用務員さんは勇者じゃありませんが転生者ですので   作:中原 千

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皆様、お久しぶりです。

遅くなって申し訳ありませんでした。
4月に入ってから執筆時間が取れずに本日まで延びてしまいました。





第二章
旅立ち


「…………これでよし。」

 

 

隔離実験室等の施設をそれぞれ鍵に収納し終えた。拠点持ち運び用の鍵の礼装は以前はヴィヴィアンと共同制作だったが、今では一人でも作成可能になった。自分自身の進歩を感じられる。

 

 

「さて、私の方の準備も終わった。それでは出発しよう。」

 

 

「「「うん!((ハイ!))」」」

 

 

未だ見ぬ実験材料を求めての世界旅行の始まりだ。移動はラムレイ二号で飛び回るつもりだったが、アカリから猛反対を受けたので『セイバー・モータード・キュイラッシェ・モデルビークル』を作成した。これはzeroセイバーが乗ってたバイクの機能を搭載した自動車だ。魔獣車に偽装したり光学迷彩で不可視化する機能も追加してある。

 

 

「…………異世界で自動車、やっぱり用務員さんはデタラメですね。」

 

 

アカリが呆れた様に言う。

 

 

「不満があるならラムレイ二号にするが?」

 

 

「いえ、滅相もございません!」

 

 

私が脅すとアカリは即座に謝罪した。

そこまでラムレイ二号が嫌か。

 

 

「まあ、冗談だ。それで、運転手なのだが。」

 

 

「ハイハイ!私がやりたいわ!」

 

 

ヴィヴィアンが手を上げた。

 

 

「ヴィヴィアンさんって運転できるんですか?」

 

 

「当然よ!何度もしたことがあるわ!」

 

 

尋ねるアカリにヴィヴィアンは胸を張って答えた。

運転か。私も初耳だな。また一つヴィヴィアンを知ることができた。

 

 

「それじゃあ、出発進行!」

 

 

全員が乗り込んだのを確認してヴィヴィアンが元気良く出発を宣言した。

 

肝心のヴィヴィアンの運転の腕前だが…………まあ、アイリと同レベルだったとだけ言っておこう。

アカリは気絶して、Xも顔が引き攣っていて、無事なのは私と雪白だけだったために運転手は私に交代となった。

当のヴィヴィアンは"何がいけなかったのかしら?"と不思議そうな顔をしていた。

キョトンとした表情のヴィヴィアンも非常に良いものだ。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

様々な街に立ち寄り南に進んでいたある日。

 

 

「ふむ、どうしてもダメかね?こうして深緑の環もあるのだが?」

 

 

「だめだめ。そんなデカい魔獣、危なくて街には入れられないよ。」

 

 

街に入ろうとして門番に止められた。深緑の環も万能ではないらしい。アカリも説得してくれているが門番の反応は芳しくない。

仕方ない。ここは暗示をかけて…………

 

 

「…………何事かと思ったらアンタ達かい。」

 

 

ふむ、このハスキーな声は。

 

 

「イライダか。久しいな。」

 

 

「久しいなって、この状況で言うことがそれかい。まったく、巨大な魔獣を連れた妙なハンターの集団が門番と揉めてるって協会に言われて来てみれば…………アンタは変わらないね。」

 

 

イライダが呆れた様に言う。

 

 

「なに、もうすぐ話がつくさ。」

 

 

こっそりと門番に暗示をかける。

 

 

「…………分かったよ。通っていいよ。」

 

 

門番は渋々といった様子で了承した。

 

 

「…………用務員さん、何かしましたね。」

 

 

「気付いたか。さすが、我が弟子だ。」

 

 

私がそう笑うとアカリはジト目を向けてきた。最近、アカリの遠慮の無さが加速している気がする。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「相変わらずだねぇ!アンタの酒は旨い!」

 

 

酒樽片手にイライダが上機嫌に言う。

 

 

「ふむ、君も変わりないようだな。飲み過ぎるなよ。」

 

 

「保証はできないね。少なくても、この魔獣には負けないだけ飲むつもりさ!」

 

 

イライダが威勢良く言うと雪白も負けないと言いたげにグルルと鳴いた。ちなみに、雪白が今飲んでいるのはカルーアミルクのホットだ。酒の味を覚えても雪白のホットミルク好きは変わらないらしい。昔と変わらず飲み干すと尻尾で催促してくる。

 

 

「ふむ、これは期待薄のようだな。」

 

 

ちなみに、ヴィヴィアンとXとアカリはソフトドリンクで、自作のドリンクバーの装置から自由に飲むスタイルだ。

そのまま、しばらくお互いに近況報告や雑談をした。

 

