用務員さんは勇者じゃありませんが転生者ですので   作:中原 千

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今回で閑話は一区切りです。




閑話:用務員さんのパーフェクトまじゅつ教室

「みんなー!用務員さんの魔術教室始まるよー!」

 

 

「「イエーイ!」」

 

 

「私みたいな魔術師目指して、いざ尋常に立ち会うがいい!」

 

 

「「イエーイ!」」

 

 

「…………何ですかコレ?」

 

 

音頭を取る蔵人と盛り上がるヴィヴィアンとX、突然の事態に呆気に取られるアカリ、そして、そんな蔵人達を"仕方ない人達ね"と生暖かい目で見ている雪白。

 

事の発端は三日前に遡る。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

審判の前日、洞窟の中

 

 

「その…………お願いがあるんです。」

 

 

「改まってどうしたね?畏まらなくても大体の事なら聞くが?」

 

 

アカリは少し躊躇った後に、意を決した顔になり、放つように言った。

 

 

「用務員さん、私を弟子にしてくださいッ!」

 

 

…………弟子?

 

 

「アカリよ。一体どういう過程を経てその結論に至ったのか詳しく教えてくれ。」

 

 

私がそう尋ねるとアカリはばつが悪そうに頬を掻いて答えた。

 

 

「突然こんなことを言って申し訳ありません。…………私は、自分の居場所が欲しいんです。そして、それを守れるくらいに強くなりたいんです。」

 

 

語るアカリの目も表情も真剣そのものだ。

 

 

「用務員さんは、私が知らない事をたくさん知ってて、冗談みたいに強くて、異世界なのに、そんなの知るかって感じで日本みたいな生活してて、なんでも出来て、…………」

 

 

アカリは一度言葉を切って続けた。

 

 

「何よりも、用務員さんと一緒の時、心から安心できたんです。用務員さんは私の理想なんです。だから、私は少しでも用務員さんに近付きたいんです。」

 

 

アカリは照れくさそうに笑った。

 

 

「分かったよ。引き受けよう。」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

そして、深夜、アカリが寝静まっている間に新設した和風の道場に拉致した。

 

 

「何なんですかコレ!?どういう状況ですかッ!?」

 

 

起きるなりアカリが大声を上げた。

 

 

「何って、身辺も落ち着いたから、弟子の話を本格的に始めようと思ってな。」

 

 

「…………それは、ありがとうございます。ですが、こんな誘拐紛いのやり方でつれてこなくても。」

 

 

「明日には旅に出発しようと思っていてな。時間をムダにしたくなかったんだ。」

 

 

「明日って、急ですね。」

 

 

アカリが驚いた様に言った。

 

 

「未知の研究材料を求めて世界を回るんだ。」

 

 

活き活きと語る蔵人を見てアカリは用務員さんらしいなと納得した。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「それでは、本格的に始める前に最終確認をしよう。まず初めに、私の教える鍛練の中には辛いもの、痛いもの、死にかける様なものが混じっている。それでもやるか?」

 

 

「ハイ!」

 

 

「ふむ、なるほど。では次に、私が教えた内容は如何なる事情があろうと部外者に口外してはならない。もし、そのような事があれば―――消すぞ。相手もアカリも。」

 

 

蔵人の言葉と射殺す様な眼にアカリが固い表情になり、唾を飲み込む。

 

 

「止めるなら今の内だ。別段、弟子にならなくとも同行することは認めるし、いくらか礼装も贈ろう。そうすれば、手っ取り早く強くなれるだろう。」

 

 

蔵人の問いかけに、アカリは絞り出す様に答え始めた。

 

 

「…………私は自立したいんです。それでハンターになりました。だから、守られるだけじゃなくて、横に立てる人になりたいんです。お願いします、弟子にしてください!」

 

 

「やっぱり君は、はずれ勇者なんかじゃなく、誰よりも勇者だな。いいだろう。そもそも、三日前より君の覚悟は知っていた。今のは、それだけ秘匿を徹底してくれという確認だ。それでは、修行を始めよう。準備するといい。」

 

 

「ハイ!」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

そして、冒頭に繋がる。

 

 

 

