2096年12月初旬。
司波達也は、大黒竜也として計画を発表した。
エスケイプス計画。
詳細は省かせていただくが、達也はこのとき、マスコミを前に自分の技術者としての実力、飛行魔法を開発したことなど全てを明かしている。
マスコミは最初、こんな未成年がとさすがに疑いを持ったようであるが、それを裏付ける様々な資料がマスコミに配られ、それに名のある技術者の名前まで記録されていては、信じるしかなかった。
そして、達也は自身の計画を発表した。
この計画の発表を受けて世界の反応は大きく二つに分かれた。
その二つとは、計画に賛成する者と反対する者である。
まずは、賛成する者のほうから。
インド・ペルシア連邦の戦略級魔法師にして女性科学者であるアーシャ・チャンドラセカールと、トルコのアリ・シャーヒーンである。特に前者は明確にエスケイプス計画を支持すると明言したのである。
それに対して、反対する者。
…………。
まずは日本である。
「あんな計画に賛成するべきではない」
テレビにその顔が映っている。
顔ぶれをあげる。
一条家当主・一条剛毅。
二木家当主・二木舞衣。
三矢家当主・三矢元。
四葉家当主・四葉深雪。
五輪家当主・五輪勇海。
六塚家当主・六塚温子。
七草家当主・七草弘一。
八代家当主・八代雷蔵。
九島家当主・九島烈。
十文字家当主・十文字和樹。
ちなみに、九島家はあの事件の後、前当主の烈が再び当主になっている。
ちなみに冒頭の発言は、七草弘一によるものである。
「なぜですかな? 七草どの」
九島烈である。
「言うまでもないでしょう。老師。我々十師族は魔法師として日本という国家に従い、貢献しているのです。あの計画に賛同すれば、我々はこれまでの全ての特権を失いかねません」
「それは違う。十師族は魔法師が国家権力によって使い捨てにされない為の仕組みとしてわしが作ったものだ。あの計画に賛成することこそ、我には必要だと思うが」
「発言よろしいでしょうか?」
と、言ったのはこの中で一番若い四葉深雪である。
最年長で進行役の烈が頷く。
深雪が一礼してから発言する。
「私はあの計画を賛成するとしても、まずは我が日本にどれだけの利があるのか、計画の中身はどうなのか、ということをよく調べてから賛成するか反対するかを決めるべきだと思います。まずは、USNAにしかるべきルートを通じて詳細を求め、そして改めて会議をしては如何ですか?」
「…………」
烈が深雪を見つめる。
侮れない。それが烈の感想だった。
「四葉どのの申される通り、あの発表だけでは詳細はわからない。まずは、詳細を求めることが筋だと思う」
これは、一条剛毅である。
「そうだな。まずはそうするべきだ」
他の面々も次々に頷く。
そして、それが今回の会議の結論となった。
深雪は、会議を終えると花菱兵庫が持ってきたお茶に手を伸ばした。
「お疲れ様でございます」
「ええ……」
深雪が、優雅に口をつける。そして言う。
「花菱さん」
「はい」
「これ以上、どうやらあの人を放っておくわけにはいけないようです」
「……それは……つまり……」
「……やるしかありませんね……まずは、あの人に連絡しましょう」
深雪が静かに動こうとしていた。
次回は「危機」です。