雑種フレンズ   作:華範

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第12話 たてがみさんと添い寝

「たてがみさん。ラッキーさんも悪気がなかったはずですから、一緒に乗りましょうよ!」

「ふーん!ウチはどうせ飼育されてへん野良フレンズやもんな!飼育員のお気に入りのかばんはらくらく旅すればエエわ!」

 かばんはジャングルを走るジャパリバスに乗りながら、バスに並走しているたてがみを宥めていた。事の発端は、充電を終えてジャパリバスに戻り、無事バスが動き出した時である。バスが動いたことでたてがみ達はバスの周りですっかりはしゃいでいた。たてがみはバスの正面に立って観察していたのだが、折り悪くサーバルが「動け!」といったことに反応したラッキービーストがバスを前進させたため、バスの前に立っていたたてがみが撥ねられたのだ。

「指示したのは私だから、あんまりボスとかばんちゃんを悪く言わないで」

 サーバルも説得するが、不貞腐れたたてがみはバスに乗ろうとしなかった。しかしサーバルと一緒に旅を続ける気はあるのか、バスに乗ったサーバルたちを走って追いかけた。

「たてがみちゃんもそんなにスタミナないんだから、早く乗らないと置いてっちゃうよ」

「へん!ウチだってまだまだ・・・まだまだ・・・」

「もう!見栄っ張りなんだから!」

「ラッキーさん。止めてください!」

 かばんの指示でバスが止められる。へとへとになったたてがみをサーバルは担ぎ上げてバスに乗せた。

「もう。たてがみちゃんは無鉄砲すぎだって」

「サーバルに似たんや」

「私はそんなやさぐれたりしないよ」

 結局たてがみもバスに乗って旅を続けることになった。その日は日が暮れたのであまり遠くには行かず、さばくちほーとの境界で休むことにした。

「さっきまでいじけてたのがウソみたいですね」

 ふてぶてしくバスのシートに横たわるたてがみに、忍耐強いかばんも皮肉を言ってしまう。たてがみの奔放さはかばんの理解を超えたもので、野獣のように血の付いた肉を食べる姿も、かばんの彼女への不信感を大きくしていた。

「さばんなでは、こういう切り替えの早さが必要なんや。悩んでも足は速ようならへんし、泳げるわけやないからな。捕まえられへん獲物をいつまでも追うより、別の食べ物を探したほうがエエこともある」

 たてがみは悪びれもせずそう言う。

「フレンズさんを襲ったりとか?」

「昔やないんやから、そんなことはせぇへんで。サーバルとも約束しとるし」

 たてがみにとっての価値の中心は野蛮な本能を除いてサーバルにある事は、かばんの目にも明らかであった。

「その・・・サーバルさんと約束してなかったら、どうだったんです?」

 かばんにとってたてがみはサーバルを介さなければ不確定要素が多すぎる危険な存在である。だからこそ、安全な今のうちに彼女の腹の中を知ろうとしたのだが。

「何言っとんねん?サーバルはここにおるやんか」

「私のこと呼んだ?たてがみちゃん?」

「いや、かばんがサーバルがおらんかったらウチが襲いかかったかって」

「あはははは。かばんちゃんはまだ怖いんだね。でも大丈夫。たてがみちゃんはそんなこと出来ないよ」

「え?」

「サーバルがおらんかったら、狩りなんか出来んかったし、今頃野垂れ死んでるか、返り討ちにあって逆に殺されとったかもな」

「初めて会ったときなんか、カバに襲いかかったりして」

「あれはもう腹が減って仕方なかったからやて・・・もうあんなんは懲り懲りやわ」

 昔のことを思い出して笑い合う2人。たてがみたちは最初から『もしかしたら』で生きていなかったのだ。彼女達にとっては常に目の前のことが全てらしい。

「だからきっと大丈夫。今のたてがみちゃんはかばんちゃんを襲ったりしないよ。その事は私が居る居ないとかは関係ないし、たてがみちゃんは本当はとっても優しくてかっこいいから」

「せやせや。かばんはウチのダチやからな。でも、昼間のことはホンマ悪かったわ。かばんがウチなんかよりも何倍も自分の名前に思い入れあるって知らんかったんや。みんな全部自分と同じで、ウチが喜ぶようにすればエエって勝手に思い込んでた。でも、おかげでかばんがすごいってわかったわ。あんな橋作ったり、でっかい印描いたり、ウチには出来へんこと沢山思いつくって。きっと思い入れの深さっちゅうのは、手先の器用さに比例するんやな」

 たてがみの素直な心境を聞いて、かばんは自分の過ちを悟った。自分と似た姿をしているからと自分と同じ尺度で測るのは間違っている、それはかばんにも言えることだった。

「いえいえ。橋もたてがみさんが守ってくれなければ壊れていたものでしたし、たてがみさん達が早く合流しなければ草抜きもあれほどはかどらなかったです。たてがみさんも、僕の旅に必要な仲間です」

 無意識の距離がまだ存在したものの、たてがみの意思を知るという意味で一定の成果があげられた事に、かばんは満足した。

「さて、今日は昼間っから歩きづめで疲れたし、暫くはかばんに合わせるから夜歩きは出来へんな」

「ここからはバスの移動ですから、たてがみさんは昼は眠っても大丈夫ですよ」

「それもそうか。まぁ、どちらにしろ今晩は早めに睡眠やな」

 太陽が地平線に落ちると、砂漠から冷たい風が吹き込んできた。

「ちょっと寒いですね」

『砂漠地方の夜はサバンナ以上に冷えるよ。毛布などで温かくして眠ろう』

 ボスはそう言ったが、毛布なるものは何処にもない。

「かばんはあんまり寒さには強くなさそうやな」

「たてがみさんは平気なんですか?」

「ん?まぁ、昔は暑かったり寒かったりするところに住んどったから、慣れとるわ。鬣もあるし」

 首のふわふわとした鬣はいかにも暖かそうだった。するとたてがみはかばんを見て何かを思いついた。

「せや!寒いんやったら・・・」

「わぁ・・・たてがみさん!?」

 たてがみはかばんの頭を胸元に抱き寄せて体を密着させた。かばんはたてがみの腕と豊かな胸の間に挟まれて、ぬくぬくとした体温を感じる。

「どう・・・温かいか?」

「は、はい。でもちょっと恥ずかしいです」

 たてがみとの距離感を掴むのはやはり難しいと感じるかばんであったが、今度はサーバルがかばんの背中に抱き付いた。

「あー!かばんちゃんだけずるいずるい!私もくっつきっこするー!」

「もう、サーバルちゃんまで」

「あっはははは!これで3人共温かいな」

「たてがみちゃんの名案だね。これならかばんちゃんにも負けないかも」

 サーバルが嬉しそうにたてがみを褒める。かばんにはたてがみが照れて心音が早くなるのがわかった。

『動物との触れ合いは心身のセラピーの一つとして非常に有効なんだ。フレンズとの添い寝体験は、今日一日探索に疲れたかばんにとってきっといい憩いの時間になるよ。明日は6時に起こすね。おやすみなさい。かばん』

「ボスも勧めてくれてるみたいだし、今日はゆっくり休んで明日はさばくちほーを楽しもう」

「はい。お二人もよい夢を」

「おう。また明日な」

 たてがみがそう言うと、3人は瞳を閉じた。2人に挟まれたかばんには2つの心音が規則正しくなる音が心地よい子守唄となり、次第に深い眠りに落ちていった。

 


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