い、コンクリートと鉄格子で区切られ、申し訳程度の木と蔦が添えられた偽物の世界で、世界の内側から管理され、外側から見張られ続けた。間違いなく、その二本脚の名前はヒトであった。
「そうや・・・ウチ、ヒトに飼われてたんやった」
やめるのだフェネック!
本編主人公そっちのけでオリ主がメインヒロインと結婚するのはいくらなんでもダメなのだ!最終回なら兎も角まだ6話分半分しかないのだ!ただでさえTS転生オリ主俺TUEEE系ハーレム主人公なんて地雷要素を割りと満載しているのに、結婚なんてしたら原作レイプどころじゃ無くなるのだ!
百合次元だからとかどうせ皆雌になる次元じゃないのだ!テンプレなんか貼ってる暇があったら平文で謝罪するなりするのだ。フェネーック!
因みにライオン視点でのたてがみについて弟分強調をしましたが、ライオンとたてがみは百合BLです(真顔)。