「みんなー!用務員さんの魔術教室始まるよー!」

 

 

「「イエーイ!」」

 

 

「私みたいな魔術師目指して、いざ尋常に立ち会うがいい!」

 

 

「「イエーイ!」」

 

 

「…………何ですかコレ?」

 

 

「何って用務員さんのパーフェクトまじゅつ教室だが?」

 

 

蔵人がアカリに何をいってるんだという目を向ける。

 

 

「さっきまで真面目な雰囲気だったじゃないですか。あの感じで行きましょうよ。…………いえ、それよりも、なんで、私の服が運動着とブルマなんですかッ!?」

 

 

アカリは真っ赤な顔で叫んだ。

 

 

「ふむ、師弟関係に相応しい衣装を用意したのだが、タイツの方が良かったか?」

 

 

ちなみに、私は白い袴、ヴィヴィアンはピンクの袴で手には薙刀、Xは長袖の青いジャージにブルマだ。

 

 

「どんな師弟関係ですか!?」

 

 

冬木とケルトの師弟関係だな。

 

 

「細かいことは気にするな。それでは、始めるとしよう。」

 

 

 

 

lesson1.指導方針と基礎知識

 

 

「まずは、指導方針の確認だ。指導を始める前に一つ教えなくちゃいけない。」

 

 

蔵人は少し溜めてから口を開いた。

 

 

「―――うん。初めに言っておくとね、私は魔術師なんだ。」

 

 

「…………へっ?ええ、知ってますよ。それを習いに来たんですし。」

 

 

アカリは脱力して言った。

 

 

「いや、そういう事じゃなくてな。正確に言うと、魔術師"だった"んだ。ずっと前から、"この世界に転移する前から"な。」

 

 

「へえー、そうだったんですか。…………えっ?ええぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 

驚愕するアカリ。

 

 

「ついでに言うとな、アーサー王伝説ってあるだろう?ヴィヴィアンは、それに出てくる湖の精霊だ。」

 

 

「えぇッ!ヴィヴィアンさんって人じゃ、いや、そもそも、アーサー王伝説って実話じゃないんじゃ、ええぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 

「それと、Xはアーサー王だ。」

 

 

「えぇッ!Xさんって女性じゃ、ええぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 

何度も大きく驚愕するアカリを見てヴィヴィアンは楽しそうに言った。

 

 

「クランド、クランド、この娘も面白いわ!」

 

 

「マスター、私は最優にして最高のヒロイン、型月のドル箱こと、アルトリアさんじゃありません。間違えないでください。」

 

 

「アッハイ。」

 

 

 

数分後。

 

 

「さて、落ち着いたところで本題にもどろうか。」

 

 

「…………いえ、これは落ち着いたというよりは驚きすぎて一周回って冷静になっただけです。」

 

 

まあ、あの後も大量の宝石見せたり、徳川の埋蔵金見せたりしたからな。

せっかく弟子にするんだから開示できる範囲の事は極力開示しようと思ったがさすがにやり過ぎた。残りは小出しするとしよう。

 

 

「まあ、似たようなものだろう。それで、指導の方なのだがな。前提として君を"魔術師"にはしない。目指すのは"魔術使い"だ。」

 

 

「魔術使い、ですか?」

 

 

アカリが首を傾げる。

 

 

「ああ、聞き馴染みはないだろうが、魔術を用いる者の分類で、魔術を用いてとある事を成し遂げようとする者を魔術師と呼び、それ以外の目的のために魔術を用いる者を魔術使いと呼ぶ。アカリの場合は生きるための手段だから魔術使いが相応しいだろう。」

 

 

「分かったような、分からないような…………とある事って何ですか?」

 

 

根源への到達って言っても分からないだろうな。

 

 

「追々教えるさ。聞いてすぐに理解できるものでもないからな。それよりも、アカリはまず魔術の基礎だ。」

 

 

 

 

lesson2.魔術回路を開こう

 

 

「私が使う魔術はこの世界のそれとは全く別の物だ。使う魔力までな。そこで魔術を扱うためにしなければなならないのは魔術回路を開く事だ。」

 

 

「魔術回路とは?」

 