 

「―――ところで、そもそも勇者とは何なんだ?」

 

 

「アンタは…………勇者を連れといてなに言ってんだい。」

 

 

私が尋ねるとイライダは呆れた様に言った。

 

 

「いや、外部からの認識を確かめたくてな。当事者からは見えないものも多々あるだろう。」

 

 

「そういうものかい。まあ、勇者っていうのは、ざっくり言えば、国によってまちまちだね。」

 

 

「ふむ、具体的には?」

 

 

「エルロドリアナは辺境を多く抱えているからね、女神の信仰もそれなりだけど、アルバウムやプロヴンは別さ。あそこはサンドラ教の信者が大多数だからね、太陽の御子といわれるミドは初代勇者であったともいわれ、魔王を討伐したなんて話もある。ミドが生来持っていた魔法のルールに縛られない力が、加護といわれていて、それが勇者の証でもあるわけだ。まあ数千年前のことさ、神話のようなもんだ。」

 

 

魔王か、ジャーマンな軍服を来た相性ゲーな魔人なアーチャーが思い浮かぶ。いや、彼女は第六天の魔王じゃなくて第六天魔の王だったか、まあ、スキル魔王を持ってるし魔王には変わりないだろう。

とはいえ、魔王か…………欲しいな。

 

 

「ニヤニヤして、大方欲しいとか思ってたんだろうけど、おとぎ話だよ。あったとしても、魔王のような怪物(モンスター)ってことだろうけどね。あとはハヤトっていう勇者に限るけど、精霊教がずいぶん支持して、接触を図っているようだね。どうせ知らないだろうから説明するけど、精霊教っていうのは二百年前の魔法革命以来、爆発的に信者を増やしてる宗教さ。魔法革命以前は辺境の小規模な宗教だったんだけど、今じゃサンドラ教、月の女神の信仰に次ぐ規模の宗教さ。まあ、この大陸に限定だけどね。」

 

 

精霊教か。おそらく目的はあれだろうが、まあ、あれはそもそも私の物だ。それによって彼は苦労するだろうが自業自得だろう。

 

 

「まあ、噂はそんなところさ。で、アンタはこれからどこにいくんだい?」

 

 

「特に決めてはない。気になった所へフラフラするだけだ。っと、つまみができたぞ。肉やイカを炙っただけだがタレにはこだわっている。」

 

 

差し出すと雪白とイライダは我先にとがっつき、酒を呷った。

それにしても、雪白は生肉よりも調理した肉が好みだったり、酒好きだったりと人間臭く育ったものだ。これらは、イルニークの性質なのだろうか?

 

 

 

「なるほど、クランドは魔王が欲しいのね!」

 

 

思考している蔵人を眺めてヴィヴィアンがポツリと呟いた。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

翌朝、蔵人達は船上にいた。

 

 

「ふむ、船旅というのも悪くはないな。しかし、目的地まで五十日程かかるのは些か長いな。ここは風王鉄槌(ストライク・エア)で―――」

 

 

「せっかく穏やかな旅ができてるんですから止めて下さい!」

 

 

「ふむ、ならば水棲魔獣の研究でもして気長に待つか。ヴィヴィアンの土産の見分も終わっていなかったな。そちらを進めるとするか。」

 

 

そう言って立ち去る蔵人を見てアカリはホッと一息を吐いた。

 

蔵人達は船で砂漠の街、サウランへ向かっている。同行者はヴィヴィアンを始めとした普段のメンバーに加えてイライダがいる。お互いに行き先が決まっていないのなら同行しようと昨晩決まり、今に至っている。

蔵人は自作の船を提案したが、絶叫マシンさながらの速度での移動を避けたいアカリによって、関係者じゃないイライダもいるんだから現地の船を使おうと説得されたのだった。

 

 

 

「ヴィヴィアン、時間もあるしこの前の―――ふむ、praesidio(保護)」

 

 

瞬間、水面から多数の水流が突き上がり、船を貫かんと殺到した。水流達は弾かれたが、船の周りを取り囲み、船を飲み込もうと何度も突進を繰り返している。

 

 

「精霊の悪戯か、教本で読んだが実物を見るのは初めてだな。」

 

 

「精霊の悪戯?…………へえ、ここの精霊の仕業なのね。」

 

 

ヴィヴィアンの様子がいつもと違うような…………

 

 

「クランドの旅を邪魔するなんて、何か勘違いしてるんじゃないのかしら?」

 

 

