日本に戻ってきた司波達也は、奈良にいた。
目の前には10年前の自分が匿われていた屋敷がある。
今から、そこを襲撃するのである。
この少し前、達也は九島光宣から報告を受けている。
「そうか……閣下を襲ったのは、九重八雲か……」
「はい。そしておじい様は生死不明になっています」
「そうか……」
「そして、この一件には自分の父が密かに糸を引いていることも明らかになりました」
「…………」
達也は、光宣を見つめる。
達也もそこそこの容姿を誇るが、さすがにこの光宣にはかなわない。そして今、その光宣の顔が悔しそうに歪んでいるように見えた。
達也が言う。
「そうか……なら、光宣。そしてリーナ」
この場には、光宣のほかにアンジェリーナ=クドウ=シールズもいる。
ちなみに黒羽亜夜子、黒羽文弥の姉妹には母・深夜の守りを任せているため、ここにはいない。
「九島家を潰す」
「…………」
「お前たちの家族を潰す」
「…………」
「覚悟はいいか?」
すると、リーナがすぐに言い返した。
「私は、貴方についていくだけよ。何よりもおじい様に手をかけるような恥知らずたちを、私は血を分けた家族だなんて思ってないわ」
達也が光宣を見つめる。そして言う。
「光宣」
「……はい……」
「どうする?」
「…………」
光宣の目がこの時、さらに鋭くなったように見えた。
「達也さん……僕は……」
そして、突入が始まった。
達也はこのとき、スターズの戦闘服を身に着けている。
そして隣には赤髪の相棒がいた。こちらも戦闘服を身に着けている。
2人の侵入者の前に、九島家の魔法師も果敢に応戦した。
が、
「ぎゃああああッ!!」
「ぐえええええッ!!」
「た、助けて……」
「逃げろッ!」
断末魔の叫び声を挙げる者、命乞いする者、逃げ出す者、様々であるが、屋敷内にいた魔法師は達也に分解されて消されるか、リーナによって焼かれるかのどちらかの道をたどるだけだった。
まるで、無人の荒野を進むかのような二人だった。
その二人の前に、一人の男が現れる。
「……あんたか……」
達也は、その男を知っていた。
九島蒼司。光宣の異母兄。
九島家が十師族であることを鼻にかけてひけらかすだけのくだらない男。
それが達也の認識だった。
「何者かは知らないが、ここで……」
達也は全ては言わせなかった。いや、達也が動く前にリーナが動いた。
「黙りなさい」
蒼司は全身を焼き尽くされた。消し炭になった。
「九島家の恥が」
リーナが、蒼司だった炭を足で踏みつぶす。
そんな相棒に何も言わず見つめるだけの達也が、そこにいた。
九島真言は愕然としていた。
烈を排除し、これで自分は名実ともに当主になった、と思っていた。
だが、それが正体不明の魔法師に屋敷を襲撃されるという代償となった。
「し、周公瑾は何をしているッ!」
真言が部下に問う。それに対し、
「周公瑾は屋敷が襲われると同時に逃走したと連絡が入っております」
と、部下が返答する。
「逃げ出しただと……おのれ……おのれおのれおのれッ!」
真言がまるで狂ったように叫びだした。そして、
「ならば四葉家に直ちに我々を助けるための魔法師を派遣するように求めろッ!」
「父上……それが間に合うとでもお思いですか?」
その時、真言の部屋の入り口から、聞き覚えのある声がした。
戦闘服にヘルメットをしているために容姿はわからないが、その声を聞き違えるわけがない。
「み、光宣……」
「そうです」
そして、真言の目の前にいる魔法師がヘルメットをとった。
まさしく我が子だった。
「……何の真似だ……何の真似だこれは光宣ッ!」
「…………」
「答えろッ!」
真言が魔法を発動しようとした。しかし、発動しない。
それが我が子の干渉力によるものだとわからないほど、真言は愚かではない。
「父上……」
光宣が悲しそうに父を見つめる。そして、父に対して言う。
「なぜ、こんな真似をしたのですか?」
「…………」
「なぜ、おじい様を裏切るような愚かな真似をしたんですかッ!」
「…………」
「答えてくださいッ!」
息子の叫びに、父も叫ぶ。
「うるさい……うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいッ! 調整体として魔法力を得た人ならざる者が何を言う。お前ごとき小童にわかってたまるかッ! わしの苦しみが、力の無い者がどれだけ苦しい思いでいたかが、お前などにわかってたまるかッ!」
そして、父が子に対して魔法を放った。
しかしそれは当たらない。言うまでもなく、九島家の秘術・仮装行列である。
「父上……」
まるで狂ったようにダミーの情報体に対して魔法を放つ父に、子は静かに言った。
「さようなら」
そして、真言の額に穴が開いた。
こうして、わずか数時間で、九島家は壊滅した。
たった3人の魔法師によって。
次回は「深雪」です。