雑種フレンズ   作:華範

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第17話 かばんがなんかガラの悪いフレンズに絡まれとったから助けるわ

 こはんちほーを抜けてバスはそうげんちほーに入った。まだ夕方だったが、たてがみは昼間の疲れからサーバルとベッドイン。既にいびきを掻いて寝ていた。

「この寝床いいなぁ」

「いいもの作ってもらいましたね」

 ベッドはビーバーが気を利かせて少し大きめに作られており、2人でもちょうどよい大きさだった(おかげでバスの中に入れるのに苦労したが)。ベッドに寝転がりながらサーバルはビーバー達を思い出してかばんと話をする。

「面白い子達だったなぁ」

「素敵なコンビでしたね」

「私達だって、素敵なコンビだよ!」

 サーバルはたてがみに友情以上の感情を抱いているが、一方で昼間寝ているたてがみに代わってかばんんとも多くの時間を過ごした。それ故に、サーバルにとってはかばんも例外なく離れがたい友人だった。

 2人で熟睡しているたてがみを撫でながら笑いあっていると、突然車が急停止した。衝撃でサーバル達は車体前につんのめって飛ばされた。

「いてて・・・サーバルさん。怪我は?」

「大丈夫。たてがみちゃんは・・・寝たままだよ」

 たてがみは余程眠りが深いのか寝息を立てていた。かばんが運転席を見ると、目の前には岩があり、どうやら道が塞がれたようだ。見通しのいい道だからさすがのボスも車を迂回させるはずである。すると、バスの後方から屈強な体つきの牛科フレンズが乗り込んできた。

「お前ら!どっから来たんだ?」

 牛のフレンズは大声でそう言うと、手に持った角のような槍を突きつけてかばんたちを脅す。ボスも別の白い牛科のフレンズに取り押さえられた様子だった。

「手を上げろ、ここから出ろ!」

「ど、どうするかばんちゃん?」

 サーバルが小声で聞く。

「取り敢えず、言うとおりにしないと・・・」

 目の前の屈強なフレンズにはかばんとサーバルではどうあっても勝てない。かばんがそう判断して立ち上がろうとした直後、たてがみが漸く目を覚ました。

「んぁああ~、よく寝たわ・・・。あれ?かばん、ウチ寝ぼけて寝床から落ちとったん?」

 たてがみは大きくあくびをしながら脳天気にかばんに尋ねた。相変わらずマイペースなことである。たてがみに気が付いた襲撃者は、今度はたてがみに槍を向けた。

「おい!お前、そこを動くな!」

「ん?なんや騒がしいな・・・あんさん誰や?」

 たてがみは襲撃者を見るや、目を合わせたままゆっくりと立ち上がった。襲撃者はその姿に一瞬たじろぐが、槍を突きつけて苛立った声を上げる。

「お、おい・・・動くなと言ってる!」

「そないなもん向けんでも、エエで。あんさん、名前は?」

「お、オーロックス」

 直後、襲撃者はハッと口を抑えた。圧倒的に優位に立っている自分が、視線だけでたてがみの命令に従っていたのだ。

「ほう、シケた目しとんな」

「それはお前だって・・・」

 オーロックスは反論しようとするが、たてがみの眼差しがそれを許さない。

「ウチの名はたてがみや。ここにおるダチのサーバルと後輩のかばんと用あってはるばるさばんなから旅してきとったんや。かばん達は優しいけど力は弱いから、荒事は大概ウチが請け負っとるんやが、あんさん、ウチのダチに何させようとしとったんや?」

「ひぃ!?」

 笑みを浮かべつつ、ドスの利いた声でオーロックスを見下ろすたてがみに、オーロックスは思わず後ずさりした。夕日によって浮かび上がるシルエットの威容はオーロックスの主を想起させたが、濁った瞳は主君とは対象的にどす黒い威圧感を放った。たてがみが一歩進めば、オーロックスは一歩下がらざるをえない。バスの端に追いつめられたオーロックスは柵から転倒して頭から落ちた。

