蛇の守り神 作:堕天使
「ゴルゴーンー!!」
私は何時もの場所で待っているとメリが私の名を呼んで、駆け寄ってくる。こういうのは元の世界で彼女とデートをするときにやりたかったなぁと思う。まぁ、メリと遊ぶのも楽しいのだが――それにしても、私がこの世界に来てから早一ヶ月経つのか。
メリはあれから伝言と言う魔法で度々、私に連絡して、遊ぼうとする。ほぼ森の中で引きこもりの私は毎日が暇なので話し相手がいるだけで非常に楽しいのだがまさかこうなるとは思ってもいなかった。
「どうしたのゴルゴーン?」
首をかしげて尋ねてくるメリに何でもないと伝えて、彼女のくり色の髪を優しく撫でるとメリはまるで猫のように気持ち良さそうにふにゃーと鳴く。
「それで今日は何をするのだ?どうせ、今日もいつもと同じあれだろ?」
「ピンポーン、今日も探検するよ」
大体の場合、メリは私と一緒に探検ごっこをする。メリの子供らしい微笑ましい姿は森で生活している私にとってはいい癒しになる。一人でいるときはゴブリンやオーガなどのモンスターを喰らったり、モンスター相手に自身の戦闘能力などを試してたり、森を探索している程度に暇で退屈なのである。
「実はねこの森にはすごい話があるんだ」
「そうなのか?」
「うん、この森には森の賢王と呼ばれる魔法すら使える強大な魔獣がいて、数百年の時を生きている蛇の尻尾を持つ銀色の四足獣なんだって」
森の賢王か……そのような魔獣はまだ会ったことないが想像するに気高き狼のようなモンスターなのだろうか。それが実際に存在するならゴブリンとか雑魚相手とは違っていい練習相手になってくれそうだな。
「今日、そいつを探しに行くのか」
「うん」
「それでその森の賢王とやらは何処にいるのだ?」
「え?」
すっとんきょうな声をあげるメリにまさかと思ってその森の賢王がいる場所を尋ねてみるが生憎返ってきた答えが分からないと言うことで私はやはりかとため息をついた。
「でも、この森にいることは分かっているし、すぐに見つかるよ。多分……」
「まぁ、最初から何処にいるか分かっている獲物を探しに行くのもつまらないしな。じゃあ、行くとするか」
「うん、行こう!!」
と言ったものの手がかり無しでこの広い森を探すのは骨が折れる。何かしら手がかりがあればいいのだがと思うが無いものをねだっても無駄なことだ。兎に角、しらみ潰しに探すとしようか―――と思ってから早一時間ぐらい経ったが……
「なかなか見つからないね」
「そうだな。まぁ、この広大な森の一帯から一匹の魔獣を見つけ出すのはかなり難しい。見つからない方の確率が高いだろう。とりあえず、一休みするか?」
「うん、ちょっと疲れちゃった。あ、私お弁当作ってきたんだ。ゴルゴーンも食べる?」
持ってきた鞄から弁当箱を取り出したメリは私にそう尋ねてきた。確かに久々に人間が食べるご飯を食べてみたいと思ってしまった私はメリの言葉に甘えてお弁当を少し貰うことにした。
メリに貰ったこの何気ないホットドッグがまるでご馳走のような気がしてゆっくりゆっくりと味を噛み締めていると蛇さんたちにもと言ってソーセージを蛇のようになっている髪にあげると喜びの声をあげてソーセージを喰らっていく。
すぐに食べ終わった蛇たちはメリにもっともっととせがむようにすり寄ってくるが、また今度ねと言って撫でると喜んだように可愛い声をあげる。
まさかこんなに簡単に仲良くなるなんてなといい意味で驚きながらホットドッグを食べ進めていく。やっぱり人の食べ物は美味しいな。森のモンスターはそこまで美味しくないし、最近は狩りすぎたせいかモンスターが私の寝床の洞穴付近に来なくなったし……待てよ。
「ふふっ、そうか……」
「どうしたのゴルゴーン?」
「喜べ、森の賢王に会えるかも知れないぞ」
「えっ、本当に!?」
「ああ」
私は残ったホットドッグを一気に食べるとメリに不敵な笑みを浮かべて、探索を再開した。森の賢王はこの森で上位のモンスターと言うことは絶対的な縄張りがあるはずであり、モンスターが彷徨かない場所に縄張りがあるに違いない。つまり、そこを探し出せれば森の賢王に会えるということだ。
人間の五感では無理だがこの姿になり、五感も化け物レベルになった私ならこれくらい優しいことであるはず……のだがその方法で見つけたのは尾が巨大なハムスターだった。
