雑種フレンズ   作:華範

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第2話 くいもんよこし!

 僥倖だ。丘を登りきった少女は確信した。苦労して登った丘の上には生気に溢れた青草が茂り、その中心には泉があった。それだけならここまで喜ばなかっただろう。更にそこには、彼女と同じような二本脚で歩く少女や、そうでない普通の動物たちが集まっていた。

「これは目移りしてまうわ・・・」

 少女は舌なめずりをしながら、泉の様子を窺う。相手は特に警戒する様子もなく少女に背を向けて水辺で談笑したり、山積みされた何かを拾ったりしている。

「あのしましましてるのが良さそうやけど、あれも捨てがたいわ・・・」

 少女に似た格好のものから、特徴的な柄のもの、体格もさまざまで選り取り見取りだ。少女はその中で、大きな耳の少女と話している池に半身を沈めた肉付きの良い女性に注目した。

「あれぐらいのがエエな。なんかトロそうやし・・・でも狩りってどうするんやろ?」

 実のところこの少女は狩りの経験などなかった。とりあえず肉の多そうな獲物を選んだのである。しかし、空腹も限界に来ていた彼女にとってはそんなことは瑣末な問題に過ぎなかった。

「まぁええか・・・なんとかなるやろ」

 少女は楽観すると前脚を地面につき姿勢を低くして助走をつけると、草むらから飛び出して獲物へと駆け出した。

 

 

「がおおおおおーっ!」

 水飲み場にいたアニマルガール達にとって、白昼の凶行はまさに青天の霹靂であった。サンドスターの噴火から一夜明けて、サバンナのフレンズ達はいつものように泉に集まりそれぞれの縄張りでのセルリアンの動向や、昨日の噴火で生まれたフレンズの情報などを交換していた。折よくボスがジャパリまんを持ってきてくれたので、皆で分け合いながら楽しく談笑していたところ、突然の咆哮と共に謎のアニマルガールが乱入してきたのだ。

 いや、正確には突然ではなかった。幾つかの察知能力に優れたフレンズは、それを覗く影があったことに気づいていた。しかし、気配の様子からそれがセルリアンではなく、隠れ方もそれほど慣れたものではなかったので、単に人見知りが激しいだけであろうと考え警戒も警告もしていなかったのだ。そんなある意味平和ボケした彼女らの目の前で、謎の襲撃者が草むらから姿を表し水浴びをしていたカバに襲いかかったのである。

「カバ!」

 一番近くにいた耳の大きな少女が叫ぶ。スピードと察知能力が自慢の彼女だが、談笑に夢中で油断しきっていた上に、相手がかなりの速さであったために反応が遅れてしまった。襲撃者はあっという間に彼女の隣を通り過ぎた。彼女の声にカバが振り返ったときには、目の前に腕を振り上げた未知のアニマルガールが迫っていた。鈍い音がして激しい水しぶきが上がり、彼女は思わず目をつむった。

「・・・カバ!大丈夫!?」

 耳の大きな少女は恐る恐る目を開いて水しぶきのした方を見た。そこには何事もなかったように立つカバと、腹を押さえてバシャバシャと転がりまわる騒動の下手人がいた。

 

 

 少女はカバと呼ばれた女性に飛びかかったが、カバは少女に振り向くやいなや、冷静に少女の攻撃をいなしてさらに腹に拳を叩き込んだ。百獣の王ライオンすら恐れるカバの一撃である。攻撃は少女の腹にめり込んで体を吹き飛ばし、少女は水しぶきを上げて水面に突っ込んだ。

「がはっ・・・ゴボゴボっ・・・ぷはーっ!」

 少女は痛みと口に入ってきた水でパニックになり溺れそうになったが、なんとか立ち上がりカバと対峙する。カバは少し感心しつつも、涼しげな顔で少女を見ながら言った。

「あら、まだ立ち上がれるの?頑丈な体をしていらっしゃるのですね」

「げほぉ・・・褒めてもなんも出ぇへんで!こちとら腹が鳴って喉も乾いとんねん。文句は腹に収まってからたっぷり聞いたるさかい、さっさとウチの血肉になるんやな!」

 食物連鎖の途絶えたこのパークでは一切聞かれないような獣同然の台詞を吐くと、少女は再び身をかがめて、カバめがけて真正面から突撃する。

「うがぁぁぁあああ!」

「正面から挑む心意気だけは認めますわ・・・けれど、水場でカバに挑むのはいささか無謀でしてよ」

 カバはそう言うと水中に潜り背中を向けて逃げ出した。少女はカバを追うが、深さが増すほど動きは鈍り、泥に足を取られて思うように前に進めない。

「くっそ、動かれへんっ!って、うわぁあ」

 無理に脚を泥から引き抜いた反動でバランスを崩し、少女は転倒してしまう。ころんだ拍子に泥の中に手足が埋まり、四つん這いのまま動けなくなってしまった。水面には彼女の濁った瞳が映る。カバはそれを見て悠々と少女に近づいた。

「す、すまん。謝るから・・・堪忍して助けてくれな、な?」

「それが命のやり取りをしようとした相手への態度ですの・・・貴方、のどが渇いているんでしたね。頭を冷やすついでに、たっぷりお飲みなさい」

 少女はカバに頭を踏みつけられ、泥水を大量に飲まされて気絶した。

 




カバちゃんに軽蔑されながら踏まれたい(圧死)

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