「おい、何があった・・・っ!?その姿は!」

 異変に気づいたもう一人の襲撃者が駆けつけるが、夕日に照らされたたてがみの顔を見た途端、驚いた様子で跪いた。

「も、申し訳ございませんでした!」

 

 

 夜間、屋敷内は飲めや歌えのどんちゃん騒ぎになった。たてがみ達客人3人を広間に迎えて、普段見張りをさせられているニホンツキノワグマも混ざった盛大な宴である。

「いやはや、ライオン様の同類とは知らずとんだご無礼を」

「エエってエエって。こんな歓迎してもろうてありがたいわ」

 オーロックスに酌をされながら楽しむたてがみの前には、ライオンと同じ大きさの盃とジャパリまんの山が置かれていた。かばんとサーバルも、たてがみの友人としてもてなされている。

「さぁさぁ。かばん殿たちももっと食べてください」

「はい、ありがとうございます」

 ニホンツキノワグマが渡したジャパリまんをかばんはおずおずと受け取った。

「なんだか、すごいところに来ちゃったね」

「はい。たてがみさん、すっごく馴染んでますね」

 たてがみは先程のバスでの衝突が嘘のようにオーロックス達と酒坏を交わし、場を盛り上げている。野性味あふれるたてがみが語る調子のいい武勇伝は、血の気の多いライオンの部下たちを惹き付けるには十分なもののようだ。

「それにしても、あの子がここのリーダーなんだね」

 サーバルは大広間の奥の上段で一人座っているフレンズを見た。立派な鬣と太陽のような黄金の瞳の少女こそ、この城の大将であるライオンだ。会話に加わることもなく、静かに飲みながらたてがみの様子を観察していた。

「髪のフサフサしている所はたてがみさんそっくりですね。首のもふもふ具合も」

「でも、随分と静かだね」

「ライオン様は気難しい方なのです。必要な時以外は殆どああして部屋に留まっているのです」

「へぇ、そうなんだ」

 ニホンツキノワグマの説明にサーバルは納得する。宴もたけなわになるとライオンは立ち上がって皆の視線を集めさせた。

「今日の宴はここまでだ。ヘラジカとの再戦は近い。よく休んで英気を養うように。此処から先は私が直々に客人をもてなす。いいな」

「「はは!ライオン様!」」

 ライオンは部下たちを下げさせると、3人と向かい合う。その鋭い視線に、さすがのたてがみも姿勢を正して身構えた。ライオンは部下たちが完全に立ち去ったのを確認すると・・・

「ふああああ疲れたつかれた・・・」

 体を伸ばして脱力したライオンに、一同は面食らった。

「どういうことなん?」

「いやさ、めんごめんご!部下たちが勝手に襲いかかったりとか宴会始めたりとかさ。私もハメ外したかったんだけどねぇ、プライドもあるし、部下の前ではリーダーっぽくしてなきゃでさ」

 どうやら今までの姿はライオンの素ではないらしい。ライオンはさらにたてがみを見て言う。

「それでさ、君誰なの?」

「えぇ!?知らなかったの?」

「いやだってさ、こんなヒョウ柄の親戚見たことないし。ハシビロコウみたくじっと観察してみたけど思い出せなくってさ」

「ウチもそれが判らんくて図書館に向かってるんやけど、そっか、手がかりなしか」

「うん。でも多分私の仲間なんじゃないの?性格とか、私の若いころそっくりだし。あ、飲みなよ遠慮しなくていいから」

「ありがとさん」

 ライオンは自分の水差しからたてがみの器に水を注いだ。たてがみは一礼するとそれを飲み干す。

「おぉ、いい飲みっぷりだねぇ。こんな友達がいればさばんなも出ていかなかったんだけどなぁ。そうだ、ウチに来ない?」

 ライオンがたてがみを勧誘すると、サーバルが止めに入った。

「たてがみちゃんは私と旅をしてるの。だから取っちゃダメなんだから」

 サーバルがたてがみに目を向けると、たてがみもサーバルの肩を抱いて言う。

「ウチはサーバルがおるからな。サーバルが行くところにはどこでもついていくけど、サーバルがいかんならずっと離れへん約束やから。サーバルはかばんに付いてく限り、ウチはかばんと旅をするからな」