そう呟くヴィヴィアンは明らかにヤバそうな雰囲気を醸し出していた。

 

 

「クランド、どうしようかしら?」

 

 

私に問いかけるヴィヴィアンの笑顔はいつもと変わりなく、小首を傾げる仕草は非常に可愛らしく、見とれてしまいそうだが状況を鑑みて自重する。

 

 

「まあ、完全に防いだから特に実害は受けてないからね。とはいえ、進行の邪魔をされたのは事実だし、調整したアレの実験台になってもらうとしようか。」

 

 

「良いと思うわ!」

 

 

「破片の一割を抽出、解凍、視覚器に収束、限定解放『精霊の最愛(ボニー)』!」

 

 

視界が塗り変わり、見えざるものが可視化される。

 

 

「クハハ、大成功だ!見える、見えるぞ!私にも、精霊が見える!」

 

 

精霊の姿が眼に入る。特に、水流の辺りにはうじゃうじゃと群がっている。

 

 

「クランドは魔眼まで持ってたのね!なんだか、今のクランドはいつにも増して素敵に見えるわ!」

 

 

…………あれ?ヴィヴィアンにも『精霊の最愛(ボニー)』の魅了効いてないか?加護の効果は総じて異世界準拠で、元の世界の精霊であるヴィヴィアンは対象外だと思っていたが、予想が外れたか?

異世界魔術に関しては別物なのは証明済みだが、加護の力は全て違うのか、"私の"加護だからなのか。

 

 

「まあ、考えるのは後にしよう。今は検証の続きだ。

compede(拘束)」

 

 

魔術によって水流が硬直する。

クハッ、クハハ、成功したか。多くの人に知られ、詳細に解明されていなければ魔術の対象にできる。これまでは異世界魔術を対象にするので精一杯だったが、精霊の可視化に成功したために精霊自体も魔術の対象にできる。これからできることが大きく広がった!

これからの研究が今から楽しみで仕方がない。

 

 

「流石、クランドね!」

 

 

「ハハハ、これで良い的となっただろう。それでは、練習していた連携技をするとしよう。」

 

 

「了解したわ!」

 

 

『永久に遥か黄金の剣(エクスカリバー・イマージュ)』を銃に装填しつつ、水面に降りる。

 

 

「スイミングの時間だ………!」

 

 

水面を滑走して妖精の群れへと迫り、水弾を乱射し、それをヴィヴィアンが強化する。

 

 

「水面に光るは、勝利の剣!」

 

 

幾本の水流を斬り倒しつつ最も規模の大きい水流に接近し、

 

 

「『陽光煌めく勝利の剣(エクスカリバー・ヴィヴィアン)』!」

 

 

水圧を限界まで上げて聖剣を射出する。

 

 

妖精の悪戯による水流は爆音を轟かせて破裂し、水精達は力なく散り散りになる。

 

 

「大成功だったなヴィヴィアン!」

 

 

「最高だったわクランド!」

 

 

私達はハイタッチしてお互いを讃えあった。

 

 

「…………だけど、一つだけ問題があるわ。」

 

 

「どうしたんだいヴィヴィアン?」

 

 

私が聞くとヴィヴィアンは後方を指差して続けた。

 

 

「さっき爆発した時の水流で船が流されたわ。」

 

 

「…………あ。」

 

 

後方では船が一片も見えなくなっていた。そして、船があったはずの場所ではアカリが必死に浮こうとしていた。

 

「アカリ、大丈夫かッ!?」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「もうっ!気をつけて下さいよ!」

 

 

アカリが眉をつり上げて怒りを露にする。

 

 

「本当にすまなかった。研究が上手く行き過ぎて少しテンションが上がってしまってな。」

 

 

「テンションが上がってしまってな、じゃないですよ!私、溺れかけたんですからね!」

 

 

「いや、礼装で保護してあるから死ぬことは……じゃなくてな、うむ、だいぶ魔術が上達したじゃないか。魔術で対処したのだろう…………あれ?どうやって魔術回路を起動させたんだ?」

 

 

アカリは私が近くにいないと魔術回路を起動させられなかったはすだが。

 

 

「それは、取っておいた用務員さんのハンカチを…………って、そうじゃなくて、誤魔化されませんからね!」

 

 

「そういう君も、今なにかを誤魔化―――」

 

 

「―――誤魔化されませんからね!」

 

 

「うむ、分かった。」

 

 

アカリが凄まじい圧で念押ししてきた。やはり、我が弟子は日に日に遠慮がなくなって来ている気がする。

 

 

「クランド、陸が見えたわ!」

 

 