「ちっ、ハズレか。行くぞメル」
「それがしをハズレとは何と言う侮辱でござるか?」
「まぁ、喋れるくらい脳はあるみたいだが所詮、その程度だ。私たちは森の賢王を探している。お前に構ってられるほど暇ではない」
「私はこの賢く立派な魔獣こそ森の賢王だと思うよ」
「何?」
確かによくよく見れば銀色の毛並みを持ち、蛇の尻尾を持つ四足獣だがこんなものが森の賢王なのか、それにしてはやっぱりこのハムスターと瓜二つの姿を持っているせいかあまり強そうに見えない。
メリが言うんだからこいつが森の賢王で合ってると思うのだが仮にこれが森の賢王なら思ったより期待はずれだな。こんなものが語られる魔獣となるならば私は神話に登場する化け物になってしまうのではないだろうか。まぁ、元の世界では『ゴルゴーン』は神話で語られる化け物だったな。
「お主よりもそちらの娘の方が賢いみたいでござるな。ここは特別に見逃してやるからさっさとそれがしの縄張りから立ち去るでござる」
「ああ、すまない。私にとってお前と他の雑魚モンスターとの強さは大差ないようにしか見えないから間違ってしまった。生憎私には雑魚と他の雑魚の強さを計れるように器用にはできてないからな」
「ちょっ……」
「それは挑発と見て良いでござるか?」
メリは止めに入ろうとするが森の賢王はムカッとした表情を浮かべて尋ねてきたので、私は思ったことをそのまま伝えてやった。
「ああ、好きに見ていい。だが、私と戦うのは森の賢王として賢くない態度かもしれないぞ」
「その言葉……後悔しても知らないでござるよ」
挑発に乗った森の賢王はドリルのように回転しながら私の元に突っ込んで来るがそれを跳躍して避けて、そのまま上から拳を一撃叩き込んで地面に思い切り叩きつけると綺麗な大穴が空いた。
「メリ、今のうちに離れていろ。巻き込まれたらお前じゃただでは済まないからな」
「うん……」
メリを離れさせると森の賢王は地面から這い出て、私の前に立つがかなりのダメージがあったのか息をかなり切らしていた。
「今のはなかなか効いたでござるよ……」
「ああ、かなり手加減はしたんだからこのくらいでへばってもらっては困るんだがな。おっと運動したらお腹空いてきたな……ふふっ、最近は森のモンスターは不味くて嫌になっていたがお前は特別に旨そうだな。敬意を表してお前には特別に私の魔眼の力を見せてやろう」
魔眼の力を解放した豊満な肉体を持つ森の賢王に私は思わず美味しそうに思ってしまう。森の賢王はどんな味がするのだろうか、想像するだけで涎が出てきそうだ。
「ひいっ、降参……降参でござる。それがしが悪かったでござるよ。だから、食べないでほしいでござる」
「ゴルゴーン、私からもお願いっ。それに今のゴルゴーンなんだか怖いし……」
「はぁ、メリの優しさに免じてお前を見逃してやろう」
森の賢王の命乞いならまだしもメリの頼みなら仕方ない。元はと言えば目的は森の賢王と会うことであり、森の賢王を食べることではないしな。
「だが、それには条件がある。まず、森の賢王は私の従者になること……あと、メリにも条件がある」
「えっ、私も?」
「ああ、こいつを助けたいのだろう……なら私の言うことを聞いてもらおうか」
私の言い放った言葉にメリは真剣な表情をして頷くのを見て私は笑みを浮かべて条件を述べる。
「なら、私と会うときはいつもホットドッグを大量に持ってこい。それで見逃してやろう」
「え?」
「私がもっと厳しい条件を出すと思ったのか?お前みたいな子供ができることは少ない。なら、これが要求できる最大限の物だろう。それとそろそろ日が暮れてくる時間だ。メリ、送ってやるから帰るぞ」
「ああ、うん」
そんな帰り道、私は疲れてしまっているメリをおぶって村の方に向かっているとメリはねぇ、ゴルゴーンと呼び掛けてきたのをなんだ?と素っ気ない返事を返す。
「ゴルゴーン、今日はありがとう」
「気にするな、それに私も怖がらせてしまったみたいだしな」
「ううん、怖かったけどとってもいい日だったよ。だって、森の賢王と友達になれたんだもん」
「なら、よかった」
「また遊ぼうね」
「ああ、そのときは美味しいホットドッグを大量に持ってくるんだぞ」
私とメリは互いに笑みを浮かべながら夕焼けの空の下の中を歩いていた。