 たてがみがそう言うと、サーバルはうれしー、とばかりに抱きつく。

「そっかぁ、2人は番だったか・・・」

「え?そんな・・・」

「ん?番って何?」

「いや、ちょっと悪いことしちゃったかもね」

 ライオンが目を細めながら言った。たてがみには番の意味がよくわからなかったが、サーバルは恥ずかしそうに頬を赤らめ、かばんはそれを見て苦笑していた。再びサーバルに視線を戻すとサーバルは上目遣いになり物欲しそうにたてがみに擦り寄る。

「ねぇたてがみちゃん。またプレーリー式の挨拶しよう」

「ん、サーバルがそう言うならエエで」

 サーバルが向かいあってキスしようとする。たてがみがちらりと横を見ると、かばんが恥ずかしそうに顔を覆う様が見え、同時にライオンの声が聞こえた。

「やめたほうがいいんじゃないかな、今はさ・・・」

「え?」

 ライオンの口から出た一言にかばんが疑問を持った直後、ドサリという音が聞こえた。慌てて見ると、たてがみがいびきを掻いて寝ていた。

「なになに!?たてがみちゃん?どうしたの・・・ってこの匂い、なんだか・・・甘くて力が・・・」

「サーバルちゃん!?」

 たてがみの口の匂いを嗅いだサーバルも、意識が朦朧とし始めている。

「ライオンさん!たてがみさん達に一体何をしたんですか?」

「酔っ払ってるだけだから別に害はないよ。むしろ気持ち良くなってるぐらいだしねぇ」

 ライオンは何かの植物の実見せた。ライオンのもそれの匂いをかいで軽く興奮している様子だ。どうやらネコ科に作用するもののようだった。

「うみゃ・・・たてがみちゃんが倒れてるのに・・・ペロ、気持ちよくて、体がポカポカで・・・」

 先程以上に顔を紅潮させたサーバルはたてがみの唇を貪るように舐め始める。ライオンはたてがみに近づくとサーバルを引き剥がした。

「うみゃぁ、たてがみちゃんを返して・・・たてがみちゃんはわたしのなの・・・」

 酔っ払った状態のサーバルはたてがみを取り返そうとするが、力が入らないのか畳を転げ回るだけだった。ライオンは気持ちよさそうに眠るたてがみを抱き上げて自分の所に戻り、優しくおろして膝枕した。

「ライオンさん。どうしてこんなひどいことをするんですか?」

 かばんはサーバルを介抱しながらライオンに訊ねる。たてがみを人質に取られサーバルも動けない以上、かばんに出来るのは考える時間を稼ぐくらいだ。

「いやさぁ、君たちにちょっと頼み事をしたかっただけなんだけどね」

「それは、ヘラジカさんとの合戦のことですか?」

 合戦の話は宴会でも話題に上がっていた。ライオン率いるグループとヘラジカ率いるグループで縄張りを争う小競り合いが行われているとのことで、バスを襲撃したのも合戦前にヘラジカ陣営を警戒してのことだったらしい。

「察しがよくて助かるねぇ」

「ですが、ライオンさんの陣営は勝ち続きと聞いてますよ。僕達の力を借りなくても・・・」

「あぁ、違う違う。別に勝ちたいわけじゃなくてさ~」

 ライオンはあっさり否定され、かばんはライオンの思惑を掴みかねた。

「それじゃあ、僕達に何をさせたいんですか?」

「それはねぇ・・・負けさせてほしいんだよね、私を」

 かばんのますますわからないと言った表情に、ライオンは口を開いた。

 


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