 

「魔術回路は、体内にある疑似神経、内臓と言ってもいいな。これの本数と質によって魔術を扱う能力が左右される。そして、その開き方なのだが、一度開けばあとは本人の意思で開閉できる。問題の開き方なのだが、本来は修行によって開くのだが、今回はそれを待っていられない。よって、私が干渉して開きやすい状態を強制的に作るとする。」

 

 

「…………それって、大丈夫なんですか?」

 

 

アカリが不安げに聞いてくる。

 

 

「大丈夫だろう。君は既に別種のものではあるが、魔術や魔力に触れている。それに、転移した時に肉体を作り替えられただろう。その時に、神秘に馴染みやすい肉体になったはずだ。それでは、始めよう。」

 

 

アカリの頭に手を置いて解析を始める。

 

 

「解析開始(トレース・オン)」

 

 

「いいなあ。」

 

 

「ヴィヴィアン姉さん、いつも撫でられてるじゃないですか…………」

 

 

ふむ、こんなものでいいか。

 

 

「アカリ、これから干渉を始めるからなるべく私を受け入れるように意識してくれ。」

 

 

「ハイ!」

 

 

アカリが「内包する」魔術回路を起動しやすい状態に「管理」する。私の魔術起源を利用した魔術だ。

 

 

「ipsum(最適化)」

 

 

「はうあっ!…………あの、コレって、くっ、はうっ!」

 

 

アカリは顔を赤くして何かを堪えている。

 

 

「いいなあ。」

 

 

「ヴィヴィアン姉さん、毎晩…………いえ、何でもないです。」

 

 

「さあアカリ、内側の魔術回路を感じるんだ!」

 

 

「か、感じるなんてッ!はわわわ…………」

 

 

「いいなあ。」

 

 

「ヴィヴィアン姉さん…………」

 

 

 

 

数時間後。

 

 

「ハッ!コレですか!?…………って、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!」

 

 

ふむ、ようやくできたか。

 

 

「良くやったアカリ、成功だ。その痛みは人である体が魔力に反発して生じるんだ。神秘に馴染みやすい体になった分―――」

 

 

「―――説明は後にして何とかしてくださいッ!本当に痛いんですよッ!」

 

 

「そうか。その痛みは魔術回路を起動したために発生しているのだから魔術回路を閉じれば消える。やってみろ。」

 

 

「やってみろって…………こうですかッ!」

 

 

ふむ、出来ているな。なかなかに筋が良いじゃないか。

 

 

「ふう、落ち着きました。まったく、酷い目に遭いましたよ。」

 

 

「ハハハ、かなり筋が良いよ。だが、どうするね?やっぱり止めるかい?」

 

 

「いいえ、止めません!」

 

 

アカリは逡巡もせずに力強く答えた。

 

 

「よしよしその意気だ。では、もう一度開こうか。」

 

 

「鬼ですかッ!?」

 

 

「誰が鬼だ。魔術回路を起動させないと魔術は使えないのだ。謂わば、魔術回路は基礎中の基礎だ。基礎の大切さはもう教えただろう。」

 

 

「…………はい。」

 

 

アカリは渋々といった様子で了承した。

 

 

「まあ、私もそこまで無理させるつもりはない。重要なのはどれだけ出来るようになるかであるから。その過程のツラさは省けるのなら省いた方が良いだろう。そこで、痛みを緩和する薬を用意した。副作用はないから安心してくれ。ハニーミルク味だ。もし好みじゃなければ、イチゴミルク味とチョコミルク味もあるぞ。」

 

 

「やっぱり過保護でした!」

 

 

飴を舐めてアカリが魔術回路の起動に再挑戦する。

 

 

「エイッ!…………あれ?エイッ!エイッ!」

 

 

アカリが挑戦し続けるが、上手くいかない。

 

 

「…………どうしてでしょう?」

 

 

「ふむ、魔術回路の開き方は最初に開いた状況に強く影響を受ける。アカリは開いたきっかけに何か心当たりは…………ありそうだな。言いたまえ。」

 

 

私の言葉を聞いたアカリは視線をひどくキョロキョロさせていた。そして、観念したように口を開いた。

 

