リーナは腹部を押さえながら体勢を立て直そうとする。
このとき、リーナは格納庫の奥から現れたベガに身体を向けている。つまり、入り口に背を向けているのだ。
そして今、格納庫の外から、回転するトマホークがリーナの背中に迫っていた。
アークトゥルスの攻撃が格納庫に侵入しようとしたそのときだった。
「副隊長ッ!」
格納庫の入り口に現れてリーナを守るべく、分子ディバイダーを振るった男がいた。
スターズ第1隊2等星級で、少尉の地位にあるハーディ・ミルファクである。
「ハーディ!?」
リーナとベガが、同時に叫んだ。
ベガが憎しみを込めて言う。
「何よあんた……その裏切り者をかばう気?」
「副隊長どのが何を裏切ったというのだ。確かに隊の風紀を乱したかもしれない。だが、何も処断されるまでの行為でもないだろう。なぜお前たちは、このような真似をするッ」
「ふん。そんな小娘やあの総隊長に支配されている、今の堕落しているスターズを開放するためよ。決まってるでしょ」
「貴様……ッ、以前の反乱で、総隊長や副隊長どののおかげで助けられた恩を忘れたのかッ」
「恩? 私もレイラも助けてほしいなんて言ってないわよ。そこの小娘があの総隊長に勝手に頼んで勝手に決めたことよ。それを恩着せがましくしないでほしいわねッ!」
「貴様らッ!」
ハーディが激怒してベガに襲いかかろうとする。そして戦いながら、
「副隊長、ここは私に任せてお逃げくださいッ!」
と、叫んだのである。
リーナは迷った。確かにラルフは強い。だが、数では2対1で余りに不利すぎる。
自分も加勢しなければ、と思ったそのとき。
「何してるんですか副隊長、こちらへッ!」
リーナの右手を強引につかんで引っ張った男がいた。
ハーディと同じスターズ第1隊2等星級の軍曹、ラルフ・アルゴルである。
「ラルフッ!?」
リーナが叫び、そして、
「ラルフあんた……あんたまさか、裏切る気ッ!?」
と叫んだのは、レイラであった。
実を言うと、ラルフは以前の反乱で反乱側に属していた。鎮圧後、達也の命令で処分されそうになったが、リーナの助命嘆願で降格のみで助けられていた。
その後、彼は改心したのか、リーナに忠実に従うようになっていたのである。
「裏切るだと? 裏切り者はてめえらだろッ。総隊長と副隊長に助けられた恩も忘れて反乱を起こすなど、恥を知れッ!」
「黙れッ!」
自分を高速移動させる魔法が得意なレイラが、擬似瞬間移動でリーナに追いつく。が、
「おらああああッ!」
何と、ラルフがいきなりレイラに飛び掛ったのである。
思わぬ攻撃に、レイラはラルフにつかまれたまま、一緒に地を転がる。
「副隊長、今のうちに逃げてくださいッ!」
「…………」
リーナは涙を流した。
そして、ラルフとハーディに向かって頭を下げると、振り返ることなく格納庫から逃げ出したのである。
だが、リーナはすぐにまた敵と遭遇した。
今度は、オルランド・リゲル少尉、イアン・ベラトリックス軍曹、サミュエル・アルニラム軍曹が行く手に現れたのである。
「ランディ、イアン、サム……まさか、貴方たちまで……」
それに対して、3人は何も言わずに攻撃を開始しようとした。
リーナは愕然とした。いくらリーナでも、3対1では明らかに不利である。
リーナは、死を覚悟した。
そして達也と出会った事や過ごした日々が走馬灯の様に思い出され、そしてお腹に宿った奇跡をそっと擦って悲しげに微笑み、お腹の子供に産んであげられなくてゴメンなさいと囁いた。
達也に想いを馳せて死ぬ前にもう一度だけ貴方にお会いしたかったと思った。
とても悲しいことのはずなのに不思議と涙は出なかった。
そして、3対1での戦いが始まる。
だが、明らかにリーナが不利だった。
彼女は腹部をかばいながら戦っているのだ。だから、全力を出せるわけがない。
そして、そのときがきた。
オルランドが渾身の一撃を繰り出す。
そして、リーナは静かに目を閉じその瞬間を待ったのであった。
次回は「降臨」です。