復讐の劣等生   作:ミスト2世

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復帰しました。よろしくお願いいたします。


老雄と今果心 その2

 藤林響子は、目の前の死闘に目を奪われていた。

 まるでそこだけ、台風の目のように荒れ狂っているようである。

 手を出せば、まるで余人など吹き飛ばしてしまうかの如く。

 九島烈と九重八雲の戦いは、それだけ凄絶であった。

 

 九重八雲は、心の中であせりを覚えていた。

 如何に「トリック・スター」と呼ばれ、かつての大戦で多くの死闘を経験しているとはいえ、相手は既に90を超える老人である。自分はそれに対してまだ50歳。決して若いとはいえないが、相手の老人に比べたら体力もスタミナも何もかもまだまだ自分が勝っているという過信があった。なのに、

「どうした? その程度か?」

「くそ……ッ」

 蓋を開けてみれば、押されているのは八雲だったのだ。

 拳を烈に向ければ、それを受け止められる。

 蹴りを出せば、足をつかまれて投げられる。

 幻術を使って烈を欺こうとすれば、それを見抜かれて反撃される。

「こんなはずは……ッ」

 八雲は、自分の思い通りに戦況が全く進まないばかりか、自分が追い込まれている事実に愕然としていた。

 気づけば、激しく体を上下に揺らして息遣いをしている八雲と、全く最初のままそこに超然と立っている烈がいたのである。

「どうした? 今果心というからもう少しできると思っていたのだが……この程度なのか?」

「…………」

「その程度で、よくも私を殺すなどとたわけたことを抜かせれたものよ」

 その瞬間、八雲の中で何かが切れた。

 八雲は生涯の中で最大の屈辱を感じていたのだ。弟子の敵である司波達也のときでさえ、感じたことの無い屈辱。自分が勝てると思っていたのに、それが見事に外れたばかりか一方的にやられているという事実。

 それが合わさり、八雲の中で激しい激情が生まれてしまった。

「舐めるなよくそ爺がッ!」

 八雲が、渾身の力を込めた拳を突き出した。

 それを烈は自身のパレードで交わす。

 八雲は冷静さをこの時、失っていた。そのため、対応が遅れた。

「ッ!」

 そして、八雲の腹に烈の右拳が鎮められた。

「ぐ……ッ」

 うめき声を上げて崩れる八雲。

 それを、烈は静かに見下ろしていた。

「な、何故だ……」

 八雲が両手で腹を押さえながら、目の前に超然と立っている烈に言う。

「なぜ、我の幻術が通じぬ……。そして、なぜ、お前の幻術を私が見抜けない……」

「…………」

 烈は何も言わない。

 八雲が続ける。

「貴様の家に伝わるパレードは、我の先代が教えた『纏衣』を原型としたものだ……なのに、なぜだ……」

「……八雲よ。それが知りたいのなら、自分で調べることだ。人とは、自分で物事を知ることで初めて強くなるものよ。……まあ、もうお前には後はないがな」

 そして、烈が止めをさそうとした。そのときだった。

 女性の悲鳴がした。

 烈が慌てて、悲鳴がしたほうを見つめる。

 するとそこには、数人の坊主に拘束された孫娘がいたのである。

 そして、その隙を八雲は逃がさなかった。

 烈の意識が自分から遠のいたのである。

「死ねッ!!」

 鈍い音がした。

 八雲の右拳が、確かに烈の腹部に当たっていた。

 烈の口から血が吹き出る。何とか態勢を直し、八雲との距離をとる。

 だが、傷は相当に深い。かなりの深手のようだ。

「ひ、卑怯ではないか……九重八雲……」

「卑怯? 何のことだ? 戦争に卑怯も糞もあってたまるかッ。どだい、戦争とは騙しあいだ。騙されるほうが悪いのだッ!」

 烈はその間も、腹部と口から血を流していた。

 視界がどんどん遠くなる。意識が弱まっている。

「き、貴様……」

「ふん。前大戦の時に正々堂々なんてあったのか? 戦争とは生き延びて勝利する。そのためには手段を選ばない。それが全てだッ!」

「……そうか……」

 烈は観念した。

 もし、自分がもう少し若ければ、この傷でも戦えただろう。だが、もう90という高齢では無理というものである。

「貴様から、そんな言葉を聞くことになろうとはな……だが、これだけは知っておけ。わしは今までの90年、相手をパレードで騙すことはあっても、相手を卑劣な騙し討ちで襲ったことなどただの一度も無い。正々堂々がわしの本分だッ!」

 そして、烈がゆっくりとその場に倒れた。

「おじい様ッ!!」

 孫娘の絶叫が、その場に轟いていた。

 

 

 

 

 




次回は「戻ってきた最強」です。

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