 

「…………だんです。」

 

 

「もう少し大きな声ではっきりと言ってくれ。」

 

 

「…………いだんですよ。」

 

 

「もう少しだな。」

 

 

アカリは大きく息を吸って答えた。

 

 

「嗅いだんですよッ!用務員さんの匂いをッ!」

 

 

「「…………うわぁ。」」

 

 

「やっぱりドン引きされた…………もう嫌ですッ!」

 

 

踞るアカリ、言葉を失う蔵人とX、ヴィヴィアンだけがなるほどなるほどと、頻りに頷いていた。

 

結局、蔵人の匂いを嗅ぐことでアカリは再び魔術回路を起動させることができた。蔵人の渡した飴が効いて痛みも無かったがアカリは心が痛かった。

 

 

 

 

lesson3.宝石魔術を学ぼう

 

 

「まあ、そういう感じで起動させる人もいるから気にしすぎるな。それでは次のステップだ。今回はコレを使う。」

 

 

「これで、私は匂いフェチの烙印を…………えっ、宝石ですか!?」

 

 

何かをブツブツと呟いていた匂いフェ、いや、アカリだったが宝石に驚きの声を上げた。

 

 

「うむ、これはルビーだな。地球から持参したものだ。宝石は魔力を溜めやすいのだ。宝石に魔術を溜めて運用する宝石魔術は属性や起源によらずに大抵誰でも出来るので練習に丁度良いだろう。」

 

 

アカリに宝石を渡す。

 

 

「これに魔力を全力で込めて、それを用いた攻撃魔術でXに少しでもダメージを与えられたら達成としよう。」

 

 

「アカリ、遠慮せずに来てください。」

 

 

「えっ、でも…………」

 

 

「躊躇う事はありません。私は英霊です。戦闘機相手でも無傷ですので。」

 

 

「は、はあ。」

 

 

Xの言葉にアカリは曖昧に返事をする。

 

 

「信じて無さそうだが本当だぞ。英霊には神秘がない攻撃は通用しないからな。まあ、今のアカリにそこまで高火力を求めているわけじゃないよ。Xには手加減してもらうから、この世界の魔術でいう中級くらいの火力を出せれば十分だろう。それでは始めたまえ。」

 

 

「はい、頑張ります。」

 

 

アカリは宝石に魔力を込め始めた。

 

 

「ふむ、上手いじゃないか。順調に溜まっているな。」

 

 

「それでは私も準備しましょう。『セイバー忍法・ハンドブレーキ』」

 

 

 

順調かに思えたがある時、異変が起きた。

 

 

「…………あのう、あれって満タンの寸前じゃないですか?」

 

 

「ふむ、おかしいな。あの宝石はそんなに容量が少なくは…………あ。」

 

 

「何ですか、今の不穏な言葉は!?」

 

 

「私が魔力を溜めておいた容量大きめの宝石と渡し間違えた。」

 

 

「ええっ!?」

 

 

「だが、安心してくれ。アカリには既に保護魔術をかけてあるから暴発しても傷一つ付かない。それに、『沸き立て、我が血潮』ヴィヴィアンは私の『月霊髄液(ヴォールメン・ハイドログラム)』で必ず守るよ。」

 

 

「嬉しいわ、クランド!」

 

 

「ヴィヴィアン!」

 

 

蔵人とヴィヴィアンは抱擁しあい、その周りを水銀が覆う。

 

 

「マスター、私はどうなるんですか!?」

 

 

叫ぶXを尻目に宝石の魔力はいっそう高まる。

 

 

「セイバーを絶滅させるまで、倒れる訳には…………そういえば、セイバーいないんでしたネ!」

 

 

ちゅどーん

 

 

その後、蔵人とヴィヴィアンはもちろん、アカリも無傷で、Xはそれなりに負傷したが蔵人の治療により全快した。急降下したXの機嫌は蔵人が満漢全席を振る舞うことで持ち直したのだった。

 

 

 




爆発オチなんてサイテー

という訳で、カニファンのような存在である閑話も今回で一度終了して、次回から用務員さんの転生者成分控えめな本編が再開します。

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