用務員さんは勇者じゃありませんが転生者ですので   作:中原 千

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書き上がりました!

まだまだ忙しい日々が続いていて、不定期更新タグの仕事は続きそうです。





ラッタナ王国

「アカリ、お疲れ様。」

 

 

「爽やかに言っても誤魔化されませんからね!」

 

 

魔獣を倒しきったアカリを労うが、彼女はまだご立腹のようだ。

 

 

「いや、誤魔化したつもりはないのだがな。それに、言った通り問題なく相手取れただろう?君に実力がついている証拠だよ。」

 

 

私が笑いながら言うと、アカリは体を震わせながら答えた。

 

 

「それは、いいんですよ。私も思いの外強くなれてて驚いたくらいです。私が怒っているのは、戦ってる最中に脇でヴィヴィアンさんといちゃついてた方ですよッ!」

 

 

 

「それは!ごめんね!」

 

 

それに関しては全面的に私が悪いな。うむ、どうやら最近、私は弛み過ぎているらしい。反省しなくてはいけないな。ヴィヴィアンの召喚を達成して気が抜けているのかもしれない。何か新しい目標を立てなくてはならないな。何がいいだろうか?

根源の到達は大目標であるが、それよりも幾分か達成しやすい物がいいな。

やはり、魔法の再現か。それとも、シバの作成か。デミ・サーヴァントの研究もいいな。あとは、ムーンセルという手もあるし、トライヘルメスも面白い。他にも、英霊の宝具の再現というのもアリだが、ううむ…………

 

 

「あの、急に黙り込んで難しい顔をしてどうしたんですか?私、怒ってるとは言いましたけど、そこまで怒ってる訳じゃなくて、ええと、私の事も、もう少し気にかけて頂けたらそれで…………」

 

 

ハッ!考え込んでいたらアカリがオロオロしている。反省すると決めたばかりだろう。思考に没頭してアカリに誤解させて困らせてどうするんだ。

 

 

「アカリ、すまない。最近、気が抜けているのを私自身も自覚していてな。対策として何か新しい事を始めようと考えていたんだ。それに、君は大切な人(弟子)だから蔑ろにしているつもりはなかったのだが…………うむ、もっとアカリの事をちゃんと見るとしよう。」

 

 

「た、大切な人…………そ、そうですか、大切な人ですか。なら、いいんですよ。はい。これからもよろしくお願いしますね。」

 

 

「ああ、任された。」

 

 

「この娘、可愛いわ!」

 

 

アカリを見てヴィヴィアンが楽しそうに言った。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

その後、海狼(ターレマーパ)の回収をしていると、近辺に張り巡らせていた簡易術式に人らしき反応があった。

道を尋ねるために接触することを提案し、二人の了解を得られたので反応の方へと向かうと、三人の人を乗せた船を海上に見つけた。

 

 

「私が行ってくるから待っていてくれ。」

水面を走って船へと向かう。

 

 

「すまない。少しいいだろうか?」

 

 

「あ、ああいいけど、今のは水精魔法かい?器用だね。」

 

 

三人の内の二人は驚いたように固まっていたが、一人が呆けつつも答えてくれた。

 

 

「うむ、似たような物だ。そして、質問なのだが、ここはどこだろうか?」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「聞いてきたぞ。どうやらここはアンクワール諸島連合の内の一つのラッタナ王国らしい。最寄りの街は船で一時間程の距離にあるヤーラカンチャナという所らしいが、どうせなら王都まで行ってしまわないか?」

 

 

「良いと思うわ!王都ってどんなところなのかしら?」

 

 

「えっ、ここってアンクワール諸島連合なんですか!サウランから結構離れてますけど、どれだけ移動してたんですか!?」

 

 

アカリが狼狽する。

 

 

「アカリはクランドに助けられた直後に寝ていたものね。その時に二人で競争していたからだと思うわ。」

 

 

「…………何やってるんですか。」

 

 

「ハハハ、いや、面目ない。」

 

 

アカリのジト目を笑って誤魔化す。

 

 

「…………まあ、過ぎた事なのでいいですけど。それで、王都でしたっけ?良いと思いますよ。どうやって行くんですか?」

 

 

「走っていくか、ラムレイ2号で飛んでいくか、船を作るかだな。」

 

