用務員さんは勇者じゃありませんが転生者ですので   作:中原 千

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原作の七章を読んでいて、ふと思い付いて深夜の一時から三時半にかけて書いた閑話です。
二章執筆時に、息抜きとして書いていたものを清書したものです!

書いた時間帯にふさわしいテンションと内容なので、合わなそうだと感じた方は後書きに要点がまとめてあるのでそちらをご覧下さい。


閑話:精霊

 蔵人が永久に遥か黄金の剣(エクスカリバー・イマージュ)をジッと見つめている。

 

 

「どうしたの蔵人、そんなに難しい顔をして?困り事なら手伝うわ!」

 

 

「いや、それなんだが…………ところで、ヴィヴィアンは精霊だけど、この世界の精霊は見えるかい?」

 

 

「もちろん見えるわ!蔵人とお揃いね!」

 

 

 通りかかったヴィヴィアンに蔵人は唐突に尋ねた。

 ヴィヴィアンはそれに、一緒なのが嬉しくて仕方ないといった様子でニコニコと破顔して答えた。

 蔵人はそれにつられて頬を緩めながら言葉を続けた。

 

 

「最近、手を加えていないのに『永久に遥か黄金の剣(エクスカリバー・イマージュ)』の威力が上がった気がしてね。調べてみたら、見慣れない精霊が群がっていたんだ。最初は光精かと思ったんだけど、なんだか違う気がするんだ。」

 

 

「本当ね…………ごめんなさい。私、こっちの精霊には詳しくないから、力になれそうにないわ。」

 

 

 力になれないと分かったヴィヴィアンが悲しそうにするのを、蔵人は慌てて取りなした。

 

 

「いや、いいんだ。実は、解決手段に心当たりがあってね。」

 

 

「心当たり…………?」

 

 

 ピンときていないヴィヴィアンに蔵人は見ていてくれと、何かの魔術を起動して操作する。

 しばらくして、蔵人は手応えがあったのか、満足げに頷いた。

 

 

「知らないことは、知ってそうな人に聞くのが解決への一番の近道だ。という訳で、『精霊の最愛(ボニー)』の出番だ。一時的に人格の封印を解除して、会話を可能にしてみた。」

 

 

 蔵人の言葉に、ヴィヴィアンは、なるほどと納得する。

 『精霊の最愛(ボニー)』とは、蔵人がこの世界に転移した時に与えられた加護であり、ハヤトから取り戻した物だ。精霊との親和性を高める効果を持っていて、人格らしきものも保有している。

 力に知識などあるのかは疑問だが、この場では最後の希望である。

 

 

「しかし返答がないな。もしもし、もしもし…………ふむ、会話能力に難があるのか?それでは、

uiolenter activa(強制活性)uiolenter activa(強制活性)uiolenter activa(強制活性)uiolenter activa(強制活性)uiolenter activa(強制活性)uiolenter activa(強制活性)…………」

 

 

『いい加減にしなさい、このノンデリ男ッ!』

 

 

「おっ、どうやら会話可能になったみたいだな。それでは、聞きたいことがあるんだが。」

 

 

 蔵人の頭に怒声が響く。それに対して蔵人は涼しい顔で用件を伝えようとする。

 ヴィヴィアンは上手くいったのを察して嬉しそうにニコニコ見ている。

 

 

『答える訳無いじゃない、頭沸いてんじゃないの!?ハヤトと引き裂かれて傷心な上に、何も見えない聞こえない場所に閉じ込められてたところに急に話しかけてきて、無視してたら乱暴に叩き起こすし、本当ッ何なのアンタ!?て言うか、あの時だって必死に魔法で攻撃してんのに、余裕な感じで笑いながら攻撃してきて……怖いわッ!トラウマ確定だわッ!他にも…………』

 

 

 『精霊の最愛(ボニー)』は、早口で恨み言を捲し立てる。余程鬱憤が溜まっていたのかその勢いは止まるところを知らない。さすがの蔵人もウンザリしてきて顔を顰めると、何が起こってるのか分からないヴィヴィアンは不思議そうに首を傾げた。

 ヴィヴィアンの様子に癒されながら、「いや、そもそもお前は私の力だろう」と疲れた様子で呟くと、『精霊の最愛(ボニー)』の恨み言が止まった。

 どうしたのだろうかと、ヴィヴィアンと同じように蔵人が首を傾げていると『精霊の最愛(ボニー)』の声が再び頭に響いた。

 

 

『ウソ、ヤダ、サラッと俺の物発言!?まさかの俺様系!?ハッ、ダメよ私。私にはハヤトがいるんだからこんな俺様系ドS男に惑わされちゃダメ!』

 

 

(いや、惑わせてないし、なんだ俺様系ドS男って、人を乙女ゲーのキャラみたいに言うのは止めて欲しいんだが…………)

