用務員さんは勇者じゃありませんが転生者ですので 作:中原 千
不定期更新ですが、反響が大きければ更新頻度が上がります。
私は支部蔵人、用務員をやっている。
学園祭のゴミを焼却しているときに突如、爆発的な閃光に包まれた後、浮遊感を感じ、気付いたらよく分からない空間にいた。
『世界の狭間に漂う者たちよ』
こいつ直接脳内に・・・!
『残念ながら貴方達は召喚されてしまいました』
意味がスッと入ってくる。
ハッ!まさか、これがスピードラーニング?!
『ここではない別の世界で、とある才あふれる未熟なものが、戯れに存在しないはずの勇者召喚を成功させてしまいました』
ふざけるなっと騒ぎ始める教師や生徒たち。
おい、おまいらもちつけ。
『――地球はすでに私の管理から巣立っておりましたので召喚を防ぐことはできず、貴方達を召喚した世界は私の管理が及んでいるところではありません』
『今は、召喚によって起きた世界間移動の、全てが曖昧なときだからこそ、こうして私が貴方達に干渉できているのです』
さらに声を上げようとした教師を遮って言葉が続く。
『これから貴方達のいく世界は、地球のように人が支配している地ではありません。手に負えない危険がすぐそばにあります』
その厳しい声に教師が畏縮する。
最近はキレる若者よりもキレる超越者が増えてきたな。こわひ。
『言葉はわからない、武力もない、魔力もない貴方たちでは、あまりにも無力な世界です』
そして、すぐに声を和らげる。
落としてから上げるって、完全に詐欺師のやり口じゃないですか!やだー
『そんな場所に貴方達を放り込むのは忍びありません。ですから貴方たちには最低限の力を授けます。まず、言葉と、適応できる身体を』
全員が青く光る。
『そして、その身を、仲間を守る剣(力)を』
剣の形に白くボウっと光る塊が、ひとりひとりの前に浮かび上がった。
えーっと…………?触っても大丈夫なの?
『それではお行きなさい、我が子たちよ。せめて健やかならんことを願っています』
我が子って……………
バブみはあんまないな(確信)
突然、私の前から剣がひったくられる。
そして、刹那にしてこそ泥は走りながら消えていった。
その背中は一年生の……名前は知らんがどっかのボンボンだったはずだ。
金持ちがこそ泥って、嘆かわしいね本当に。
『愚かな。今いるものたちよ、安心なさい。あちらの世界にいったならば、その剣(力)は貴方達の才能となり、定着しています。奪うことはできません。そして、もうここで、そのようなことも許しません』
いや、私はアンタの渡し方が悪かったと思うよ。
人のせいにするのイクナイ
『……ああ、哀れな子よ。申し訳ありません』
同情するなら墨汁をくれ!
あっ、間違った、力だ。
『一人につき一つしか存在しない剣(力)ゆえに、そなたに新しい剣(力)を与えることはできません。あちらの世界に降りたってしまえば、魂に定着してしまった力は取り返すこともできません。ここは全ての存在が曖昧になっていますから剣(力)を盗むなんてこともできましたが、本来の、存在の確たる世界ならば人が人の才能を奪うことができないように、剣(力)を盗むこともまたできません』
なるほどなるほど…………
どうするあのボンボン、処す?処す?
『見も知らぬ土地での唯一のつながりなのです、あまり物騒なことは考えてはいけませんよ』
『……しかし、困りましたね』
「…………一つ聞きたい。アンタは根源か?」
『……根源?違いますよ』
「分かった。ならいい。
こっちは好きに生きたいから、召喚者とやらの場所から召喚場所をずらしてくれ。それくらいならできるだろう?」
『ええ、それならばできます』
「できれば、人のいない、人が簡単にはこれない所にしてほしい。」
『……言ったようにあちらの世界は魔獣や怪物が跋扈しているのですよ?』
「問題ない。」
むしろ、好都合だ。
『……食料と水を一年分に、あちらの世界での一般的な魔法教本、ナイフくらいしか用意できませんよ?貴方だけを優遇するわけにもいきませんし、あちらの世界に過剰に干渉するわけにもいかないのですから』
なに?!魔術じゃなくて魔法があるのか?!
……なるほど!勇者召喚とは異なる世界から人を呼び込むという内容!すなわち、平行世界の運営、第2魔法だ!
やべぇ、テンション上がって来た!
『わかりました。それではお行きなさい。』
私は光に包まれて消えていく。
ムフッ、これが第2魔法の感覚ですか、ありがたや、ありがたや。
◆◆◆◆◆◆
目を開けると、そこは洞窟だった。
射し込む光に誘われて外にでてみると、果てしない空と白い山々が広がっていた。
…………私は異世界に来た!