 

「ソリだけは止めて下さいッ!船とか良いと思いますよ。船とか。」

 

 

ラムレイ2号はそんなに嫌か。船を二回も推すとはかなりじゃないか。

 

 

「分かったやりますよ。それでは、試作していたアルゴー号のレプリカは大きすぎるから小さいサイズの船を仕上げるとしよう。すぐに終わる。」

 

 

 

―――数分後―――

 

 

 

「うむ、会心の出来だな!それではお披露目としよう。『雪夜の馴鹿(トナカイ)号』だ!」

 

 

「ソリじゃないですかッ!」

 

 

完成品を見てアカリが叫ぶ。

 

 

「いや、どう見ても船だろう。実際に水に浮いてるじゃないか。」

 

 

「どう見てもソリですよ!デザインもあのままじゃないですか!」

 

 

「まあ、素材として確かに流用はしているが、確かに船だぞ。そのように加工してある。」

 

 

「そういう話じゃな……って、何ニヤニヤしてるんですか!さては、からかってましたね!?」

 

 

む、バレたか。

 

 

「まあ、あれだ。アカリをちゃんと見るための一環としてだな。」

 

 

「想像してたのと違います!そういう事じゃないと思います!」

 

 

むくれるアカリを笑って制して言葉を続ける。

 

 

「冗談はこれくらいにして、こっちが本命だ。Xの宇宙船を参考に作った。ドゥ・スタリオン潜水艇Ver.だ。速度や隠密性はもちろんの事、安全性や快適性、特に、どれだけ速度を出しても中に全く影響を与えないように設計してある。」

 

 

「用務員さん!そうです!そういうのが良かったんです!これで移動時に絶叫する日々とお別れできます!」

 

 

アカリはそう言って涙を流した。

 

 

「泣くほどだったのか…………」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

潜水艇は問題なく機能し、日没後に王都ラチャサムットに到着した。

 

 

「さて、着いたはいいが、日が暮れてしまっているな。しかし、流石に王都と言うだけあって、この時間でも人が多いな。」

 

 

結構な時間だがかなりの人数が夜の街を歩いている。だが、その様子は活気づいているというよりはむしろ、沈んでいて悲愴感が滲んでいる印象を受ける。一見ハツラツとしているような者も、どこかぎこちなく、元気というよりも必死な感じだ。

 

眺めて歩いていると、その集団から数人が近付いてきた。

 

 

「旦那、買いませんか?いくらでもはたらけますよ。」

 

 

「おにーさん、うちを買っていいことしましょう?」

 

 

そう言って、売り込んでくる獣人の男性としなだれかかってくる獣人の女性。

 

なるほど、そういう感じの集団だったか。どうりであんな印象を受ける訳だ。

 

 

「すまないがそういうのは間に合っていてな、悪いが他を当たってくれ。」

 

 

「そんなつれないことおっしゃらずに。」

 

 

断っても離さない獣人の女性。

私の身なりから金持ちだとでも思われているのだろうか?

まあ、金持ちというのも間違いじゃないのだが、本当にそういうのは間に合って…………いや、これなら合法的に検体を得られるか?相手も望んでいる様だし、まさにwin-winの関係じゃないだろうか?

 

 

 

「ちょっ、用務員さんから離れてください!ヴィヴィアンさんもなんとか、あれ、ヴィヴィアンさん?」

 

 

「この剣は太陽の移し身―――」

 

 

「なんか明らかにヤバそうな剣出してます!ほら、用務員さんにくっついてる貴女は危ないので早く離れてください!用務員さん、用務員さん!考え事してないでなんとかしてください!」

 

 

アカリに揺さぶられて正気に戻る。

 

 

「む、ああ、すまない。また考え込んでしまっていたようだ。それで、どうかした、のか―――」

 

 

「あらゆる不浄を清める焔の陽炎」

 

 

「ヴィヴィアン、ステイ!それをすると周辺一帯が更地になるッ!」

 

 

「分かったわ、クランド!」

 

 

私が制止するとヴィヴィアンは笑顔で了承し、すぐに聖剣を仕舞った。

 

 

「ふう、なんとか間に合ったか。たいした影響も、「用務員さん!人が倒れてます!」…………あったようだな。」

 