今、私達は海上を歩いている。水上歩行ができないアカリは私が背負っている。

 

「やっとか!後一息ならば一気に行こう。」

 

 

「了解したわ!」

 

 

「…………一気ってまさか、って、キャーーー!!」

 

 

見えた陸まで魔力放出で加速して向かう。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「ゼェゼェ、……これなら……最初から……用務員さんの船の方が、マシでした。」

 

 

アカリが満身創痍になって溢す。

 

 

「すまない。ここ最近、調子が良すぎてつい加減を誤ってしまうのだ。直に調整しよう。」

 

 

アカリに謝罪しつつ、念話の術式を組み上げる。

 

 

「…………っと、繋がったか。X、無事か?」

 

 

『無事か、じゃないですよ!なにするんですかマスター!』

 

 

Xの怒声が響く。

 

 

「ふむ、無事そうだな。それで、雪白とイライダは一緒か?」

 

 

『あの、話聞いてましたか…………?まあ、いいんですけど…………はい、お二人も一緒にいますよ。街の名前は分かりませんが人がいるところに漂着したので遭難の心配もありません。』

 

 

ふむ、船内にいた者は無事なのか。保護の魔術は問題なく機能していたようだな。

 

 

「そうか、ならば雪白とイライダを護衛しつつこっちに向かってくれ。」

 

 

『えっ!?令呪で呼んでくれないんですか!?それでは、しばらくマスターのご飯が食べられないじゃないですか!』

 

 

「いや、イライダに転移を見せる訳にはいかないだろう。それに、飯の心配なら問題ない。船内に置いたままの荷物の中に黄色い鍵があるだろう。それは食料庫として作った物だから中に三ヶ月分程の私が調理した食料が貯蔵されてある。好きに食べるといい。」

 

 

『マスター、信じてました!セイバーの名に懸けて必ずやその任務を遂行致します!』

 

 

「お、おう、期待している。」

 

 

Xの変わり身の速さに引きつつ念話を閉じる。

 

 

「ふむ、皆無事だそうだ…………ふむ、囲まれたな。」

 

 

密林と海中から狼のような魔獣が十数匹現れた。

 

 

「今日は、いやに囲まれる日だな。そうだ、アカリが相手をするといい。修行の成果を見るちょうどいい機会ではないか。」

 

 

「えっ、私がですか!?これって、海狼(ターレマーパ)ですよね!?群れは七つ星(ルビニチア)以上の人が集団で狩るような相手ですよ!」

 

 

私の提案にアカリが狼狽する。

 

 

「無理なものか。確実に実力は付いてきてるし、礼装も数品渡してあるんだ。この程度軽く相手をしてみろ。」

 

 

そう言ってアカリを抱き寄せる。

 

 

「ああ、もうっ!分かりましたよ。やればいいんですね、やりますよ!start-up(起動)『Storch Ritter(コウノトリの騎士)』」

 

 

アカリは私の胸元でスーハーと数回深呼吸して魔術回路を起動させた後、ヤケクソ気味に戦い始めた。

 

 

「手伝ってあげなくていいの?」

 

 

「問題ないよ。アカリは確実に強くなってる。比べる相手が私と君とXと雪白だから実感を持ててないだけだろう。ほら、今も勇ましく戦っているじゃないか。」

 

 

アカリは距離を取ってガンドで足止めしつつ、隙を突いて異世界魔術で止めをさしている。自分の隙は『シュトルヒリッター(コウノトリの騎士)』でカバーするという堅実な戦いかたをしている。

 

 

「これだけ出来るのなら新しい課題を与えても良さそうだな。直接攻撃か、使い魔か、いっそのこと高速詠唱とセットで規模の大きい魔術を教えるか…………」

 

 

「ふふ、クランド、楽しそうね!」

 

 

ヴィヴィアンが嬉しそうに言う。

 

 

「そうだね。楽しいよ。あの日、君に出会えなかったらきっとこんな日々は送れなかっただろう。ありがとう、ヴィヴィアン。」

 

 

「クランド、こちらこそクランドに出会えて毎日がキラキラと輝いているわ!」

 

 

「ヴィヴィアン!」

 

 

「クランド!」

 

 

 

「人が必死に戦ってる横でいちゃつかないで下さいッ!」

 

 

アカリの魂の叫びだった。

 

 

 

 

 




今後の投稿も期間が空くと思われます。
しかし、エタりはしませんのでどうかご安心下さい。


感想欄にて今回の話でアカリを弟子にした詳細な理由を書くと宣言していましたが、うまく挟めなかったために以降とさせていただきます。申し訳ありません。

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