雑種フレンズ   作:華範

20 / 28
第20話 サーバルと腕比べや!

 たてがみの二刀流から繰り出される攻撃は、その俊敏性とパワーも相まって竜巻が如き苛烈さでシロサイたちに降り掛かった。

「ひ、卑怯な!」

「狩りごっこと恋愛には、ルールはあらへんで!オーロックス!はようこいつらを畳んでまえ!」

「お、おう!」

 たてがみの声を聞き、オーロックス達はハッとして戦いに戻る。3対2になりシロサイとオオアルマジロは不利な状況に追い込まれた。慌ててアフリカタテガミヤマアラシが割って入り、背中の針を突き立てて牽制した。

「ここは任せるです。2人は体制を立て直すのです!」

「は、はい」

「はぁ!?あんなハリセンボン使うなんて反則やろ!」

「これは長引きそうだぞ。先に他を探そう」

「おいヘラジカ!こんだけ暴れてやったんだ!何時もみたいに出てこいよ!」

「せやせや!部下の窮地に出てこれへんなんて、期待はずれの臆病者やな!ハッハッハ!」

 オーロックスとたてがみはヘラジカをおびき出そうと挑発を行った。シロサイ達は苦々しい表情になる。

「なんて失礼な!許しがたい侮辱ですわ!」

「ヘラジカ様はサーバル様を助けるために立ち上がったのに、こんな野蛮なフレンズなんかに・・・うぅ」

「サーバル様の恋人のたてがみ様をライオンの魔の手から助け出すために立ち上がったのです・・・って、あれ?」

 ヘラジカ陣営の面々は一斉に違和感を感じた。確かライオンが人質に取ったサーバルの恋人がたてがみで、今自分達を阻んでいるライオン陣営の客将の名前は・・・

 その時、背後の茂みが動いて、影から兜を被ったサーバルが飛び出した。

「この声・・・たてがみちゃん!?どうしてここにいるの?」

「サーバル?なんでここに居るねん!」

 戦いの原因となった2人のフレンズが揃い、戦場の混乱は極致に達した。

 

 

 一方、主戦場を迂回してライオンの城へと奇襲に向かっていたかばんとヘラジカであったが。

「このやり方でよかったのだろうか?やはり、正面から突撃した方が・・・」

「サーバルちゃんを信じてあげてください。きっと上手くいきますよ」

「かばんの策を疑っているのではないんだ。しかし、義戦に奇襲はやはり・・・」

 どうやらヘラジカは人質救出という大義を持っている以上、遊びである勝負と違って策を弄する事に二の足を踏んでいるようだ。かばんは、失敗が許されない以上、確実に目的を達成する手段を講じるべきだと諭して、何とかヘラジカを納得させた。

「場内の見張りは一人だけでござる」

 迷彩能力のあるパンサーカメレオンの手引で城に入り込んだヘラジカ達は、途中ニホンツキノワグマに見つかるトラブルもあったものの、パンサーカメレオンの犠牲によってライオンの居る広間にたどり着いた。散らかった部屋の中で座り込むライオンは、かばん達を見て、「なるほど、これは面白そうだ」と呟いた。

「ついに会えたな、ライオン」

「おう、よく来たなヘラジカ」

 ライオンとヘラジカは挨拶を交わす。ヘラジカの瞳には僅かに怒りと失望が見えた。

「ライオン、今すぐたてがみをサーバルのもとに返すんだな。部外者を巻き込む貴様の卑怯なやり口には失望した・・・」

「そういうヘラジカも、部下を囮に攻め込むなんてらしくもないことをするじゃないか」

「私はお前がっ!」

 ヘラジカが言い切る前にライオンはそれを遮った。ライオンはかばんにアイコンタクトを取る。

「安心しなって。たてがみならとっくに『解放』したよ。今頃合戦場で感動の再開をしてるはずだぜ」

「ふぅ、良かった」

 一先ず目的が達せられた事にかばんは胸をなでおろした。しかし、続いてライオンが紡いだ言葉にかばんは悪寒を覚える。

「けど、急いだほうが良いかもね。あのままだと、ヘラジカの部下、みんな倒されるかも」

 その意味を理解したかばんは、ヘラジカを置いて合戦場へと駆け出していた。急がなければ、たてがみとサーバルが傷つけ合う姿など見たくはない・・・

「おい、かばん!・・・どういうことだ?一体何をした!」

 戸惑うヘラジカを余所にライオンはゆっくり立ち上がり、野性解放を行いながら紙の剣を構えた。

「2人きりになったし、じゃあ始めようか。真剣勝負をな!」

 

 