 

アカリのもとへ行き、倒れている人物を観察する。

 

 

「ふむ、どうやら蝙蝠系獣人のようだな。だから、ガラティーンの擬似太陽に当てられて…………いや、蝙蝠は太陽が苦手というのは迷信だったか。まあ、この世界の蝙蝠も同じ性質だとは限らないだろうが。さて、詳しくは帰ってからにしよう。見たところ、この女性も奴隷だろうから連れて言っても然程問題もあるまい。」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

調べると、体に大量の傷が見つかった。古い物から新しい物まで色々とある。そして、魔術で解析した結果、栄養失調のケがあることが分かった。

 

 

「ふむ、直接の原因はこの傷と栄養失調だろう。どれ、栄養失調の方は私が対処するから傷の方はアカリが治したまえ。」

 

 

「ハイッ!頑張ります!」

 

 

アカリの力強い返答に満足しつつ、物品を用意し、術式を組む。

 

 

「precantia(供給)ipsum(適化)」

 

 

魔術によって、用意した品物の栄養素を供給し、急激な変化で失調が起こらないように身体を適化させる。

これで、おそらくは解決しただろう。神秘が濃いと魔術が強力になるので使っていて非常に楽しい。

 

アカリの方に目を向けると、陣を書き上げ、詠唱を始めているようだった。

 

 

「Von anomalie nach norma.(異常から正常へ)

Von strom nach vergangenheit.(現在から過去へ)

Ich hoffe, dass Sie die Kranken und gesunden heilen.

(我は病める姿を過去とし、健常な現在を望む)

Heilung(治癒)」

 

 

アカリの魔術によって女性の新しい傷や小さな古傷が消えていく。

 

 

「…………ダメです。大きな傷痕が消せません。」

 

 

アカリが沈んだ様子で言う。

 

 

「いや、これだけできれば中々の物だよ。アカリは魔術を学んで日が浅いし、治癒魔術の難易度は高い。なによりも、この傷痕には何らかの思念が蓄積して、一種の呪いのような作用をしているから、治すのは骨だろう。アカリなら、むしろ命精魔術で治した方がやり易いのではないか?それなら、呪い擬きの影響は無視できるだろう。」

 

 

「いえ、命精魔術では一年以上前の傷は治せません。」

 

 

たしか、傷痕を治さずに長期間放置していると命精がそれを通常状態と認識してしまうのが理由だったか。

 

 

「いや、そこは思考を柔軟にするんだ。例えば、命精に魔術を使って認識を操作するとか。」

 

 

「精霊が見えないんで無理です。知ってて言ってますよね?」

 

 

アカリがムスッとしながら答えた。

 

「すぐに答えを教えてはつまらないだろう。まあ、無傷の状態を投影しながら命精魔術を使うのが妥当なんじゃないのか?」

 

 

「用務員さんを基準に言わないで下さい!私はまだ、そんな高度な使い方出来ないですよ!」

 

 

「ふむ、"まだ"か。なるほど、アカリにはいずれ修得しようというつもりはあるのか。熱心な弟子で嬉しい限りだ。これなら、以前考えていたメニューを実行しても良さそうだな。」

 

 

「あれっ!?もしかして私、余計な事を言いましたか!?」

 

 

アカリは急に楽しそうな雰囲気になった蔵人に一抹の不安を覚えた。

 

 

「フフフ、候補がありすぎて何にするか迷ってしまうな。よし、ならばこの傷は今後のアカリの課題だ。大きな傷痕は女性には辛いだろうから修行に励んで早く治してやるといいさ。それでは、私はXに連絡を入れなければならないので出ていく。アカリはこの女性に付いていてやるといい。」

 

 

念話の術式を組みつつ、アカリを残して部屋を出ていく。

 

 

「行っちゃいました。用務員さんはああ言ってましたけど、本当に私は出来るようになるんでしょうか?…………有無を言わさずに出来るようにさせられそうですね。用務員さんですし。」

 

 

アカリは疲れた様にそう言ったが、その言葉を溢した口角は上がっていた。

 

 

 

 

 




今回のドイツ語の詠唱には突っ込み無しでお願いします。まあ、型月の英語もそんな感じですしおすし。
ドイツ語って難しいですね!

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