 

 

「で、話を聞く気は有るのか?」

 

 

『フン、誰がアンタの話なんか。聞くわけ無いでしょバーカ。』

 

 

 べーという擬音が付きそうな様子で『精霊の最愛(ボニー)』が答える。

 だんだん、相手をするのが嫌になってきた蔵人は、『精霊の最愛(ボニー)』に質問を続けるメリットとデメリットを本気で検討し始めていた。

 そして、やめた方が有益だと結論が出た蔵人は『精霊の最愛(ボニー)』を封印し直そうと術式を組み始めた。

 

 

『ちょ、ちょっとなにやってるのよ!?』

 

 

「いや、どうやら君に話を聞く気はなさそうだから封印し直そうかと。悪かったな、急に呼び出して。」

 

 

 すると、『精霊の最愛(ボニー)』は姿は見えないが目に見えて狼狽え始めた。

 

 

『ま、待ちなさいよ。ほら、わざわざ呼び出したくらいだからアタシに用事があったんじゃないの。今なら聞くだけ聞いてあげてもいいわよ。』

 

 

「いや、いい。確かに聞くことが可能ならば手っ取り早いが他に手段が無いわけではない。答える気のないヤツに無駄に時間をかけるくらいなら、地道に研究を進めるさ。」

 

 

 蔵人の言葉に『精霊の最愛(ボニー)』は更に動揺を強めた。ボニーに体があれば、きっと目をグルグルと回して汗を大量に流していただろう様子で、必死に言葉を重ねる。

 

 

『そ、そ、そ、そうだったわ。最近はアンタが目を使ってるお陰で外が見えて退屈が減ったっていうかなんとゆうかだから、特別にアンタの質問に答えてあげてもいいわよ。フフン、感謝しなさい!』

 

 

 この時、蔵人は思った。「あっ、コイツ、扱い易い方のツンデレだ」と。そして、「うわっ、これ私のせいじゃないよね。盗んだ勇者君の影響だよね」と。

 蔵人は、自分の力が残念な性格で有ることを認めたくなく、ハヤトのせいだと信じたかった。

 

 

『どっ、どうしたのよ、急に黙って。ま、まさか、ダメ!?ほらっ、今なら聞く準備はできてるわよ!何でも答えるから無視しないで!というか、封印しないで!』

 

 

「ふむ、それでは、私の質問に答えるという事でいいのだな?」

 

 

『フフン、どうしてもっていうならこのアタシが―――』

 

 

「―――いや、別にどうしてもって程じゃあ。」

 

 

『申し訳ありません、私が悪かったです!誠心誠意答えさせて頂きます!』

 

 

 この時、蔵人の中で「『精霊の最愛(ボニー)』=チョロい娘説」が確定した。

 収穫の割にはなんともやるせなさそうな様子で蔵人が本題に入る。

 

 

「ハア…………それで、用事とはな、この剣に群がっている精霊に見覚えが無いから、何か知っていることがあれば聞きたいと思っていたんだ。」

 

 

『へぇー、それって星精じゃん。珍しいわね。』

 

 

 星精という聞き慣れない言葉に、蔵人の好奇心がムクムクと湧き上がってくる。

 内心の動揺を隠して、何でもないように『精霊の最愛(ボニー)』に尋ねる。

 

 

「星精とはなんだ?」

 

 

『ハァ?アンタ、そんな事も知らないの?バッカじゃないの?まあ、いいわ。特別にこのアタシが答えてあげるから感謝しなさいよね!いい、星精ってのは簡単にいうと、レアな精霊よ。火、水、木、土、雷、氷、光、闇はどこにでもいるけど、そいつらはめったにいないのよ。いるとこにはいるんだけどね。』

 

 

「そいつ"ら"ということは、他にもいるのか?」

 

 

『案外察しがいいじゃん。当たりよ。他には、空精とか、磁精とかいっぱいいるわよ。コイツらは、レアな分だけ強力なのよ!…………アレ?そう言えば、何でただの剣に星精が群がってるのかしら?意味不明なんですけど。』

 

 

「なるほど、そういうことか。うむ、解決した。模造品にも適用されるのだな。」

 

 

 一人で納得してうんうんと頷く蔵人に『精霊の最愛(ボニー)』が腹立たし気に声を響かせる。

 

 

『何よ、一人で分かったみたいにして気になるわね…………まっ、いいわ。これも全部アタシのお陰なんだから感謝しなさいッ!』

 

 

「うむ、そうだな。助かったよ、ありがとう。」

 

 

『…………ッ、そ、そうよ、分かってるなら良いのよ(何なのよ今の笑顔はッ!それに、さっきまでの陰険な態度じゃないし、ギャップなの!?反則じゃない!アタシにはハヤトが)って、何してるのよ!?』