「どうして!?どうしてたてがみちゃんが!?」

「サーバルこそ、何でヘラジカの所におんねん!」

 たてがみとサーバルはお互いを見つめ大きく動揺した。どちらもライオンとの約束でここに居るのだが、条件が大きく食い違っている。

「私、ライオンちゃんからたてがみちゃんを助け出すために、この戦いに!」

「ウチはライオンから領地がもらえるからここに」

「それは嘘だよ!たてがみちゃんは騙されてるの!たてがみちゃんは私のものなの!ライオンちゃんのお嫁さんになんかなっちゃダメ!」

「って、ライオンはんはサーバルが出てってる間ウチに世話焼いてくれただけやって。ウチのこと妹みたいに可愛がってくれたし、そもそも嫁さんになるってなんや?」

「もう!たてがみちゃんは私のなの!」

「うわっ、危ないな!」

 誤解が解けないままサーバルが切りかかり、たてがみは危うくそれを避ける。

「ライオンがヘラジカを倒したら、ウチに縄張りをくれるって約束してくれたんや。サーバルと一緒に暮らすためにもヘラジカを倒さなアカンねん。それを邪魔するんやったら、サーバルでも容赦せぇへんで!」

「私だって!たてがみちゃんを取り戻すには、ライオンを倒さなきゃいけないもん!そのためなら、たてがみちゃんだって倒すもん!」

「「サーバル(たてがみちゃん)に、ふさわしい相手として!」」

 2人の言葉が重なり、たてがみとサーバルは飛び出した。恋人同士が相打つ一騎打ちに、周りで戦っていたフレンズ達も手を止めてサーバルとたてがみに注目する。

「うみゃ!うみゃ!」

「すごい!サーバルがたてがみを圧倒してるです!」

 サーバルはジャンプ力を活かして頭上からたてがみを斬りつけ、たてがみを翻弄する。一見俊敏なサーバルが有利に見えるが、アラビアオリックスがそれを否定した。

「いや、違う。たてがみ様はサーバルの攻撃を受け止めている。あれは・・・隙を伺っているんだ」

 アラビアオリックスの言うとおり、サーバルが決定打を出すためひときわ大きくジャンプしたとき、たてがみが動いた。

「うみゃみゃみゃ!」

「なぁサーバル。ゲートの大型セルリアンとの戦いのこと覚えとるか?真上からのジャンプ攻撃は、相手の背後から不意打ちを食らわせる為のもんやで。それ以外は、ただの制御放棄や」

「?!」

 たてがみは左手でサーバルの攻撃を受け止める。右には紙剣が装備されていた。サーバルは体を捻って風船が割られるのを回避する。

「うぎゃあ」

「外したか!それでこそウチのサーバルや!」

 サーバルに躱されたことにむしろ喜びを感じるたてがみは、今度は自分から攻撃を仕掛ける。2刀流から繰り出される苛烈な連撃がサーバルを襲うが、サーバルは辛うじて身をかわして逃げ回る。

「サーバル!なんで!ウチを置いていったんや!約束したのはそっちの方やろ!」

「私も、たてがみちゃんが倒れたとき頭がトロトロになって眠っちゃって、気がついたらかばんちゃんに背負われてたの!たてがみちゃんならきっと私のこと信じて待っててくれると思ったのに!うわああああんたてがみちゃんの浮気者!」

「泣いたらアカンって!でも、ライオンにヘラジカ倒したらサーバルと一緒に暮らせるって言ってもらえてん」

「そうやってライオンに唆されたんだね!たてがみちゃんは私よりもライオンの方が好きなの?」

「そんな、ライオンとウチが仲ようするのはウチがかばんと仲ようしてるのと同じやって。別にかばんと一緒でも怒らへんやろ」

「違う!違うの!私とたてがみちゃんで今までやってきたのに、たてがみちゃんの仲間(?)のライオンが出てきたら、たてがみちゃんが何処かに行っちゃう気がっするの!」

 剣戟を交わしながら言い合っているリア獣達を見て、周囲のフレンズは呆れ返る。

「えーと・・・これって痴話喧嘩?」

「ウチの大将は一体何を吹き込んだんだ・・・」

 たてがみが攻勢にでてからはサーバルは逃げの一手で近づけない。サーバルが攻めればたてがみはカウンターを狙ってサーバルは攻めきれない。お互いよく知った中だけあって、息の合った剣舞となっている。

「はぁ・・・はぁ・・・もうそろそろ限界かも」

「せやな、次の一撃ですべて決めんで・・・」

 消耗しきったたてがみとサーバルは、最後の一撃を決めようと脚をかがませ、一気に飛びかかる。かばんがやって来たのは丁度そのときであった。

「サーバルちゃん!たてがみさん!」

 かばんは激突する2人の名を叫んだ。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。