復讐の劣等生   作:ミスト2世

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戦略級魔法師とは その2

 その頃、アンジェリーナ・クドウ・シールズは逃亡を続けていた。

 既に何人の追っ手を手にかけたか覚えていない。

 ただし、追っ手といっても低レベル魔法師で構成されたウィズガードや州兵である。

 もし、スターズの仲間が追っ手に加わっていたら、根が優しく仲間想いなリーナは大いに迷っただろうが、面識のほとんどない彼らだと手加減しながらでも戦える。

 そしてリーナは、達也を除けばUSNAでナンバー2ともいえる実力者である。だから、追っ手もその強さを警戒して腰が引けていた。

「そっちだ、そっちに行ったぞッ!」

「捕まえろッ!」

 と、勇ましく数名の州兵が襲いかかる。

 だが、州兵ごときでは相手にすらならない。次の瞬間にはリーナの前に州兵が倒れていた。ただし、怪我はしているが殺してはいない。

 リーナはそのまま、また逃亡を開始しようとしていた。

 そのときである。

「さすがだな……リーナ……」

 その声に、リーナが足を止める。

「達也……」

 敬愛する総隊長が目の前に現れたのである。しかも、自分に気配を全く感じさせないうちに。

「リーナ。おとなしくしろ。お前は俺の実力を知っているはずだ」

「…………」

「俺には、政府から連邦軍刑法特別条項に基づくスターズ総隊長の権限により、お前を処分する命令が下されている……だからここに来た」

「!」

「リーナ……お前を終わらせる」

 次の瞬間。

 達也の両目から凄まじいまでの殺気が放たれた。

 その凄さは、同じように数々の死線を潜り抜けてきたリーナですら震えあがるほど鋭い。まるでナイフを首筋にあてられて脅されているようにすら思える。

 リーナは激しい動悸を感じだした。

 殺気に充てられて、自分の身体そのものが震えているのがわかる。

 リーナは身の程知らずではない。自分が達也に勝てないのはわかっている。だが、少なくとも達也に近づきたい、達也の助けになりたいと思って今まで鍛錬に励んできた。なのに、

(なのに……まだこれだけの差があるなんて……)

 リーナが達也を見返す。

(長引けば不利になる……短期決戦しかないッ!)

 そして決断し、リーナが襲いかかった。

 パレードを使って。だが。

 達也はそれを読み取っていた。達也は目を閉じたままだった。そして、

「あぐッ!」

 悲鳴を上げたのはリーナだった。何と、達也は幻影ではなく、そこから数メートル離れた本体の場所をちゃんと当てて左足の回し蹴りで蹴り飛ばしたのである。

 リーナがドスンッ! という音とともに地に倒れる。

 達也が倒れたリーナに近づく。

 リーナは観念した。

「まだまだね……少しは貴方に近づいたと思っていたのに……どうして、本体がわかったの?」

「心眼……幻覚で誤魔化そうと、気配までは誤魔化せない……俺は眼ではなく、心でお前の場所を読んだだけだ」

「……パレードは私の秘術だっていうのに……本当に貴方は人間離れしてるわね……観念したわ。さあ……」

 すると、達也が笑い出した。

「勘違いするなリーナ。俺はお前を助けに来ただけだ」

「は?」

 リーナが驚いて達也を見上げる。

 達也が右手を差し出す。

「すまないすまない。……俺の留守中に問題を起こした副隊長を、少し懲らしめようと思ってな……まあ、よくやったもんだ。さすがはスターズの副隊長といったところだな」

「……それ……貴方が言うと自信を無くすわよ……達也……」

 そして、達也の右手をつかんで起き上がるリーナ。

 その顔には、喜色が浮かんでいた。

 

 USNAの政府に日本の九島烈から連絡が入ったのは、この少し前のことである。

「アンジェリーナ・クドウ・シールズを許してもらいたい」

 九島烈は日本の軍人としての経歴が長い。今でもその影響力は日本国内のみならず、国外にも大きな影響力を持っている。そのため人脈もある。

 とはいえ、すぐに受け入れられるものでもない。

 応対したのは大統領補佐官である。

「それはいくら貴方のお頼みでも……」

「これは、貴方の国の戦略級魔法師の願いでもある」

「我が国の戦略級魔法師⁉」

 USNAには現在、4人の戦略級魔法師がいる。その中で最もリーナと親しい者。そして九島烈と関係のある者。

「リュウヤ・オオグロか……」

「ええ。リーナを超法規的措置で許してほしいとあなた方にお願いしてほしいと頼まれましてな」

「…………」

 補佐官はしばらく黙る。

「もし、アンジェリーナ・クドウ・シールズを許さないなら、大黒竜也にも考えがあるそうです」

「考え……?」

「ええ。USNAを捨てて、日本へ移るとね」

「!」

「我が日本としては貴重な2人目の戦略級魔法師として、是非公認したいと思いましてね……ああ勘違いしないで下さい。わが日本とUSNAはあくまで同盟国。これからも今までのように仲良く国同士、やっていこうではありませんか」

「…………」

 補佐官はすぐに頭脳をフル回転させた。

 スターズ総隊長を務める大黒の強さは彼も知っている。というより、彼の資料を見たときにこれは本当なのか、と思えるほどの戦果を挙げている化け物なのだ。それが日本に移ればUSNAと日本の力関係にまで影響する。

 達也は日本人である。さらに九島烈とも関係があるから、日本国籍をとることも、パーソナルデータを新しく取得することも困難ではないだろう。

 補佐官が言う。

「……貴方は我々を脅す気ですか?……」

「とんでもない。私は日米の友好関係を誰よりも重要に思っています。ですから、この電話を差し上げたまでのこと」

「…………」

 補佐官が唇を噛みしめる。

「わかりました……考えてみましょう……」

「よいご返事を期待しております」

 

 そして、補佐官からそれを聞いて首脳部は決断した。

 アンジェリーナ・クドウ・シールズを超法規的措置によりその罪を許す。

 ただし、副隊長の職務停止並びにしばらくの自宅謹慎が条件とされた。

 USNAは、自国が抱える強力な戦略級魔法師が他国に流れることのほうを恐れたのだ。

 さらに、リーナの事件の詳細がリーナの口から明らかになり、逃亡していたレイモンド・クラークが逮捕された。

 これにより、リーナがエドワードを殺した動機や、情報漏洩などのことが明るみとなったことも、リーナを救う一因となった。

 こうしてリーナは再び、達也と行動を共にすることになるのである。




次回は「愚行」です。

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