この感覚は"二度目"である。
一度目は私が私を認識したとき、私が転生者だという事を自覚した時だ。
◆◆◆◆◆◆
私が自分を転生者だと自覚したとき、真っ先に思い浮かんだのは、力への渇望だ。
自分を何かの主人公だと考え、その為に強さを欲したのだ。
都合のいいことに私は天涯孤独の身、止めるものもいないので幼いうちから山に籠り、鍛練と魔術の研究をした。
研究の頼りにしたのは前世の記憶、私が最も好んでいた作品、fateの魔術である。
幼い私は創作物の魔術を本気でできると信じ込み"実際に実現させてしまった"のである。
こうして、私は魔術師となったのだ。
そして、その魔術研究は面白い程に順調で起源弾、月霊髄液など、数多の物を再現してきた。
研究も一通り進んだあたりで、この世界の魔術事情が気になった私は十二歳の時、単身で魔術の本場、イギリスへ向かった。
最初は、国内で済ませようと思ったのだが冬木市という市がそもそも存在しなかった為の代案である。
遠坂やアインツベルンの魔術師にあってみたかったのだが、いないものは仕方ない。
イギリスでならアニムスフィアの魔術に会えるかもしれない。
ぜひ、生のシヴァを拝みたいとwktkしながらいったのだが、不発であった。
時計塔に魔術協会なんてなかったのだ。
私は躍起になって国中を探したり、大規模術式を行使して挑発してみたりしたが、一切の収穫がなかった。
その時、魔術師はこの世界で私独りなのだと気付き、愕然とした。
失意の私は街を心ここにあらずで放浪し、気付くと森の中にいた。
自暴自棄になっていた私は、いっそのことこの森を全て異界化でもしてやろうかと思案しつつ歩いていると、神秘的な少女が倒れていた。
ここでの神秘的とは、少女の見た目の比喩表現ではない。
少女から、実際に神秘が漏れていたのである。
「大丈夫ですか?!」
私は、むしろ自分の方が助けてほしい心持ちで彼女に呼び掛けた。
「………うぅ…………」
息はあるようなので、私は急いで自作のスクロールで回復魔術を行った。
回復魔術自体はスクロールなしでもできるのだが、魔力譲渡はスクロールなしではアレしないとできない。
「…………貴方は………?」
目を覚ました少女に聞かれる。
「通りすがりの魔術師さんだよ。君はどうして倒れてたの?」
「…………私はヴィヴィアン。」
ヴィヴィアン?!
アーサー王に聖剣を授けた湖の精霊じゃないか!!!
「…………子供が妖精なんていないって言ったから死にかけてたの…………」
「ピーターパンかよッ?!」
それってどこのティンカーベル?!
そもそもアンタは妖精じゃなくて精霊でしょうが。しかも、高位の…………
「時代とともに神秘が薄れて私も力が弱まったのよ。他の子もドンドンいなくなって私もようやく消えるのかって思ってたのだけど…………助けられちゃったわね。」
「えーっとそれは…………すみません?」
「いいのよ。私も久しぶりに人と話せて楽しいし。
…………というか、魔術師ってまだいたのね。」
「私が最後の一人みたいだけどね。」
「じゃあ、お互いに一人ボッチでおんなじね!
…………ねぇ、一つ頼まれてくれない?」
◆◆◆◆◆◆
「…………これでよし!」
私は湖の異界化を終えた。
「すごいわね!」
「…………湖の精霊様にお褒め頂く程の出来ではないと思いますが?」
「そんなことないわ!この神秘の薄れた時代にそれだけできるって、貴方は一流の魔術師だわ!!!」
「そういうものですかね?
………本当によろしいんで?私のような一介の魔術師と主従契約なんかして?」
「当然よ!私はいつ死んでもおかしくない状態。ただ、湖に縛られて止まっているだけの残りカスみたいなものなんだから。」
「そうですか…………分かりました!それじゃあ、契約しましょう!」
そうして、私達は契約を結んだ。
契約の詳細は省きます。
理由は、型月の魔力関連の儀式だから、とだけ言ておきましょう。
「…………それで、私は貴方の事をマスターとお呼びすればいいのかしら?」
ニヤニヤしながら尋ねてくる。
「やめてください。湖の精霊様にそんな呼ばせ方させられる訳ないでしょう。」
「………ヴィヴィアン。」
「へっ?」
「ヴィヴィアンと呼びなさい。あと、敬語もやめて。せっかく契約したんだから、そんな他人行儀なのは嫌だわ!」
ご立腹の姿を見て、自然と笑顔がこぼれる。
「ああ、分かったよ、ヴィヴィアン。
私の事はクランドと呼んでくれ。」
「ええ、これからよろしくね、クランド!」
その後、二人で喋ったり湖の上を走り回ってはしゃいだりして過ごした。
「ところでヴィヴィアン。エクスカリバーって持ってる?」
「ええ、持ってるわよ。」
「見せてくれない?」
「いいわよ、少し待ってて。」
しばらくして、ヴィヴィアンは三振りの剣を抱えて来た。
「これが、エクスカリバーとガラティーンとアロンダイトよ。」
「…………凄い…………」
剣からは、圧倒される程の神秘が放たれていた。
しばらく堪能した後、気になっていた事をヴィヴィアンに聞いてみる。
「ねぇ、これの前の所有者って金髪の女の子?」
ヴィヴィアンはポカンとしている。
「ゴメン、変なことを聞いたね。」
そんなわけないよね。つい、聞いてしまった。
「クランド、なんで知ってるの?!」
「えっ?!
