用務員さんは勇者じゃありませんが転生者ですので 作:中原 千
「遅くなってすまない。今戻ったよ。」
「クランド、お帰りなさい!」
洞窟に戻るとヴィヴィアンが喜色満面で出迎えてくれた。この感じ凄く懐かしい。
「雪白とは仲良くなれたかい?」
「ええ、もちろん!ユキシロは大人しいし、スッゴくモフモフしてるのよ!」
はしゃぐヴィヴィアンに自然と笑みが溢れる。
「あっ!忘れていたわ!」
ヴィヴィアンはそう言って黒色の鍵を取り出して渡してきた。
これは、『魔術師の実験室(ゲート・オブ・カルデアス)』と対になっている『魔術師の研究室(ゲート・オブ・カルデアス・オルタナティブ)』じゃないか。
「自由になったら貴方の下へ持っていくって約束したでしょ?それに、貴方にあげるために今日までたくさん宝物を集めたのよ!」
ヴィヴィアンは腕を組んで得意気な顔でドヤァとしている。
か、可愛い…………!
「ちょっ、ちょっと、クランド!私を撫でてないで早く…………いえ、もう少し撫でるべきだわ。ええ、そうに違いないわ。」
◆◆◆◆◆◆
しばらく撫で続けて満足した私は渡された鍵を使った。
研究室という名前ではあるが、本質は自由にカスタマイズできる空間である。ヴィヴィアンの研究室は博物館のような内装になっていた。
…………ん?
「ヴィヴィアン、ヴィヴィアン、この絵って…………」
「モナ・リザっていう名前らしいわよ!有名な人が描いたらしいから持ってきたの!」
本物なんですか、そうですか…………入手方法は、怖いから聞かないでおこう。
…………ん?
「ヴィヴィアン、ヴィヴィアン、この化石らしき物って?」
「この世で最初に脱皮した蛇の脱け殻の化石らしいわ!」
「この財宝は?」
「トクガワの埋蔵金よ!」
「見つけたの!?」
その他にも、御神体、国家レベルで管理されているはずの物、噂や伝説にはあるが未発見だった物等、やばそうなのも含めて大量にあった。数百個を越えた辺りでヴィヴィアンに聞いてみると、まだ全体の1%にも満たないと言っていた。それを聞いた私は、
「ありがとう。とっても嬉しいよ。」
「そう言ってくれると思っていたわ!クランドが嬉しいと私も嬉しいわ!」
諸々の問題への思考を放棄した。
あー、笑顔でクルクルクルクル回ってるヴィヴィアンかわいーなー。
召喚触媒いっぱいで超嬉しー。
流石、私のヴィヴィアンだ。可愛い上に強いとか最強じゃないか。
私のために頑張ってくれんたんだね。本当に優しい娘だ。
「それで、どれを使うの?それとも、もっと見る?」
「いや、もう決まってるよ。ずっと前から決めてあったんだ。」
◆◆◆◆◆◆
触媒に選んだのは『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』。最初に交わしたヴィヴィアンとの約束の品。最初にヴィヴィアンと共に作った 宝具の原典。この剣は私とヴィヴィアンの絆の象徴。だから、最初の英霊召喚の触媒にこれを使うことはずっと前から決めていたことだ。
「『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』ってことはあの娘にまた会えるのね!」
「そうだね。きっと会えるよ。じゃあ、始めるよ!」
キラキラした目で魔法陣を見つめるヴィヴィアンを見て和みながら召喚の準備を始める。
術式と聖杯は既に完成していた。聖杯の中身には無限増殖する鳥の霧群椋鳥(トゥコルスカ)を使っている虎聖杯ならぬ鳥聖杯だ。最初から中身がある程度溜まってるのでそれを使って受肉した状態で現界させることができる。
魔力を高めて詠唱を始める。
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。
閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する。
――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ。」
場の魔力が高まり、白い閃光が迸り、中心には一つの人影がある。その人影は徐に口を開いた。
「コードネームはヒロインX。昨今、社会的な問題となっているセイバー増加に対応するために召喚されたサーヴァントです。よろしくお願いします。」
ラフでスポーティな服装(ジャージ)、とても長い青いマフラー、黒い帽子から突き抜けているアホ毛…………は?
