これってもしかして・・・サイバー攻撃!?(疑心暗鬼)
さばくちほーを通り過ぎ、一行はこはんちほーへと入った。湖を中心に針葉樹の山々が周りを取り囲む風光明媚な土地は、気候の面においてもさばくちほーとは打って変わって涼しげで過ごしやすい。
『このあたりは程よい暖かさで、緑も豊かだよ』
「昼寝にぴったりやな」
「もう。たてがみちゃんったらそればっかり」
たてがみは相変わらずシートに横たわって昼間はぐうぐう寝ている。
「夜は元気やさかいエエやん。バスの見張りもしとるし。サーバルはかばんと心置きなく楽しんだらエエわ」
昼間寝ている分、夜のたてがみは活発だった。かばんやサーバルが寝ている間、バスの警護をしていたのはたてがみだ。さばくちほーでは夜間活動するフレンズが多いため、たてがみの方が沢山のフレンズと接触したそうだ。
「でも、昼間には昼間しか見られないものもありますよ。ほら、見てください」
「ほー、きれいやな」
『このあたりの湖はビーバーが作ったと言われてるんだ。見晴らしもよくて、ドライブにもオススメだよ』
「そういえば、バスってどうやって動かしてるの?」
「ラッキーさんって、手を使わないで運転してますよね?」
かばんの発言は、運転がハンドルを手で操って行うことを想定したものである。その前提はボスにも通用するらしく、ボスは難なく応えた。
「ボクは車にリンクして半自動運転をしてるんだ。もちろん手動でも運転できるよ。やってみるかい?」
ボスの言葉にたてがみは本能的な危機を感じた。記憶の奥底で、自分を世話していた連中が幾度となく口にした話題だ。
「ちょ、おいポンコツ!何言って・・・」
「私やるやる!」
「サーバル!やめとき!むめんきょなんとかはあかんって!」
たてがみは制止するが、サーバルの意識は既にハンドルに向いている。
「うみゃ!うみゃ!」
サーバルが叩きつけるようにハンドルを操作し、車が左右へと動く。
「たーのしー!・・・あ、この足元にあるの何?」
サーバルの興味がアクセルペダルに移る。そのせいで前方への注意が疎かになった。
「サーバル!前!前!」
「え?わああああ」
バスは丸太に激突し、丸太はドミノ倒しのように池にぶちまけられた。その隣には、ワイルドな格好のわりに気の弱そうなフレンズが呆然と立ち尽くしていた。
「ホンマすんません!サーバルも悪気があってやったんとちゃうねん!本人も反省してますし、堪忍しといたってください」
「本当にごめんなさい!」
たてがみとサーバルは、事故の被害者であるアメリカビーバーの前で正座して頭を下げる。
「サーバルはおっちょこちょいやけど、ホンマはええ子なんです。今回の原因は、あのポンコツのせいで・・・」
「でも、動かしてたのは私だし、たてがみちゃんは庇わなくてもいいよ」
たてがみはボスに責任を押し付けるつもりだったが、サーバルはあくまでも自分のせいだと謝罪する。これは結果的にサーバルの印象を良くしたようで、ビーバーは快くサーバルを許した。
「いいっすいいっす。どのみちまだ作る前だったから気にしなくて・・・いいっす。オレっちはアメリカビーバー。ビーバーでいいっす」
「私はサーバル。こっちはたてがみちゃん」
「たてがみや。サーバルとここにいるかばんの旅の手伝いをしとる」
「かばん?」
「はい。よろしくお願いします。それよりも、何か作ろうとしていたんですか?」
「はい・・・実は、これを作ろうと思って」
ビーバーは水で濡れないようにラミネート加工された写真を取り出した。
「これ、何だと思うっすか?」
「木・・・ですか?」
「不思議な形だね」
「ん・・・これもしかして建物ちゃう?」
たてがみにはそれが人工的に建てられた巣の類とわかった。
「よくわかりましたね。オレっちもこれ、家だと思うんすよ・・・」