…………もしかして、名前はアルトリア・ペンドラゴンだったりする?」
「すごいわ、クランド!なんで知ってるの?!確かあの娘の名前はアーサーで伝わってたはずよね?なんで本名を知ってるの?!」
凄い凄いと目を輝かせるヴィヴィアンに茫然とし、さらに聞いてみる。
「じゃあ、ガラティーンは栗色の髪のやさ男で、アロンダイトは紫髪のNTR野郎?」
「凄いわ!全部あってる!クランドは千里眼でも持ってるの?!」
ますます目を輝かせて尊敬の念を送ってくるヴィヴィアン。
…………これなら、アレが実現できるかもしれない。
「ヴィヴィアン、それ貸してもらえるか?」
「…………ごめんなさい。この剣は私と同じで湖に縛られてちゃってて、今は湖の外に持ち出せないの。でも、クランドのお陰でいつかは自由に湖から自由に出られるようになるはずだから、その時に貴方の元へ持っていくわ。」
「ああ、無理いってゴメンね。よろしく頼むよ。
それまではここにちょくちょく遊びに来るから!」
じゃあ、私はそれまでに完成させなくてはならない。
聖杯と術式の作成を。
「ええ、貴方が来るのをずっと待ってるわ。」
そうして、私は日本に戻り魔術研究を続けながら触媒集めに取り組んだ。
そして、暇を見付けてはイギリスに行きヴィヴィアンに会いに行った。
職場に学校を選んだのは、作品の舞台になりやすいから、異世界召喚でもされればここよりも神秘の濃いところで研究ができるだろうと、低い可能性に期待をこめたからである。
何故、天涯孤独の身の上で仕事も用務員である私が魔術触媒を用意したり定期的にイギリスに行けるのか、それは偏にヴィヴィアンのお蔭である。
湖の精霊の加護を一身に受けている私は半端なく運がいい。ステータスにするとおそらくはA+++くらいあるだろう。もう、ランサーの朱槍を避けれるレベルだ。
その運を駆使して宝くじや競馬などで大勝しているのである。
たぶん、私の総資産はあのボンボンの親より余裕で多いだろう。
そんなこんなで、本当に異世界召喚されて念願かなった私であるが、心残りが2つ。
一つは、超常的存在に授けられた力なんて研究しがいがあるものを取られてしまったこと。
まあ、こっちはあのボンボンを捕まえて人体実験すれば済む話だ。
覚悟しろボンボン。魔術師から魔術関連の実験材料を強奪するというのはそういうことだ。
ウェイバー相手にケイネスがした対応は特別寛容だっただけだ。
それよりも重大なのが……………
やべぇ、ヴィヴィアン置いて来ちまった!
やべぇよ………どうするよ………
ヴィヴィアンは、たまに私が遊びにいくと満面の笑みで私を迎えてくれるのだ。
そして、帰り際には悲愴な表情をして、私が次にいつ来るのか何度も尋ねてくるのだ。
そんなヴィヴィアンを、私は愛しく思っていたのだが、そんなヴィヴィアンだからこそ、私に置いてきぼりにされたと知ったら何をしでかすか分からない。
最近は大分力を取り戻していたし、腹いせに世界を滅ぼさないか心配だ。
世界の方はどうでもいいのだが、そんなことをしたら抑止力によってヴィヴィアンが討伐されてしまうかもしれない。
私はあの世界に抑止力の存在はないと結論付けてはいるのだが、万が一があるし心配なものは心配だ。
ああ、ヴィヴィアン………何とか思い止まって。
最悪、世界を滅ぼしても何とか無事でいてくれ。
今は、私にできることは祈ることだけである。
この世界での研究が上手くいったら、私の手で絶対にヴィヴィアンを異世界召喚しよう。