 

 

「用事は済んだから封印し直そうと。」

 

 

『ハアッ!?何でそんな事するのよッ!』

 

 

 抗議する『精霊の最愛(ボニー)』に、蔵人は淡々と答えた。

 

 

「だって君、私の寝首を掻こうとするだろう?そうでなくても、ただでさえ暴走癖あるし。」

 

 

 蔵人の指摘に、『精霊の最愛(ボニー)』はギクッと肩を震わせる(肩など無いが)。

 

 

『それは、手違いと言いますか、アハハハ…………良いじゃない別に、アンタだったらどうせアタシが何しようといくらでも対処できるんでしょ!?そのくらい、受け止める気概を見せなさいよ!』

 

 

 逆ギレの様に捲し立てるが、蔵人の反応は芳しくない。耳は傾けているが、魔術の展開はいまだに続けている。

 

 

『ええ、分かったわ。ギブアンドテイクでいきましょう。不服だけど、本ッ当に不服だけど、精霊関連ならアタシがサポートしてあげるわ。最上級魔法も撃ち放題よ。どう!?』

 

 

「現状、火力不足は感じていないから、特にどうも思わないんだが。そもそも、封印してもあまり変わらんと思うぞ。五感を共有させれば、外の様子も分かるだろうし、封印しなかったところで、話す相手など私以外にいなかろう?」

 

 

『それは、なんて言うか、アンタと喋るのは意外と退屈しないし…………違うわよ!しないよりはって話よ!別に、アンタと話すのが楽しいってわけじゃないんだからね!勘違いしないでよね!』

 

 

「…………フッ。」

 

『鼻で笑った!?良いじゃない!良いじゃない!あんな狭い所に閉じ込めるなんて、虐待よ!DVよ!犯罪よ!ほらっ、レア精霊の事とかもっと詳しく教えてあげるから、考え直しなさいよッ!』

 

 

 『精霊の最愛(ボニー)』が必死に言葉を並べる。

 『精霊の最愛(ボニー)』の言葉の中のレア精霊の文言が、蔵人の琴線に触れた。

 

 

「ふむ、そうか。それなら封印を取り止めよう。これから、よろしく頼む、『精霊の最愛(ボニー)』。」

 

 

『え、ええよろしく頼むわ。いつかアンタにはアタシのありがたみを分からせてやるんだから覚悟しなさいよねッ!』

 

 

 ヴィヴィアンは蔵人の言葉しか聞こえていないため、詳しい経緯は分かっていないが、蔵人の様子からなんとなく上手くいったことは察することができたので、「良かったわ。流石、クランドね!」と嬉しそうに抱きついた。

 

 

『…………なんだか、無性にムカムカするわね。』

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

『アンタ本ッ当に―――』

 

 

「あれ、用務員さん、何か良いことがあったんですか?」

 

 

 通りかかったアカリの言葉に蔵人が肩を竦める。

 先程まで『精霊の最愛(ボニー)』の相手をしていた蔵人はあまりの姦しさに辟易する気分だった。

 

 

「そう見えるかい?むしろ逆だよ。アカリ、どうしてそう思ったのかね?」

 

 

「あれ、そうなんですか?でも、用務員さん笑ってますよ?」

 

 

「ふむ…………いや、これは表情筋が引き攣っているだけだ。」

 

 

 アカリの指摘に、蔵人はペタペタと顔を触り、今度は本当に苦い表情になって答えた。

 アカリは「そうですか?でも、あの表情は…………」と、首を捻りながら歩いていった。

 

 

『ちょっと!なんで急に接続を切るのよ!びっくりするじゃない!』

 

 

「すまない。無意識だ。」

 

 

『無意識にあんな複雑な術式組める訳無いじゃない!アンタやっぱりアタシの事バカにしてるでしょっ!むきー、覚えてなさいよっ!』

 

 

「ハッハッハ、忘れた。」

 

 

『ッ!』

 

 

 振り向いたアカリは蔵人の様子を見て首を傾げた。

 

 

「おかしいですね。やっぱり楽しそうにしか見えません。どうしたんでしょうか?」

 

 

 

 

 




要点
・『永久に遥か黄金の剣(エクスカリバー・イマージュ)』が強化されました。
・『精霊の最愛(ボニー)』が解放されました。
・『精霊の最愛(ボニー)』に明確な人格が付与されました。


という訳で、閑話でした。
勢いのままに書いていったら、何故かこんなキャラに…………

何がいけなかったんや、いつもと違う点といえば、 書いてるときに「ツンデレcafeへようこそ☆」を流していた事くらいなのに(迫真)


読者様に、「腹パンしたい」や「テンプレ乙」と思って頂けたら、『精霊の最愛(ボニー)』のキャラ設定は個人的には大成功です!

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