「…………えーと、顔はあの娘よね?でも、雰囲気というか、服装というか、こんな愉快な娘だったっけ?」
困惑するヴィヴィアンにXは笑顔で話しかける。
「そこにいらっしゃるのは、私の入学祝いに聖剣をくれた近所のヴィヴィアン姉さんじゃないですか!お久しぶりです!どうしてここにいらっしゃるのですか?」
「知らないわ!確かに私は貴女に似た娘に聖剣を授けたけど、入学祝いじゃないわ!そもそも、入学祝いに聖剣をあげる人なんているわけがないわ!ふざけてるのかしら!?」
…………はっ!やっとフリーズから抜け出した。
そうか、そういうこともあるのか。
「よろしく、X。私が君のマスターだ。ところで、君のクラスはアサ―――」
「―――セイバーです!」
私の言葉を遮って食いぎみにXが答えた。
「そうか、セイバーか。」
やっぱセイバーに拘るんだなと変な感心をしているとヴィヴィアンが飛び込んできた。
「クランド!クランド!おかしいの!この娘はあの娘のはずなのにあの娘じゃないの!」
「あー…………なんというか、平行世界のアルトリアなんだよ。」
「どんな平行世界なのかしら!?」
サーヴァントユニヴァースです。
「ところで、マスター。私には全てのセイバーを抹殺するという任務があるのですが。セイバーは何処に?」
「あー…………今回、君を呼び出したのは仲間が欲しかったからで、特に聖杯戦争とかは起きていないんだ。そう言うわけで、この世界に英霊は君一人しかいなかったり…………」
「なっ!一人もいないんですか!?」
ヤバイ、なんかXがぷるぷるしてる。そりゃそうだよね。セイバー抹殺と勇んできたら、貴女一人ですとかふざけてるにも程がある。ここは、何とか怒りを抑えるために…………飯だな。飯しかない。
「まあ、そこら辺は食事をとりながらゆっくりと話そうじゃないか。リクエストはないかい?」
Xはばっと顔を上げて答えた。
「セイバーが私一人、つまりオンリーワン!いい響きです!最高じゃないですか!そして、食事ですか、もちろん頂きます!私はお肉を所望します!」
…………そっちか。
「うむ、分かった。すぐ作ろう。」
「クランド、クランド、だんだん私、この娘が面白くなってきたわ。」
「そうだね。この娘は面白いわ。」
囁くヴィヴィアンに同意する。結果的によかった………のか?
◆◆◆◆◆◆
真名:謎のヒロインX
クラス:アサシン
地域:サーヴァント界
属性:混沌・善 / カテゴリ:星
性別:女性
地域:サーヴァント界
ステータス
筋力:B+/耐久:B-/敏捷:A+
魔力:A+++/幸運:A+++/宝具:A++
スキル
クラススキル
コスモリアクター:A
輝けるセイバーだけに許されるコスモなリアクター。
設定とかもリアクトできる。
騎乗:EX
ポンコツ宇宙船の凄まじい操作能力。ワープ機能がないのにワープできたりする。他は青い王様と同じ。
気配遮断:EX
自分は唯一のセイバー。だから、自分の在り方こそがセイバーの在り方。だから、セイバーは不意討ちするし、気配遮断も使える。
セイバーに相応しくないと封印していたが、たった一人のセイバーになったために開き直って解放した。
対魔力:E-~A++
セイバーに対魔力は必須でしょう!という事で溢れる魔力をゴリ押しで対魔力に使っている。その時で効果の質が変わる。
単独行動:EX
受肉してるのでマスターがいなくても活動できる。
セイバーパワー:EX
謎のヒロインX「セイバーのパワーです。以上!」
保有スキル
支援砲撃:EX
ドゥ・スタリオンⅡより援護砲撃を行う。
魔力放出:B
なぜか使える魔力放出。別の自分は使えるし、マスターまで使えるので使えないはずがないという認識。
直感:C+(EX)
普段はC+だが、剣を持っているセイバークラスになり得る相手に対しては規格外の能力を発揮する。
唯一のセイバーという地位を守るために超必死。
銀河流星剣:EX
ほぼ同上。セイバークラスを狙う不届き者に下す鉄槌。
やっぱり超必死。
セイバー忍法:EX
あまりにも卑怯なために本来は味方になると封印されるが、マスターがマスターなので普通に使える。というか、むしろ性能が良くなってる。
精霊の加護:C~???
ヴィヴィアンからの、旅の仲間兼クランドの護衛への祝福。ヴィヴィアンからの信頼と親愛が深まれば効果が上昇する。通常時の幸運と危機的場面でのステータスの上昇。
宝具
無銘勝利剣(ひみつかりばー)
ランク:A++
種別:対人宝具
レンジ:?
最大補足:?