そこからビーバーは家へのこだわりと技術について語り始めた。写真に憧れて資材を揃えたのはいいが、いざ建てようと思うと自信がなくなるとのことだ。
「博士にジャパリまん3ヶ月分渡さないといけないし、前の家は譲っちゃったし・・・やっぱ無理だ」
考え込んでいるうちに自信をなくして勝手に沈んでいこうとするビーバーを、たてがみは慌てて止める。たてがみは今までのサーバルやかばんとの付き合いから、ビーバーの抱える問題の根本がなんとなく察知できたのだ。
「ちょっと待ちぃな!ビーバーが困っとんのは、要は一人で全部やらなアカンから、頭こんがらがってまうってことやろ」
「あ・・・はい」
ビーバーは目からウロコと言ったような表情になった。やはり彼女は自分や今まで出会ったフレンズと似たものなのだろう。
「せやったら何も迷うことあらへん。ここにはあんさんに借りのあるやつが3人も居るやんか。さっきのお詫びもあるし、とりあえず家ができるまで付き合うたるさかい、ちょっと考え事は置いといてとりあえず必要な木を集めに行こう。な?」
たてがみはビーバーに手を伸ばして湖から引き上げる。その様子に、サーバルとかばんは顔を見合わせて微笑んだ。
ボスの案内でバスに乗り込み良質な木材のある場所へと向かう。啖呵を切っておいていきなりボス任せなのはたてがみにとって面白くないことだったが、ことの発端がボスの管理不行き届きである以上、きっちり働いてもらうのは当然のことである。
『右上の木を見てみよう。エナガの巣だよ・・・今度は左側をよく見てね・・・』
ボスは運転をしながら、かばんのためにパークガイドを行う。気候のいい森は様々な動物の巣となっているようだ。
「みんなすごいねー。私だったら、そのへんで適当に寝ちゃうけど」
「オレっちは、ある程度囲まれてないと不安っすね」
それぞれ住む場所へのこだわりが違う。かばんやビーバーは狭い家が好きらしい。
「たてがみちゃんはどうなの?」
「ウチは・・・住む所は広いほうがエエかな?前はずっと狭い檻の中やったし。あそこは安全やったけど、今ほど楽しいいこともなかったわ」
昔のことを思い出すと、今の暮らしとの違いに改めて驚かされる。以前は超えられない壁に囲まれた場所で飼育されていたのだ。それが、今はこんなにも広い大地を誰にも管理されずに生きている。そう感慨に浸っていると、サーバルがあることを呟いた。
「フレンズになったら、赤ちゃんもできないから。居場所の安全なんて考えたことなかったなー」
繁殖の必要のないフレンズであるサーバルは、十分な足の速さも木登りの能力もあり、身一つを守ることには苦労しない。多くの生物が巣を作るのは安全な繁殖と子育てのためである。しかし、フレンズ化する前にはサーバルにも類縁がいたはずだ。
「なぁサーバル。フレンズになる前の家族って、今どうしてる?」
「うーん。前見に行った時は新しい弟が生まれてたよ。みんな元気だったはず。たてがみちゃんは?」
たてがみは過去の記憶を辿る。かつてあの檻の中で生活していたとき、親も姉弟もいた気がする。自分とは明らかに違う母親は、乳離れとともに引き離されて二度と会うことはなかった。
「みんなおらんようになったな。餌くれるおっちゃんはずっと一緒やったけど」
「大丈夫。たてがみちゃんの仲間も、親戚のフレンズもきっと見つかるよ」
遠い目をするたてがみをサーバルは励ます。たてがみは基本的に子供っぽい性格だが、時折長い年月を生きてきたかのような言葉を吐露することがあった。口では正体が解ることを願っているが、心の奥では胸騒ぎがするのだ。
「だから、もしたてがみちゃんの正体がわかっても・・・私と」
『見えてきたよ』
サーバルが言い終わる前に、バスは目的の針葉樹林の前に到着した。
書いてて思うのですが、たてがみちゃんってもしかして俺TUEEEE系主人公なのかな?