未来で宇宙なデザインの名称不明(棒)の金色の聖剣とそれが反転した黒い聖剣(魔剣?)の二刀流(改造済み)。普段はビームを纏ってるが、やろうと思えばビーム発射もできる。振るとどこかで聞いたことがあるような音がする。
アルトリウムの力を利用して剣以外にも様々な使い方ができる。
蔵人に初めて召喚された英霊。
今でもヴィヴィアンの事は近所のヴィヴィアン姉さんだと思ってる。婚期を気にしてたヴィヴィアン姉さんが幸せそうなので二人の仲は応援している。
自分が唯一のセイバー(アサシンだけど)という状況に超ご機嫌。マスターの作る食事が美味しい上に量が多くてお腹いっぱい食べられるので更にご機嫌。アルトリウムも絶好調。今の美味しい状況を守るために超必死。セイバーに至る可能性のあるものやマスターを害するものは許さない。
異世界なので知名度補正は超マイナスだけど神秘が濃いのとマスターの技量で差し引きはステータス微増。蔵人とヴィヴィアンの特性によって、魔力と幸運は超アップ。
セイバー系のスキルも獲得し、ステータスも申し分なく、聖剣も持ってるのでセイバーと言われても違和感はない。(だがアサシンだ)
◆◆◆◆◆◆
もっきゅもっきゅとXがステーキを頬張る。
オルタじゃないけど、もっきゅもっきゅと食べるのか。
「もっきゅもっきゅ…………どうかしましたか?」
「いや、何でもない。口に合ったかい?」
ジロジロ見てたらXに不審がられたので適当に濁す。
「ハイ!とても!ネームレスレッドに負けず劣らずの出来です!」
「エミヤさんと並ぶとは光栄な評価だね。」
「マスターはネームレスレッドと知り合いでしたか!」
「クランドはどうして普通に会話出来てるのかしら?やっぱり千里眼を持ってるのね!」
ヴィヴィアンがキラキラした目を向けてきた。
…………まだその勘違い続いてたんだ。
◆◆◆◆◆◆
夕食の片付けも終わり、同時にヴィヴィアン達は風呂から上がってきた。
「いい湯だったわ!日本式は最高ね!」
「ハイ!とても良いものでした。学生寮の物とは全然違います!」
二人が仲良さげに喋っている。うまく打ち解けられたようで良かった。
「ハハハ、満足してもらえたようで良かったよ。それなりの時間になったし、寝室に案内しよう。」
案内した後、ヴィヴィアンとXに要望を聞く。
「これらの部屋が右から順番にベッドの硬さが、硬め、普通、柔らかめとなっている。部屋数はたくさんあるから遠慮せずに選んでいいよ。」
「私は柔らかめを希望します!」
Xはそう言って一目散に部屋に入っていった。
「ヒャッホウ!学生寮のベッドと全然違います!何ですかこの毛布は!モッフモフのフッワフワです!召喚されて良かった!」
うん。ここまで喜ばれるとは思ってなかった。
「布団は羽毛だけど中の押し入れに羊毛の物も用意してある。そこには別の毛布もあるからお好みで。他に何かあったら部屋の内線で『0000』にコールしてくれ。」
「了解しました!」
Xの返事を聞いて部屋を出る。
「それじゃあ、ヴィヴィアンはどうする?」
「私ももう決まっているわ!」
ヴィヴィアンは悩みがちだから珍しいな。
「柔らかめかい?」
「いいえ、クランドの部屋よ!」
なるほど、私の部屋、という事は硬めか。…………ん?
「聞き間違いかな?私の部屋って…………」
「クランドの部屋よ!」
いつもの満面の笑みでヴィヴィアンが答える。その瞳の奥には確かな強い意思を感じる…………気がする。
私の部屋って事は、つまりはそういう事ですか?
「私は風呂に―――」
「そんなの後でいいでしょ?」
私が風呂に行こうとしたらヴィヴィアンに服を掴まれた。
「いや、しかし、でも…………やはり、このままでは、色々と…………」
「ねえ、クランド。私、クランドに会えなくてずっと寂しかったのよ?」
ヴィヴィアンが真剣な、少し泣きそうな顔で聞いてくる。目がウルウルしてて物凄く可愛い。
「うん、私も寂しかったよ…………私の寝室はこっちだ。」
という訳で、最初の召喚は謎のヒロインXでした!
あっ、あの後の用務員さんとヴィヴィアンは語り合っただけですよ。本当ですよ。その描写はないので各自で補完してください。